ミッションドリブンな組織は、アウトプットより“結果”を重視する──「初心者向け」であるProgateの開発組織に、ハイレベルなエンジニアが集う理由

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「ミッションドリブンな組織」はいかにして実現できるのだろうか。

オンラインプログラミング学習サービス『Progate』を運営するProgateでSREマネジャーを務めるエンジニア・前田和樹氏は「真にミッションドリブンな組織は、“アウトプットの量”を追求しない」と語る。

2020年8月、リクルートを辞めてProgateにジョインした前田氏。同社からスカウトを受け取ったときは「正直そこまで惹かれなかった」が、面談開始10分でイメージを覆され、入社を決めたという。

前田氏の心を揺さぶった、「ミッションドリブン」を体現した開発組織とは?「初心者向け」ゆえにハイレベルな技術が求められる、Progateのエンジニア環境に迫る。

  • TEXT BY ICHIMOTO MAI
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
  • EDIT BY MASAKI KOIKE
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未経験エンジニアに立ちはだかる壁は、“勉強すべき知識や技術の量”だけではない

前田氏は大学院で物理学を専攻し、卒業後はメーカーのR&D部門で働くことを目指していた。しかし、教授推薦で内定した総合電機メーカーで配属されたのは、想定外の技術法務部門だった。

前田法務の仕事にもやりがいはありましたが、「モノを企画し、作って、売る」プロセスに直接携わりたい想いが、どうしても拭い切れませんでした。しかも、法務部が別の会社に切り離されることになり、ものづくりに携わる道が完全に閉ざされてしまいそうになって。入社から1年ほどで、R&D職に就くために転職活動をはじめました。

メーカーに手当たり次第、履歴書を送りました。しかし、残念ながら、未経験の自分を受け入れてくれる会社はなかったんです。

研究開発職へと転身するハードルは、想像以上に高かった。応募した企業からの連絡は途絶え、焦る前田氏。そんな矢先、一通のスカウトが届いた──未経験者枠でエンジニアを募集中の、リクルートからだった。

前田もともと物理学を研究していたので、ITエンジニアになりたいと考えたことはありませんでしたが、「ものづくりに携われるなら、その選択もありかも」と思いました。コンピューターサイエンスの知識は全くなかったのですが、面接で「それでも問題ない」と言ってもらえたので、不安な気持ちもありませんでしたね。

株式会社Progate SREマネージャー 前田和樹氏

しかし、入社後すぐに、前田氏は厳しい現実に直面することになる。

前田エンジニア未経験者枠で入社した同期たちと、横一線でスタートするものだと思い込んでいました。でも、蓋を開けてみると、ITコンサル、IT企業の営業、サポートエンジニアなど、IT業界の出身者ばかり。最初のテストで「サーバーとは何か」すらわからなかったのは、僕だけでした。

人事の社員にも「君は本当に頑張らないとまずいよ」と言われてしまい、研修の2ヶ月間は必死で勉強しましたね。家に帰っても、研修の夢を見てしまうくらい(笑)。

死に物狂いの努力の結果、前田氏は誰よりも早く最終課題を完成させ、2ヶ月の研修をトップの成績で終えた。負けず嫌いの性格が幸いしたのだという。

ところが、現場に配属されると、チームメンバーの話している内容が全く理解できない。「研修で学んだ知識は、実務で必要な知識のごく一部だった」と知り、ここでも必死に勉強し、積極的に提案して動くことを心がけた。この姿勢が評価され、入社から1年後には部内のMVPを獲得。2年目にはマネジメント業務も任されるようになった。

リーダーとして最初に担当したチームには、パートナー企業のベテランエンジニアが多く所属していたという。自身より圧倒的に経験豊富なメンバーを前に、最初はどう振る舞えば良いかわからなかったものの、本を読んだり、マネジャーの背中から学んだりする中で、試行錯誤しながらマネジメントを学んでいった。

こうして、技術とマネジメントの両輪でキャリアを重ねてきた前田氏。未経験エンジニアとしてキャリアアップする苦労について、こう振り返る。

前田身につけるべき知識や技術の量の多さだけでなく、「そもそも何を勉強すべきなのか」というメタ知識を得る機会がないことが、大きな壁として立ちはだかっていました。

プログラミングの知識全体がどのように体系立っているのか、自分はその中から何を学ぶ必要があるのか、手当たり次第に勉強しながら知っていくしかなかったんです。しかも、技術の進化スピードは速く、ネット上の情報は玉石混淆。常に暗中模索の状態でしたね。

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面談開始の10分後、「最初はそこまで惹かれなかった」印象が逆転

リクルートで活躍しはじめた前田氏だが、入社3年目頃からは次のステップを模索するようになる。

前田リクルートに不満があったわけではないのですが、「30代の10年間で熱中できる仕事はなんだろう?」と悩むようになって。気になる会社があれば面談したり、副業で参画したりするようになりました。結果、4年間で10社ほどのスタートアップと関わりを持ちましたね。

4年前に子どもが生まれてからは、教育ドメインへの関心が高まり、主に教育系スタートアップの情報を収集するようになっていた。そんな前田氏のもとに、Progateからのスカウトが届く。ちょうどコロナ禍が本格化し始めた頃だった。

前田スカウトをもらった時点では、正直そこまで惹かれなかったんです。「初歩的な内容を教えるプログラミング教育サービス」程度にしか思っていなくて。でも、自分が興味を持っている教育ドメインの会社ではありましたし、リモートワーク中心の生活になって少し時間に余裕もできたので、一応話を聞いてみることにしました。

面談で話した相手は、以前FastGrowでも成長戦略を語ってもらった、取締役COOの宮林卓也氏。開始10分で、Progateに対するイメージが覆ったという。

前田宮林は「Progateがやりたいのは、プログラマーを量産することではなく、人生の幅が広がる経験をしてもらうことなんだ」と言いました。その言葉を聞いて、「自分のやりたいことと親和性がすごく高いのではないか?」と思いました。

僕はずっと、次の世代を担う子供たちが、学力を高めるだけでなく、未来を切り拓く力を身につけられるサービスを生み出したいと考えていた。その想いを話すと、宮林は深く共感してくれました。僕と同じくらいの年齢の子どもがいることも、近いものを感じてくれたのかもしれません。僕が何かを話すと、その10倍のボリュームと熱量で返答してくれました。日頃から会社のミッションについて考え抜いているからこそ、ここまで熱い言葉が出てくるのだなと感じました。

また、社会的意義の大きさも魅力に感じました。Progateはインドに現地法人を設立しています。インドではエンジニアの需要が高く、プログラミングを学ぶことで、カースト制に支配された社会階級から一歩抜け出す力を得ることができる。宮林がそう語るのを聞き、この事業が提供する社会的価値は高いなと思いました。

面談を終え、改めてProgateのコーポレートサイトに目を通した前田氏。そこにはProgateがプログラミングを通じて実現したい世界が、「ミッション」として熱い言葉で綴られていた。

「プログラミングは人生に新しい武器、選択肢を与えてくれる。まずはたくさんの人に、創る楽しみを知ってもらおう。もっと創れるようになりたいと思ってもらえたら、自走できるところまで導いてあげよう。私たちは創れる人を、生み出します」

前田氏の理想とする教育のかたちと、非常に近い考えだった。前田氏の心は、一気に入社へと突き動かされていった。

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初心者向けサービスだからこそ、高い技術レベルが求められる

さらに、Progateで使われている技術を知ると、前田氏の入社モチベーションはさらに高まった。「初心者向けプログラミング教育サービス」のイメージとは裏腹に、かなりレベルの高い技術が使われていたという。

前田あの可愛げなUIからは、想像もつかないほど難しい技術を使っていたんです。Progateの大きな特徴は、ユーザーがプログラミング環境を一切構築する必要がない点です。環境構築のためには、適切なライブラリを調べてインストールする必要がありますが、初心者にとっては、とにかくこれが大変で。環境構築に特化したセミナーもあるくらいです。

Progateは、「環境構築でつまずいて、プログラミングの楽しさを知る段階にたどり着けない」という事態を引き起こさないよう、ユーザーが書いたコードの実行やターミナル操作の結果が返ってくる一連の流れが、ブラウザ上だけで体験できる仕組みを構築しています。これを実現するためには、かなり難しい技術が求められる。

まず、ユーザー専用のコードを実行するコンテナをサーバー側に構築。コンテナとブラウザとの間で「WebSocket」という双方向通信を実現する規格を用いることによって、あたかもサーバーに入って実際に作業をしているような、インタラクティブな操作感を実現しているんです。

さらに、迷っていたらヒントを提示したり、許可されていない操作をしたら誤っていることを伝えたりするために、実行環境ごとにユーザーの行動を限定しています。この仕組みを、各コースに最適化した環境で提供するのは、非常に手間がかかる。ユーザーを挫折させないために、ここまでこだわった環境を提供しているプログラミング教育サービスは、自分の知る限り他にはありません。

入社後、技術レベルの高さは想定通りだったという。2020年12月現在、Progateの利用者数は約180万人。前田氏によると、「このサービス規模で、アプリ版もブラウザ版も展開していることを踏まえると、大企業ならエンジニアを40人アサインしてもおかしくない」。しかしProgateでは、15人足らずでこのサービスを開発している。個々のエンジニアの技術レベルの高さを、端的に表しているといえるだろう。

また、ミッションの達成を最優先に掲げ、新しい技術を貪欲に取り入れている点にも好感を持った。

前田例えば最近、開発者として成長するためのロードマップサービスをリリースしました。そこでは比較的新しい技術であるGatsby.js+GraphQLを選定したり、インフラをTerraform+Chefを用いて完全にコード化したり、といった取り組みを実施しています。

「初心者向けだから、雑に作ってもバレないよね」といった空気は一切なく、むしろ初心者向けだからこそ、徹底して体験の質にこだわっているんです。

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ミッションドリブンな組織は「アウトプットの量」を追求しない

ミッションドリブンなカルチャーは、技術レベルのみならず、開発組織の体制にも現れている。Progateの開発部門は、開発したシステムに責任を持つエンジニアチームと、「挫折させないための仕組み」の構築に責任を持つコンテンツチームに分かれている。後者を独立させることで、ユーザーに提供する価値が疎かにされることなく、高い品質を保てているのだという。

前田一つのチームで開発を進めると、システムの整合性を優先してサービスを作ってしまいがちです。しかしProgateでは、コンテンツチームと議論しながら開発を進めるので、エンジニアは「何のためにコンテンツをつくるのか」、もっと言うと「会社は何のために存在しているのか」を、日々意識せざるを得なくなります。

前田氏はその中で、「現場のエンジニアが雑念なくサービス開発に集中できる環境をつくることで貢献したい」と話す。

前田自分はエンジニアではすが、技術を極めることにこだわっているわけではありません。自分が価値を出した結果、プロジェクトが前に進むならそれでいい。技術を追究することも、人と働くことも、どちらも好きなんです。

ミッションドリブンな組織には、そうではない組織にはない「ある特徴」があると前田氏。

前田ミッションドリブンではない会社は、「アウトプットの量」を追い求めがちです。その結果、機能のリリース自体が目的化してしまうことも珍しくありません。

一方で、ミッションドリブンな会社は、「アウトカム」を追求します。アウトカムとは、リリースした機能によって「ユーザーにどれだけの価値を与えたか」を測る指標。

もしProgateがミッションドリブンではない組織だったら、とにかくコースを量産する方向に走るでしょう。しかし、そうはなっていない。ユーザーの声を聞き、改修を繰り返すことで、コースの質をひたすらに高めている。こうした行動を取れているのは、「アウトカム」にフォーカスしているからだと思います。

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グローバル展開が「夢」ではなく「現実」に進んでいる

Progateは、ミッション実現のために二つの戦略を描いている。一つは、「Gate(入り口)」から「Path(道筋)」へ。初心者だけではなく、エンジニアを目指す全ての人に価値を提供することを目的とした、新規事業の立ち上げ。もう一つは“創れる人”を全世界に生み出すこと。つまり、グローバル展開だ。

海外進出の展望を持つスタートアップは少なくないが、Progateほど実行に移せているケースは稀だろう。すでにインドとインドネシアに現地法人を設立しており、シリーズAラウンドのスタートアップとしては異例だ。

前田Progateは、プログラミング教育サービスの分野でアジアNo.1を目指しています。すでにビジネスサイドには海外進出に知見のあるメンバーが集まりはじめている。グローバル展開に向けて、これほど確度高く歩みを進めているスタートアップは珍しいのではないでしょうか。

IPOに向けた準備も進みつつある。ミッション達成へと着実に近づく中で、Progateはどんなエンジニアを求めているのか? 前田氏は「個人的な考えですが」と前置きした上で、次のように語った。

前田Progateが目指している世界観に共感してくれる人、かつ長期でコミットしてくれる人ですね。僕たちは数年で到達するような未来ではなく、10年以上のスパンで到達したい未来を描いていますから。ミッションに共感できる人であれば、海外市場展開やIPOなど難易度の高い課題に挑戦しながら、楽しく働いてもらえると思います。

二児の父でもある前田氏。これからの世界を担う若い世代が、自走する力を身につけられるように──Progateのミッションに貢献する決意をした前田氏の目は、まっすぐと未来を見据えていた。

こちらの記事は2020年12月11日に公開しており、
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執筆

一本 麻衣

フリーライター。1987年生まれ。東京都在住。一橋大学社会学部卒業後、メガバンク、総合PR会社などを経て2019年3月よりフリーランス。関心はビジネス全般、キャリア、ジェンダー、多様性、生きづらさ、サステナビリティなど。

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藤田 慎一郎

編集

小池 真幸

編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。『CAIXA』副編集長、『FastGrow』編集パートナー、グロービス・キャピタル・パートナーズ編集パートナーなど。 関心領域:イノベーション論、メディア論、情報社会論、アカデミズム論、政治思想、社会思想などを行き来。

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