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【事例】「現場の理解」が、変化の始まり──世界をまたぐ医療機器メーカー・テルモがR&D組織の変革を志す理由

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インタビュイー
廣瀬 文久
  • テルモ株式会社 常務経営役員経営企画室長兼CTO 

1987年 テルモ技術開発本部入社。1993年 国際事業グループ海外商品開発部、1996年 カテーテル事業プロダクトスペシャリスト(米国駐在)、1999年同マーケティングマネージャー(米国駐在)、2005年 経営統合室を歴任後、2009年 バスクテック社取締役副社長(英国駐在)、2012年 心臓血管グループTIS事業グローバルマーケティングVPにて同社のグローバルビジネスの展開においても活躍。2017年 執行役員心臓血管カンパニー外科領域担当SVPを経て、2020年 執行役員経営企画室長、2021年より上級執行役員経営企画室長兼CTOに着任、2022年より現職である常務経営役員経営企画室長兼CTOに着任。

遠藤 和洋
  • テルモ株式会社 

2009年 テルモ臨床開発部入社後、2015年 臨床開発部兼レギュラトリーアフェアーズを経て、2020年より秘書室へ。廣瀬氏の直下プロジェクトにてTERUMO R&D Wayの策定に関わり、2022年 CTO オフィスに異動後、TERUMO R&D Way推進プロジェクトのリーダーとして活動。

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大企業に組織開発コンサルティングを提供しているin3では、混沌としたコロナ禍においても、その先の成長を目指して積極的に動き出す変革現場のプロジェクトを多く手がけている。その中から3つの象徴的な事例を、連載でお届けする。

この1記事目で扱うのは、体温計の製造を祖業とし、2021年には創立100周年を迎えた医療機器メーカー、テルモ。世界160以上の国と地域で事業を展開し、グループ全体の従業員数は28,000人以上、そして2022年3月期決算では過去最高の売上収益を記録した、日本を代表するヘルスケアカンパニーの一社である。

その強みは、何と言ってもR&D(研究開発)にある。内部での新規開発はもちろん、M&Aや提携を通じ、世界の技術シーズを発展・融合させてきた。R&D拠点は日本だけでなくアメリカやヨーロッパなど、グローバル22か所に存在している。

いかにも順風満帆に見えるが、どんな組織にも課題は付き物。例えば、組織が巨大化するにつれて、セクショナリズムに陥るという課題はどの企業にも存在するだろう。さらなる事業成長を目指し、次代の事業の柱となるイノベーションを生み出すために、縦割り組織の弊害を打破し、組織を超えた連携を強め、知恵と知識、情報を共有し合える組織に変貌させるにはいったいどうすればいいのか──。

単にビジョンや行動指針を示すだけでは、組織に浸透せず、行動もマインドも変わらない。

経営企画室長兼CTOの廣瀬氏は、こうした組織課題に真正面から向き合い、先回りした対策を取ろうとしている。

本質的な意味で経営の意図を含めたビジョンを組織の隅々まで浸透させ、自分ごと化を進めるに至った「何よりも重要な、たった1つの気づき」とは。廣瀬氏が直面した困難と、それを乗り越えつつある今のテルモの姿に迫る。

  • TEXT BY YUICHI YAMAGISHI
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
  • EDIT BY TAKUYA OHAMA
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組織の細分化による縦割りの弊害から、
「TERUMO R&D Way」を制定

世界的なパンデミックを乗り越え、海外の競合に打ち勝っていくために奮闘している国内ヘルスケア業界。そのなかでも「医療の進化」へのテクノロジー活用を強みとしているテルモが、企業変革に向けた動きを活発化させている。

この記事では、テクノロジー活用の一丁目一番地となるであろう「R&D組織」の変革に向けたストーリーを追う。

2021年公表の中長期成長戦略GS26において、「イノベーションの促進」という施策のもと社内R&Dの強化が示されている。短中期の時間軸ではカンパニーR&Dが「既存製品の改良・改善・シェア拡大」を、長期の時間軸ではコーポレートR&Dが「新規技術の開発・ソリューション開発」を担う。

テルモにおけるR&D組織の構成(同社コーポレートサイト「研究開発について」から引用)

この「カンパニーR&D」と「コーポレートR&D」の融合・連携をこれまでにないかたちへと進化させるべく、新しいR&D組織の行動指針「TERUMO R&D Way」を制定し、取り組みが進められている。

廣瀬目指すのは「会社の持続的な成長に向けてコア技術を革新し続け、組織を超えて活用する」、そんな力強いR&D組織の体制です。そのために、カンパニーR&DとコーポレートR&Dの間で、より緻密な連携が常にできるようになることが、行動指針「TERUMO R&D Way」を制定した最大の狙いなんです。

CTOと経営企画室長という珍しい兼務で、R&D組織の連携に向けた具体的な指揮をしているのが廣瀬 文久氏だ。カンパニーとコーポレート双方での商品開発の現場を長く経験した後、現在の経営ポジションに就いた。そんな立場から、抱えていた課題感を率直に吐露する。

廣瀬2014年から当社は現在の3カンパニー制*を敷いて各事業を独立させ、各カンパニーがR&D、生産および販売等の機能を持って事業運営を行う体制になりました。R&D機能はそれぞれのカンパニーにおいて進化し、それぞれのケイパビリティ(組織の持つ能力)を高めることができてきたと感じています。

ですが、その一方でトレードオフの現象として、組織の細分化による縦割りの弊害が見えてきたんです。

*……2014年4月に、収益責任の明確化と意思決定の迅速化を図ることを目的に、現 心臓血管カンパニー /現 メディカルケアソリューションズカンパニー / 現 血液・細胞テクノロジーカンパニーの3つのカンパニーに分かれ、事業を展開。このカンパニー制への移行により、各カンパニーが販売、研究開発および生産の機能を持って事業運営を行う体制となる。それ以前は事業を縦軸に、機能と地域を横軸としたマトリックス経営を行っていた。

TERUMO R&D Way浸透プロジェクトを推進するCTOオフィスに在籍し、現場への浸透を担当した遠藤 和洋氏も、感じていた課題感は同じだ。

遠藤同じ1つの製品の中でも、製品本体とその付属品で開発を担当する組織が分かれていることがあります。すると、それぞれの開発組織が製品開発を部分最適化してしまい、最終的な全体最適が取れていないことがありました。例えばプロトタイプが完成して実際につないでみると、製品としてうまく機能しない、なんていうケースがあったんです。

廣瀬これを外れ値だと考えず、氷山の一角として捉えなければなりません。ほかの問題が表出する前にR&D全体を改革し、さらには新たなイノベーションを起こせるようにしていくんです。

組織が大きくなっていく過程で、お客様からのニーズや求められるスピード感とのギャップが生じたり、あるいは組織内部での重点バランスが失われたりする可能性は、どんな組織にもあります。ここで改めて立て直さねば、との思いで取り組んでいます。

そうして行動指針として生み出したものがTERUMO R&D Wayです。

TERUMO R&D Wayの内容抜粋(提供:テルモ株式会社)

さあ、このビジョン・行動指針をいかにして現場にまで浸透させていくのか。それがこの記事の主題だ。読者諸君が想像する通り、平坦な道では全くなかった。

「私を筆頭に、まずリーダー層に説明を始めました。ですが……」と廣瀬氏は語り始める。廣瀬氏と遠藤氏の二人が困難にぶつかりながら、少しずつ乗り越え始めたのが今である。その軌跡をここから追っていこう。

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「ビジョンと指針は示した。
これで現場も動き出すのではないか?」……。

遠藤最初のアクションは、R&D各部門のリーダーを集め、TERUMO R&D Wayの内容を伝えたことでした。しっかりと練って作ったスライドを示し、廣瀬が実際の経験を基に語り掛けたわけです。

廣瀬この時はみな、真剣に話を聞いてくれて、「よし、伝わった」という手ごたえを感じました。

良い戦略と指針を描けたから、これで変革がじわじわ進んでいくだろう──。

二人が当初抱いていたそんな感覚が崩れるまでに、長い時間はかからなかった。

廣瀬アメリカのR&D部門長からはさっそく、「TERUMO R&D Wayで組織間の連携を掲げているなら、リソース(支援の人材)をすぐに送ってほしい」と要求が届きました。

社全体で持つノウハウや知的財産などの無形資産、そして技術シーズも含むさまざまなテクノロジーに対して期待してくれている。だからこそ、現場の喫緊の問題解決のための直接的な要求として、頼もしく感じた一方で、推進側と現場側の認識のギャップは大きいということも見えたエピソードでした。

敢えて分かりやすく大げさに表現すれば、「一人ひとりの意識改革と組織構造の変化を通し、社内連携を強化してこれまでにない価値創出を目指す」というのが私たちの考え方です。

一方で現場側は、「どうやら新たな業務が発生しそうだな、リソースの増強を待とう」といった考えになりかけていたようなんです。

「もしかしたら、私の説明がまったく伝わっていないのかもしれない……」という不安を抱き始めました。

見ているのが同じ戦略・指針だったとしても、立場や意識によって解釈の仕方は大きく変わる。廣瀬氏がこのTERUMO R&D Wayに込めた強い想いを、現場メンバーの実行レベルにまで伝えきるのは、どうやら簡単ではなさそうだと気付いたわけだ。

廣瀬まずはマネジメント層・リーダークラスに対して、具体的に伝えきらなければならない。遠藤と話し、どのように進めようか考えました。でも、どうすればいいのか、そう簡単に解決の糸口は見つかりません。

遠藤テルモグループでは、ともに働く仲間として社員を「アソシエイト」と呼んでいます。その一人ひとりに向き合い、認識をすり合わせながら戦略とビジョン、行動指針を浸透させていく必要があると感じました。といっても、誰に対してどのような伝えかたをすべきなのかが見えず、さっそく困ってしまったんです。

実は廣瀬氏は当初、TERUMO R&D Wayにおいて描いているよりもさらに広いスコープで、組織の変革を考えていた。それは生産・調達・ロジスティクスといったグローバル規模での管理・協働体制を全体最適化するというもの。経営企画室長としての課題感から、こうした変革を描き、同時にCTOとしてR&Dの強化も進めようとしていた。

廣瀬この課題意識について別部門の知人に話すと、「その課題は、この人たちと一緒に取り組めば解決できるかもしれないよ」と言って、in3(アイエヌスリー)のことを教えてくれました。

それから組織開発ソリューション企業であるin3(FastGrowの過去取材記事はコチラ)が、廣瀬氏と遠藤氏の意思決定や施策実行に伴走してきた。

廣瀬この知人が転送してくれたメールマガジンを読んでみると、

「“経営ごと”としての組織開発というタイトルのもと、組織全体で事業の方向性を共有し、自分ごと化を促すことで足並みを揃える」

とあり、まさに私が「やりたい」と思っていたことをピンポイントで示してくれていたんです。そこがきっかけとなりin3へ連絡し、今日に至るまでさまざまな新しい取り組みが始まったんです。

両社のタッグにより、ビジョンと行動指針の浸透が実効性の高い取り組みとなっていく過程を、ここから紹介しよう。

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目先の業務の中「だけ」で
組織のビジョンを浸透させることは困難

TERUMO R&D Wayを浸透させるため、現場でのプロジェクト進行・運用・実装を担ってきたのが遠藤氏だ。その具体的な方法の第一歩が、ワークショップの緻密なデザインだった。

遠藤私はTERUMO R&D Wayの構想段階から、社長の政策秘書の立場でPMO(プロジェクトマネジメントオフィス)として参加するようになりました。その後CTOオフィスに所属を変えてはいますが一貫してこのプロジェクトに取り組んでいます。

ところが、プロジェクトの開始から半年間ほど経つ中で、現場からは先ほど示した要望が届く程度であり、現場において何か変化が起きている様子は見受けられませんでした。

TERUMO R&D Wayによって、我々R&D組織全体として目指したい組織の姿や具体的な方針施策の意図、変革の道筋が、組織に浸透していかなかったんです。この状況を打破するために、R&D組織のメンバーを対象にしたワークショップを企画しました。

ワークショップでは、会議室に集まったアソシエイトたちが2時間ほどかけて、会議室のデスク上に目一杯広がる大きなワークシート(ラーニングマット™)に付箋を貼りながら、課題意識を共有し、現場の声を集める。

組織として目指すあるべき姿や、そこに向かうためのロードマップなどをメンバーで共有し合えるよう緻密に計算・制作(ダイアログデザイン™)されたワークシートだ。これを用いながら、TERUMO R&D Wayの方向性を自分ごと化するための入り口として位置づけられたのが本ワークショップだ。

遠藤組織を変革していくためには、自分たちのマインドセットや思考回路そのものを変えていく必要がありますが、日々の業務を通じての試行錯誤だけではなかなか変えられません。

ワークショップでは、そもそもこれからテルモがどんな姿を目指そうとしているのか、何を変えていかなければいけないのか、どう変わっていくのか、そのプロセスにはどんな意味があるのか。これらを自ら考え解釈してもらいます。

遠藤例えば、組織のリソースを最大限に活用して「オープンな事業間連携とR&Dプロセスの最適化を促進する」という前提を理解してもらいます。

その上で、TERUMO R&D Wayを実行するとどのような効果があるのかを議論してもらい、活発に意見を出してもらいました。こうした議論を通じて自発的な気づきを得られることで、各メンバーが行動指針を「自分ごと化」していきます。

それらを踏まえた上で、次はどんな行動を起こしていくべきか。「R&Dの組織全体でやってほしいこと、行動してほしいこと」および「自分たちのチームで明日からどのような行動を起こせるか、何を変えていくべきか」のアイデア出しを全員で行うというコンセプトで行いました。

また、この取り組みと同じ内容を、海外の拠点でも行いました。テルモはグローバル規模での組織変革を目指していきますので、海外拠点のアソシエイトにも浸透させていくことが不可欠だからです。

TERUMO R&D部門のアソシエイトが最先端のテクノロジーやノウハウ事例を共有する Global Technology Fair(GTF)にて登壇する廣瀬氏(提供:テルモ株式会社)

テルモは各事業の拠点ごとにファシリテーターをアサイン。合計で海外の12拠点も含め、のべ100人ほどがリーダー役を担った。現場のリーダー役を巻き込むワークショップの実施は、CTOオフィスおよびin3が直接関わって行い、そのリーダー達が自拠点での対話をチームメンバーとともに実践。ワークショップを受けた人数は、約4ヶ月ですでに1,000人を超える。

さらに、今回の施策で重要なのは、R&D組織のケイパビリティ(組織の持つ能力)を向上させるために組織の英知を結集する動きに弾みをつけることである。

そのため、行動指針の現場への浸透を一過性の活動で終わらせずに、この先の施策の展開・実行について、現場から具体的な意見を吸い上げ、R&D組織全体で一つの方向に向かう動きを、各事業のプロモーターとともに連携し見せ続けていく必要がある。

遠藤現場からもらった声で特に印象に残っているフィードバックがあります。

「目先の開発に集中してしまっていて、将来に向けて自分たちの活動を良くしようと議論する場がなくなっていたことに、このワークショップを通じて気づけた」「ワークショップで話せたことが、気づきを得るいいきっかけになった」などです。

日々の仕事をしていく中で、目の前の業務以外のことに目線を向けて、R&Dやテルモ全体としてあるべき姿に向き合うことがいかに難しいことかを実感しました。

もちろん、これまでも当社にはR&Dの理念や戦略・ビジョン、行動指針を共有する施策はありました。しかし、これまでは点の施策で終わってしまい、組織内の共通言語として浸透するまでには至らずに終わってしまっていました。

一方、今回の施策は私たちCTOオフィスを中心として、本気でR&D組織を変革しようとしていることが、ワークショップを通じて伝わった。だからこそもらえた現場からのフィードバックだったのだと思います。

点で終わっていた施策が、線になり、さらに面にまで広がった部分もあるわけだ。短期間にこれだけの広がりがみられるのは珍しい。この経験が大きかったと、2人は振り返る。

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「アソシエイト(相手)のことを分かった気になっていないか?」、プロジェクトを通じて得た気づき

「行動指針を浸透させる」というこれまでのプロジェクト推進の中で、廣瀬氏・遠藤氏が学んだ「何よりも重要な、たった1つの気づき」とは、「相手を理解すること」に尽きるという。

遠藤組織を良い方向へ変え、相手の行動変化を促すには、こちら側から「これをやってください」と働きかけるのではなく、相手から「やりたい」という声を引き出すことが極めて重要です。何においてもまずは、相手からいかに意思やアクションを引き出させるかが大事なのだと、この活動から学びました。

ワークショップのかたちはおろか、その前に全社への説明として作っていたスライドについても、ここまでの取り組みを通して大きな進化を実感していると語る。

遠藤私たちCTOオフィスのやるべきことは、相手のことを理解した上で、相手の目指す方向と施策を整合させ、自分ごと化してもらうこと。相手に自分ごと化してもらって行動変化を促すには、まずこちらが相手を理解することが必要で、この順番が肝。いかに用意周到に施策を整えても、相手の目指す方向に合っていなければ行動にはつながりません。行動を起こしてもらう人自体を理解することが一番大事です。

例えばパワーポイントのスライド資料を1つ作るにしても、当初は施策を作っている私たち側からの目線だけで作ってしまっていました。相手の立場で理解できているのかという視点がすっかり欠けてしまっていたのです。これは我々に限らず誰もがつまずきやすいポイントだと思います。

ワークショップも当初は、いわゆる上意下達式で、資料を全員で見られるようにしてリーダー同士がオンラインで話し合うという形式を構想していました。「自由に話してください」と(笑)。

遠藤今なら理解できますが、この方法で戦略やビジョン、行動指針が組織に浸透することは極めて難しいと感じています。にもかかわらず、「この方法でまずは進めよう」「まずは動かすことが大事だ」と考えてしまう企業や組織は世の中に多いのではないでしょうか。

「現場のメンバーに自分ごと化してもらって、行動を変えてもらわなければならない。そのための対話が必要だ」という認識を強めたことで、ワークショップの形式変更は必須だと考えるようになりました。「一方通行から双方向型の対話」へ、「上意下達から自分ごと化」へと着眼点を変えていったことが、このワークショップの転換点として一番大きかったと思います。

ファシリテーターとして海外のワークショップへ自ら赴いたのも、現場理解のためでもあります。加えて、現地のメンバーが触発されて動いてくれるようになる部分は大きいと感じています。それこそ、オフィスにこもって考えているだけ、オンラインで指示するだけで、人は動いてくれません。

「まずは相手を理解することから」。本プロジェクトで学び得た最も重要な気づきだが、これはすべての仕事にも通じる格言ではないだろうか。

そしてこの取り組みによって良い変化を享受しているのは、廣瀬氏と遠藤氏だけではない。組織全体で、少しずつ変化の兆しが表れているという。

遠藤各拠点にコラボレーションプロモーターという担当者を置いてもらい、この担当者が起点となって活動してもらう体制を築くことができています。

現場のニーズやテクノロジーの知見を収集してもらい、ノウハウを全社に共有して事業間連携を促進する活動です。これまでなかなか、こうした動きはできていなかったので、嬉しいですね。

現在は、グローバル全体での現場での対話から得たフィードバックをもとに、R&D組織全体での次の一手についてコラボレーションプロモーターとともに議論し、具体的に動き出そうとしています。

現場の動きを継続してもらうには、実際のビジネスにおける成功事例や変化の芽(クイックウィン・スモールウィン)を密に共有していくことが不可欠なので、その情報共有も意識して進めています。

そして、これらの取り組みの裏でひそかに躍動していたのが、先ほど少し紹介したin3なのだ。

廣瀬私ひとりの発想では、TERUMO R&D Wayそのものの打ち出しはおろか、それを上手く組織変革とリンクさせていくようなワークショップや全社ミーティングでの発表など、具体的な方法も見えなかったと思います。これらはすべてin3に支援に入ってもらったことで実現できました。

in3の支援を受けて一番感心しているのは、経営から現場へ発信する戦略・方針展開に際して、「きちんとデザインした情報発信」の重要性です。

これまでは自分目線で発信して終わりとなることが多かったので、大きな変化を感じることができました。ビジョンを掲げてアソシエイト一人ひとりと丁寧に向き合って情報を発信し、経営としての意図を草の根レベルまで組織に落とし込んでいく重要性を学びました。

また、ありがたいのは、変革の伴走を密にしてくれるだけでなく、私たちの組織で自走できる状態を目指してくれていることです。

遠藤本当の意味で伴走をしてくれて、打ち合わせの度に新しい観点や違う視点をもらえて、私自身を育ててもらったと感じています。つまり、私自身も行動変容やマインドセットの変革を起こす必要があったわけですが、その視点がすっかり抜け落ちていました。

また、自分だけでプロジェクトを進めていると、「この方向性で正しいのかどうか…」と迷う場面もありました。

大きな組織を動かすための変革の第一歩には、組織に根付いた従来のやり方を変えていくために、時に内部からも厳しい意見や反対の声も上がりがちです。in3の方から客観的な目線をもらって、組織を巻き込み変化を促すためにはこの方向性でいいと背中を押してもらえたことはとても心強く、大きな支えになりました。

組織変革を担う担当者に熱意が必要なことは当然ながら、その担当者自身のマインドセットも変わる必要があるという視点は見逃しがちで、学ぶところが多い。

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「我々はまだまだ現場を知らない」、
相手を知る道のりは始まったばかりだ

行動指針を組織に浸透させるというプロジェクトの初期フェーズは完了した。次は、行動指針を共通言語に、各メンバーが自発的に動き、浸透した結果の効果を現場メンバーが実感するフェーズだという。

廣瀬TERUMO R&D Wayのビジョンのもと、組織連携する重要性は浸透しつつあると感じています。今後は、どうやってその浸透効果を実感してもらうか。それがないと形骸化してしまうでしょう。

遠藤CTOオフィスが「現場」の理解を深めていくのはまだまだこれからだと考えています。そのため、現在は各拠点の会議に参加し、現場を知った上で施策を進めています。

TERUMO R&D Wayの考え方自体は間違っていないと全員が理解しているので、今後はその行動指針が当たり前に機能する組織にしていきたいです。

TERUMO R&D Wayの2大指針は「組織を超えた連携」と「知恵・知識・情報の共有」です。これらの施策を現場の目指す方向と整合させたかたちで進めていくのがCTOオフィスの役割であり、施策を広めることでR&Dの活動をより良い方向へ変えていきたいと思います。

やり方次第で、組織力の向上や連携強化はまだまだ可能性があるように感じた。特に、経営陣と現場間でのコミュニケーション量と質の強化は大いに参考になるのではないだろうか。

FastGrowとしても、国内のリーディングカンパニーが組織変革によって輝きを増していく姿を、もっともっと見ていきたい。

こちらの記事は2023年04月27日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

山岸 裕一

写真

藤田 慎一郎

編集

大浜 拓也

株式会社スモールクリエイター代表。2010年立教大学在学中にWeb制作、メディア事業にて起業し、キャリア・エンタメ系クライアントを中心に業務支援を行う。2017年からは併行して人材紹介会社の創業メンバーとしてIT企業の採用支援に従事。現在はIT・人材・エンタメをキーワードにクライアントWebメディアのプロデュースや制作運営を担っている。ロック好きでギター歴20年。

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