EVENT REPORT

「“WHY”の深掘りが全てを決める」元Googleの“エバンジェリスト”が語る、聴き手の行動変容を促すプレゼンテーション

セールスの仕事は、自社のプロダクトを顧客に「プレゼンする」こと。顧客のペインを理解し、いかに魅力的に伝えるかを考える必要がある。しかし、セールストークをどのように準備したらいいかわからず、提案の中身を考え切れないひとも多いのではないだろうか。

そんなセールスの課題意識を解決すべく、FastGrow主催のイベント「【若手セールス必見】元Googleエバンジェリストが明かす、セールスプレゼンの本質」が開催された。登壇者の田中大介氏は、現在は株式会社メドレーで執行役員を務めているが、かつてGoogleの“エバンジェリスト”として年間100回以上のセールスプレゼンを経験した経歴を持つ。イベントでは、田中氏が培った「作法」が、惜しみなく還流された。

田中氏のプレゼンから学びを得ようと、成長意欲を持った若手セールスたちが集まったイベントの様子を、レポート形式でお送りする。

  • TEXT BY MONTARO HANZO
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登壇者

田中 大介 (たなか・だいすけ)

株式会社メドレー 執行役員

田中 大介

たなか・だいすけ

株式会社メドレー 執行役員

2008年東京大学経済学部経済学科卒業。国内金融機関を経て、2011年Googleに入社。法人向けクラウドサービスG suiteの「エバンジェリスト」として、年間100回以上の講演を行う。2016年より株式会社メドレーに参画。オンライン診療システムやクラウド型電子カルテなど医療機関向けのクラウドサービスを展開するCLINICS事業の事業責任者を務める。

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究極のプレゼンテーションは、たった一言で行動を変化させる

エバンジェリスト(Evangelist)とは本来、キリスト教における「伝道者」の意味を持つ。この言葉がIT業界で使われるようになったのは、1980年代のアメリカから。「サービスの利用を大衆に促すスペシャリスト」として、1対1の営業ではなく、講演会やセミナーに登壇して商品の魅力を伝える役職を指すようになった。

田中氏は、Googleの「伝道者」として日本中でセミナーや講演会に登壇した経験を持つ。法人向けのクラウドサービス『G Suite』を中心に、製品の魅力をプレゼンし続ける毎日だった。

株式会社メドレー 執行役員 田中大介氏

田中Googleに入社してからは、インサイドセールス、フィールドセールス、パートナーセールスなど、SaaS事業における営業系の仕事を一通り経験しました。様々な仕事に取り組むなかで、特に自分の適性を感じたのが「プレゼンテーション」です。講演会やセミナーに登壇するうちに少しずつ評価され、プレゼンテーションを専門とする「エバンジェリスト」として活動するようになりました。年間100回以上のセミナーに登壇し、多いときは1日に4回登壇することもありました。

エバンジェリストを「天職だと感じていた」と語る田中氏だが、中学校の同級生だったメドレー代表取締役社長・瀧口浩平氏からの力強い誘いを受け、同社にジョイン。現在では医療機関向けクラウドサービスの事業責任者を務めている。

関連記事:「未来志向と凡事徹底が医療の未来をつくる」──メドレー代表 瀧口浩平が語る改革思考

田中氏は、プレゼンテーションの目的は「ひとの行動を変えること」だと定義する。「見せ方」や「時間の長さ」は伝えるための手段に過ぎず、いかに人びとの行動変容を促すかに、プレゼンターの力量が表れるという。そして、究極のプレゼンテーションの例として、漫画『キングダム』の登場人物である王騎将軍を挙げる。

田中極論、プレゼンテーションは一言でも成り立ちます。王騎将軍の「全軍、前進」の一言で、兵士たちの士気が最高潮に達するシーンがあります。死への不安を抱える兵士達を、一瞬で「戦う」マインドセットへと切り替えさせてしまった王騎将軍のように、人びとの行動変容を促すことこそが「プレゼンテーション」なのです。

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商品紹介から始めてはいけない。聞き入るプレゼンテーションに通底する「法則」とは

いまでこそ独自のプレゼン手法を確立した田中氏。しかし、プレゼンテーションに取り組み始めた当初は用意した原稿を「ただ読むだけだった」ほど、人前で話すのは得意ではなかったという。田中氏がエバンジェリストとして開眼できた背景には、とある一本のプレゼンテーションがあった。

田中マーケティングコンサルタントのサイモン・シネック氏がTEDで行ったプレゼン「優れたリーダーはどうやって行動を促すか」。この動画は、ひとの行動を変えるためには、とある「順序」が肝要であることを紹介しているんです。

シネック氏は、ひとを動かす優れたリーダーには「WHY(なぜ)」「HOW(どうやって)」「WHAT(何を)」の伝える順序に秘密があると紹介している。

田中多くのひとは、商品を紹介するとき「これには〜〜な機能があり、〜〜することができる」と、「WHAT」や「HOW」を先に紹介しがち。しかし、機能を紹介しただけでは、ひとの心を動かせません。科学的にも実証されていますが、行動変容を促すためにはロジックに加え、直感的に「素晴らしい」と思わせるための工夫が必要なのです。

例えばAppleは、「私達は素晴らしいコンピューターをつくっています。ファッショナブルなデザイン、操作はシンプルでユーザーフレンドリー。おひとつどうですか?」というWHAT→HOWという伝え方ではなく、「私達は世界を変えられると信じています。そして常に既存とは異なる考え方をします。世界を変えるために、美しいデザインかつ機能性に優れた製品を世に送り出そうと努力するうちに、このような製品ができあがりました。おひとついかがでしょうか?」と、WHY→HOW→WHATの順番でのコミュニケーションをとっています。後者の方に、やはり心は動かされるのではないでしょうか?

多くのセールスにとって「WHY」を発信することは軽視されがち。しかし、「WHY」を徹底的に意識した伝え方をすることで、人々の行動を変えることができるのです。

田中氏は、優れたプレゼンテーションを行うためには自分のなかで「WHY」を固めることが「クオリティの95%を決める」ほど重要だと力説する。そして、確固たる「WHY」を語れるようになるためには、「商品を好きになる努力」を徹底的に行うことが重要だという。

田中例えばいま僕が、目の前にあるリモコンのプレゼンをするとしたら、スペックや利用シーンをリサーチして紹介するのではなく、まずは好きになるまで使い込むところから始めます。使い込む時間がなければ愛用者に話を聞きますし、なんとしても「好きになってやろう」と行動しますね。どんどん好きになろうとすると、良いところも見つかれば、悪いところも見えてきます。でも、好きになる努力を続けることで、その悪いところすらもなんだか愛嬌があるように思えてくるんです。そこまでしっかりと好きになることができれば必然的に「WHY」の深掘りにつながっていきます。

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5つの作法で「人間の本能に訴える」プレゼンテーションを実現する

自分の「WHY」が固まったところで、壇上ではどのように振る舞えばいいのか。イベントの後半では、田中氏がGoogleで培ってきたテクニックが披露された。まず共有されたのは、プレゼンテーションで知っておかなければならない「聞き手の特性」だ。

田中大前提として、「プレゼンテーションの聞き手」というものは非常に集中力がなく、そして忘れっぽいということを知っておきましょう。こうして話していると、熱心に頷いてくれる方もいるのですが、イベントが終わるとほとんどの内容が抜けてしまうんですよね(笑)。プレゼンテーションをする際は、そんな“集中力がなくて忘れっぽいひとたち”に対して「何をすればしっかりと自分の伝えたいことを伝えられるのか」を考えて臨みましょう。

そして、プレゼンの要諦を伝えるために大事な観点が2つあります。1つ目は、人間は「自分ごと」だと感じなければ、興味を持ってくれないこと。2つ目が、人間の「本能」を利用することです。

これらの観点を踏まえ、田中氏はプレゼンのポイントを、以下5つにあると指摘する。

  1. 動きを使う
  2. 同じフレーズを繰り返す
  3. あえて曖昧な指示語を使う
  4. 相手に問いかけて考えさせる
  5. 視線の配り方に気をつける

田中「動きを使う」は、人間の本能に訴えかける手法です。人間は動くものに目をやってしまう習性があるため、身振り手振りを加えることで、話に集中してもらえます。Steve Jobs(スティーブ・ジョブズ)もプレゼンの際には左右に歩いていますが、そこには明確なテクニックがあるんですね。また、パソコンの画面上でデモンストレーションをする際は、画面の拡大、縮小などをおりまぜることで、画面の中でもしっかり動きをつけることが肝要です。

田中「同じフレーズを何度も繰り返す」もまた、忘れやすい人間の本能を補完するためのポイントです。文字に起こしたら不自然なくらい同じフレーズを繰り返したとしても、プレゼンテーションにおいては意外と違和感がないので、伝えたいことはくどいくらい繰り返して大丈夫です。

人間は、突然文脈から逸脱した指示語を聞くと、つい注目してしまうという習性を持っているので、「あえて曖昧な指示語を使う」のも効果的。例えば、デモンストレーションをする際に突然「そんなときは、『これ』を使います」とスマートフォンを掲げてみる。そうすると聞き手は「え?『これ』って何だろう?」と思って視線をあげ、すこしキョロキョロした後に、僕の持っているスマートフォンに注目を集めます。聞き手はとにかく飽きっぽくて忘れやすいので、視線=注目をしっかりと意志を持ってコントロールすることが重要です。

田中「相手に問いかけて考えさせる」は、聞き手に「自分ごと化」させるためのテクニックですね。自分の言いたいことばかり話すのではなく、「〜〜したら、みなさんどうしますか?」と問いかけることで「このひとは自分に関係のある話をしているんだ」と思ってもらうことができます。

最後は「視線の配り方に気をつける」。プレゼンをする際、どこを見て話せばいいのか迷ってしまうひとは多いのではないかと思います。そんなときは会場を4分割し、それぞれの領域で一番頷いてくれるひとを「ペースメーカー」に見立てて、そのペースメーカーに向かって順番に話しかけていきましょう。そうするとそれぞれの領域に座っている聞き手から見ると、「このひとはきちんと自分達に視線を送りながら話してくれている」と錯覚するので、結果として会場の参加者全体に「自分に語りかけてくれている」と思わせられるのです。

講演の終盤、田中氏はテクニックをシェアしつつも、冒頭に話した「プロダクトを好きになる努力」こそがプレゼンテーションの良し悪しを決める大部分であることを強調。若手セールスマンたちに、「自分なりのWHYを見つけてほしい」とエールを送った。

田中自分自身、プレゼンテーションを通じて「伝え方」を深掘りしていくなかで、自分の内省にも繋がりました。「どうやったら売れるんだろう?」と目の前のHOWばかりを考えるのではなく、ぜひ「自分なりのWHY」を深掘りしてみてください。セールスだけでなく、自分のキャリアを切り開くためのヒントがあるはずです。

登壇者

田中 大介 (たなか・だいすけ)

株式会社メドレー 執行役員

田中 大介

たなか・だいすけ

株式会社メドレー 執行役員

2008年東京大学経済学部経済学科卒業。国内金融機関を経て、2011年Googleに入社。法人向けクラウドサービスG suiteの「エバンジェリスト」として、年間100回以上の講演を行う。2016年より株式会社メドレーに参画。オンライン診療システムやクラウド型電子カルテなど医療機関向けのクラウドサービスを展開するCLINICS事業の事業責任者を務める。

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執筆

姓は半蔵、名は門太郎。1998年、長野県佐久市生まれ。千葉大学文学部在学中(専攻は哲学)。ビジネスからキャリア、テクノロジーまでバクバク食べる雑食系ライター。

デスクチェック

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

こちらの記事は2019年06月24日に公開しており、記載されている情報が異なる場合がございます。