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「M&A業界に価格破壊を起こす」──「M&Aクラウド」がITの荒野を切り開く

スマホで会社を買える世の中にする。「M&Aクラウド」は、匿名で買い手候補を一括募集できるM&Aマッチングプラットフォームなのだが、この...
スマホで会社を買える世の中にする。「M&Aクラウド」は、匿名で買い手候補を一括募集できるM&Aマッチングプラットフォームなのだが、このサービスは「M&A業界にITが進出した」という単純な言葉では説明しきれない。ひょっとすると同サービスによって将来は業界全体がそっくり変化させられてしまいかねない、恐るべき可能性を秘めている。
あの注目のスタートアップは、どのようにして生まれ、いま何を目指しているのか──
17-12-19-Tue
及川 厚博 (おいかわ・あつひろ)
株式会社M&Aクラウド  代表取締役COO
荒井 和平 (あらい・かずへい)
株式会社M&Aクラウド チーフエンジニア

スマホで会社を買える世の中にする。「M&Aクラウド」は、匿名で買い手候補を一括募集できるM&Aマッチングプラットフォームなのだが、このサービスは「M&A業界にITが進出した」という単純な言葉では説明しきれない。ひょっとすると同サービスによって将来は業界全体がそっくり変化させられてしまいかねない、恐るべき可能性を秘めている。

価格を下げる人間が業界にいない

代表取締役COOである及川は、「価格破壊で勝とうとしています」と明言する。通常であればどんな価格で売れたとしてもM&A業者に数千万円の手数料を支払わなければならないところを、「M&Aクラウド」では最低報酬が150万円とかなり安い価格で設定している。

また、普通なら売り手と買い手が面談に進んだ時点で仲介業者に100万円ほどの金額を支払わなければならないのに、「M&Aクラウド」では面談する分には無料である。

及川「M&A業界の平均年収って1500万円くらいなんですよ。だから人件費を維持するために、高い金額で仕事せざるをえないんです」

荒井「皆高いお給料をもらっているから、わざわざ安くしてお客さんを集めません。そもそも値段を下げる必要のある人が業界にいないんです。でも僕らは、そこまで高い給料で働いているわけじゃないんで(笑)。ITで効率化を進めて、より小さい案件でも扱っていけるようにしたい」

企業を1件売却するための作業量というのは、企業規模の大小によってそこまで変わらない。手数料が大きくなる分、どの業者も大きな会社を扱いたがり、小さな会社はバイアウトできず潰れることになってしまう。

事業承継を増やして潰れる会社をなくすというのが、「M&Aクラウド」のミッションだ。

買い手の手数料が安いだけでなく、売り手にも“買い手ボリューム”というメリットを提供している。

普通の仲介業者だと紹介してもらえるのは、せいぜい5、6社。一方「M&Aクラウド」を使えば、無数の買い手候補企業の中から検討することが可能なのだ。

及川「スマホで会社を買えるくらい、M&Aが一般的な選択肢となった社会を作りたいんです」

今後の事業展開としては売り手と仲介業者のマッチングに加えて、売り手と買い手を直接マッチングさせることも視野に入れている。

「将来的にはM&Aクラウド内に蓄積されたデータを活用した、AIによる企業評価算定も実現させようと思っています」

Macropusバイアウトの経験からM&Aをテーマに

そもそもなぜ及川は、M&Aをカジュアル化させたいのか?そこを説明する前に彼の経歴を振り返ろう。

ビジネスの世界に興味を持ち「経営に必要となるから」という理由で会計士の勉強をしていた及川は、大学在学中に教育系SNSを運営するMacropusを立ち上げた。

あくまで“お試し起業”のつもりで、大手経営コンサルティング会社から内定ももらっていたのだが、「この道の方が楽しいし、得るものも多い」と考えた結果、内定を辞退した。

しかし及川は、Macropusで悩みにぶち当たる。儲けられそうな分野で自分たちにできることを積み上げていくという考えのもと、Facebookページの制作にはじまり、予防医療メディア「Dr.Note」の立ち上げやオフショア開発事業など幅広く事業を行ったものの、利益が出そうかどうか、伸びそうかどうかが判断の中心となることが多かったことだ。

「世の中に必要だとしても、自分が本当に興味を持てることがやれていないから熱量が湧かない。事業は結局誰がやるのか?が大事だと気づいたんです」

Macropusは4年で経常利益数千万円まで成長したが、2015年、オフショアでの受託開発事業を事業譲渡。そのとき、いくらで売るべきか、相場はどこでわかるのかなどに悩み、M&Aの効率性に関して疑問に感じる部分が多かった。

もともと経営に強い関心があった及川の中で、M&Aが大きなテーマとなった瞬間だった。

現在の「M&Aクラウド」代表取締役CEOである前川拓也と出会ったのは、事業の引き継ぎ中、及川いわく「若干モラトリアムな期間」のことだった。Macropusのあったシェアオフィスに、オーナーと知り合いだった前川が遊びに来たのだ。

前川は、ホクレン農業協同組合連合会を退会後に始めた、道内の農畜海産物を関西の飲食店に届けるeコマース事業moremoreを事業売却。新たに事業を始めようと北海道から上京してきたタイミングだった。

前川もまた、時を同じくしてM&Aに強い関心を抱いていた1人だ。前川の実家は北海道・洞爺湖で建築会社を営んで“いた”からだ。

過去形で書いたのは、すでに自主廃業してしまったから。当時の前川は、「会社を売ることができていれば、経営者が変わっても社員の雇用は守られた。事業も受け継がれた」と悔やんでいた。

「M&Aをもっと一般的な選択肢にしたい」。理由は異なれど、そんな前川と及川のビジョンはピタリと一致した。一緒に起業するとなってから、M&Aのマッチングプラットフォームを作ることを決めるまでにそう時間はかからなかった。

エンジニアが“M&Aを再構築する”

チーフエンジニアである荒井は、及川からジョインしないかと声をかけられて、正直なところ「この事業ではエンジニアを見つけるのは難しいだろうな」と感じていた。

荒井は、及川とは大学の起業サークルで一緒だった仲。ITベンチャーでエンジニアとしてのインターンを経て、新卒でドワンゴに入社。イラスト・漫画の投稿サイト「ニコニコ静画」のWebサービス開発、「ニコニコ漫画」アプリのiOS開発などを経験し、着実に力をつけてきた。

同アプリは1年で両プラットフォーム累計100万ダウンロードと好調だったが、それがニコニコというプラットフォームの中でどれほどの価値を生みだしているのかを疑問に持つようになった。自身の能力よりインパクトを与える領域はどこだろうと考えた。

そんなとき、及川から「M&Aクラウド」でエンジニアを探していると声をかけられた。

荒井「M&Aに興味のあるエンジニアなんて少なそうだし、これ絶対見つからないだろうと(笑)。でも僕は大学のときに経済とか経営を勉強していて、そういう分野は興味を持てると思った。僕がやるべきだと思いました。僕がやらないと『M&Aクラウド』は立ち上がらないと感じたんです」

荒井が「M&Aクラウド」にジョインすることを決めたのは、いちエンジニアとしてIT×金融の事業内容に魅力を感じたことも大きい。

現在ウェブ系のエンジニアたちの間では、動画プラットフォームのようなウェブありきの事業ではなく、いわゆる“リアルビジネス”のような、既存の巨大事業や市場をウェブを駆使して構造転換し、さらなる次元へ昇華させていくような仕事への関心が高まっている。

荒井は、「M&Aの業界はエンジニアからすると荒野みたいな領域なんですよ」と指摘する。

荒井「IT化されていないし、具体的なM&Aの仕方とか、ググッても出てこない情報がものすごく多いんです。そんなまったく情報がオープンじゃないところで、これは正解かなと試行錯誤していく。M&Aの在り方を再構築している感覚を得られるのが、エンジニアとして面白いところです」

そんな荒井を及川は「テックレベルも高い上に、経営も任せられる貴重な人材」と評した。

「スタートアップのエンジニアレベルは1人目が基準になるから、1人目の採用には非常にこだわっていました。そうして1ヶ月半で100人のエンジニアに会う中、荒井だけが『必要ならテレアポするんで』って言ってくれたんですよ。スタートアップの事情を理解し、ここまで経営にコミットできるエンジニアは100人会った中でも荒井だけでした」

従業員と“フェアな関係”を築くため情報はオープンに

前川と及川という、シリアルアントレプレナー同士がタッグを組んだ「M&Aクラウド」。及川は、2社目だからこそ、事業を創る際のマーケットの見方にも変化があったと語る。

及川「才能や努力の量は変わらないのに他と差が開くのは、マーケットの差なんです。たとえ上場したとしても、伸びないマーケットだったら、その後10倍100倍と拡大していくのは難しい。中途半端に終わっちゃうんですよ」

金融の分野で起業することを決めたのも、「リアルビジネスでITを絡めて奪えそうな場所」で、なおかつマーケットも大きいと判断したからだ。

さらに将来は、売りたい会社の一次情報を自らが握ることで、自社で買収した方が良いと判断できる企業をいち早く見極め、M&Aを駆使して拡大していくといった事業の広がりも見込んでいる。

では、組織運営の点において、2社目だからこそ意識していることはあるのだろうか?

及川「前の会社は中間管理職が育っていなくて、私のトップダウンでずっとやっていたんです。経営に関する情報も私しか持っていなかった。今思うと、採用やマネジメントが下手だったんですね。会社が大きくなってからいきなりは難しいので、情報を全メンバーにオープンにする文化は立ち上げ初期から作っておかなければと思っていました。そして情報共有するからには、経営について相談できるような人材を厚く揃えておく。あとは従業員と経営陣でフェアな関係を築くことも重視しています。そうじゃないと、大事なメンバーほど外部のオポチュニティに魅力を感じ退職してしまうので」

そんな及川の発案で、「M&Aクラウド」では社員全員に株かストックオプション(SO)を付与している。そういったものとは切っても切れないM&Aを扱っている会社である以上当然という理由もあるが、もともと利益相反の関係にある従業員と経営者、株主の目線を揃えるため、という意味もある。

特に、ジョインする際に前職から年収が下がった社員に対しては、「SOを付与することで、数年間の減収と引き換えに『M&Aクラウド』に投資している」という考え方ができるよう、上場計画や適切なリターンの計算等もしっかり伝えるようにしている。

こういったことはすべて、及川の言う「フェアな関係」を築くために必要なことだ。

及川「やっぱり従業員が搾取されていると感じるような状況は嫌なんで、情報はオープンにしていきます。情報共有した上で、相手が理解できないんだったら、そもそもM&A業界やエクイティインセンティブに関わることに向いていないということ。ジョインする前に、そういったこともしっかり指摘して、ミスマッチを防いでいきたいと思っています」

“フェア”というのは、従業員を甘やかす言葉ではない。経営陣と対等な目線でいるためには、従業員側に要求されることも大きくなる。

これをスパルタと捉えるか、スリリングだと捉えるか。あなたはどちらのタイプのビジネスマンだろうか?

0→1創世記

あの注目のスタートアップは、どのようにして生まれ、いま何を目指しているのか──