2人の経営者は何を思い、意思決定したのか。
Mimicry DesignとDONGURIが異例の「横断経営」に乗り出すまで

インタビュイー
安斎 勇樹
  • 株式会社ミミクリデザイン 代表取締役 

東京大学大学院 情報学環 特任助教。東京都出身。私立武蔵高校、東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。商品開発、人材育成、地域活性化などの産学連携プロジェクトに多数取り組みながら、多様なメンバーのコラボレーションを促進し、創造性を引き出すワークショップデザインとファシリテーションの方法論について研究している。主な著書に『ワークショップデザイン論-創ることで学ぶ』(共著・慶応義塾大学出版会)、『協創の場のデザイン-ワークショップで企業と地域が変わる』(藝術学舎)がある。

ミナベ トモミ
  • 株式会社DONGURI CEO 
  • 株式会社ミミクリデザイン COO 

早稲田大学第一文学部(現文化構想学部)卒。スタートアップベンチャーを中心に50社以上の組織構造設計や、事業立ち上げのコンサルティング、デザイン組織変革に従事。「両利き状態実現による、組織イノベーション」の実践に強みを持つ。

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「資本業務提携」はまだ耳にする。だが、「横断経営」はなかなか聞き慣れない。

2020年3月3日、Mimicry DesignとDONGURIは資本業務提携を結び、両社のトップが相互にボードメンバーに加わる横断経営を行うと発表した。Mimicry Design代表の安斎勇樹氏はDONGURIのCCO(Chief Cultivating Officer)に、DONGURI代表のミナベトモミ氏はMimicry DesignのCOO(Chief Operating Officer)に就任する。

共同創業者であっても、関係がうまくいかなくなることは珍しくない。別の会社として事業を営んできた2社が、横断経営という意思決定に至るまでにはどのようなプロセスがあったのだろうか。二人の出会いから提携までを結ぶ軽快なストーリーを、ここにひも解いてみたい。

  • TEXT BY TAKESHI NISHIYAMA
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
  • EDIT BY JUNYA MORI
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組織開発と組織デザイン、異なる強みを持った両者の出会い

「ワークショップが形骸化している」

2019年春、Mimicry Designを創業して3年目の安斎氏には、沸々とこみ上げてくるような悩みがあった。会社を経営しながら、東京大学大学院の情報学環の特任助教としてワークショップデザイン論を研究する彼は、“ワークショップ”という言葉が広く社会に認知されてきた現状を、素直に喜ぶことができなかった。

安斎「何のためにやるのか」「そのためにどんな手法を選ぶのか」などが何もデザインされないまま、ワークショップを取り入れている企業が多いと感じていました。

それに加え、デザインシンキングが方法論ばかり広まりすぎたことで、競争的に消費されるようになっていた。本質とはズレた認識でそれらが広まっているからか、現場でワークショップの意味が誤解されていることもある。

そんな状況に、当時は少々いらだっていました。

安斎氏は自社が主催するワークショップデザインのプログラム「WDA(WORKSHOP DESIGN ACADEMIA)」の講座で、デザインシンキングに対する問題提起を行った。その講座に参加していたのが、DONGURIのメンバーだった。

ミナベ僕が前々から安斎さんの存在を知っていたんですよね。

彼の著書『協創の場のデザイン―ワークショップで企業と地域が変わる』を読んで、「現場でほしかったのはこういう方法論だ!」と腹落ちしてから、WDAのことはずっと気になっていて。あるメンバーに薦めて、参加してもらっていました。

するとある日、WDAの講座に参加してきたそのメンバーが、よっぽど話された内容が刺さったのか、前のめり気味に「安斎さんをDONGURI社内に招いて勉強会をしたい!」と言ってきた。

これは実際に会ってご挨拶するいい機会だなと思って、ぜひ実施しようという運びになりました。

後日、DONGURIにてMimicry Designを招いた勉強会が開催され、そこで初めて二人は出会う。

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似ているけどどこか違う、だけど同じ美学

ミナベ氏が書籍に触れてすぐ好感を持ったのと同じく、安斎氏がDONGURIに興味を持つまでにも、それほど時間はかからなかった。

安斎初めてDONGURIさんのオフィスに伺った時のことは、今でもよく覚えていますね。社員はみんな「社長はTwitterをやってるだけですよ」なんて言うし、ミナベさん自身にもあまり威厳がない(笑)。

それでも社員たちは生き生きと働いていて、事業はしっかりと回っている。どうしたらこんなに組織が自走するんだろうと気になったんです。

当時のMimicry Designには、明確な課題があった。安斎氏がプレイヤーとして現場に立ち、売上を作らないと組織が成り立たちにくい。さらなる成長のためのヒントがDONGURIにあった。

安斎「DONGURIさんはどうして自走できる組織になっているのだろう」と気になって調べてみたら、ミナベさんの書いた組織づくりや採用についての記事がたくさん出てきて。

「あの組織は戦略的かつ緻密にデザインされているんだ!」と、感服したんです。

DONGURIに惹かれた安斎氏は、Mimicry Designのウェブサイトリニューアルを依頼した。ミナベ氏がこの案件の現場にタッチすることはなかったが、DONGURIからの提案は本質的かつ遊び心にあふれていて、安斎氏はシンパシーを感じたという。

近年では組織を生命体と捉える動きが増えている。全く同じ生命が存在しないように、組織もまた全く同じものは存在しない。そうなると、組織をコンサルティングしてもらう相手も相性があるはずだ。根底にある思想の近さを感じた安斎氏は、自社の組織コンサルティングをミナベ氏に依頼した。

ミナベ氏のコンサルティングのスタイルは、組織に入り込むスタイルだ。チームの一員として、組織や事業に並走する。Mimicry Designのメンバーと関わる機会が増え、Mimicry Designという会社に根ざしている考え方をつかんでいった。

ミナベ問題の捉え方や価値観のプライオリティは違うけど、本質的には同じことを言っているし、同じ地点を目指して走っているように感じたんですよね。

企業と企業が何かしらの形で一緒に活動しようとする際、目指す方向が重なっているというのは大切だ。ビジョンやミッションから会社の行動指針が決まり、行動の積み重ねが企業文化になる。目指すあり方が似ていると、カルチャーもフィットする可能性が高まる。

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2社の持つ強みを言語化しながら、関係を深める

組織や事業に外部から関わってきた2人の接点が増えてからは、仕事に関係なく議論する時間が増えていった。

ミナベ組織開発について、安斎さんはアカデミックのナレッジを豊富に持っていて、僕はベンチャー界隈の実証から得られたナレッジを持っていた。

それらを合わせてブラッシュアップしていったら、何か新しい方法論が生まれるんじゃないかって、ワクワクして。お互い半ば趣味として、日常的にディスカッションするようになっていきました。

というか、僕が楽しくなってきちゃって、オンオフ問わずやたら何かに誘うようになりました(笑)。

二人の議論はオンラインで絶えることはなかった。それでもなお言葉はあふれ出て、ごく自然な流れで、オフラインでも毎週のように会って話す間柄になっていった。ただ、互いを信頼する関係になるには時間を要したようだ。

衝動と好奇心に身を任せてアプローチをするミナベ氏に対して「まだ半分ほどしか心は開いてなかった」と、安斎氏は当時を振り返って笑う。

安斎正直まだ警戒してたし、あの頃はまだ、こんな風に一緒に会社をやるなんて思ってませんでしたよ(笑)。打ち解けたのはミナベさんに誘われて、一緒に北海道に行ったときでしたね。

2019年6月に開催された「北海道ブランディングサミット2019」に登壇するための出張。そこで“組織”をテーマに二人でセッションすることになった。登壇に向けて、お互いの手がけている事業の違いについての言語化を深めていくなかで、それぞれの強みが整理されたという。

安斎ごく簡潔に説明すると、組織開発は「組織における目に見えない人間の内面や関係性に着目しながら、ボトムアップ型の対話を通して課題解決をファシリテーションしていくスタンス」で組織にアプローチです。

一方で組織デザインは「組織の構造設計に着目し、分業と調整のメカニズムを用いて、適切な業務の割り振り、階層やコミュニケーションラインを整えていくスタンス」を採ります。

この2つのアプローチは一般的に“相容れない思考”として認識されがちです。けれども、ミナベさんとのディスカッションを通して「お互い組織を良くするためのアプローチなのだから、『組織開発か組織デザイン、どちらを選ぶか』などと二項対立にせず、相互に補い合えばいいんだ」と、あらためて思い直すようになりました。

登壇に向かう道中やイベント後も、延々と話をした。1時間の講演に出るだけなのに、なぜか2泊3日の行程を組んでいた。その間に仕事以外のことも、心赴くままに語り合った。

安斎組織の方法論だけじゃなくて、お互いの趣味嗜好のことも、ずいぶん喋りましたね。僕は“衝動”を大事にしているんですけど、ミナベさんは“内的動機”という言葉を大事にされていて、それらは根底で通じ合っていると感じました。

それと、この遠征中にミナベさんがほかの人と話す様子を観察してたら「この人は本当に表裏なく、ピュアな素直に衝動で喋ってるんだな」と感じられて。それに気付いたら、なんかこう、グッと信頼できるようになったんです。

ミナベ僕としてはとくに「将来、絶対に学校をつくりたい」という個人的な野望まで一致していたことが、嬉しかったですね。いろんな角度やレイヤーで対話をしたんですが、こんなに似ているというか、自分の根底にある美学や執着とマッチする人は、今までいませんでした。

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対話を重ねてたどり着いた資本業務提携

関係が近づき、互いの強みも整理された。2人が話す内容は、次第にDONGURIとMimicry Designのコラボレーションについてに移っていった。

安斎最初は「なんか一緒にできそうですね」と、軽く言い合っていただけでした。それが、相互理解を深めていくうちに役割のすみ分けができていって、いつの間にか「セールスのためにモデル化してみよう」とか、共同で事業をやる前提の話に自然と移っていってたんですよね。

ミナベ僕が適当な思いつきを投げると、少し時間を置いて、安斎さんからロジカルに整理された図が届いたりするんですよ。「やべえ面白いのが来た!」とテンションが上がって、僕も手描きで図を描いて、それを延々とリレーしてね。

そうしたやりとり繰り返しているうちに、僕は「絶対に一緒に事業をやったほうが面白い」と、半ば確信していました。

「一緒に事業をやるほうが自然だ」と思えるようになるまで、2人はじっくりと対話を重ねたという。2人の中で確信に近いものが生まれた後、両社のマネジメント層も巻き込んだ対話へと広がっていった。

資本業務提携は会社としては大きな意思決定だ。1年という短い期間でありながらも、社内のマネジメント層とも丁寧に対話を重ねながら自然とたどり着いた選択。ゆっくりと、それでも急ぐように両社は横断経営に向けた準備を進めていった。

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より強固な組織になるため、対話を繰り返す

2020年3月、両社は満を持して資本業務提携を公に発表した。個人の強い衝動、そしてプレイフルであることを大事にする両社のスタンス。代表たちの衝動的な探究心が実を結ぶ形となった業務提携だが、それぞれの会社のメンバーはこの事実をすぐに受け入れられたのだろうか。

ミナベDONGURIでは「変化し続ける組織の多様性をどう拡大していくか」という対話を頻繁にしていて。会社の組織が固定化されると、気づかぬ間に閉じたコミュニティになってしまう。それは絶対にダメだよね、という共通認識を持っていました。

「閉じないよう広げていくためには、ほかの会社や組織と何かしらのコミュニティを共有するのもアリだな」という考え自体は、前々から持っていたんです。ただ、「あの会社と一緒になったら面白くない?」とハマるところはなかなかなくて。

そこに、Mimicry Designさんが現れた。ほかのメンバーも勉強会や業務上でMimicry Designさんの感じを掴んでくれていて、みんなに「業務提携しようかなと思う」と伝えた時も、好意的な反応がほとんどでした。

僕個人としても「Mimicry DesignにDONGURIのメンバーがいてもまったく違和感がない」「超仲良くなりそう」としか思ってませんでしたね(笑)。

事業としての利害関係だけではなく、それを超えたところにある衝動や直感の部分で繋がってこそ、よりよい業務提携になり得る。DONGURI側では、こうした意思決定が早い段階で形成されていた。一方でMimicry Design側には、いささか苦労があったようだ。

安斎僕ら側はね、とはいえ不安はありましたよ(笑)。ミナベさんはコンサル業務の一環でMimicry Designに入り込んでもらっていたからいいけど、僕はDONGURIの方々がどんな感じなのか詳しく理解してないし、メンバーはなおさらです。

業務提携に頭では前向きに考えながらも「あんまりDONGURIさんのことよく知らないけど、大丈夫なのかな」と不安を覚えたメンバーも少なからずいたと思います。

それでも安斎氏に、提携の判断自体を迷う気持ちは一度も生まれなかった。

安斎Mimicry Designは当時3期目で、これから会社の風土や文化をつくっていこうというフェーズでした。合理的に考えたら、DONGURIさん側の組織の裏側の仕組みづくりを現場で学べるメリットは計り知れないし、何より直感が「組織としてのあり方が強固になる、絶対に面白くなる」と言っていた。

いざお互いの全スタッフを集めて顔合わせをしたら、こちらが思っている以上に打ち解けるのが早くて、安心しました。

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横断経営で目指す2社に共通するビジョン

DONGURIとMimicry Designは資本業務提携のリリースに合わせて、オフィスも代々木にあるビルに移転。そこでオフィスを共にしている。彼らは、違いや噛み合わなさも「面白さ」として受け止め、それを対話を通してすり合わせながら、新たな文化や方法論を生み出していこうとしている。

DONGURIとMimicry Designの業務提携は、代表二人の個人的な衝動が起点となって編み出されたものだ。正式に提携が始まった今、彼ら自身が誰よりも、これからの展開に胸を躍らせている。

ミナベ諸外国に比べて、日本は“研究”と“実践”の距離が離れています。高水準の研究と実践を取り入れて、イノベーションを一気に加速させていくことは、ここ数年、実験的にずっとやってみたかったことなんですよ。

Mimicry Designさんとの提携によって、それが実現できると思うと、今後の展開にワクワクしますね。

安斎一人ひとりがプチ研究者として“研究”と“実践”をミクロに回し続けられれば、強い研究的組織になっていけます。僕らは研究者肌で、どうしても理論に引っ張られすぎてしまう瞬間もあるので、DONGURIさんと一緒に並走できることは、とてもありがたいことだなと。

個人的な肌感ですが、この提携によってMimicry Designの成長は、5年分加速すると思っています。

ミナベ氏と安斎氏は、「個人で研究と実践を自走的に往復できれば、人生は豊かになる」と口を揃える。目先の効率に囚われ、既存のリソースの深化ばかりにかまけていては、人生だって消費的に先細りしていく。企業だろうと個人だろうと、同じことだ。

彼らはこれから、数多くの個人、組織の創造性を耕すことに注力していく。掘り起こされた土壌では新たなイノベーションの芽が育ち、やがてそれは社会に豊かな実りをもたらすことだろう。

効率性や収益性といった数字の追求ばかりに執着するのは、次世代に目を向けず、現状の実りを刈り尽くしてしまうことに他ならない。不毛の未来を拒絶するために、Mimicry DesignとDONGURIは今日もどこかで真摯に語りかけ、耕し、そして種を蒔いている。

こちらの記事は2020年04月22日に公開しており、
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執筆

西山 武志

story/writer。writerという分母でstoryを丁重に取り扱う生業です。「よい文章を綴る作業は、過去と未来をしっかりと結び合わせる仕事にほかならない」という井上ひさし氏の言葉を足がかりに、私は一つひとつ書き残すことで、歴史に参加していきます。

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藤田 慎一郎

編集

モリジュンヤ

1987年生まれ、岐阜県出身。大学卒業後、2011年よりフリーランスのライターとして活動。スタートアップやテクノロジー、R&D、新規事業開発などの取材執筆を行う傍ら、ベンチャーの情報発信に編集パートナーとして伴走。2015年に株式会社インクワイアを設立。スタートアップから大手企業まで数々の企業を編集の力で支援している。NPO法人soar副代表、IDENTITY共同創業者、FastGrow CCOなど。

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