特別連載挑戦者と共創するインフラとなり1000の大義ある事業と大志ある事業家の創出を目指す

なぜ“新規事業コンサル“では、事業家が育たないのか?── イノベーション創出を支援するRelicがつくる、新規事業だけに向き合える環境

インタビュイー
大丸 徹也

慶應義塾大学卒業後、フューチャーアーキテクトにてITコンサルティングやシステム開発のPMを多数経験。その後、DeNAに入社し、主にEC事業領域での新規事業や大手小売業とのオープンイノベーションによる新規事業の運営責任者を歴任。2015年に独立し、大手出版社や大手IT/通信事業者、EC事業者やスタートアップへのコンサルティングやハンズオンでの経営支援など幅広く活動。2016年に株式会社Relicに参画し、取締役COOに就任。主に大企業を中心としたクライアントやパートナー企業の新規事業開発やオープンイノベーションの支援、組織・人事制度の改革やインキュベーションプログラムの設計等において多数の実績を持つ。インキュベーション事業本部長を歴任した後、全社横断でステークホルダーとの接点や関係性を強化するミッションを担い、2023年より、現職。

倉田 丈寛

リクルートにて幅広い法人営業に従事。その後、経営コンサルティングファームにて売上1,000億以上の大手製造業及びIT企業を中心にマーケティング/営業戦略の立案から実行支援や、ECやBtoBマーケティングにおける戦略立案〜実行や、MA・SFAツールの導入までを支援。Relicに参画後は、クライアントやパートナー企業の新規事業や、Relicのインキュベーションテック事業の成長・拡大を担うグロース責任者として短期間での急成長を実現。2022年1月からRelicの取締役CGO。

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いつかは自ら事業を立ち上げ、グロースさせたい──しかし、そう簡単にその目標は達成できない。ともすれば「事業を生み出せるのは特別な力を持っている人だけだ」と諦めてしまっている読者もいるかもしれない。

「新規事業立ち上げを担えるのは、一部の極めて優秀な人だけ」という考えに、一石を投じる企業がある。新規事業開発・イノベーション創出支援に取り組むRelicだ。FastGrowでも以前、ビジョン・ドリブンでイノベーション創出を追求し続けるゼブラ型経営、「事業を創る人を、創る」唯一無二の組織ができあがるまでの歩みを取り上げたが、同社では「ビジネス経験が浅いメンバーでも1年あれば、事業開発の一定領域を任せられるようになる」という。

本記事では同社でインキュベーション事業本部長を務める大丸徹也氏と、グロースマネジメント事業本部長を務める倉田丈寛氏にインタビューを実施。同社が取り組む事業と、「事業開発で挫折した経験がある」両氏のキャリアを紐解き、事業を生み出し成長させる事業家の育成方法に関する示唆を求めた。事業家になるには、大企業ではリスクが大きすぎ、スタートアップでは機会が少なすぎる──そんな発言に込められた真意とは。

  • TEXT BY RYOTARO WASHIO
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
  • EDIT BY MASAKI KOIKE
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新規事業開発プロセスの0→1から1→10までカバー

まずは、Relicの他に類を見ない事業の全体像を紐解いていこう。最大の特徴は、新規事業の立ち上げを一気通貫してサポートする点だ。「新規事業アイデアをカタチにし、ターゲット顧客に実際に届け、想定通りの反響が得られたのか、得られなかったとしたらどこに課題と改善ポイントがあるのかを確認するところまで伴走する点を評価してもらっている」と大丸氏。

大丸新規事業立ち上げ支援サービスを展開している企業でも、事業のアイデアを生み出すことから、実際に売上を立てるところまで伴走する企業は多くありません。事業のアイデアを出して「マーケティングや営業、システム開発や保守運用のパートは、他の支援会社を紹介するので、そちらと進めてください」という企業もあるんですよ。

事業のコンセプトデザインから、実際にサービスとして収益を生み出すところまで伴走できることがRelicの特徴であり、強みだと思っています。

Relicのビジネスサイドを担う事業部は大きく2つ。インキュベーション事業本部と、グロースマネジメント事業本部である。それぞれの事業本部の役割を簡単に説明するならば「前者が0→1を、後者が1→10を担っている」ということになる。

0→1

インキュベーション事業本部
ストラテジックイノベーション事業部
(事業を生み出すための仕組みづくり)
ビジネスディベロップメント事業部
(仕組みを使った事業づくり)

1→10

グロースマネジメント事業本部
アクセラレーション事業部
(対クライアントやパートナー企業の新規事業)
プラットフォーム事業部
(対インキュベーションテック事業)

しかし、その説明だけでは実態は掴みにくいだろう。具体的に何を行っているのかを、それぞれの事業本部トップに語ってもらった。

株式会社Relic インキュベーション事業本部長 大丸徹也氏

大丸私が責任者を務めるインキュベーション事業本部は、クライアント / パートナー企業の新規事業立ち上げにおける0→1と、社内の新規事業立ち上げの0→1、双方を担当しています。

クライアント / パートナー企業の新規事業立ち上げにおいては「そもそもどういったゴールを設定するのか」「ゴールを達成するためにどんなアプローチを取るのか」など、最上流からサポート。方向性が定まった後は、事業のアイデアを出したり、クライアント / パートナー企業が持っているアイデアの良し悪しを見定めたりしています。

その後、事業の仮説検証に入っていくわけですが、クライアント / パートナー企業によっては仮説検証の準備~実施手法が分からないことも少なくないため、チームに入り込んでハンズオンで支援をしています。

社内の新規事業立ち上げにおいても、事業のコンセプトづくりなどの0→1を担っています。エンジニアと共にサービスのプロトタイプをつくり、事業としてうまくいくかどうかの成否を見極め、初期顧客の獲得や事業グロースを推進します。

インキュベーション事業本部は、2つの事業部で構成されている。新規事業を生むための仕組みづくりをミッションにしているのが、ストラテジックイノベーション事業部だ。

新規事業を生むための仕組みとは、「企業が新規事業に取り組む目的や意義、前提条件を踏まえて、リクルートさんの事業提案制度『Ring』のような社内新規事業プログラムや、社外のベンチャー / スタートアップとの協業を前提としたオープンイノベーションプログラムを含め、トップダウンやM&A等の幅広いアプローチの中から最適なオプションを選定し、適切なポートフォリオを組むこと」と大丸氏。事業の種をクライアント / パートナー企業社内から生み出すための仕組みの設計から、事務局運営をはじめとした実務面まで請け負っているという。

もう一つの事業部が、ビジネスディベロップメント事業部である。この事業部が担うのは「事業を生み出すこと」。新規事業のテーマやビジョン・ミッションに沿って、事業のアイデアを創出し、仮説検証を通して事業性を見極め、事業立ち上げを実現する。

また、オープンイノベーション事業における0→1も、インキュベーション事業本部が担っている。オープンイノベーション事業とは、クライアント / パートナー企業との共同事業開発やJV立ち上げ、スタートアップ/ベンチャー投資や経営支援などを通じて、新規事業やイノベーションを共創するものだ。

この事業で最近特に引き合いが多いのが「代理出産」の支援。さまざまな規則や制約事項があるため、スピード感をもって事業を生み出し、仮説検証を進められない企業(主に大企業)の代わりに、Relicが「Relicの事業として」新規事業をローンチし、運営。成長軌道に乗せたのち、クライアント / パートナー企業に戻し、正式にクライアント / パートナー企業の新規事業として世の中にリリースするといったモデルだ。

これまで複数の大企業に対して試験的に提供してきたが、クライアント / パートナー企業からの評価や事業成果の面からも有効なアプローチであると確認できたため、これまでの知見を体系化し、インキュベーションパートナー・プラットフォーム「DUALii(デュアリー)」として正式に提供を開始した。

「オープンイノベーション事業」「自社の新規事業」、そしてクライアント / パートナー企業の事業開発をサポートする「事業プロデュース」における0→1を担うのが、大丸氏率いるインキュベーション事業本部なのだ。

一方、3つの事業にまたがって1→10を担うのが、グロースマネジメント事業本部である。同組織を率いる倉田氏は、業務内容をこう説明する。

株式会社Relic グロースマネジメント事業本部長 倉田丈寛氏

倉田グロースマネジメント事業本部の中には2つの事業部が存在します。一つがプラットフォーム事業部。もう一つが、アクセラレーション事業部です。

プラットフォーム事業部では、新規事業が生まれる仕組みや技術を組織に実装することを目的として、新規事業開発やイノベーション創出において、日本企業が直面する課題を解決するための独自のプラットフォームやプロダクト・サービスを課題や事業フェーズに合わせて展開しています。

国内シェアNo.1の導入実績を誇る、国内初のSaaS型イノベーションマネジメントプラットフォーム『Throttle』やクラウドファンディング構築フラットフォーム『ENjiNE』など、Relicのインキュベーションテック事業の成長・拡大をさせることがプラットフォーム事業部のミッションです。

アクセラレーション事業部のミッションは、主に事業構想フェーズ以降の「事業創出・事業化フェーズ(1→10)」「成長・拡大フェーズ(10→100)」における課題解決をすることです。

たとえば、「事業プランを実行する上での指針となるKPIが適切に設計・設定されていない」「適切なKPIが設計できていたとしても、それらを正しく計測・可視化して事業リーダーやプロジェクトメンバーが把握することができる状態になっていない」「KPIを改善・向上させるための仮説や検証するためのアプローチを検討したり、それを適切に実施したりするためのノウハウやリソースが無い」 など、 事業性の検証や事業成長・拡大に向けたナレッジや体制が不足しており、新規事業を開発する過程でβ版やPoCのための実証実験までは至るものの、その先の展開である事業化や事業成長へと繋げられていないクライアント / パートナー企業の新規事業の売上や流通、顧客のLTVなどの各種KPIの最大化などもお手伝いしています。

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コンサルタントではなく“事業プロデューサー”

新規事業を立ち上げ、新たな収益の柱としたいと考えている企業は少なくないが、その目論見は簡単には当たらない。これまで数々のクライアント / パートナー企業と共に事業を生み出し、成長に導いてきた二人は、その理由をこう見ている。

大丸「何から手を付ければいいのか分からない」状態で闇雲に走り始めた結果、暗礁に乗り上げてしまうんです。たとえば、社長から「3年で10億円の売上を生む事業を生み出せ」という号令がかかり、新規事業開発プロジェクトを進めてきた企業があるとしますよね。

プロジェクトの1年目に始めた事業案は仮説検証を進めているものの、雲行きが怪しいのでいよいよプロダクトを見直さなければならない。とはいえ、他に良い新規アイデアが生まれているわけではない、どうしよう……こうして八方塞がりの状態になってしまうことは、よくあります。

倉田新規事業の立ち上げフェーズを例にとった場合、初期市場とメインストリーム市場ではユーザーの購買におけるプライオリティが異なる中、市場ニーズの把握が不十分なままプロダクト開発を行ったり、事業フェーズや顧客に合わせた事業検証やスピーディなプロダクトの開発・改善が出来ていないことが、よくある失敗パターンの一つです。

立派なプロダクトをつくったものの、マーケットにフィットせずコストを無駄にしてしまう例は少なくありません。大事なことは最初から優れたプロダクトをつくることではなく、事業性を検証するためのテストマーケティングやテストセールスをスピーディーに、そして高いレベルで実行すること。

変化の早い市場や顧客のニーズに対応するために小さくスタートして、ユーザーの声を聞きながら、プロダクトをブラッシュアップするエグゼキューション力の高い組織を作れるかどうかが、新規事業の成功の鍵を握っていると思っています。

優れたアイデアを生み出せても、そのアイデアをブラッシュアップする知見がなければ、新規事業は前に進まない。優れたエグゼキューション能力を備えている組織でも、事業の種さえ生み出せなければ高い実行能力は役に立たない。コンセプトづくりから、テストマーケティングなどの事業立ち上げフェーズまで、あらゆる知見が求められる総合格闘技が新規事業開発なのだ。

Relicが一気通貫したサポート提供にこだわる理由はここにある。クライアント / パートナー企業の新規事業を成功に導くためには、事業開発の全工程に関するノウハウと一貫した戦略が求められるのだ。

大丸一般に、新規事業開発コンサルというと、アドバイスをするだけで実行フェーズには関わらないというイメージを持たれると思います。でも私たちは、コンサルではなく「事業プロデューサー」として、実行フェーズまで徹底して伴走しています。やるべきことをどれだけ正しくやりきれるかが重要なためです。

インキュベーション事業本部のメンバーも、ターゲット企業に対してテストセールスの提案書を持ち歩いて、新規事業アイデアの提案をしていることもあります。実態は想像よりもかなり泥臭い。そもそも、Relicではコンサルタントという肩書きは用いません。コンサルタントではなく“事業プロデューサー”として、さまざまな企業と事業を共創したり、Relicの自社事業を立ち上げたりしているんです。

新規事業の0→1、そして1→10から10→100フェーズを一貫してサポートするRelicだが、行うのはあくまでも「新規事業の立ち上げ」だ。つまり、立ち上げた事業が「新規」ではなくなれば、そのプロジェクトからは手を引く。“引き渡し”のトリガーは「クライアント / パートナー企業だけで事業を運用・拡大できるようになること」。事業を立ち上げ、運用の仕組みを構築し、クライアント / パートナー企業の“自立”を見届けて、Relicのミッションは終了となる。

大丸「我々に保守運用まで任せてもらえないか」とは言いません。私たちは、私たちにしかできないことをやり続けるべきだと考えています。事業が運用・拡大フェーズに無事に進めば、「また新たな事業を立ち上げるときはお声掛けください」とクライアント / パートナー企業にお任せし、次のプロジェクトに移っていきます。

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原点は、新規事業担当者として味わった挫折

事業本部長としてRelicを牽引する両氏だが、入社前までに築いてきたキャリアは事業開発の成功体験で彩られていたわけではなかった。むしろ、両氏に共通するのは、事業づくりに挫折した経験があることだ。2人はいかにしてRelicに辿り着き、新規事業のスペシャリストとしての道を歩み始めたのだろう。その足跡にも、新たなビジネスをつくる事業家を生み出ための示唆が隠されている。

大丸氏が新卒で入社したのは、ITコンサルティングファームであるフューチャーアーキテクトだった。同社において、システムのグランドデザインから要件定義、設計、開発、テスト、リリース後の保守運用まで「システムに関することは一通り経験した」という。

「ITプロダクトの基盤となるシステム構造や構築手法を学べたことはとても貴重な経験だった」と振り返るが、次第に最終消費者に価値を直接届ける事業会社への転職を志すように。そうして大丸氏が次のステージに選んだのが、ディー・エヌ・エーだった。

大丸氏が入社した2012年当時、ソーシャルゲームが一大トレンドとなっていた。多くの転職者がソーシャルゲームを担当する事業部への配属を希望していたそうだが、「ソーシャルゲームというドメインでキャリアを重ねていくイメージが持てなかった」という大丸氏が選んだのはEC領域だった。ここで大丸氏は初めて新規事業立ち上げを経験することになる。

大丸ネットスーパーやドラッグストアとのオープンイノベーションプロジェクトのリーダーを任せてもらうことになったんです。当時は医薬品のオンライン販売が開始されるタイミングでした。さまざまな法規制をクリアし、事業として成り立たせることに挑んでいて、私にとってはとてもチャレンジングで、貴重な経験をさせてもらったと思っています。

しかし、初めての新規事業立ち上げはポジティブな側面ばかりではなかった。事業計画書すら書いたことがありませんでしたし、これまで培ってきたシステム開発スキルだけでは事業開発に通用しなかった。おまけに執行役員からの「3年で100億円の売上を目指せ」というプレッシャーがあり、初めて仕事がつらいと感じました。家族にも「ちょっと最近しんどい」と漏らしてしまうくらい追い込まれていましたね。

初めての事業開発で感じたのは、その困難さと、事業を生み出す者の孤独だったという。強いプレッシャーを受けながら、事業に関するすべての意思決定をし、会社の経営者、チームのエンジニアやデザイナー、パートナー、エンドユーザーとコミュニケーションしながら事業立ち上げを主導するが、相談する機会は少ない。

さまざまな葛藤を抱えながら新規事業を推進して1年が経った頃の出会ったのが、ディー・エヌ・エーで数々の新規事業を立ち上げていた、のちにRelicを創業する北嶋貴朗氏だった。自身で複数の事業リーダーを担当しながら、医療品ECサービスのマーケティング担当のヘルプとしてチームに加わった北嶋氏のパフォーマンスは際立っていたと回顧する。

リーダーを務めていた大丸氏だったが、事業運営に関する豊富な知見を持っていた北嶋氏にアドバイスを求めるうちに、「自分がトップに立つことは難しい」と悟ったという。しかし、同時に「トップは無理でも、孤独なトップを支える存在にはなれるのではないか」とも考えていた大丸氏は、北嶋氏が独立し、Relicを立ち上げると聞いた際には「迷わずRelicに飛び込むことを決めた」そうだ。

大丸ディー・エヌ・エーで新規事業リーダーを務めて、事業立ち上げのおもしろさや尊さ、そのやりがいを強く感じると同時に、リーダーシップを発揮しきれなかったという後悔を感じていたんです。

世の中には私と同じく、事業を立ち上げるべくもがいているリーダーたちがたくさんいる。そのリーダーたちを勇気づけ、前進するお手伝いをすることは、とても価値があることだと感じました。その原体験がジョインの決め手ですね。

Relicにジョインして企業の新規事業立ち上げをサポートする立場となった大丸氏だが、その歩みの中にも数多くのつまずきがあった。最初は法人営業だったという。フューチャーアーキテクトではITコンサルタント、DeNAではプロジェクトマネージャーだった大丸氏は、Relicに入社するまで法人営業の経験がなかったのだ。

初めて手掛けた案件は、BtoBの新規事業開発を進めるものだったそうだが「初めてのテストセールスでは緊張による汗で提案書がめくれなくなってしまった」と気恥ずかしそうに振り返った。とにかくすべてが未経験のことだった。

大丸テストセールス活動もそうですし、提案自体も経験したことのないものだったんです。北嶋は新規事業の提案を、事業やプロダクトのコンセプトを示した提案書だけでゴリゴリと進めていくのですが、まだソースコードが一行も無い状態でクライアント / パートナー企業に提案をするという発想なんてなかったのです。

これまでに積み重ねた知識やノウハウをアンラーニングすることは簡単なことではない。しかし、不慣れな「一行もソースコードが無い状態での提案」を繰り返すうち、この提案手法が間違っていないことを確信したと回顧する。

大丸多額の資金を投じ、新たなプロダクトをつくろうとしていた企業がいました。どのようなプロダクトにすべきか相談したいという依頼内容だったのですが、想定顧客へのヒアリングを通じて、ニーズを引き出すうち、クライアント / パートナー企業が想定していたプロダクトの一部の機能だけで初期顧客の顕在ニーズを満たせるのではと考えたんです。

早速そのアイデアを提案書に反映し直しました。もちろん、ソースコードは一行も書いていません。その状態でターゲット企業に改めて提案を繰り返したところ「顧客が求めているものはこれだ」と確信に至った。

最終的には当初想定していたコストをかなり抑えた上で、顕在ニーズを満たす初期プロダクトを開発し、そこで生み出した顧客接点に対して潜在ニーズを満たす本格プロダクトを提供するという事業戦略に昇華させることができました。その後、当該事業は当初想定していた以上の収益を生み出す事業として中核事業に成長しています。

Relicに入社して早いタイミングで、こうした経験ができたことはとても大きかったですね。新規事業立ち上げの勘所を掴めた感覚がありましたし、私たちのやり方が正しいのだと確信した瞬間でした。

その後、顧客やビジネスモデルもさまざまな新規事業開発プロジェクトを主導しましたが「とにかく高速に仮説検証を繰り返す」という基本を徹底することこそが、成功確率を高める肝であると確信しています。

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起業の夢敗れるも、
事業づくりへの未練が断ち切れなかった

一方、倉田氏がファーストキャリアとして選んだのはリクルートだった。実家が団子屋を営んでおり、幼少期から「商売=営業」という行為は身近なものだったという倉田氏は、大学時代から起業を志すようになったという。実績を積むために選んだのが、高い営業力によって事業を成長させてきたリクルートだったというわけだ。

リクルートで法人営業を経験した後、26歳の頃に独立を果たす。セールスマーケティング支援事業や、太陽光発電の比較サイト、終活関連のポータルサイトなどメディア事業などさまざまな事業を展開していたそうだが、事業は思うように成長しなかった。特に組織運営に大きな課題を抱え、結果的には道半ばで事業を譲渡せざるを得なかったそうだ。

その後、コンサルティングファームなどで経験を積んだ後、Relicにジョインすることになるが、その理由は「事業開発への未練」だと明かす。

倉田起業し、事業をつくる喜びややりがいが忘れられなかったんです。もちろん、つらいこともたくさんあったのですが、やはり事業をつくる経験はとてもエキサイティングで、魅力的なものでした。

事業譲渡した後も、いずれは必ず再チャレンジしたいと思っていたのですが、なかなか一歩が踏み出せず、もどかしい日々を過ごしていました。そんなとき、知人が北嶋を紹介してくれたんです。

そして、Relicの事業内容を聞き「ここならまた事業づくりにチャレンジできるのではないか」と。やり切れなかった事業づくりにもう一度チャレンジするために、Relicにジョインすることを決めたんです。自分にとっては、運命的な出会いでしたね。

かつて感じた事業づくりの興奮を取り戻すために飛び込んだRelicには、望んでいた通りの環境があった。いわゆるコンサルティングファームでは、これほどのやりがいは感じられなかっただろうと語る。

倉田自社事業の存在は大きいですね。自社事業として複数の新規事業の立ち上げや成長といった目標にコミットして、経営者や事業責任者としての当事者意識やオーナーシップを持って強力にチームをマネジメントしながら事業を推進していくのと同様に、クライアントやパートナー企業の新規事業立ち上げ支援も当事者として取り組んでいます。

コンサルタントや支援者を名乗る人の多くは、「新規事業開発の責任者やリーダーとしての実務経験に乏しく、事業や人を実際に動かすことの難しさを知らないことが多いのが実情です。自社事業が存在しているからこそ、外部からの視点だけ気づけない、現場にしか見えない苦労を理解することができます。

たとえば、『Throttle』は現在1,500社に導入されており、イノベーションマネジメントプラットフォーム領域では国内シェアNo.1のプロダクトなのですが、私が入社した2018年4月時点ではこのプロダクトは存在すらしていなかった。『Throttle』の前身である『ignition』というサービスが数十社に導入されているのみだったんです。

『Throttle』をリリースしたのは、2019年8月。今でこそ、イノベーションマネジメントプラットフォーム市場はそれなりの規模になってきましたが、『Throttle』をリリースした当時は国内にマーケットがあるとは言えないような状況でした。ですから、リリース直後はとにかく大変でしたね。

SaaSの形態によって、取るべき戦略オプションは変わってくるが、属人的な営業を介さずとも、デジタルマーケティング施策やプロダクトの価値により、導入社数や有償化獲得数を伸ばしていく戦略が一般的だ。しかし、「ある程度、短期的な事業成長を求められる中、それができるのはニーズが顕在化し、市場が一定の規模になっている領域のサービスのみだ」と倉田氏。

クラウドが一般的ではなかった時代に、セールスによる地道なユーザーの啓蒙活動により顧客獲得をしてきたセールスフォース・ドットコムのように、「イノベーションマネジメントプラットフォーム」が企業に何をもたらし、どんな課題を解決するのか、についての認識すら浸透していない段階においては、より直接的にニーズを喚起していく地道な啓蒙活動の必要があった。

倉田イノベーションマネジメントプラットフォームという概念自体をメディアで発信しつつ、アウトバウンドセールス部隊をつくり、特定のターゲット企業に対してフリーミアム利用を目的としたアウトバウンドアプローチを中心に実施する。

その後、一定のプロダクト認知を獲得した上で、トップダウンセールスと組み合わせエンタープライズ顧客を獲得していく。そして、エンタープライズ顧客への導入事例を発信し、さらに市場全体を啓蒙していくというサイクルをつくりました。

並行してプロダクトのアップデートも頻繁に行い、プランのバリエーションを増やし、SMB市場にも展開し、一気に導入/利用社数を獲得していきました。その過程でのリソース配分が非常に難しく苦悩も多かったですが、市場すら存在していない状態から市場をつくり、プロダクトを成長させる過程には大きなやりがいがありましたし、とても貴重な経験ができたと思っています。

『Throttle』立ち上げの過程で得たものは、やりがいだけではない。

倉田ビジネスパーソンとして大きく成長できましたね。私は起業した際に事業をゼロから立ち上げた経験ありましたが、キャリアとしてはセールス・マーケティング領域が中心だったので、『Throttle』に携わるまで事業戦略段階から一貫性を持ったサービス・プロダクトの開発に携わる経験が浅かった。

しかし、『Throttle』立ち上げの過程で事業戦略や事業企画、プロダクト開発からグロースまで一気通貫した経験やスキルを身に付けることができたんです。そして当然、『Throttle』立ち上げ経験だけでなく、対クライアントやパートナー企業の新規事業のグロース支援や、『Throttle』以外の自社SaaS事業にも携わってきたので、短期間にビジネスパーソンとしての幅が大きく広がったと思っています。

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大企業ではリスクが大きすぎる、
スタートアップでは機会が少なすぎる

大丸、倉田両氏はコンサルティングファームと事業会社を経てRelicにジョインしている点で共通しているが、メンバーのバックグラウンドは多様だという。「ビジネスの領域を問わず、大小さまざまな規模の会社からの転職者が在籍している」と話す。そんなメンバーたちの共通点は「将来、自分自身で何かしらの事業を立ち上げたいと考えていること」だ。起業家、事業家志向のビジネスパーソンが、事業づくりの経験を求めてRelicに集っている。

大丸Relicに来るのは「将来何か事業を立ち上げたいが、まだどのテーマにするか決まっていない人」が多いと思います。たとえば教育だったり、MaaSだったり、特定の領域で事業開発がしたいと思っているのであれば、専業でその領域にコミットしている企業に行ったほうがいいと思います。

でも、どの領域で起業するか、あるいは事業づくりに取り組むかは簡単に決められるものではありません。まずは幅広い領域で事業立ち上げ経験を積み、「ここだ」という領域を見つけたとき、一気にアクセルを踏める状態になっておきたいと考えているメンバーが多いように思いますね。

Relicが、将来自ら事業をおこしたいと考えるビジネスパーソンたちを惹きつける理由は2点ある。一つは「新規事業しかやらないこと」。もう一つは「新規事業に関することならば何でもできること」だ。

大丸これまでお話してきたように、Relicでは新規事業しかやりません。そして、新規事業であればどんな業界・業種のビジネスでもサポートしています。

また、アサインメントが柔軟な点も魅力だと思います。たとえば、あるプロジェクトで0→1を担当していたが、引き続きその事業の1→10にチャレンジしたいと思えば、いくらでもチャレンジすることができる。これは自社事業においても同様です。あらゆる業界・業種の新規事業の、あらゆるフェーズに挑むことができる環境があるといえます。

倉田職域も限定されません。たとえば、グロースマネジメント事業本部に属しているプラットフォーム事業部では、いわゆる「The Model」的な分業制を取り入れていないので、営業担当もマーケティング担当もいません。

職種を分けず、事業をグロースさせるために必要なことをすべてのメンバーが担当できるようにしています。言い換えれば、事業をつくる過程の、ありとあらゆる機能を担える可能性があるということです。

加えて、あらゆる事業形態やビジネスモデル毎に事業を構造的にグロースさせる仕組みそのものを構築する過程を、繰り返し経験できることも大きいと思います。

特定の職域の経験を積むだけならば、どんな企業でもできる。しかし、多くの場合、すでに出来上がった仕組みの上で如何に効率的に業務こなすかという働き方になりますよね。仕組み自体を改善するミッションが与えられる場合もありますが、ゼロから仕組みを構築する経験はなかなかできるものではないと思っています。

事業家としてのキャリアを志向するとき、選択肢の一つとして、メガベンチャーなど資金力がある企業で事業開発経験を積むことが思い浮かぶだろう。メガベンチャーでの事業開発経験を持つ大丸氏は「確かに有効な選択肢の一つだ」と認めつつ、あるリスクを指摘する。

大丸Relicでもメガベンチャーやいわゆる大企業の支援をする機会は多くあります。事業のゴールが「社会のインフラを変えること」だったり、売上目標が数百億円だったりと、取り組む事業のスケールや予算は大きい。資金力のある会社で事業開発経験を積むことは、事業家を志すビジネスパーソンにとって大きな財産となるでしょう。

しかし、大きな会社に入ると、念願の事業開発に携わるまでにかなりの時間を要してしまうケースがある。また、中途で新規事業開発部門に入ったとしても、ジョブローテーションで次の年には別の部署にいる可能性だってあるわけです。

先程も申し上げたように、Relicは大企業の支援をすることも多い。そして、Relicのメンバーは「新規事業しかしない」わけです。つまり、配属リスクや異動リスクを負わずに、何度でもスケールの大きな事業づくりにチャレンジできる環境があります。

スタートアップで事業立ち上げ経験を積むことも、事業家にとって一般的な選択肢の一つだ。実際、「事業をつくれるようになりたい」と、Relicに応募してくる採用候補者の中には「Relicかスタートアップと迷っている」という方も少なくないという。しかし、「事業をつくる経験」にフォーカスするのであれば、スタートアップの環境はRelicと比較すると、やや見劣りする。

なぜならば、スタートアップにおいては「繰り返し新規事業を立ち上げること」は難しいからだ。一般的にスタートアップは一つのサービスやプロダクトを立ち上げたのち、その事業を最速でグロースさせ、イグジットを目指す。

最初の事業を成長軌道に乗せるまでには、一定の時間を要する。言うまでもなく、新たな事業を立ち上げるためには投資が必要だ。しかし、資金的な余裕がなければ投資はできない。つまり、スタートアップにおいて「連続的に」新規事業を立ち上げることは、実質的には困難なのだ。

新規事業立ち上げに関する業務だけを「繰り返し」経験できるRelicの環境は、事業家を目指すビジネスパーソンにとって理想的なものだといえるのではないだろうか。

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「“新規事業”に惹かれて入社したら、部分的にしか関われなかった」にはならない

理想とする組織のあり方を聞くと、大丸氏は「特殊部隊のようなチームを目指したい」と応じた。

大丸私はミリタリーが好きなのですが、軍隊の中でも特殊部隊は陸海空どこでも戦える組織なんです。構成するすべてのメンバーが狙撃もできれば、徒手空拳も得意だし、偵察もできるようなチーム。

事業開発は少人数で取り組む場合が多く、それぞれのメンバーが担う業務範囲が広い。特定領域のスペシャリストばかりを揃えてもワークしないんですよね。

一人ひとりが幅広い業務を高い水準で遂行しなければならないという点において、特殊部隊のあり方に近いと思っています。新規事業に関することなら何でもできるメンバーが揃う、「新規事業の特殊部隊」をつくり上げたいです。

新規事業開発というと、秀でた能力を持った一部のビジネスパーソンが担う業務だというイメージを持つ読者も少なくないだろう。しかし、両氏は「新規事業開発を率いる人材として最低限必要な志向と資質を持っている前提であれば、然るべき学習をし、経験を積むことで、事業を生み出せるようになる」という。

大丸Relicでは新卒社員も採用しています。入社から3週間はみっちりと実践型の研修を受けてもらい、現場に出たあとはOJTでマネジャーがしっかりとサポートすることで成長を促してきました。加えて、最近はナレッジの形式知化に注力しています。

ニーズを確認するためのヒアリング方法から、事業アイデアの生み出し方まで、これまで積み重ねてきたノウハウを体系的にまとめ、組織知に変えるための取り組みを推進しているんです。

倉田私自身の中に今でも強く根付いている言葉として、リクルートの旧・社訓に「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」という言葉があるのですが、どの会社、どの職種でも、言われたことを言われた通りに実行するだけでは若手は伸びませんよね。大事なことは自ら考え、自ら実行すること。

ビジネス経験の浅い若手たちに、いきなり「新規事業の戦略を立てろ」とは言いません。一方で、事業開発においても若手にも任せられる業務はたくさんあるんです。まずは、若手が活躍できる職務を定義して、とにかく任せ、自ら考えて行動してもらう。具体的にいうと、テストセールスやテストマーケティングなどの事業検証のフェーズは、若手が活躍する余地は大いにあると思っています。

事業検証の方法を理解できれば、より上流部分を任せることができる。まずは特定の領域など限定的に検証のサイクルを3回ほど回せば、次のステップに移行できると思っています。1サイクルが3ヶ月程度とした場合、新人でも1年弱で新規事業の検討フェーズを担当できるようになるんです。

ただし、「どんな人でもいい」わけではない。事業家へのキャリアを歩むにあたって、最初から特別なスキルは必要ないというが「スタンスやメンタリティーの部分で向き不向きはある」と大丸氏。特に大切になるスタンスは「逆境や変化を楽しめること」だ。

大丸自らが立てた仮説通りに事が進むことはほとんどありません。仮説が間違っていたときに、簡単に心が折れてしまう人はあまり向いていないと思いますね。

「間違っていたね。じゃあ、次はこうしてみよう」とすぐに切り替えて、建設的な議論をし、前向きに自らのアクションを変えられる人でないと事業づくりに取り組み続けるのは難しいでしょうね。

倉田新規事業の立ち上げなどにおいて高い目標に挑み、失敗した経験がある人は、ぜひRelicでもう一度チャレンジしてほしいと思います。

これまでお話してきたように、新規事業はせっかく策定した戦略も、それが高いレベルで実行されて継続的に成果を創出できる状態が実現できなければ、何の意味もありません。新規事業開発は、泥臭い仕事が多い。そういったことをすでに理解していて、それでもまたチャレンジしたいと考えている人であれば、いつか必ず新規事業を成功させられると思っています。

最後に、「いつか新規事業を手掛けたい」と考えているビジネスパーソンたちへのアドバイスを伺った。事業を生み出すスキルを手に入れ、事業家としてのキャリアを歩むために必要となるのは「とにかく実際に自分の手を動かしてやってみること」だという。

大丸新規事業開発に関するセミナーや体験型ワークショップは多く見かけます。もちろん基礎知識をインプットすること、クイックに試してみることは大前提として重要ですが、実際に事業を構想し、初期プロダクトを開発し、お客様に使ってみてもらってお金をいただくという一連のサイクルを通して得られる経験こそが、事業家への第一歩になると考えています。一部のパートのみではなく、すべてのパートを連続的に行ったり来たりする経験、ということですね。

企画を立て、役員の稟議を通す、予算を取ってくる、プロダクトを企画し、エンジニアやデザイナーと開発を進める、プロモーションではどの施策にどれだけのコストを投じるか考える、広告を出稿して効果測定してみる。これらのことを誰かにやってもらうのではなく、自らの手でやることが何よりも重要なんです。「とにかく自分で手を動かしてみる」。これに尽きると思いますね。

倉田同感です。やはり一番早いのは、とにかくたくさんの事業立ち上げを経験することだと思いますね。起業するのは分かりやすい選択肢の一つですが、短期間に何度も事業を立ち上げられるわけではありません。複数の事業開発に携わりたいと思うのであれば、私たちのように自社事業を複数展開したり、新規事業開発を支援している会社や環境に入るしかないでしょう。

新規事業の支援をしたり、新規事業開発領域でソリューションやプロダクトを展開している会社に入社したものの、部分的な提供しか出来なかったということは少なくありません。

Relicは、社内でイノベーションを生み出すための「土壌の整備や文化の醸成」から戦略の立案、そして実務面でのサポートや必要になるテクノロジーやリソースの提供まで新規事業開発のすべてを担っており、何度だって新規事業開発やの立ち上げに挑めるという点において、事業立ち上げの経験が積みたいと思っている人にとっては魅力的な環境になっていると思います。興味のある人はぜひ一度話を聞きに来てもらいたいですね。

こちらの記事は2021年07月15日に公開しており、
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執筆

鷲尾 諒太郎

1990年生、富山県出身。早稲田大学文化構想学部卒。新卒で株式会社リクルートジョブズに入社し、新卒採用などを担当。株式会社Loco Partnersを経て、フリーランスとして独立。複数の企業の採用支援などを行いながら、ライター・編集者としても活動。興味範囲は音楽や映画などのカルチャーや思想・哲学など。趣味ははしご酒と銭湯巡り。

写真

藤田 慎一郎

編集

小池 真幸

編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。『CAIXA』副編集長、『FastGrow』編集パートナー、グロービス・キャピタル・パートナーズ編集パートナーなど。 関心領域:イノベーション論、メディア論、情報社会論、アカデミズム論、政治思想、社会思想などを行き来。

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