「キャリアはどう考えているの?」という上司からの問いかけが、私の才能を開花させた
──ベンチャー経営者、二児の母、『VERY』専属モデルの“3つの顔”を持つ申真衣に聞いた、仕事も家庭も諦めない思考法

インタビュイー
申 真衣
  • 株式会社GENDA 代表取締役社長 

東京大学経済学部経済学科卒。 2007年ゴールドマン・サックス証券株式会社入社。金融法人営業部で金融機関向け債券営業に従事。その後、2010年より金融商品開発部にて、金利・為替系デリバティブの商品開発・提案業務、グローバルな金融規制にかかる助言業務等幅広い業務に従事。2016年4月、金融商品開発部 部長、2018年1月、マネージングディレクターに就任。2018年5月、株式会社GENDAを共同創業。2019年6月より現職。

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「2020年までに女性管理職の割合を30%に」──そんな目標のもと、これまで政府も企業も女性の活躍を推進するべく努力を重ねてきたものの、達成には程遠いという現実がある。

大企業に比べて平均年齢が若く、組織における多様性に対して比較的意識が高い人が集まっているはずのスタートアップ業界も、見渡してみれば男性ばかり。この状況に違和感や危機感を抱いている経営者も少なくないはずだ。

そこでFastGrowでは、具体的にどうすれば女性がビジネスの第一線で活躍できるようになるのかを探るべく、ある女性経営者に取材を申し込んだ。

新卒でゴールドマン・サックスに入社後、当時最年少の同社のマネージングディレクターに就任し、現在は2017年設立のPEファンド・ミダスキャピタルが出資する株式会社GENDAで代表を務める申真衣氏だ。

0歳と4歳の2人の子どもを育てながら、働く女性とママを応援するファッション誌『VERY』の専属モデルとしても活躍する彼女は、個人と企業の両方にとって“ロールモデル”と呼ぶべき女性経営者だからだ。

一体彼女はどのようにして、多くの女性が諦める「キャリアとプライベートの両立」を実現しているのか。多様性のある組織づくりのために、企業には何ができるのか。当事者からのリアルな声に学びたい。

  • TEXT BY MARIKO FUJITA
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
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女性である前に“1人の社会人”である
──社会から女性に投げかけられる“意欲の冷却”をしてくる言葉

つい先日発表された2020年の日本のジェンダーギャップ指数は、156カ国中120位。年々順位は下がり続け、先進国の中では圧倒的に最下位の水準から抜け出せないままでいる。

まず、現在のこの状況に対して申氏に意見を求めると、「状況は少しずつ良くなってきてはいるものの、世界の国々が改善しているスピードに比べて日本ははるかに遅れをとっているため、改善しているにも関わらずどんどん順位が下がっている」という答えが返ってきた。

なぜ、日本は海外に比べて女性の活躍が進まないのか。彼女が感じているのは、仕組みや制度といったハード面というより、カルチャーというソフト面の大きな課題だ。

日本には「女性とはこういうものである」「男性とはこういうものである」という社会全体の大きな見えないプレッシャーがありますよね。

そんな社会の中で女性は、生まれてから大人になるまで、「女の子だからそんなに勉強しなくていいのよ」とか「可愛くしていなさい」といった、“意欲の冷却”をしてくる言葉をさまざまな場面で投げかけられ続けます。

男性側も同じように、「女性とはこういう生き物」という考え方がインプットされてしまっていて、「女性は結婚したいに違いない」「子どもを産みたいに違いない」「転勤に行きたくないに違いない」といった先入観を持って女性に接してしまっているケースが多いんじゃないかと思うんですよね。

周囲にそう言われ続けると、「たしかにそうなのかも……」と内面化してしまう人もとても多くて、転職のオファーや昇進の打診を受けても、手を挙げられない女性が多いのではないかと思います。

ですから、女性の活躍促進をしたいと考えている日本企業の男性経営陣やマネジャーの皆さんに対して、女性視点からのアドバイスがあるとすれば、「目の前の女性は、女性である前に1人の人間である」ということを意識してほしい、ということです。

「女性だからきっと○○なはず」などと決めつけず、フラットにひとりの社会人として向き合っていただくだけで、女性の活躍支援はもっとうまくいくはずだと考えています。

たとえば男性の育児休暇について、制度の認知は広まってきた一方で実際の取得率は10%にも満たないのも、「育児は母親が担うもの」「男性は働いてしっかり稼ぐべき」という根強い社会の意識があり、実際にそう思い込んでいる夫婦が多いからだろう。

そしてこの意識こそが、働くことから女性を遠ざけている最大の要因である。それではどうすれば、意識を変革できるのだろうか。

申氏によれば、固定観念を壊す上で重要なのは「ロールモデルを見つけること」だという。

前職のゴールドマン・サックスは新入社員が男女半々、昇進していくペースも男女で同じという職場で、子どもを育てながら何のハンディキャップも負わずに働いている女性がたくさんいました。

しかも、それをすごく大変そうにやっているというよりかは、「上手くタスクをアウトソースすれば、仕事と子育ての両立って全然できるのよ」という雰囲気で。

そうしたロールモデルが身近にいて、「子どもを産むことはキャリアを諦めることじゃない」と自然に思えたのは、自分にとってすごく大きかったですね。

今の会社にはロールモデルになる先輩社員がいなくても、今の時代ならネットで申氏のような人物を探して参考にすることもできるし、転職の際に「ロールモデルとなる社員はいるか」を軸にして企業を選ぶのも有効と言えるだろう。

また企業にとっては、ロールモデルとなる女性を採用することはもちろん、彼女らを積極的に露出し、「女性を受け入れたい」というメッセージを発信し続けることも重要だという。

最近では、イベントなどの登壇者に意識的に女性を入れるような動きも増えてきていますが、私はこうした取り組みを続けるべきだと思います。

やはり女性にとってロールモデルの存在は重要ですし、男性ばかりのコミュニティは、メッセージを受け取る側の人に対して「同じような人しかいないんだ」という印象を与えてしまいますからね。

組織の多様性について発信し続けることは、女性だけでなく男性に対しても良いメッセージになるのではないかと思います。

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ジェンダーとは、最もわかりやすい多様性の1つ

ここでジェンダーから少し視野を広げて、「多様性」というキーワードについても考えてみたい。

「組織における多様性が大事」と既に散々言われてはいるものの、同じような人と一緒にいる方がラクなのも事実だ。

多少のコストをかけてでも実現すべき多様性の価値について、申氏はどのように捉えているのだろうか。

大きく2つの観点があると思っていて、1つはいろんな視点があった方が、より良い答えに辿り着ける可能性が高いということです。

もちろん、男性と女性の間で意見が必ず違うということではないのですが、ジェンダーはすごくわかりやすい1つのダイバーシティの形なので、組織の中にある程度女性がいるということは、異なる意見を持った人がいる可能性を高めることにつながります。

もう1つは、そもそもほとんどの会社が多様な消費者に向けて財やサービスを作っていると思うので、当然それらを提供する側にも多様性があったほうが良いということ。

社会に対してより高い価値を届けるためには、企業の組織がなるべく社会の縮図であったほうが良いというのは、自然なことだと思います。

こうした考え方のもと、ミダスキャピタルは「2024年までに投資先企業全社で女性役員を登用すること」を方針として打ち出し、女性社員の採用に積極的に取り組んでいる。

ミダスキャピタルは、成長のマイルストーンとして「2024年までに投資先企業の時価総額1兆円を達成すること」を目指しており、それまでに各企業に女性役員を1人以上登用したいと考えています。

ただ、決して「女性だから採用する」のではなくて、候補者の母集団の中に女性がいるのかを確かめ、多様性のある人の中から選ぶというプロセスが重要です。

入り口の段階ですごくバイアスのかかった候補者しか見れていないとしたら、それは絶対に考え直した方が良いですからね。

しかしながら、女性は男性に比べて上手くいっている組織を離れにくく、キャリアアップのために転職にエントリーしないという全世界的な傾向がある。

そこでミダスキャピタルでは、女性限定のキャリアイベントなどを開催することで、キャリアアップに向けてなかなか踏み出せないでいる女性の背中を積極的に押していくという。

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価値観は、言葉にすることで初めてすり合わせられる

とはいえ仕事と子育てを両立するのは、やはり簡単なことではない。

申氏も「全てを完璧にやることは誰にもできない」と断言し、タスクに優先順位を付け、外部の手を積極的に借りることによって、日々の生活を回しているという。

私も雑誌に出させて頂いていますけど、そうしたメディアやSNSで見るような他の人の姿ってすごくデコレーションされたもので。本当はそんな素敵な人なんてどこにもいないので、完璧にやろうと頑張らなくて良いんです。

私の場合は、素敵なお弁当は作らなくていいと思っているし、お掃除も他の人にお任せする。つい先日だって、クタクタになって家に帰ったら、冷蔵庫に肉まんしか無くて(笑)。だからその日の夕飯は本当に「肉まんだけ」だったんです。

ただ、私にとって寝る前に子どもと一緒に本を読むことはとても大事だから、その時間だけは絶対に取る。

そうやって、家事育児の中でも自分がやりたいと思うことに優先順位付けをして、それ以外のことは他の人にお任せしています。誰かが「やった方が良い」と言うからやるんじゃなくて、あくまで自分が家族との関係性の中で「やりたい」と思ったことを選ぶのがポイントですね。

また、パートナーからの協力を得る上では、「結婚をキャリアの選択と捉える」という考え方を教えてくれた。

そもそものスタート地点に立ち返ると、結婚するのかどうか、どういう人と結婚するか、という部分がやっぱり大事です。

一緒に家事や育児をやるという意識のないパートナーを持ってしまうと、やっぱりどこかでキャリアを諦めるポイントが出てくる。

もちろん、最初から「それで良い」と思っている人は良いのですが、そこの部分の認識がズレていたために離婚に至ってしまう人もいます。

なので、結婚するときに「同時にキャリアの選択もしているんだ」という意識を持つことは、非常に重要なことだと思います。

実際に彼女が結婚するときは、お互いの価値観をすり合わせるためにそれぞれの考えを言語化し、“契約書”の形にまで落とし込んだそうだ。

結婚するときに、「そもそもなんのために結婚するんだろう?」ってすごく思ったんです。結婚してもお互い働き続けようと思っていましたしね。

そこで「自分たちにとって、結婚とは何なのか」をすり合わせるために、“婚姻契約書”というドキュメントを作りました。

その時は転勤の可能性があるような仕事だったので、「この先別々に暮らすことがあるかもしれないけれど、その場合は1年半を上限に、なるべく一緒に暮らすことを優先しましょう」といった内容を書きましたね。

それに、何度もドキュメントをやり取りしているうちに「彼はこういうポイントを気にするんだな」ということもわかってきて、自分としての新しい気づきもたくさんありました。

それから6年くらい経って、その時「家族ってこういうものだよね」と思っていたものがまた少しずつ変わってきたりもしているんですけど、それを逐一すり合わせたり、言葉にする作業は結構大事なことだと思っています。

言葉にすることで、初めてお互いの考え方のギャップに気付ける。これは家族のコミュニケーションに限ったことではなく、職場のコミュニケーションにおいても同じだ。

これまでの終身雇用制が当たり前だった社会の中では、キャリアについて考え、ちゃんと話をするような機会って、ほとんどなかったんじゃないかと思うんですよね。「出世をするかしないか」という話はあっても、「どういう働き方をしたいのか」「いまの会社に何を求めているか」という会話をする文化がなかったというか。

でも今は、むしろ1つの会社にずっと勤める人の方が少ないわけですから、女性に限らず上司やチームメンバーと対話をしながら、「もっとこういう仕事がしたい」といったキャリアパスについての価値観をすり合わせていくことが必要だと思います。

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自信とは1つのスキルである
──必要なのは努力ではなく、ただ意識を変えることだけ

2018年に創業し、ゲームセンター等へのアミューズメントゲーム機レンタル事業で順調に成長してきたGENDA。

2020年はコロナ禍による緊急事態宣言によってゲームセンターの売り上げが激減し、一時は危機的状況にも陥ったというが、同年12月にはセガエンタテインメントの株式の大半を取得し、大幅に事業と組織を拡大した。

一挙に4000人もの従業員を傘下に抱える経営者となったことに、「大きな責任を感じつつ、会社のステップが上がったことにすごくワクワクしている」と語る申氏。

そのプレッシャーをものともしないポジティブな姿勢は、一体どこから来るのだろうか。自身がこれまでのキャリアで成功を掴んでこれた要因について尋ねると、「自信というスキルを高めること」という答えが返ってきた。

「何かをした結果が自信になる」「成功することで自信が持てる」と思っている人も多いと思うのですが、私はそれは逆だと思っていて。「自信があるから成功できる」のです。

特に女性は、たとえ男性と同じ能力を持っていても、男性に比べて自信がないというデータがあるそうです。なのでまず、「自信を持つ」ことは、実際に自分に能力があるかどうかとは関係ない、スキルの1つだと認識することが重要です。

自信があれば昇進にも手を挙げられるし、新しい仕事にチャレンジしてみようとも思える。自信というスキルを身につけると、いろんなドアが自然に開き始めます。

自信を持つために私が意識しているのは、自分が持っている自信レベルを何の根拠もなく「×1.5倍」すること。「私にはそれくらいでちょうど良い」と思って言い聞かせていると「なんかできるかも」って気がしてくるし、ストレスも減ります。

仕事であれ、家での家事や育児であれ、自分の意識の持ち方次第でパフォーマンスは大きく変わる。「できるはずない」「自分には無理だ」という思い込みを捨て、周囲からのそんな声にもあえて耳を傾けないことで、申氏のようにキャリアを切り開くことができるのだ。

最後に、現在積極的に採用を行っているミダスキャピタルの仲間として、一緒に働きたい人の人物像について聞いてみた。

PEファンドというと、金融やコンサルのバックグラウンドを持ったメンバーが働いているケースが多いと思うのですが、ミダスキャピタルは自分で起業をして事業を大きくした経験のある事業家が半分くらいを占めているという意味で、ユニークな組織です。

また、コストカットをして瞬間的にバリュエーションを高め売却する、というモデルのPDファンドではなく、時間をかけて成長戦略を作り長期で企業価値を高めようとしている点も特徴です。そのため、急成長する会社組織と同じ用に、メンバーに対しても多様性を求めています。

グループの投資先企業すべてが連帯を持って、互いの悩みや学びを共有しながら、ゆるやかにつながっている組織なので、そうやってみんなで一緒にやることを「楽しい」と感じられる人なら、入ってきても楽しいし活躍できるのではないかと思います。

2021年5月にミダスキャピタルは、経営幹部を目指す女性のためのWebセミナー開催を予定しており、申氏も登壇予定だという。働く女性のロールモデルについてもっと知りたいという方は、ぜひこちらもチェックして欲しい。

こちらの記事は2021年04月16日に公開しており、
記載されている情報が異なる場合がございます。

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執筆

藤田マリ子

写真

藤田 慎一郎

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