顧客数300万人超、クライアント企業700社超。
データとテクノロジーを武器に躍進するイングリウッドCEO・黒川氏に訊く、「あえて資金調達しない」経営術

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インタビュイー
黒川 隆介

1978年生まれ。大学卒業後にアメリカ製品のエクスポート事業をスタート。2005年、有限会社イングリウッドを設立し、取締役社長となる。2014年、株式会社イングリウッドに組織変更し、現職へ。アメリカのDEXTerNYC,CO.,LTD.CEOも兼任。セールス・ライセンス事業、データテクノロジー事業、AI戦略事業を3本柱に事業を展開する。

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EC販売、ECコンサル、デジタルマーケティング、AIシステム開発と、順調に事業を積み上げながら、増収・増益を続けている企業がある──イングリウッドだ。

同社は資金調達を行なったことがなく、メディアに出る機会も少ないが、EC市場を中心に、エンドユーザーとクライアント双方から、圧倒的な評価を勝ち得ている。自社で運営するスニーカーのEC事業は、創業以来、15期連続で増益。自社事業で培ったノウハウを活かし、2011年からスタートしたBtoB事業でも、営業活動を一切行なっていないにも関わらず、これまでに700社以上の依頼が殺到した。昨年にはCRM(顧客管理)ツール「バズフォース」をリリースし、自社が持つECのノウハウを多くの企業に還流しようとしている。

代表取締役CEOの黒川隆介氏は、イングリウッドを「あらゆる商品を売るプロフェッショナル集団」と形容するが、いかに組織を形成してきたのだろうか。日本のEC市場を席巻する、隠れたヒーローの実像に迫った。

  • TEXT BY MONTARO HANZO
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
  • EDIT BY MASAKI KOIKE
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「目立った競合は存在しない」。イングリウッドが、圧倒的支持を集める理由

イングリウッドの事業は、大きく3つに分けられる。

1つ目は、セールス・ライセンス事業だ。自社ECを中心に、モール販売や卸まで幅広く、エンドユーザーのニーズにあわせて最適な経路で販売を行なう。創業時、黒川氏が好きだったスニーカーのECからスタートしたこの事業は、ファッションや美容、健康など、さまざまなジャンルに販売領域を拡大してきた。

なかでも、自社で運営する『SNEAK ONLINE SHOP』は、Amazon、楽天、Yahoo!などのプラットフォーム上でも、多くのファンを抱える人気ショップだ。創業から現在に至るまで、15期連続で増収・増益を続けている。

3年前からは、中国や東南アジアに向けた越境EC・オフライン販売にも挑戦。約2年間の調査期間を経て、直近1年間では6〜8億円を売り上げるほどに成長させた。中国最大級の越境ECサイト内に、専属担当者もつけてもらっているほどである。

EC市場において、グローバル規模で積極的な動きを見せるイングリウッド。黒川氏は同社の行動指針を「市場を獲得できそうな事業には、前向きにチャレンジしている」と表現する。

株式会社イングリウッド 代表取締役CEO 黒川隆介氏

黒川日本のECマーケットは、その普及とともに、以前よりはゆるやかな成長になってきたと感じています。一方、東南アジアや中国にはまだまだ爆発的な成長が見られる市場が確実に存在しています。

EC市場の中で戦うには、販売経路の選択や商品ラインナップ、マーケティング方法など、あらゆる観点で仮説検証を繰り返すことが必要です。たとえば中国において、現在は3万点ほどの商品を扱っているのですが、「当たり」になるのは3〜4商品だけです。

自社での商品販売における幅広い経験を活かし、2011年からスタートしたBtoB事業には問い合わせが殺到した。国内のEC領域において、データやテクノロジーを駆使したコンサルティングとしては、黒川氏が「競合が存在し得ない」と語るほどだ。

黒川データマーケティングを主体とした事業運営やデザインの支援に始まり、現在ではロジスティックの管理からカスタマーサポートまで、ECに関わる全域でサポートを実施しています。

EC領域はプラットフォーマーが目立ちますが、僕らは販売主体として自らの事業を運営している。だからこそ、コンサルティングの際も、プラットフォーマーの店舗向けサービス担当者にはできない、真に「販売主体」に寄り添ったサポートを提供できるんです。

近年、EC市場のなかでもD2CやOMOといった新たな概念が提唱されてきています。さまざまなチャネルを通じてエンドユーザーと向き合い、商品を販売してきた我々から見ると、その根幹は、「データとテクノロジーを使うことで、商品と顧客をつなぐこと」だと思っています。商品企画からお客様に届けるまでのプロセスを最適化し、より高い収益を生み出すことをミッションとしているため、事業部名も「データテクノロジー事業本部」としているんです。

2018年から手掛けているCRMシステムの「バズフォース」は、顧客の動向をAIによって可視化・予測し、有効なアプローチ策定に役立てることができる。

黒川多くの事業者が乱立する昨今の市場において、どのような施策を打てばLTV(Life Time Value:生涯顧客価値)を最大化し、さらなる購買へ結びつけることができるのか。自社が抱える300万人もの顧客データを活用し、顧客一人ひとりに刺さる体験を与えていくのが、バズフォースの目指しているところです。

社内での運用期間を経て、昨年から提供開始したバズフォースは、既に複数社に導入されている。AI事業を強化していくうえで、今後は世界中の優秀な「AI人材」の獲得にも注力していきたいと、展望を語る。

黒川グローバルにECを展開するなかで、世界中から優秀なエンジニア/サイエンティストがジョインしてくれるようになっています。ハンガリーやカナダ、イタリアの出身者など、各国で優秀な実績を残しているメンバーです。グローバルかつ多様性のあるチームを持っているのは、ベンチャーとしてはなかなか珍しいかもしれませんね。

よく言われることですが、AI技術者が3人いれば、世界は変えられます。革新的なアルゴリズムさえ開発できれば、GAFAのような巨大企業とも渡り合えるはずなので、イングリウッドでは独自の技術開発に注力しているんです。

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イングリウッドの真髄は、1,400ページ超の「教育プログラム」にあり

多角的な事業展開の背景には、黒川氏自身が信条としている、徹底した「ノウハウ共有主義」がある。イングリウッドの教育プログラムには、ビジネスの商流の掴み方やファイナンス、事業計画といったビジネスの上流の知識から、デザイン、プログラミングといった現場の知識、マーケティングやコマースの架け橋として数字を作っていく知識まで、黒川氏が学んできたノウハウが余すことなく記載され、日々マネジャー陣がブラッシュアップしている。その厚みは、驚愕の1,400ページにも及ぶ。

黒川教育に注力していきたくて、経営層のノウハウの還流や学びの仕組み化、言語化には気を遣っています。ノウハウを言語化することで、初めての仕事でも迷いがなくなり、主体性を持って動けるようになる。「主体性を持て」と言うのは簡単ですが、そうせざるをえない環境をつくることも、経営陣の仕事だと思っていますね。

教育プログラムは定期的にアップデートしており、四半期に一度、マネージャー職全員でノウハウを共有し、言語化する作業を欠かさずに行なっています。「教育」の価値を社員に浸透させるのは難しいですが、プログラムの作成と実施を仕組み化することで徹底しているんです。

黒川氏の「教育主義」は、大学卒業後にイングリウッドを創業したときから記入し続けていた「メモ」が源流となっているという。

黒川創業期、どんなに忙しくても経験を無駄にしないよう、「秘伝書」と名付けたメモに、その日あったことや学んだことを記入するようにしていました。特に、自分が「失敗した」と感じることは必ず記入し、どうすれば成功できたのか、考え続ける毎日でした。

「忙しい」は、学びを止めさせてしまう魔法の言葉。忙しさを言い訳にせず、若手時代はとにかく「学び、行動し、また学ぶ」ことに重きを置いていたんです。

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資金調達だけに躍起にならない。事業から学び続けることで身につけた“地に足のついた経営目線”

黒川氏の経歴も、簡単に紹介しよう。学生時代から「グローバルに活躍する人材になる」と目標を掲げ、大学卒業後はアメリカ製品のエクスポートビジネスをスタート。個人事業主として、スニーカーを日本向けに卸売する事業を始めた。イングリウッドの源流だ。

黒川就職活動が終わった頃、内定先の先輩と会う機会があったのですが、仕事への閉塞感を会話の端々に感じて。このままでは「グローバルに活躍する人材になる」という目標が達成できないと感じ、就職せず起業を選びました。

文字通りゼロからのスタートでしたが、通常の販路だと2~3倍程度の値段で取引される海外のスニーカーを、適正価格で販売する卸売業をスタートしたところ、着々と顧客がついていくようになったんです。

黒川氏は「自分で稼ぐ」ことの難しさや楽しさを感じると同時に、「正しい経営目線」を身に付けることができたと述懐する。

黒川イングリウッドがここまで成長できたのは、革新的なビジネスモデルがあったからでも、マーケットの選定が正しかったからでもありません。毎日を生きるためのビジネスを続け、その行動から学び続けた結果、感覚が研ぎ澄まされ、地に足のついた施策を打ち続けられるようになったからだと思っています。

人のお金を頼りにせず、自分で稼いだお金で最大限のチャレンジをする。この「地に足のついた経営目線」を持てたことが大きかったのだと思います。

そうした僕自身の経験もあるので、イングリウッドでは全社員がP / L、B / S、CFを理解し、会社の経営状態を正しく把握できる状態になってもらっています。経営を続けるなかで、「ファイナンスを理解していない人に事業づくりを任せてもうまくいかない」と分かったからです。

イングリウッドは創業から15年、一度も資金調達を行なったことはない。資金調達が活発な昨今のスタートアップ業界はどう映るのか。

黒川自分にもよく投資案件が持ち込まれることがあるのですが、投資家からお金を得ることだけに躍起になっている起業家に会うことも多いです。ユーザーよりも投資家を気にしてしまい、肝心のビジネスコンセプトが、どこか地に足がついてないものになっていることもあるように思います。

資金が苦しいながらも、目の前のユーザーに向けて事業をスタートし、アイデアを自分のできる範囲で試しながら勝負する。そんな時期も、将来の自己投資になることがあるのではないでしょうか。

もちろん、意思をもった起業家にお金が集まるのは推奨されるべきことです。しかし、創業期からお金を預かりすぎると「余裕」が生まれ、必死になれなくなってしまう危険性があるとも感じています。僕も若かりし頃、「もっとお金があればグロースさせられるのに」と不満を口に出していたところ、先輩経営者に「それが君の今の実力だよね?」と言われ続けてきました。

経験やコンセプトが浅い時に資金を得たからといって、最初から成功するケースは稀だと思います。短期間での資金調達や経営成績に一喜一憂せず、長期間粘り強くチャレンジしていくというのも、一つの道なのではないでしょうか。

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グローバル新規市場に参入する際に意識する、2つのポイント

今後の展望について、黒川氏は「EC市場の伸びが顕著になりつつあるアジアと、長期目線ではアフリカ市場にも挑戦してみたい」と語る。

黒川新しい市場へ進出する際、意識していることが2つあります。1つは、その国のなかでの商品価格と国外価格に生じている差、すなわち「内外格差」が大きい領域で戦うこと。この格差を解消できれば、多くの顧客獲得が期待できます。

2つ目は、誰もが挑戦しにくい領域で戦うこと。特にアフリカは未知数な領域ですが、少しずつ進出していき、まずはリアルにイメージできるところまでいきたいです。

営利団体である以上、事業スケールが大きくなることに喜びを感じることは事実です。しかしそれ以上に、事業のスケールとともに成長していく社員の姿を見るのがいまの幸せだと感じていて。職位が上がっていっても、何歳になっても、キャリアのステップアップができ、社員一人ひとりが成長し続ける環境を与えられるように努力していきたいですね。

黒川氏は、イングリウッドを単なる会社としてだけではなく、「社員の成長の場」としても見ているようだ。

黒川皆さんに伝えたいのは、イングリウッドは「データやテクノロジーを駆使して事業を作っていく」会社であるということ。EC領域に留まらず、オンラインやオフラインといった「手段」も問わず、最新技術を駆使して世界中に眠るさまざまな事業機会をグローバルに形にすべく、進化していきます。

こちらの記事は2019年09月02日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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姓は半蔵、名は門太郎。1998年、長野県佐久市生まれ。千葉大学文学部在学中(専攻は哲学)。ビジネスからキャリア、テクノロジーまでバクバク食べる雑食系ライター。

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藤田 慎一郎

編集

小池 真幸

編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。『CAIXA』副編集長、『FastGrow』編集パートナー、グロービス・キャピタル・パートナーズ編集パートナーなど。 関心領域:イノベーション論、メディア論、情報社会論、アカデミズム論、政治思想、社会思想などを行き来。

デスクチェック

長谷川 賢人

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

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