連載MBA再考

MBAは人生における成功確率を大きく上げる。
HBS日本リサーチ・センター長 佐藤信雄
「人生の選択肢を増やすために考えてもいい」

インタビュイー
佐藤 信雄
  • ハーバード・ビジネス・スクール 日本リサーチ・センター長 

1978年慶應義塾大学経済学部卒業。日本興業銀行(現みずほコーポレート銀行)に入行後、ハーバード・ビジネス・スクールに留学し1982年にMBAを取得。ロンドン勤務を含めて主に資本市場関連の業務に従事。その後、世界5大エグゼクティブ・サーチ・ファームであるEgon Zehnder Internationalに15年勤務し、その間10年間パートナーとしてPEファームを含む金融機関を主なクライアントとしてコンサルティング業務に従事。 2009年8月より現職。

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MBAとはビジネスを学ぶ場所。ビジネスについてとことん学び、吸収する場所で、それだけが目的…だとしたら、それは一昔前のイメージだろう。

ハーバードビジネススクール日本リサーチ・センター長の佐藤信雄氏は今、MBAはビジネス一辺倒ではなく人生そのものについて学ぶ場所であると語る。

  • TEXT BY SAKYO KUGA
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「君たちの人生の目標は?」HBSはライフラーニングの場

あくまでハーバードビジネススクール(以下HBS)では、と前置きしたうえで、MBAはビジネスについて学ぶ場であることに今も昔も変わりはないと佐藤氏は言う。

一言にビジネスといっても会計、ファイナンス、マーケティングから会社経営における知識、リーダーとしての考え方など、その内容は多岐に渡る。授業の形式は教授がファシリテーターを務めるケースメソッド。

そんな中でも特にHBSが注力し、重要なこととするのが、グループワークを通して“リーダーとして自分自身のことを知る”ことだ。

佐藤自分自身のことを学ぶことで人生を学ぶということです。

これまで人生における成功の物差しの1つとしてビジネスでの成功=富を得ることに重きがおかれている傾向が強かった。しかし、富を得たことで結果的に人生が不幸になってしまった者も多いという事実が、ビジネスでの成功に傾倒していたビジネススクールの過去と現在に大きな違いをもたらした。

佐藤HBSはリーマンショック以降教育方針が変わりました。Life Learning Schoolになったんです。先生たちが“君たちの人生の目標は何なのか?”と平均27歳の学生たちに対してしょっちゅう投げかけるんですね。

自分のことをもっと深く知るための機会を作ることで、単に金儲けだけのビジネスではなく、社会のためのビジネスを作るリーダーを多く輩出する狙いがある。

ビジネスでは判断が必要な場面が多々あるが、重要なポジションになればなるほど、ときにグレーなケースに遭遇する機会も多くなってくる。グループワークを通じて自分の価値観、仲間の価値観について知ることで、その時々に自分がどう判断するのか、それはシロに近いのか、クロに近いのか議論の中で学び、自分についてより深く知ることができるのだ。

“富を得ることが成功”というだけでは、そのような倫理的側面や法律的側面において大きなリスクとなることに気付くことが難しくなるもの。

グレーな場面に直面したときに、どう判断して行動すべきかを学ぶことがすなわちリーダーとして今後の人生を歩む上で重要なことだ。そういう意味でMBAはビジネスを学ぶだけでなく、人生を学ぶ場であるとも言えると佐藤氏は語る。

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「学費が高い…」は勘違い?

話は大きく変わるが、MBA留学を考える若者にとって考えなければならない問題が学費だ。本特集の第一話「スライドで見る有名MBAコストパフォーマンスランキング」でも紹介したが、その学費は決して安いものではない。

日本人の場合、留学制度を持つ大手企業の社費を利用しての留学、私費での留学にわかれる。社費ならまだしも私費留学となると、経済的余裕がないという理由で諦めざるを得ない場合があるだろう。

佐藤日本人留学生の半分強が商社、銀行、メーカー、PEなどからの社費留学です。これは日本特有の制度。多くの国で社費留学制度を持つ会社ってないんです。海外では私費で行くというのが当たり前です。

というように、海外ではMBAは私費が基本なのだ。そういった人々はすべて資金を工面して通っているかというと、実はそうではない。HBSの場合、2/3ものMBAの学生がファイナンシャルエイドを受けて学んでいるのだ。

この制度についてもっと日本人にも知ってほしいと佐藤氏は語る。この制度には、いわゆるローンと返済不要のフェローシップという2つのタイプがあり、個々人の資産や直近3年間の平均給与などに応じてファイナンシャルエイドの枠、それぞれのタイプの割合など内訳が決まってくる。ざっくり言うと経済的理由で学ぶことを諦める必要はないということだ。

佐藤HBSの学生1学年900人中の2/3はなんらかの形でファイナンシャルエイドを受けています。さらに、900人中半分の450人が返済不要のフェローシップをもらっているんですよ。こういうことは実はあまり知られていなくて、もっと知られるようこちらもPRせねばなりません。

HBSの場合、成績優秀な合格者にファイナンシャルエイドを与えるやり方ではなく、合格後にどの程度ファイナンシャルエイドが必要かを申告させるニーズブラインドというやり方をとっている。ファイナンシャルエイドにおけるフェローシップの平均額は1人あたり年間3万7000ドル※1にもなるそうだ。

海外ではNPO法人や軍隊出身という比較的経済的に余裕のなかった人々がファイナンシャルエイドを受けてMBAで学ぶ者も多いという。

MBAという場所は学歴も職歴もエリートと呼ばれる人々の学び場というイメージを持つ日本人は多いだろう。

しかし、リーマンショック以前は金融機関出身者、コンサルティングファーム出身者が6割以上を占めていたが、現在では4割程度に減り、先述の通りNPO法人や軍隊、スタートアップなどそのバックグラウンドも多様化している。

同様に卒業後においても金融、コンサルティング、大手企業などに多くが就職していったが、現在は起業やスタートアップ系企業、NPOなど多様化を見せている。

ただ、高給である前者に一旦就職し、MBA2年間分の費用を返済し終えてから退職して好きなことを始める卒業生も多いという。

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スケールの大きなことをやってほしい

これからの日本を背負う若者に対してメッセージをいただいた。

佐藤世の中を変えられるほどのインパクトを出してほしい。スケールの大きなことをやってほしいと思っています。

日本の大企業に勤める若者にはMBA留学後に会社に戻り、大企業でイノベーションを起こして欲しいこと、また、大企業だけで日本経済を支えることが難しい国内の現状を変えられるだけの企業を起業することで作り上げて欲しいと、日本の将来を大きく変えることのできるリーダーの登場に期待を寄せる。

佐藤自分のやりたいことを成功させるためにはMBAで学ぶことがより成功する可能性を高めると思います。

すべてにおいて自分の判断でやっていけると思えば無理して行く必要はないが、世界中から優秀な若者が集まるMBAという環境は、自身を深く知ることに加え、仲間ができることで広がる可能性など、成功する、成功させるための確率を高めることのできる場として最適といえそうだ。

佐藤「ぜひHBSで世の中にインパクトを与える“選択肢”を増やしてください」

佐藤氏は、最後にそう、熱い言葉で締めくくった。

※1 FINANCIAL AID Need-Based Fellowships
http://www.hbs.edu/mba/financial-aid/domestic-students/Pages/need-based-fellowships.aspx

こちらの記事は2017年08月11日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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