INTERVIEW
鈴木 貴史 及川 厚博
19-02-01-Fri

増加する大手企業からのスピンアウト。
そのメリット・苦難をMyRefer鈴木氏が語る

記念すべき第一回となる「M&A Cloud College (仮)」は、
「スピンアウトの実情と交渉の裏側」について。
MyRefer代表の鈴木さんをお迎えし、勉強会を行った。

※このコンテンツはM&Aクラウド社により制作されたものです。

スピンオフに至った経緯や実情、さらに交渉の裏側についてまで迫る。

社内ベンチャーを目指す人だけでなく、M&Aに携わるものとして、バイアウトの一環としてのスピンオフならではの特徴が学べるはずだ。

(以下、質問形式)

MyReferを立ち上げた経緯について教えてください。

株式会社MyRefer

鈴木株式会社MyReferは、‟つながりで日本のはたらくをアップデートする”というビジョンのもと、人と人との繋がりを活かしたリファラル採用を浸透させることで既存の採用業界をディスラプトしていこうというミッションを持っています。

2015年にリファラル採用の概念を市場に提唱し、同領域のパイオニアとしてサービスをローンチしました。現在では10名のベンチャー企業から100,000名を超えるナショナルクライアントまで、中途・新卒・アルバイトと領域を問わず活用いただいています。

M&Aクラウド代表の及川さんとは、スピンオフ時のスキームやディールの事例などについて当時から教えていただいていました。

どのような背景で事業を立ち上げたのですか?

鈴木リファラル採用とは、在籍する社員やアルバイト、OB・OGなどの紹介により、自社の社風に合っている人や、業務内容に適した人を選考し採用する方法です。

社内の風土をよく知る人間が採用に係るため、通常の採用よりもマッチング率が高く、優秀な人材を獲得できるというメリットがあります。

しかし、実際に企業がリファラル採用を導入するにあたっては、さまざまな問題がありました。人事からすると採用がミッションではない社員を効果的に巻き込む方法がわからない、インセンティブ制度を設計して社内展開したものの、部署ごと、施策ごと、社員ごとの数字が見えないため形骸化してしまいPDCAが回せないなど。一方で社員からすると、自社の募集ポストはリアルタイムで変遷するため、空きポストや採用(声がけ要件)、つまりリクルーティング情報を認知していないなどの問題もありますよね。

これに対して、リファラル採用活動を見える化、効率化し、社員がいつでもどこでも採用に関われるというプラットフォームを作ることで、リファラル採用を活性化させることができると考えて立ち上げたのが、株式会社MyReferです。現在で450社超、約15万人の社員様に利用いただいており、ITWeb、メーカー、人材、サービス産業(外食や小売り)など、多くの業界の大手企業にも使って頂いています。

最初はどのように顧客獲得しましたか?

鈴木当時まだ市場に概念のなかった領域、かつBtoBのリクルーティングSaasだったため、立ち上げた当初は、プロダクト利用料のみでご利用いただく通常のSaasプランでサービス展開していました。ローンチしてすぐに150社以上からの問い合わせをいただき、このサービスに確かなニーズがあることを改めて感じましたね。

また、パーソル (旧インテリジェンス) の顧客網を駆使して、効率よく企業の上層部とハイタッチセールスすることができたことも大きいです。他にもセミナーやグループ内の人脈、インバウンド、あとは顧客リファラルなどを活用してリーンスタートアップに則り、踏むべきマーケティングチャネルの検証と特定を繰り返してPDCAを回していきました。

立ち上げ段階において、工夫した点はありますか?

鈴木プロダクト・マーケット・フィットするまでにはとにかく一つの領域にフォーカスしてプロダクトを磨く必要があるのですが、HR領域は社員規模軸に加え、中途、新卒、アルバイトという採用領域軸、、IT・広告・EMC、メディカルなどの業界軸など、一つの軸に絞って標準化するにはあまりにも変数が多いため、それぞれのインサイトの最大公約数を取ってサービス開発することを工夫していました。

領域を絞ってフォーカスするのはサービス開発では当たり前ですが、一方で絞りすぎると取れる市場が小さくなってしまうので、最初から大きな市場でプロダクト・マーケット・フィットさせることを想定。

このあたりは、これまで採用領域で顧客インサイトを特定して本質的な価値を提供するソリューション営業で実績を出してきたので、その経験が活きましたね。

なぜ独立でなく社内起業を選んだのですか?

鈴木日本のHRリクルーティングは、ガラパゴス化されています。人材採用の仕事には、採用の要件定義から人材探しと選定、履歴書等の書類作成から面談手配までを必要としますが、それらを一括したトータルサービスをリクルートなどが既に提供しています。

従来の日本企業の人事部は、リクルートやインテリジェンスに「このような人材が欲しい」と依頼を投げるだけで、あとは待っていれば応募案件が来るという構造になっています。このような、すでに業界が出来上がっているHRリクルーティングという市場に新しい概念を吹きこむには、新規で独立して事業を立ち上げるにはよほどの啓蒙力が必要だなと。最短で市場を形成するには、社内起業が良いと思ったのです。

社内起業のメリット・デメリットは?

鈴木まず、社内のリソースを活用できることが大きなメリットです。MyReferで言えば、パーソルの顧客網やブランドを活用することができます。バックグラウンドの何もないベンチャー企業が採用事業に参入するよりも、「人材採用で大きな実績と実力を有するパーソルから出た新事業」というイメージがあると、顧客から信頼を得やすい。

また、パーソルにはすでに顧客ネットワークを有しており、それを活用することで効率よく営業できるというメリットもあります。同時に、大企業の有している間接部門 (法務や財務経理) も利用できます。デメリットとして大きいのは、「リスクがない」ことでしょうか。

リスクがないことがデメリットとはどういうことですか?

鈴木リスクが最大限ある状態での意思決定、リスクが少ない中での意思決定、どちらのほうが質が高いと思いますか?

社内ベンチャーの場合、「投資を得ている」という感覚が希薄化するケースがあると思っています。「事業会社の中の一事業部に与えられた事業予算」といった表現が適切かもしれません。事業開発は採用から組織の制度設計、投資戦略からプロダクト戦略と無数の意思決定の連続であり、極限の中で研ぎ澄まされて出したアウトプットと、リスクがない中でのアウトプットでは、前者のほうが意思決定の質が高いと考えています。

また、ブランドが元会社に依存するので、大手会社の中でいち新規サービスをやっている感覚になり、スタートアップ特有の新しい世界観を創る勢いを醸成しづらかったりします。逆にそこが社内ベンチャーのメリットでもあるので難しいところですが。

また、多くの大手企業では事業立ち上げ、0→1に詳しい人材が不足しています。シード期におけるリーンスタートアップの回し方や、各ラウンドにおいてそれ特有の経営戦略を描ける知識を持つスタートアップ人材が足りません。そうした意味で、社内ベンチャーは、「事業家志向には向いているが、起業家志向には向いていない」という印象ですね。

立ち上げにおいて特に大変だったことはありますか?

鈴木スピンオフやカーブアウトでは、意思決定の迅速さや自由な経営が行えるという点が優れている一方、完全なスタートアップとして独立して事業推進することになるので、これまでのような安定はなくなります。

スピンオフに至るまで、実にディールに1年半の時間を費やしました。パーソルグループではインキュベーションに力を入れており、社内ベンチャー育成のプログラムが充実しています。1年かけて、アイディア発想から壁打ち、ビジネス精査やワークショップを通し、200組の応募から、最終審査を通じて1-2組の新規事業家を生み出すプログラムがあるんです。

MyReferは2014年にそのインキュベーションプログラムに私が応募して承認を得た事業なのですが、その際から独立して事業推進していくことは念頭に置いており、経営陣にもそういった想いを伝えてきました。結果的には、快く古巣に応援いただきながらスピンオフすることになったのですが、事業会社から初のスピンオフの事例を出すということは非常に難しい意思決定だと思います。

具体的に、どのような経緯や提案でスピンアウトに至ったのですか?

鈴木自分の中では提案をしたという感覚ではなく、パーソルのブランド価値向上のためにオープンイノベーションを加速させたほうがいいと思っていたので、シンプルにそこを伝えました。

実際に、優秀な経営人材を採用するという観点で、サイバーエージェントを輩出した当時はパーソルキャリア(インテリジェンス)の採用ブランドバリューは向上したのではないでしょうか。

一方で今や、パーソルキャリア(インテリジェンス)が多くの起業家を輩出してきたイノベーションカンパニーであるということを知っている候補者や学生は少ないでしょう。

スピンオフの事例を作れば、パーソル自身にとっても、高い起業家マインドを持った人材の獲得にもつながり、「パーソル発のスピンオフベンチャーという実績による、パーソルのブランディングの向上」に寄与できると考えています。そういう意味でMyReferのスピンオフは、お互いにとってメリットとなるwin-winの関係であると感じています。

もちろん、スピンオフして事業をする場合と、そのまま社内ベンチャーとして運営する場合における成長曲線(MRR)の違いなどの定量データも出しておりましたが、これは大きな論点ではないと思います。

スピンオフして人事制度などは変えましたか?

鈴木スタートアップではありますが、パーソルの給与制度や福利厚生、人事制度を踏襲して独自の制度設計をしています。ベンチャーのスピード感とイノベーターが挑戦できるようなシステム、そして大企業の福利厚生を両立させた制度と聞くと、一見すると素晴らしい制度のように見えますが、その分間接費や人件費が増大することにもなる。リソースの限られたベンチャーにとっては大きな負担でもあります。ベンチャー企業特有のハングリー精神を持つ組織であることと両立させることを考えたときに、どこまで大企業のものを踏襲して制度設計するかは正直悩んだ部分です。

我々がこれまで採用で大きく訴求してきたのは、「安心と挑戦がセットで得られる」というサイバーエージェントと同様のものでした。

この訴求はいい面と悪い面があり、大企業の社内ベンチャーでこの訴求をしてしまうとアントレプレナーシップの強い人よりも、ある程度キャリアの終着点として安定を求めつつ、自由度の高い仕事を求めてくる人材が集まってしまいます。

一方で、独立したベンチャー企業が充実した人事制度や福利厚生があれば、話は別です。

スタートアップの裁量や大きな成長環境のなかで戦うことで、コミット力の高く、起業家精神を強く持つ候補者と会うことができ、一方で成長のみでなく、安心の環境も整備している。

優秀な人材を採用するうえで、ベンチャーの訴求点をベースに大手の制度を踏襲している安心感を与えることで、スピンオフならではの特徴を活かそうと考えました。

ありがとうございました。最後に一言、メッセージをお願いします。

鈴木社内ベンチャーは、大企業の持つリソースやノウハウを豊富に活用しながら、自由度高くスピード感を持って新規事業を立ち上げることができるという魅力を持っています。大企業的な面とスタートアップの側面の両方を兼ねているということもできるでしょう。

スピンオフベンチャーは完全にスタートアップと同じ環境ではありますが、ビジョンや運営の哲学次第で大企業のよさを引き出した事業運営が可能になります。

また大企業側にとっても、スピンオフを創出することで中長期的なブランドイメージの向上、さらにオープンイノベーションの促進による企業価値の向上につながる面もあります。

スピンオフする段階においては、多くの壁がありますが、独立系スタートアップと比べて大きく有利を取れる点もたくさんあると思うんです。「絶対にこの事業を立ち上げてみせる」という強い意志と大きな構想を持つ人にとっては、とても良い環境であるとも言えます。将来スピンオフを目指す方は、こうした実情を踏まえながら、ぜひチャレンジしていってほしいと思います。

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