40事業を支えるインハウスマーケティング組織の実態──新規事業を連発するマーケ組織を創ったレバレジーズの軌跡を、執行役員藤本に聞く

インタビュイー
藤本 直也

大阪大学工学部卒業。2014年新卒入社。マーケティング部、新規事業責任者、経営企画部を担当した後、25歳でレバレジーズ初の執行役員に就任。就任後は人事責任者、新規事業検討室長、経営企画室長を歴任。現在はレバレジーズの全40事業の事業戦略/広告/広報/データサイエンス/プロダクト開発などを統括するマーケティング部の部門長と採用/教育/社内制度を統括する人事戦略室の室長を務める。2018年度から2021年度まで、中央大学で新規事業、マーケティングについての非常勤講師を務めた。

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2005年の創業以来、年商は507億円、正社員数は1,200人に拡大し、急激な成長を遂げているレバレジーズ。約半数がボトムアップで生まれた40以上の事業によって、この成長は支えられている。

根幹にあるのが「世の中のユーザーが抱える課題を分析し、求められている事業をひたすら実行する」というユーザー起点の思想。「ユーザーメリットか、収益向上か、迷った時にはいつでもユーザーメリットに振り切ってきた」と語るのが、同社執行役員の藤本直也氏だ。

「そんなのはビジネスの基本だろう」とも吐き捨ててしまえそうな考え方だが、常に実行できている人や組織がどれだけ存在しているだろうか。事業成長が至上命題とされる中で、つい収益ばかりに気を取られてしまうのが実情ではないか。しかし同社は常に、課題解決にまっすぐに向き合う。その秘訣は「一人ひとりがマーケティングの本質を捉えられているかどうか」にあると藤本氏は強調する。

その本質こそが、先にも述べた「世の中のユーザーが抱える課題を分析し、求められている事業を、ひたすら実現させる」こと。だから、レバレジーズのマーケティング部は、「事業開発部」に見まがうかのごとく、いくつもの事業を創造してきているのだ。その軌跡として語られた内容は、「自分が生み出している価値」に悩むビジネスパーソンたちに、解決の糸口を提示してくれるものだった。

  • TEXT BY RIKA FUJIWARA
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
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レバレジーズのマーケティングは、事業開発と同義

藤本そもそも私は、日本で認識されている「マーケティング」の認識に対して、疑問を抱いているんです。日本ではマーケティングといえば「広告」「広報」「販促活動」ばかりが想起されますよね。でも、あくまでそれはマーケティングの領域の一つでしかない。

レバレジーズでは、「顧客のニーズを見極め、必要な全てのソリューションを届けていくこと」をマーケティングとしています。

インタビュー冒頭で藤本氏が切り込んだのは、世間が捉えるマーケティングに対する疑問だった。

「マーケティングはサービスやプロダクトを売る手法ではなく、顧客の課題解決のための手段である」という思想のもと、レバレジーズは、創業からの15年で40以上の事業を生み出し成長させてきた。ITエンジニアやクリエイターの専門エージェント『レバテック』は、「IT人材の不足」という社会課題に向き合う中で立ち上がった。20代のフリーターや既卒人材などの就職をサポートする『ハタラクティブ』は、正社員経験がない若者に就業の機会を届けたいという想いから生まれたサービスだ。

これらのサービスを生み出すのに、年次や年齢は関係ない。藤本氏自身、入社1年目から多くの新規事業開発に携わり、「今世の中に必要とされている事業」を見極め、成長させる経験を積んできたと振り返る。「頻繁に調べ物をしているエンジニア」の姿から、エンジニア特化型のQ&Aサイト『terateil』を着想。わずか2年で100万人のユーザーが集まるサービスに成長させた。その後、25歳でレバレジーズ史上初の執行役員に抜てきされた。

現在は29歳ながら、千人規模のレバレジーズの経営を、代表取締役社長の岩槻知秀氏と二人三脚で推進する。理想的とも言えるキャリアを歩んできた藤本氏だが、事業を立ち上げる過程で数多の壁にぶつかってきた。

レバレジーズ株式会社 執行役員 藤本直也氏

藤本もともと「事業家になりたい」という思いを持って、レバレジーズに入社し、事業の立ち上げに挑戦してきました。今でも良く覚えているのが2014年ごろの失敗経験です。

当時、IT人材の不足を受けてプログラミングスクールを立ち上げようとしました。ただ、2014年において、「プログラミングを積極的に学びたい」というニーズが少なすぎて。要するに社会に出して行くにはタイミングが早すぎ、うまくいきませんでした。

その後には、難病患者が根本治療を目指すために情報交換ができるプラットフォームを立案。特に患者数の少ない病気の薬は開発しにくいという課題があります。必要とする人の数が極端に少ないことや、症例が少ないためにメカニズムがわからないためです。

そこで難病患者同士が情報交換ができるプラットフォームを開発することで、根本治療につながるデータ提供につながるのではないかと考えました。しかし今度は、目的にかなったプロダクト開発を進める上でのチーム内のコミュニケーションがうまくいかず、リリース前に事業を畳むことになりました。

たとえ自身で課題が特定できたとしても、最良のタイミングを見極め、チームの力を合わせて実現にこぎつけるのは容易なことではない。そう思い知ったという。

藤本非常に悔しい思いをしましたが、事業にとっていつやるかという「タイミング」と、推進するチームである「人」は非常に重要なのだと実感しました。当時の失敗は、世の中に求められている事業を推進するための礎になっています。

レバレジーズといえば「少数精鋭のマーケティング部」というイメージを持つ読者が増えてきていることだろう。実際に新卒採用市場において学生からの人気は高まるばかりで、藤本氏も「どんな有名企業と比較しても遜色なく、優秀なマーケティング組織になっている」と胸を張る。

しかしそんなマーケティング部から25歳で最年少執行役員となったこの藤本氏の軌跡を紐解いて浮かび上がる姿は、世間一般で想像されるような「マーケター」ではなく、明らかに「事業家」という類のものなのだ。

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ユーザーメリットか利益か?
究極の選択に向き合って出た答え

「世の中で必要とされている事業を立ち上げ、推進する」、この思想自体は誰もが持ち得るものである。だがご存知の通り、事業開発は決して綺麗事だけでは進められず、さまざまな壁にぶち当たる。

特に難しい判断を迫られるのが、「足元の利益」か「ユーザーメリット」かのいずれかを選択せざるを得ない状況に陥ったときだろう。前者を選択した場合には、利益を追求しすぎてユーザーが離れてしまう可能性があり、後者を取った場合には、収益を上げるのが厳しくなり、事業自体が立ち消えてしまうケースを想像してしまう。

藤本事業を推進していると、「ユーザーメリットを重視すると売上や利益率が下がる」ように思えることがありますよね。でもやっぱり、その時は迷わずユーザーメリットを重視した方がいいと思うんです。これは僕がマーケティング部で新規事業の立ち上げや推進を何度も経験した中で、年々強く感じるようになってきていることです。

なぜか?それは、長い目で見ると、競合がユーザーメリットを優先させた場合に、負けてしまう可能性があるからです。

藤本氏が印象的な例として挙げたのが、フリーランスエンジニアに向けた人材サービス『レバテック フリーランス』での経験だ。このサービスは、フリーランスエンジニアの増加に伴い、2014年にスタート。専任のカウンセラーがフリーランスエンジニアにヒアリングをし、それらをもとに企業の開発案件を紹介し、サポートをするサービスだ。

『レバテック フリーランス』は、立ち上げからの数年間はフリーランスエンジニアの登録者数を増やすことに注力をしていた。そうしなければ、顧客企業への価値提供がままならず、収益を確保できないからだ。

だが、サービスを展開する中で「案件の“継続”に対して不安を抱くフリーランスエンジニアが多いのではないか」との仮説が生まれる。顧客企業への価値提供すなわち「収益確保の視点」から、「ユーザーであるフリーランスエンジニアの視点」へ、軸をシフトさせる必要性を感じ始めた。チーム内でも少しずつ、「新規のクライアントやユーザーの増加を促すよりも、既存ユーザーのエンゲージメントを高めるべきではないか」という意見が挙がり出した。

藤本私たちがユーザーであるエンジニアに紹介する案件は、数カ月単位で契約を更新していくストック型の仕組みが中心でした。その契約が切れたら、更新をするか新たな案件を紹介することになるのですが、当時はそうした契約満了後のサポートが手薄だったんです。

彼らには生活がありますし、「今の契約が終わるころに、次の仕事がちゃんと見つかるのだろうか」という不安を少なからず抱えているはず。「レバテック フリーランスを使えば、数年後まで安定して仕事を得られますよ」という状態までサービスを磨き込むべきだと考えるようになっていきました。

ただ、私たちの会社も人数は増えてきているとはいえ、リソースが潤沢にあるわけではありません。ユーザーの案件継続に力を入れると、発注をいただける企業の新規開拓や案件提供が相対的に減り、収益性が下がる懸念がありました。

どちらを取るべきか、当時は迷いましたが、思い切って「既存ユーザーの継続サポート」に力を入れることにしました。ユーザーの不安を払拭し、価値を感じてもらえるサービスにすれば、結果的に全体数だって増えていくはずだ、と。「自分たちが本当に提供していきたい価値」を基準に選択しましたね。

方針転換により、懸念していた収益のダウンは、一時的なものにとどまったという。この「継続サポート」が顧客満足度の柱となり、結果的にユーザー数も顧客企業数も継続的な増加を見せている。

この事例はまさに、レバレジーズの目指す“マーケティングの本質”を表している。

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課題解決を起点としたインハウスのマーケティング部が、
事業開発を支える

ユーザーに求められていることを考え抜き、徹底して実行する。こうした事業開発をするレバレジーズを支えているのが、先ほどから何度も言及している「マーケティング部」なのである。1,200人を超える従業員規模になりながらも、70人という少数精鋭のメンバーが全約40事業の「レバレジーズ流マーケティング」を一手に担う。

マーケティング部の組織構造。青枠で囲まれた数人単位のプロジェクトチームが、社全体の40事業に対して組成される。広告運用やCRMといった狭義のマーケティングだけでなく、事業戦略や方針の策定に至る広義のマーケティングまで、ユーザー起点で積極的に関わっていく(提供:レバレジーズ株式会社)

創業当初からこの「インハウス主義」を貫き、ノウハウの蓄積や施策実行スピードの向上に力を注いできたのである。その理由は、ここまでに述べた「ユーザー起点の課題解決」の思想を育むうえで外せないと考えたからだ。

藤本世の中には広告代理店をはじめとして、狭義のマーケティングを専門に担う企業がいくつも存在しますよね。確かに、自社にマーケティングの知見が蓄積されていなかったり、人的リソースが不足したりしている場合には、そうした企業に依頼した方が良い場合もあるでしょう。

しかし本来、マーケティングという概念はもっと広く、事業成長や企業成長に大きく長く貢献できる可能性を持つものです。「販促活動」ではなく「課題解決の思考と手段」なのです。だからその重要性を鑑みれば、外注よりもインハウスでやり切れるほうが絶対に良い、と私たちは考えています。

理屈は理解できる。だが、外注を選ぶ企業も少なくないのは、やはり実行の難しさゆえなのだろう。この思想に基づいたさまざまな施策の実行に、メンバーの一人ひとりが向き合い続けられる組織を、いったいどのようにしてつくれるのだろうか。レバレジーズでの進め方を聞いた。

藤本ユーザー起点での課題解決を実現するには、メンバー一人ひとりが課題に向き合ったうえで、常に疑い続けることが欠かせません。その意識を、入社時から全員が徹底できるようにしています。「Web広告を出稿する」といった施策一つをとっても、「より良い媒体はどこだ?」といった小手先の議論だけでなく、「そもそもWeb広告が最適なのか?」「そもそもこの目標を追うことが最重要といえるのか?」といった上流の議論までこだわっていくんです。

こうした思考が可能になるのは、インハウスで上流から下流まで自分自身の責任で施策を検討し実行しているから。だから、一人ひとりの成長角度は高くなるし、マーケティング組織としても強くなり、結果として事業の成長も続けていけると考えています。

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新卒も5億円超の広告運用。
ダイナミックな経験が、強い組織の礎に

ユーザーの課題の解決が起点にあるからこそ、事業現場の方針や要望に対してマーケティング部が強く「NO」を突きつけることも多いそうだ。こうした徹底した検討や議論が、一人ひとりの成長を加速させている。

藤本私たちは、「世の中をどう変えていきたいのか」という、そもそもの定義を常に問うています。少しでも顧客体験を損ねる可能性がある施策に関しては、そもそものやり方を変えた方がいいという意見が頻繁に議論されます。

それくらい、一人ひとりのメンバーが、その事業で実現したい将来の世界を意識し、考え尽くして日々の仕事に向き合っています。小手先の議論で終わらず、本質を議論し、大きな裁量を持ってさまざまな施策を実行し続けているんです。

一人ひとりの意思決定や実行の量はダイナミックなものとなり、他の企業とは全く異なる経験を積んでいるのだ。

藤本これはほんの一例ですが、新卒1年目で5億円以上の広告費を使って運用をしていたメンバーがいます。ただ、ここで重要なのは、「5億円を広告費として使ってよい」と言われるわけでは決してないという点です。

「この事業を中長期的にどう伸ばしていくか、その上で今期は何をすべきか」という目的から、結果として5億円を超える額を使っての広告運用を選択し、実際に実行し切ったわけです。これだけの規模でお金を動かせば、付随する仕事も当然大きなものになる。実行量や思考量が段違いに積み上がっていくので、結果として成長角度も当然大きくなるでしょう。

こうしたことを日常的に行う環境だから、うちのメンバーはみな優秀だと僕は感じています(笑)。より大きな仕事を経験し、大きく成長していくメンバーによって作られるインハウス組織だから、事業を新たに起こせるし、利益を創出して続けていける。これがレバレジーズが持つ強みの本質です。

そして最後に、藤本氏は付け加えた。

藤本目的や課題の捉え方に差はあれど、結局、日本のマーケットではもう、各社の戦略はほとんど同じだと思うんです。最終的な勝敗を分けるのは、その打ち手を実行力高くやり切って、事業を続けていくこと、これに尽きます。そういう意味でも、「マーケは○○が重要」といった主張をするつもりは全くないんです。

持つべきは原動力、それを生むのは、何のためにやるのかという「Why」の部分です。「サービスを売る手法を知る人」ではなく、「問題解決に挑み、ユーザーに必要とされるサービスを考え抜き、実際に生み出して広めていきたい」と本気で考えている人こそが活躍していく時代です。そうした素質を持った人が集まり、切磋琢磨して成長できる環境があるのがレバレジーズなんです。

レバレジーズは新卒が急成長する環境というイメージが強いかもしれませんが、実は中途採用にも、かなり力を注いでいます。これからも事業をたくさん立ち上げていきますから、少しでも興味があれば力を貸してほしいですね。

こちらの記事は2021年08月20日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

藤原 梨香

ライター・編集者。FM長野、テレビユー福島のアナウンサー兼報道記者として500以上の現場を取材。その後、スタートアップ企業へ転職し、100社以上の情報発信やPR活動に尽力する。2019年10月に独立。ビジネスや経済・産業分野に特化したビジネスタレントとしても活動をしている。

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藤田 慎一郎

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