INTERVIEW
石川 豊 高尾 壌司
18-01-17-Wed

トヨタなど自動車業界も注目する
“ロケーションデータビジネス”の可能性

TEXT BY MISA HARADA@HEW
PHOTO BY YUKI IKEDA

ロケーションデータ解析は、インバウンドビジネスだけのものではない。

ナイトレイ代表取締役の石川豊はそのようなビジョンを描いている。

訪日外国人解析サービス「inbound insight(インバウンドインサイト)」を提供する同社だが、
ロケーションデータ解析とは、インバウンド以外にもあらゆる可能性を秘めた事業と指摘。

ナイトレイのリードインベスターであるニッセイ・キャピタルの高尾壌司も交えて、
ロケーションデータ解析ビジネスの未来について語り合った。

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創業時、ロケーションデータ領域にイノベーションはまだ起きていなかった

まずは、お2人のキャリアを教えてください。

石川新卒でネットエイジに入社して4年ほど働きました。元々起業したいという想いよりも、テクノロジーを使って社会にインパクトが出せる、意味のあるチャレンジがしたいと幼少期から思っていました。

だからネットエイジのような新しいものがどんどん立ち上がっている場所に行けば将来役に立つかな、と思ったのが入社のきっかけです。

株式会社ナイトレイ 代表取締役 石川 豊氏

石川起業って怖くなかったですか?って聞かれることもあるのですが、当時からFringe81創業者の田中さんや富士山マガジンサービス創業者の西野さんなど社内外で起業している先輩が非常に多く、ネットエイジ卒業生にとって自分で会社を興すのが普通な状態。そのため私自身も、結果的に27歳のときにナイトレイを起業しました。

最初はスマホシフトの波にのって何かしたいな、程度にしか考えておらず新サービスのモックを作り続ける日々。このままでは社会にインパクトなんて出せないなと気づいたとき、じゃあ自分にとって思い入れのある領域で事業を始めることが大事だと考えたところ、もともと地図帳を見るのが大好きだと思い出しました。

そこで、ロケーション領域においてイノベーティブなサービスはまだまだ少ないんじゃないかとひらめき、移動データや滞在データからタイムリーな消費者動向を探るシステムを作ろうと決めたのが、ナイトレイがロケーションデータ解析に取り組み始めたきっかけです。

ロケーション領域で行こう、と決めたときには結果的に(ネットエイジ創業者の)西川さんからもエンジェル出資していただきました。

高尾私は新卒で証券会社に入社して、4、5年目くらいで、米サンフランシスコで、ベンチャー企業のビジネスモデルの調査などを行うことになりました。

その中でベンチャービジネスの可能性を感じて、ファイナンスという自分のバックグラウンドを活かす形でベンチャー企業に貢献する方法を模索した結果、ニッセイ・キャピタルに転職しました。

石川さんとはナイトレイに関わっていた共通の知人を通じて知り合ったんですが、彼の地図好きは本物です(笑)。彼から『空から日本を見てみよう』という番組がすごく面白いと勧められたんですが、私は全然ピンとこなくて。今まで石川さんと話した中で一番刺さらなかった話題かもしれません。

ニッセイ・キャピタル株式会社 ベンチャーキャピタリスト 高尾 壌司氏

石川あの番組は私が人生で一番好きな番組です(笑)

高尾でも私は幅広くいろんな人に会っている分、薄く広い情報を持っている人にもたくさん会いますが、これだけ1つの領域を突き詰められている人にはものすごく魅力を感じますよね。

石川さんも起業家として、ロケーションに対して突き詰めたものを持っている方で、かつその自分が誰にも負けないこだわりをもっている領域でチャレンジしようとしていることにも共感を覚えました。

ナイトレイは、訪日外国人の位置・移動情報に特化したロケーションデータ解析サービス「inbound insight」を提供しています。どんなことが把握できるのでしょうか?

石川これまで把握することが難しかった位置情報に基づく行動傾向や嗜好性まで解析できるサービスになっています。例えば“日本人がアピールしている観光地の魅力”と“訪日外国人が魅力に思うこと”のギャップが把握できたりするんです。

鎌倉とか湘南での観光となると、意外にも長谷寺はタイ人にすごく人気なんです。なぜかというと、多くのタイ人は仏教徒のため、外国旅行においても『その国の有名なお寺にひとつは行っておきたい』という気持ちを持っているからです。

東京観光のついでに行けるお寺ということで、長谷寺が観光スポットとして注目されています。こういうことは、長期間にわたり膨大なデータを解析しないと見えにくい事実です。

高尾ナイトレイに出資すべきだと感じた大きな理由のひとつが、その「inbound insight」なんです。ロケーション×インバウンドという大変時流に乗ったサービスで、ニーズは高いと感じました。

inbound insight 訪日外国人観光行動分析ツール

高尾インバウンド需要対策はしたいけれど、何から手を付けていいかわからないというのが観光業界の実情です。

そこに対して、『タイ人は実はこういうものを求めています』とデータによって道筋を示せる。大量のロケーションデータを保有している企業は数あれど、そのデータから読み解ける意味を見出し、企業活動に説得力を持たせられることの意義を感じました。

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人々の行動の起点は“ロケーション”

高尾ただ、インバウンドだけでなくロケーションサービスというもの自体にも大きな可能性を感じたので、私としては、ナイトレイが“インバウンドの会社”という認識で終わるのも残念なんですよ。

ロケーションデータ解析サービスという領域そのものが大きな可能性を秘めている、と。

高尾すべての行動の起点は、ロケーションだと思うんです。私自身も新しい土地に行ったら、Googleマップで観光名所を探しますし、ラーメン好きなので、『高田馬場 ラーメン』とか『品川 ラーメン』とか、土地の名前で検索したりする。ロケーションというのは、何か行動の指針になります。

高尾だけどGoogleマップを開いて、人気レストランを検索して、そのあとグルメアプリで評価を調べて、というような流れは結構面倒くさい。

最近流行りの音声アシスタントは性質上どんな質問をしても1つか2つの回答しか返してくれないらしいのですが、その数個の回答の精度をあげるためにも、ロケーションってすごい大事な情報になりますよね。

もっとシンプルに答えを与えてくれるサービスがユーザーから求められている現代において、あらゆるサービスにとって位置情報との連携は必要なのではないでしょうか。

ロケーションデータ解析によって、具体的にどのようなビジネスが可能になるとお考えですか?

高尾まずはロケーション広告ですよね。

純粋にユーザーと物理的に近い距離にある店舗に広告を出してもらう“リアルターゲティング広告”、そしてユーザーの移動ルートを予測して、その先にある店舗に広告を出してもらう“行動予測配信”、さらに、アパレルショップや薬局、レストランなど、ある物理的な店舗で商品を買った人は、次にこういう購買行動を起こす可能性が高いと予測した上でのオンラインでのECサイト送客。

すこし想像するだけでこれだけアップサイドが見込めるテーマがあります。

石川ただ単に大量のデータを集めるだけでなく、ビッグデータが持つ意味を理解して初めて、そこにビジネスとして成立させられそうなプラスアルファの要素を載せていくことができる。

ロケーションデータっていうのは、“上に載せられるもの”の可能性がすごく広い領域なんです。

確かにトヨタ自動車やドコモ・インサイトマーケテイング、KDDI、ナビタイムジャパンなど、幅広い企業と協業していますね。

石川たとえばトヨタさんだったら車の移動データ、ドコモさんだったら携帯電話のログデータなど、ロケーション情報は各企業に少しずつ蓄積されていても、その解釈のノウハウなどがなく、あまり活用しきれていない現状があります。

私たちがそういったデータを解釈して、新しいソリューションを作っていきたいんです。

高尾ロケーションデータ解析って、ここ数年で、やっとインフラが整ってきた状況です。

皆がスマホを持っていて、位置情報を開示して、『ここに行ったよ』と報告することにそれほど抵抗感がなくなっている。UberだってAirBnBだって、ロケーションベースのサービスですよね。

これからロケーションというものがサービスと切り離せない世の中になっていくと確信していますし、そういう意味では市場規模はすごく大きい。

ユーザーの潜在的なニーズがある一方、データの解析・加工の仕方に悩んでいる企業もいる。ナイトレイにとって追い風が吹いているのを感じていますし、Foursquare以降、爆発的に流行したロケーションサービスがまだ生まれていない中、石川さんほどのこだわりをもっている人であればそれに続くサービスを生み出せると思っています。

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データだけ保有していても、突然ノウハウをひらめくことは絶対にない

市場が大きければ競合も増えていきます。その競争の中でナイトレイの強みはどこにあるのでしょうか?

石川私たちは、創業初期からロケーションをキーワードにして、データを蓄積してきました。そのデータたちが意味を持ってきたなというのは、最近強く感じることです。

何かやりたくても手元にデータがないという企業に対して、ナイトレイはデータそのものに加えて、データを解析する手法やノウハウも提供できます。解析手法に関しては特許を取得しているものもあるほどです。

創業以来、技術力が高いだけの集団になるだけでは社会にとって意味が無いと考えていたため、データからどのようなインサイトが得られ、顧客はどのような課題を解決できるのか、というノウハウの蓄積にはこだわってきています。

高尾ナイトレイは、日本人だけでも1~2億件のデータを解析していて、さらに150万のPOI(ポイント・オブ・インタレスト、施設情報のこと)を持っています。4年間くらいかけて地道に作り上げたデータベース、そして解析ノウハウが彼らの強みだと思っています。

石川突然ノウハウをひらめくことは絶対にないと思っているんです。いろんな苦労を経ないと、今私たちが持っているのと同じものは持てません。

だからこそ、大手企業も『ナイトレイしか出来ない領域のようだし、タッグを組んだほうが早そうだ』と判断して協業を選んでくださっているんだと自負しています。

ナイトレイは2017年2月に総額1.3億円の資金調達を実施しました。なぜニッセイ・キャピタルをリードインベスターに選ばれたのでしょうか?

石川高尾さんのやる気や私たちへの共感に惹かれたところが大きいですね。資金調達の目的も、これまで蒔いた種が実り始めている今、競合にスピードで負けたくないという考えがあってのこと。

でも、事業が跳ねる予兆や実績はありつつも、今後どう伸ばしていくべきか模索中という段階が今のナイトレイです。だからこそ腹を割って一緒に戦略を考えてくれる投資家に出資していただきたかった。

お金出したからからさようなら、というスタンスではなく、本気になって会社の未来を一緒に作ってくれそうだと最も感じたのが高尾さんでした。今でも毎週1度は顔を合わせてミーティングをしてくれるところは、非常に頼りがいがあります。

高尾私としてもニッセイ・キャピタル全体としても、リードインベスターになるからには出資先にコミットしようという空気はもちろんあります。特にシード期やまだ売上もビジネスも盤石ではないベンチャーに投資をするキャピタリストは、投資してからが本番です。

投資先をバリューアップできるように、自分の力を発揮していかねばということを心に刻んでいます。

最後に石川さんから、今後のナイトレイの展望を教えてください。

石川『ナイトレイは確かにたくさんのデータを持っているけど、それ以上の価値はよくわからない』と思われるような状態は嫌なんです。

私たちはデータを蓄積・解析した上で、世の中に新しいソリューションを提供することまで手掛けていきたい。人の移動だけでなく、コネクティッドカーやIoTも浸透していく今の社会においては、モノの移動までも把握できるようになっていきます。

自社で集めたデータに加えて、様々な企業と連携もしていきながら、移動情報、滞在情報を人々にとって有益な情報に変換していける企業にナイトレイは進化していきます。

ロケーションデータという基盤をさらに広げつつ、その基盤の上に乗せるサービスまで自分たちで生み出し、これからもロケーション領域のリーディングカンパニーとしてチャレンジを続けていきます。

[撮影]池田 有輝

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