卒業生3名が10億円以上のイグジット。
東大起業家サークルTNKはいかに生まれたか?

インタビュイー
保手濱 彰人
  • 株式会社ダブルエル 代表取締役 

2002年、駒場東邦高校を卒業後、同年、東京大学理科Ⅰ類に入学。2005年に「東大起業サークルTNK」を設立し、経産省支援のビジネスコンテストにおける優勝経験などを経て、2006年に起業。学習塾事業やソーシャルゲーム事業など、複数の事業立ち上げと売却後、グローバルライツマネジメント事業を行う(株)ダブルエルを2014年に設立。

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東京大学起業サークルTNK。

これまで30人以上もの起業家を輩出した実績をもち、日本で最も有名な起業サークルといっても過言ではないだろう。

しかし、その活動実態はあまり明かされることが多くない。

そこでTNK創設者であり、現在株式会社ダブルエル代表取締役を務める保手濱氏にTNKの創業経緯や活動実態を聞いてみた。

  • TEXT BY FastGrow Editorial
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なぜTNKを設立されたんですか?

保手濱大学に入学して3年目の時に読んだ本がきっかけです。僕自身が目立ちたがり屋で、最終的に世界一になりたいという夢を子供のころから持っていました。しかし義務教育の範疇ではそれを達成できる“これ”といったものを見つけられずにいたんです。

元々は起業なんて頭の片隅にもなかったんですが、2005年にブログを使って見込み客を獲得し起業する方法が書かれた本を読みました。こんなことが今世界で起きているのか、ビジネスで活躍するという発想もあったのかと、まるで雷に打たれたように心惹かれたんです。

根拠は全くないけど、起業・ビジネスというフィールドを活用すれば、自分が世界一になれるに違いない、と直感的に思いましたね。

それでどうやって会社を立ち上げようか、と計画を練る中で、せっかくなら東大にいる優秀な人たちのネットワークや情報を活用したい、そして将来的に同じように起業する仲間が増えたらいいな、と考えました。それがTNKというサークルを立ち上げた理由です。

思い立ったら即行動、ということで、本を読んでから2ヶ月ですぐ立ち上げました。

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TNKは歴史が長いですが、普段どんな活動をされているのですか?

保手濱まず根本的に、起業サークルって成立しないんですよ(笑)

コンセプト自体が矛盾しています。起業したいのであれば一刻も早く起業すべきですから。

そう考えると、起業サークルってそんなにやれることはなくて。週1回勉強会を開催するとか、たまに起業家の方々の講演会を開くとか、文化祭に出店して本気で稼ぎに行くとか。そういった週1回の定期的な勉強会やプロジェクトを設立当初は行っていました。

現役生をはじめ、TNKの後輩とはいまでも交流がありますが、活動内容自体に今も昔も大きな変化は無いと思います。

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コンセプトが矛盾しているのに、なぜTNKは長く続いているのでしょう?

保手濱TNKはサークルと名がついていますが、1つの文化なんです。TNK的なマインドや価値観、感覚が代々受け継がれている。これが他の起業サークルやビジコンサークルとの決定的な違いであり、10年以上も勢いを落とさずにTNKが続いている理由だと思っています。

TNKに集まる人達は、自己実現のためだけにTNKに在籍するのではありません。自分が良ければいい、儲かればいい、といった考えではなくて、こんな風な世の中にしたいよねとか、世の中に対して何かポジティブな影響を与えたいよねっていう価値観を全員が持っていて、メンバー同士で共有しているんです。

彼/彼女らは意志が強くてガツガツはしているけど、基本的に利他主義。それに必ずしも起業したい人達だけが集まっているわけではなくて、エネルギーあるメンバーから刺激を得たい、起業以外の方法ですごいことがしたい、というような意志をもった一生懸命な人達の集まりなんです。

もちろん、起業という側面からみても、10億円以上でエグジットした卒業生が3人出ていることもあり、実績もできてきています。このような卒業生によって作り出されるブランド効果もあり入会希望者は年々増えているので、今後もTNKは続いていくでしょうね。

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コアである文化が変わらない中で、TNKの最近のトレンドはありますか?

保手濱これは日本全体に言えることですが、TNKに所属しながら実際に起業してしまう学生が昔より格段に増えています。

今50代の東大出身の起業家に聞いた話によると30年前だと、そもそも起業とかベンチャーといった概念・ワード自体が世に出回っていなかったそうです。ましてや学生のうちから会社を作るなんて発想はほとんど誰も持っていなかったでしょう。

起業と学生の間の潮目がかわったのはやはりインターネットの登場。1995年あたりを境にして、起業に必要なコストが大幅に下がりました。オン・ザ・エッジ(当時)の堀江さんもそうですが、HTMLやCSSがわかる学生ならWEBサイトを制作するだけで相当な金額が稼げるようになったんです。サイバーエージェントの藤田さんが出てきたのもこのあたり。

数年経過した2005年前後には堀江さん(当時ライブドア代表)が毎日のようにニュースを賑わせたり、ニッポン放送を買収しようとしたりして、一部の若者の中ではかっこいい起業家の象徴のようになって、学生で起業してああいう起業家を目指そう、みたいな流れも出てきました。

私がTNKを作ったのもまさにそのときなんです。だけど2005年前後ってちょうど閑散期というか、あまり起業ネタがなかったんですよね。プログラミングを覚えて受託開発するか、検索エンジンのノウハウを持ってSEO対策を活用するかくらいでした。

どちらもすごい大きなビジネスにはなりませんし、そこに500万円程度の創業資金を投資してくれる投資家もいませんでした。

だけど今は、学生でもチャレンジできるビジネスモデルが豊富にある。ちょっと問題は起きましたけど、キュレーションメディアはいい例ですよね。再現性の高いビジネスモデルですし、賢い人が諦めずにやりきれば立ち上げから数ヶ月で何百万、何千万というPV数に到達できる。そこにアフィリエイトやネットワーク広告を設置しておけば瞬く間に数億円規模のビジネスになるわけです。

学生に投資したいベンチャーキャピタルやエンジェル投資家も増えているので、資金面から見ても昔よりもさらに起業しやすくなり、結果的にTNK在籍メンバーにおける起業家の比率も増えているのでしょう。

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TNK卒業生は卒業後もつながりを維持しているんでしょうか?

保手濱もちろんです。現役生の活動に卒業生が協力する機会も多いですし、現役生・卒業生問わずビジネス面でもお互いに支援しあっています。毎年100名ほど入会応募がある中から20名前後選抜していますので(現在14期のため)合計200人以上のOB・OGがいることになりますね。

その中で起業しているのは述べ50人ほど。事業売却や買収の相談があればネットワーク内の誰かを紹介して仲介した実績もありますし、後輩に投資家を紹介してあげたりもしています。

主なTNK出身起業家

加入期 氏名
(敬称略)
役職名
(※M&A済みの会社については買収時)
運営事業などの情報
1期生 保手濱 彰人 株式会社ダブルエル代表取締役社長 日本コンテンツの海外プロデュース事業の運営
2期生 高橋 飛翔 ナイル株式会社代表取締役社長 デジタルマーケティング事業、自社メディアであるAppliv運営
3期生 丹羽 健二 株式会社アイタンクジャパン代表取締役社長 インターンシップ検索サイト、キャリアバイト運営。2015年7月エン・ジャパン株式会社が買収(金額非公開)。
4期生 成井 五久実 株式会社JION 代表取締役社長 男性向けのライフスタイルメディアJIONと大人の女性向けメディアIIONNAの運営。株式会社ミスターフュージョンが買収。
4期生 白士 聡志 株式会社ワクテク 取締役副社長 ライブヨガスタジオサービス「FITRA」を運営。
5期生 業天 亮人 株式会社Strobo代表取締役社長 IoT窓センサー「leafee mag」を開発。2017年8月、株式会社ディア・ライフと業務提携。
5期生 福島 良典 株式会社Gunosy代表取締役社長 2015年4月、東証マザーズ上場。
6期生 野口 圭登 株式会社Vapes代表取締役社長 ペット情報サイトの運営。2016年11月株式会社ベネッセホールディングスと資本提携。
8期生 牛尾 湧 プレティア株式会社代表取締役 ヴァーチャル・リアリティ(VR)を活用した旅行体験サービスを運営。
9期生 金 靖征 株式会社Candle代表取締役社長 女性向けキュレーションメディア「Marble」を運営。2016年10月クルーズ株式会社が完全子会社化。買収額は12億5 千万円。
12期生 山内 遼 株式会社Telescope代表取締役社長 自動車比較メディア「SUNROOF」の開発・運営。
12期生 前田 有香 株式会社サムライキャンディー代表取締役社長 和菓子及び京風ホテルのプロデュース事業を運営。
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創設者である保手濱さんは、いまどんなことをしているのですか?

保手濱現在ダブルエルという会社を運営しており、日本生まれのマンガやアニメといったコンテンツの海外展開 する事業を行っています。日本のコンテンツホルダーから海外展開の権利をお預かりして、海外企業と提携してマンガを現地で映像化したり、電子媒体で翻訳配信したりといったビジネスに発展させる仕事です。

事業を始めたきっかけは、マンガや映画などのコンテンツを通じて日本の文化を海外に広めていきたいと思ったから。意見の対立があってもお互いに理解し、協力し合うのが日本の文化だと私は思うんです。

保手濱元々平和の象徴であるアンパンマンを作ったやなせたかし先生が「日本のアニメが広がっていけば戦争はなくなっていく」と仰っていました。日本アニメやマンガに触れることで、どんな相手とも最終的には理解し合えるという価値観をもてるようになるからだといいます。

例えばドラゴンボールでも、ピッコロ大魔王やベジータみたいな悪役として出てきたキャラクターも結局殺されず悟空たちと分かり合っていわば仲間みたいになっていきますよね。

アメコミ(アメリカンコミック)ではこんなことあり得ません。悪役は倒されるもの、悪役がいなくなってはじめて話が終了するんです。日本発のコンテンツを通じて世界中に日本文化を伝えられれば、世界平和と言わないまでも、大きなインパクトを与えられると思っています。

将来的には自社コンテンツで世界でヒットする作品も創っていきたいですね。社内のメンバーにも、日本のマンガを世界に広める仕事がしたいとか、マンガを8万冊持っていて日々仕事でお会いするマンガ家さんもびっくりしちゃうくらいマンガに詳しいとか、本当に日本のコンテンツが大好きで、その可能性を信じるメンバーが揃っています。

こちらの記事は2017年09月08日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

FastGrow編集部

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