連載株式会社in3

【組織開発】
凝り固まった組織の“ネジ”を緩め、組織文化による“呪縛”を解くには

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インタビュイー
平井 朋宏

英University of Warwick大学院にてMAを取得。帰国後、イギリスに本社を置くエグゼクティブ向け戦略情報プロバイダーにて日本の企画部門を統括。2003年より(株)インヴィニオにおいて、戦略、組織文化のアラインメントプロジェクトの設計と実施を担当。2017年(株)インヴィニオと共同出資で組織開発・組織文化変革を主軸とした株式会社in3を設立。自社のビジョン、戦略、価値観などを織り交ぜたワークショップをグローバルリーダーに対し展開すると共に、クライアント企業に合わせた様々な組織開発ツールを提案・開発、組織への展開方法を設計し、企業のアラインメントワークに取り組む。アメリカのデニソン社とのパートナーシップによる組織文化変革研修、スウェーデンのセレミ社とのパートナーシップによる経営シミュレーション、その他シニアリーダー研修等実績多数。日本コンペティティブ・インテリジェンス学会理事。

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多くの企業で、組織開発ニーズが高まっている。

組織は拡大するにつれ、さまざまな問題が起こるが、いつの間にか問題のある状態が当たり前の文化になってしまう。

それが、俗に言う「大企業病」だ。そもそも大企業病はどのようにしてかかり、それによってどのような弊害があり、どうすれば克服できるのか。

大企業に組織開発コンサルティングを提供している株式会社in3の代表・平井朋宏氏に、そのメカニズムを聞いた。

  • TEXT BY YASUHIRO HATABE
  • PHOTO BY DAISUKE OKAMURA
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組織が必然的にかかってしまう自覚しにくい “大企業病”

よく、150人の壁、500人の壁などと言われます。組織は大きくなるにつれて、どのような問題が起こるのでしょうか?

平井いくつかの捉え方がありますが、まず言えるのは「業務の仕組み」による弊害です。組織は規模が大きくなると、従業員が業務を効率的に行うための「仕組み」が作られますよね。業務を仕組み化するのはどの企業にとっても推奨されるべき当たり前の行動ですし、仕組みがなければ組織は大きくなりません。

しかし、仕組みに従って行動を取っていると、人はいつしか「仕事の全体像」を考えなくなり、「ルールに沿って業務を効率的にこなす」ことが目的になってしまう。仕事の本質よりもルールにこだわる、いわゆる形式主義のようなものが生じます。「HOW」の追求を進めることで「WHY」を考える機会が少なくなる、ということです。また、「役割分担」もその一つ。役割を規定すると、組織は次第にその役割をどうこなすかがプライオリティになり、全体に目を向ける機会が少なくなります。さらに、目標も分解されて本質がわからなくなり、「私たちの仕事はここまで」といったセクショナリズムへと発展していくのです。大きな組織を管理するにあたり作られる「階層」も阻害要因になります。階層の数だけでなく、階層間での権力差が大きいと、組織に考え方のダイバーシティが生まれにくくなり、イノベーションなども阻害されるのです。

この「仕組み」や「役割分担」、そして「階層」があるのは正しいことですよね、普通に考えると。ただ、それらを前提に業務活動を行うのが組織の当たり前となると、組織の規模の拡大とともにそのシステム自体が自己強化され、企業のパフォーマンスの妨げになります。大企業病の本当の怖さはこのシステムの暴走なのです。

平井さらに近年の課題は、このシステムの前提となっている経営のパラダイムそのものがものすごいスピードで変わり、かつ多様化しているため、組織のあり方を難しくしています。組織開発自体は新しいコンセプトではないのですが、VUCA(*)の時代であることや、 企業と顧客の関係性が逆転し、より顧客の力が強くなっていること、競合との差異化のためのスピードが求められること、さらには外部環境の変化などが、組織により大きな影響を与えるタイミングなのでしょう。

*VUCA: Volatility(変動性・不安定さ)、Uncertainty(不確実性・不確定さ)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性・不明確さ)の略語

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組織開発の着眼点

組織課題を抱えている企業の変容に向けて、具体的に何をするのでしょうか?

94% of the problems in business are system driven and only 6% are people driven.
You don’t understand the system before you try to change it.

──W. Edwards Deming

平井組織開発の実践にはさまざまなアプローチがありますが、根幹にあるのは、文化の固着化とも言えるこのシステムの自己強化に抗うための実践です。そして、実践の主体者は組織の構成員であること。気がつくと蔓延してしまう大企業病に対して、組織の構成員がそれぞれ主体的に行動していくきっかけを絶えず作ること。これが組織開発のあるべき形だと思っています。

組織開発は社内で継続的に取り組むものですが、実践する上でいくつかのハードルがあります。最大かつ最初のハードルは「組織文化に対する自覚」です。

組織文化とは、その組織で共有される「当たり前」の行動様式のこと。当たり前であるがゆえに、その組織の構成員には自社の組織文化の特徴や課題に気づけないケースが多くあります。

たとえば、東京と大阪での「エスカレーターの乗り方(右に寄るか左に寄るか)」。東京では左に寄りますが、それは何も考えずに「当たり前」だと思って起こす行動ですよね。逸脱行動をとると周囲にちょっと睨まれたりして、当たり前の行動が補正され、その前提に疑問を呈するのが難しくなります。

平井継続的な組織開発の実践には、多様な思考や疑問を呈し考えることが必要不可欠なのですが、日本の組織は同質性を重要視するケースが多いと感じます。トップの講話などでもよく、「自分の意見や視点を持て」「違う着眼点を持った人間を重視しろ」などと言われますが、実際はそうではないケースが多いでしょう。

そこで我々は、組織の構成員が自身の組織文化による「呪縛」を意識できるように、ワークショップやツールをデザインしています。これはアンラーニング(Unlearning)と呼ばれるプロセスなのですが、既存の知識や価値観を意識的に棄て去り、継続的に新たに学び直すことによって、組織における学習や変革が起こりやすくなるのです。

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Unlearningのための定点を作る:企業アイデンティティー

組織の決まりごとを疑ってかかるというように聞こえますが、決まりごとがないのも不安定のような気がするのですが?

平井たしかに、自由に「体制をぶっこわせ」じゃ企業は続きません(笑)。ただし、多くの企業には組織の行動のベースとなる独自の考え方が存在します。それが企業アイデンティティーなのです。理念やDNA、英語ではBeliefs and Assumptionなどと呼ばれたりします。「自分の会社は元々どんな志を持ち、何を成そうとしているのか」「今自分たちはその方向にきちんと向かっているのか」を確認することによって、組織に共通言語が生まれ、アイデンティティーに対する共感から社員のオーナーシップが引き出せます。

アイデンティティーを確認する手法としてよくやるのは、社内の歴史上の出来事を創業時からさかのぼって確認するプロセス。創業時はどのような背景やコンテクスト(文脈)で、どんな価値提供を目指していたのか、大切にする価値観は何なのかが、史実としてピュアに表現されています。

まずはこのコンテクストを共有し、ワークショップを通じて、社員同士のダイアローグ(対話)を行います。「ただ話すだけ?」と思われるかもしれませんが、それによって、お互いに何を思っているのかを確認することが最も重要なのです。

平井人は、自分一人でただ思っているだけでは行動に移しませんが、他の人も同じことを思っていると分かった瞬間、それが組織の中での真実になる。真実になれば「どうすべきか」の議論が始まり、やがて行動へと結びつく。 もちろん、漫然と話し合うだけでは、この流れは起きないかもしれません。だから、そのプロセスに、お互いの思いを確認して言語化することや、その後の行動化を促す仕掛けとしてラーニングデザインを埋め込み、流れが起きるように仕組んでいるのです。

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Engagement … to what?

ルールではなく、企業アイデンティティーを軸に、社員の変革行動の方向性を揃えるのですね。

平井はい。また、アイデンティティーは社員のエンゲージメントやモチベーションを強める効果があります。エンゲージメントは「帰属意識」などと訳されたりしますが、ここでは組織と従業員がお互いの成長に貢献し合う関係となり、「自分が事業をドライブしている」と思えることを意味します。エンゲージメントが高いほど、何か組織の問題を見つけたときに誰かが対処するのを待つのではなく「自分が改善しよう」と主体的な行動につながるため、組織開発が実践しやすくなります。

ただし、注意しなければいけないのは何に対してのエンゲージメントが必要なのか?です。

エンゲージメントの対象には、「コト」「組織」「人や職場」の3つがあります。「コト」とは事業活動、すなわち企業が行う価値提供、「組織」は公器としての組織のアイデンティティーや価値観、「人や職場」はチームメンバーや上司を含めた職場へのエンゲージメントです。

いま、世の中で一般的に言われている組織開発の多くが、働きやすい環境づくりや、人間関係の改善など、「人や職場」のエンゲージメントを高くする動きです。上司と合わないから会社を辞める人が多いという現象だけから考えると、「人や職場」に対するエンゲージメントも重要です。ただ、それだけを高めても、他の2つに対するエンゲージメントがなければ、組織の中での共通項を上手く見つけられず、パフォーマンスにはつながりません。

平井企業のアイデンティティーは「コト」や「組織」へのエンゲージメントを強化します。

個人的な見解ですが、日本企業は「人や職場」ばかりではなく「コト」や「組織」に対するエンゲージメントを、もっと強くしたほうがよいのではないかと考えています。そうして、社員の意識や行動がより外向きの成果につながるようになれば、世の中に莫大なインパクトを与えられるような「企業の事業成長」が実現する。これは、企業内だけでなく、日本ひいては世界にとって大きな意味があると思っています。

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組織開発は1回やって終わりではない

対話を通じてエンゲージメントを高め、事業成長に向けた行動にまでつなげるということですね。

平井そうです。ただ、何かが変わったとしても、変わった状態が固着化して当たり前になると、やがて似たような問題は再発してしまうもの。だから、組織がある状態で固まってしまわないよう、組織開発は何度も行う必要があります。組織の“ネジ”を緩め、アイデンティティーを軸に変わっていく、これを継続的に手を変え品を変え仕組んでいくことが大切なのです。

そして、組織開発の目的は「社員が生き生きと働ける」ではなくて、その先の、「社員がよりオーナーシップを持って事業活動に参画し、顧客やマーケットによりよい価値提供ができるようになった」という状態を最終目的にすべきだと考えます。組織はそれを成すための公器ですから。

Business has only two functions – marketing and innovation.

──Peter Drucker

我々は、大企業が必然的に直面する現象や課題に対して、組織開発のエキスパートとして、組織内に刺激を提供し、組織文化と行動を変える火付け役=ファイアースターターでありたいと思っています。我々の提供するソリューションを通じて、より多くの企業が真の事業成長を実現できるよう、今後も様々なチャレンジを仕掛けていきます。

こちらの記事は2018年06月08日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

畑邊 康浩

写真

岡村 大輔

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