意志あるリーダーを支える「右腕」というキャリア。
ガイアックスの“無茶ぶり文化”は、最強のNo.2を育てる
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頼れる「右腕」の存在は、スタートアップの成否を分ける。業務のオペレーションを整理し、予算を立て、メンバーとの折衝も厭わず、経営者のビジョンを形にする。経営者が安心して背中を預けられるメンバーの存在は、成功の大きな要因になっているはずだ。
では、「右腕」はいかなる環境で育つのだろうか?起業家については適性や成長プロセスが語られることも多い。だが、「右腕」はまだまだベールに包まれている。この先、日本のスタートアップシーンが盛り上がるためには、そのベールを剥がしていかなければいけない。
本記事では、優秀な「右腕」が育ったというガイアックスに、育成に必要な条件を訊いた。
- TEXT BY MONTARO HANZO
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
- EDIT BY MASAKI KOIKE
ガイアックスを代表する「右腕」の仕事ぶり
野口無茶な依頼ほど燃えてしまう『ドM』な性格なんです。だから、カオスな環境は大歓迎。自分の代わりに社会を変えてくれる人に寄り添い、奔走するのが好きなんですよね。きっと、一緒に仕事をする人に対する『母性』が人一倍強いんだと思います。
ガイアックスの社員でありながら、同社の出資先であるアドレスでも働く野口佳絵氏は、自らの仕事を振り返ってそう語る。同氏が対処してきた無茶ぶりには、例えば以下のようなものが挙げられる。
定款の作り方すら誰も知らないなかで、「1ヶ月でやって」と一般社団法人の設立を頼まれる。
社長が急に「行きたい!」と言い出した海外遠征の予算取り。
Nagatacho GRiD(ガイアックス本社ビル)の事業部長への引き継ぎなしの任命。
一つひとつの無茶ぶりだけでも、怒り出すか、絶望してしまいそうな内容だ。だが、野口氏は自身が経験してきた無茶ぶりを、まるで楽しい思い出話をするかのように語る。そのあまりの献身ぶりに、同社の中には彼女を「ガイアックスの母性」と呼ぶ者もいるという。
野口氏は現在、アドレスの管理本部における経理財務やセキュリティ業務を主軸としつつ、代表取締役社長の佐別当隆志(さべっとう・たかし)氏からの、あらゆるリクエストに応え続けている。そのカバー範囲の広さは、「なんで独立しないの?」という質問に対し、「まるで転職したかのように、目まぐるしく仕事内容が変わっていくから」と答えるほどだ。そんな自身の仕事を、彼女は「リーダーが掲げるビジョンの実現」と表現する。
野口さべさん(佐別当氏)が「やりたい」と思ったことを実現させるのが、私の役割。さべさんは「これができないなら、担当から外れる」と言い出すこともザラにあり、もう子供をあやしている感覚です(笑)。だけど不思議と、「この人についていけば、面白い、まだ見ぬ世界が見えるんじゃないか?」と思わせてくれるんです。
ガイアックスの“無茶ぶり文化”が、人を育てる土壌
野口氏が右腕として支えている佐別当氏は、「シェアリングエコノミー」という新たな市場を開拓するべく、常に高い目標に向かって、スピード感を持って行動する。その結果、野口氏への無茶ぶりが発生していた。そんな佐別当氏自身も、無茶ぶりによって成長してきたという。
佐別当ガイアックスにジョインしたのは、学生時代のインターン。入社後すぐに命じられたのは「学生だけ」での広報チームの立ち上げでした。「2ヶ月以内に記者発表会を開き、大手メディアに掲載されること」「書籍を出版すること」「毎週5本プレスリリースを書き、5媒体以上に掲載されること」という3つのミッションを課されました。仕事の右も左も分からない学生に対して、本当にめちゃくちゃな無茶ぶりですよね(笑)。
ガイアックスに根付く「無茶ぶり」の文化による洗礼を受けた瞬間だった。それに対して、怖気付くことなく、むしろ「こういう環境を望んでいた」と果敢に挑戦。見事、ミッションを達成した。佐別当氏は、無茶ぶりに期待以上の成果で応えるためのポイントをこう語る。
佐別当「人に依存しすぎないこと」が大事です。プレスリリースを週に5本出すためには、ほぼ毎日新しいことを発表しないといけませんが、いつも新サービスが出てくるわけではありません。それでもミッションを達成するためには、同じサービスを違う切り口で伝えたり、大手メーカーとタイアップしたキャンペーンを企画したりと、自分たちのなかで工夫して切り口を変えていく必要がありました。他者に依存せず、自分でコントロールする範囲を広げ、数字を達成していく。これは意識していましたね。
「無茶ぶりに応えることで成長する」という成功体験を得られた佐別当氏は、その後もガイアックスで次々とハードな経験を重ねていく。営業経験がない中での営業マネージャー就任、倒産危機に伴うリストラ、短い期間でのシェアリングエコノミー事業の立ち上げなどだ。無茶ぶりへの対応を繰り返すことによって、新たな領域を開拓してきた。
佐別当まだ大学5年生だったとき、なんと新規事業の営業マネージャーを任せてもらえたのですが、なんと30人ほどをリストラしなければいけなくなりました。当時は、本当にきつかったですね。そうしたハードな日々を乗り越えていくなかで、「視点が社会に向いていないから、きついんだ」と分かったんです。
そう気づいてからは、本来の目的である社会貢献に近づいていると思えば、どんなにハードな仕事もきついとは感じないようになりました。何度かガイアックスをやめて起業しようと考えたこともありましたが、「いや、社会貢献ならガイアックスにいるのがベストだな」と、その度ごとに思い直しました。とにかく今は、最速で社会変革に貢献することを第一目的に動いていますね。
最速で物事を実現していくためには、一見不可能にも見えるような意欲的な目標が必要だ。ガイアックスの無茶ぶり文化によって育った佐別当氏は、いつしか他者にも無茶ぶりをするようになっていった。
強い信頼で結ばれる、リーダーと右腕の関係
「さべさん(佐別当氏)の行動には必ず意味がある」、そう野口氏は言う。その言葉からは、全幅の信頼を寄せているのが伝わってくる。相手に全幅の信頼を寄せるのは佐別当氏も同様だ。「『できない理由』を並べるのではなく、実現に向けてポジティブに動いてくれる。不確実性の中でも前進しなくてはいけないリーダーとしては、その存在はとても心強いですよね」と、その信頼の強さを口にする。
佐別当氏から野口氏への無茶ぶりは、「この人ならできる」、「この人ならなんでもやってくれる」という信頼があってこそだ。される側の野口氏にとっても、無茶ぶりする相手への信頼は不可欠になっている。
野口心折れることなく無茶ぶりに応え続けられるのも、「さべさんが言っていることには必ず理由がある」と信じているからこそです。思想に共感しているのはもちろん、「さべさんが自由に動けるようになれば、絶対に面白い景色を見せてくれる」と確信しているんです。そのワクワク感に比べたら、社内の根回しや予算の折衝、短納期での作業なんて些細なものですね。
無茶ぶりの根底には、互いの強い信頼関係がある。心理的安全とも呼べる状況ができているからこそ、通常では考えられないレベルでハードな依頼ができるのだ。
「特定の強みがない」ことが、右腕の強みになる
信頼は、一朝一夕では生まれない。行動の積み重ねによって培われる。佐別当氏から野口氏への信頼は、仕事を通じて自然と高まっていった。
佐別当氏は「野口さんの仕事ぶりはいつも見ていましたし、必ず期日までにほしいものを仕上げてくれる、仕事のできる人だと感じていました」と、野口氏に抱いていた印象を振り返る。仕事を通じて信頼を獲得してきた野口氏は、右腕として仕事をするようになるまで、どのようなキャリアを経験してきたのだろうか。
野口元々、アパレルのデザイナーになりたかったんです。デザインの専門学校を卒業して、販売員を経験しました。業務の一環で独学でウェブサイトやECの立ち上げを経験したのが分岐点でした。その経験でインターネットの可能性に目覚めて転職を決断して、ガイアックスに入りました。
入社直後は「インターネットに関しては素人に近い状態だった」という。デザインの勉強はしてきたものの、強みとなるスキルがあるわけでもない。だが、この専門スキルが不足している状態こそが、野口氏が「右腕」としての素養を身につけるのに一役買った。
野口自身の「できること」を模索して仕事をしていった結果、バリューを発揮できると感じたのが、エンジニアチームとコミュニケーションをとり、プロジェクトを推進する「ディレクター」でした。ドイツ、ロシア、韓国など国籍が様々なメンバーが混在するチームをなんとかまとめ上げて目的を達成したときは、「これが自分の天職かもしれない」と思いました。
最初から自分に合う仕事がわかっていたわけではなかった。圧倒的な仕事量を経験する中で、自分がフォーカスする領域を見出していく。野口氏は「当時のガイアックスは公私の区別なしにただがむしゃらに働いている人ばかり。その時期を経験してかなりカオス耐性がついたと思います(笑)」と当時を振り返る。「5分でロゴを作って」という要望に「無理」と言うだけで、「無能ですね」と言われるほどの環境だったという。そんななか彼女は、様々な無茶ぶりに応え続けたことで進むべき道を見つけ、高い対応力を身に着けたのだ。
ガイアックスという環境の特殊さは、一度転職を経験したことで、よりはっきりする。「もっとプロフェッショナルなスキルを身に付けたい」との想いから、集中的にデザイン業務に取り組めるWeb制作会社へ転職。「ガイアックスでのハードな日々に比べて、物足りなかったんですよね」と転職先の環境を振り返る。
無茶ぶりが日常化している、圧倒的な成長環境–––ガイアックスの魅力を外部から再発見した野口氏は、出戻りを果たす。シェアリングエコノミー事業の責任者として佐別当氏がアサインされたタイミング、その「右腕」候補として野口氏にスポットライトが当たった。
佐別当ガイアックスに在籍していた際の仕事ぶりを見ていたので、シェアリングエコノミー事業で協働すると決まったときも、「野口さんなら背中を預けられる」という安心感がありました。
野口さべさんは、クリエイティブやPRに大きな予算を割いてくれる点が信頼できました。GRIDもアドレスも、かなりの額を投資しています。「目指す世界観を伝えるために、クリエイティブはきわめて重要」と理解してくれているので、デザイナー出身の私と価値観が合ったんです。
「シェアリングを通じて、社会のシステムを変えていこう」という大きなビジョンを形にするためのサポートが、野口氏の新たな仕事となった。
「強い意志を持った人」に伴走する
佐別当氏と野口氏は現在、ガイアックスの出資先・アドレスで、シェアリングエコノミーの普及という壁に立ち向かっている。
同社が提供する「ADDress」は、月額4万円から、登録された日本全国の空き家に自由に住むことが可能となる「多拠点コリビング(Co-Living)」サービス。2019年10月現在、国内に25拠点を展開しており、年内50拠点に向けて拠点開発を進めているところだ。
地方の空き家活用、東京一極集中状態の解消、地域に拠点を移した人々と地元の人々の交流の創出、地方からのイノベーションの創出…アドレスが全国各地に拠点を作っていくことで目指すビジョンは壮大だ。
それを実現するためには、これまで以上に無茶ぶりをし、また無茶ぶりに応えていかなければならない。空き家問題の解決に寄与するため、2030年には100万人の会員と20万軒の空き家契約を必須目標に置いているが、佐別当氏は「目標に対して、現在の進捗スピードは遅すぎる。もっともっと、加速していかねば」と危機感を露わにする。どうやら、ますます無茶ぶりを増やしていく算段のようだ。
ますますハードな環境となりつつあるが、野口氏は、一度外を経験してきて戻ってきた「いまのガイアックス」で得られる経験や楽しさを次のように語る。
野口ガイアックスは起業家輩出企業として知られていますが、起業を志していなかったとしても、成長したい人にとってはうってつけです。私は、もともと独立志向の強い人間でした。しかし、デザイナーや事業部長など、さまざまな立場から仕事と向き合うなかで、さべさんをはじめとした「強い意志を持った人」に伴走し、ビジョンを実現させるサポートをすることが好きだと気づいたんです。起業家タイプの人々との出会いを通じて、初めて見える世界もあります。
自分の道を見つけられるまでの成長機会もたくさん用意されています。くすぶっている若手にはいきなり海外に一人旅に行かせたり、2年目の社員にひとつの事業のPLを引かせたりと、どこまでいっても「無茶ぶり」するのがガイアックスの特徴なんです。
この会社は「キャリアに迷っているものの、何か大きなことを成したい!」と思っている若者にとっても、様々な気づきを与えてくれる。カオスでハードな環境に身を置き、想像もできない自分に出会いたいと思っている学生がいたら、ぜひ門戸を叩いて欲しいですね。
こちらの記事は2019年10月10日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
姓は半蔵、名は門太郎。1998年、長野県佐久市生まれ。千葉大学文学部在学中(専攻は哲学)。ビジネスからキャリア、テクノロジーまでバクバク食べる雑食系ライター。
写真
藤田 慎一郎
編集
小池 真幸
編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。『CAIXA』副編集長、『FastGrow』編集パートナー、グロービス・キャピタル・パートナーズ編集パートナーなど。 関心領域:イノベーション論、メディア論、情報社会論、アカデミズム論、政治思想、社会思想などを行き来。
1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。
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