アフリカの課題先進国からイノベーションが生まれる【寄稿:ルワンダの日本発ファンド創業者・寺久保拓摩氏】

寺久保 拓摩
  • Leapfrog Ventures Inc. 代表取締役社長 

1991年、長野県生まれ。在学中、バングラデシュのグラミン銀行にてマイクロファイナンス事業に従事、その後2014年にサムライインキュベートへ入社し日本・イスラエルを中心に多数のスタートアップ・大企業の事業立ち上げ、成長支援を経験。2018年、ルワンダ共和国に移住しアフリカスタートアップを支援するベンチャーキャピタルを設立する。ケニア・ルワンダ・ウガンダ・タンザニアを中心に現地起業家への投資・インキュベーションを行う。

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アフリカ大陸中央部のある小国で、スタートアップエコシステムの萌芽が現れ始めているのをご存知だろうか?

人口1,200万人、面積は四国の1.5倍ほど。1994年の内戦により一度は崩壊状態に陥ったものの、IT立国戦略によって復興を遂げた国。それが、ルワンダ共和国である。

ルワンダ共和国に単身で乗り込み、アフリカのスタートアップへの投資活動をしている日本人がいる。2018年5月にサムライインキュベートの子会社として設立された、アフリカのスタートアップへのシード投資を行うファンド「リープフロッグベンチャーズ」代表取締役社長・寺久保拓摩氏だ。

アフリカで投資ファンドを設立した経緯、現地のスタートアップ情勢を寄稿してもらった。

  • TEXT BY MASAKI KOIKE
  • EDIT BY NAOKI TAKAHASHI
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課題先進国だからこそ、破壊的なイノベーションが起こせる

株式会社リープフロッグベンチャーズは、ルワンダ共和国を拠点に、ファンド事業と、ルワンダ政府との共同プロジェクト「TechSandBox」を手がけています。

ファンド事業は、アフリカ現地のスタートアップや、アフリカ市場に挑戦する日本のスタートアップへ投資をしています。シード投資に特化しており、平均投資額は一社あたり300〜500万円ほどです。ルワンダは人件費が高くないこともあり、シード期のスタートアップだと一月あたりの支出額が40万円ほどで済むので、これでも十分な投資額となります。

投資先の領域は、物流、金融、ヘルスケア、農業、テクノロジー。この5つに絞った理由は、基礎的なインフラかつ、アフリカの中でも課題が大きいと考えているからです。

「TechSandBox」は先進的なテクノロジーを活用したビジネス展開をサポートするプロジェクト。規制や法律の関係で日本ではチャレンジしにくいビジネスをルワンダで実証実験し、成功したらルワンダ政府の後押しのもと、ケニアやウガンダなど他の東アフリカ市場に展開していくというものです。

「リープフロッグベンチャーズ」という名前は、「リープフロッグ」現象──新興国の発展において、段階的な進化を踏むことなく、一気に最先端に到達する現象のこと──が由来です。アフリカを貧しい地域だとイメージする人は多いですが、実は課題が深刻なほどイノベーションを起こせる余地も大きい。敗戦直後の日本のように喫緊で解決しなければいけない課題があり、飢餓感を持っているからこそ、ディスラプティブなイノベーションが起きやすい。

将来的には全世界中にフィールドを広げていきたい。“課題先進国”であるアフリカでイノベーションのロールモデルを作って、全世界に広めていきたいと考えています。

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一度崩壊した国だからこそ、攻めたビジネスにチャレンジできる

アフリカでのファンド設立は2015年ごろから目論んでいました。サムライインキュベートで投資活動に取り組んでいく中で、ある程度成熟してきた日本国内の市場が頭打ちになったと感じはじめていました。投資を通じて世の中の課題を広く解決していくためには、やはり海外進出は必須です。

また、投資家として起業家の支援を行う中で「自分も起業を経験しなければ起業家の抱える悩みを真に理解できない」という意識も持つようになっていました。AI、IoT、ブロックチェーンなどの技術が発展してきているこのタイミングは逃すわけにはいかないと思ったのです。

ルワンダを選んだ理由は、アフリカの中で最もイノベーティブなビジネスにチャレンジしやすい国だからです。100万人規模の死者が出たといわれている1994年の内戦以後、ルワンダ政府はIT立国戦略を打ち出しています。国のトップがIT化推進に向けて邁進している状況なので、その潮流に乗りたかった。

ルワンダならば、遠隔医療など先進的な取り組みでも政府の後押しを得て実験をしやすい。投資先企業はケニア・ウガンダなど東アフリカ全体にあるのですが、ルワンダに拠点を置くことで実験的なビジネスに取り組みやすくなっています。

アフリカはどこの国も労働人口の70%は農家で生計を立てる人々です。そうした環境にあって都市部と農村ではマーケットが全く違うと感じています。購買力がある都市部を先に抑えるか、圧倒的にパイの多い農村部を取りにいくかはスタートアップの事業ドメインにとって戦略が異なります。

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銀行制度が未発達なためフィンテックが隆盛

アフリカのスタートアップシーンは、まだまだ投資プレイヤーが少ない。昨年一年間でのアフリカ全体のスタートアップ投資額が総額5.6億ドル(約620億円)ほどでした。

現在は市場が大きな南アフリカ、ケニア、ナイジェリアの3国だけでアフリカスタートアップ投資全体の75%ほどを占めています。さらに、投資マネーが流れこんでいるのは将来市場の大きさと英語圏であることが条件になっています。

ビジネスの領域でいうとフィンテックが盛り上がっています。アフリカはもともと銀行口座保有率が3割程度。現金を中心とした既存の銀行制度が根付いていないからこそ、モバイルマネーやフィンテックサービスが普及しやすいのです。

今年4月に7,000万ドル(80億円近く)の資金調達を完了したケニア発のマイクロファイナンスサービス「Branch」など、ソーシャルレンディング系のサービスが特に伸びています。また、暗号通貨のスタートアップも勢いを増しています。たとえば、2011年に建国したばかりの南スーダンは、まだまだ国の法定通貨が定まっていない。その状況を逆手に取り、中央銀行と組んで暗号通貨普及を進めるスタートアップもあります。

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アフリカ市場に挑戦する日本人起業家を増やしたい

今後はアフリカ市場に挑戦する日本人の起業家へも積極的に投資していきたいです。日本経済が手詰まりになり、今後はますます海外進出の必要性が高まっていきます。欧米の起業家や投資家に比べて、日本人はアフリカマーケットへの意識が希薄です。アフリカのマーケットは市場規模やIT化の進展度合の観点から見て非常に開拓の余地が大きく、イノベーションも起きやすい。積極的に進出すべき市場だといえます。

アフリカ市場に挑戦する日本人を増やすためにも、リープフロッグベンチャーズがアフリカでNo.1のファンドになり、存在感を強めていく必要があります。2020年を目処に欧米のVCやインキュベーターも本格的に参入してくると予測しているので、それまでに確固とした地位を築かなければいけない。

まずは東アフリカで、3年間で100社に投資し、起業家と一緒にしっかりと事業を作ることがその第一歩です。日本人とアフリカ市場をつなぐ架け橋のような存在になっていきたいですね。

こちらの記事は2018年11月16日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

小池 真幸

編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。『CAIXA』副編集長、『FastGrow』編集パートナー、グロービス・キャピタル・パートナーズ編集パートナーなど。 関心領域:イノベーション論、メディア論、情報社会論、アカデミズム論、政治思想、社会思想などを行き来。

編集

高橋 直貴

デスクチェック

長谷川 賢人

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

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