連載テクノロジーが最適化する10兆円市場〜衣服産業で起こる変革の兆し〜

店舗販売員にもCtoCの波。
ベイクルーズ出身者が挑む、「販売員シェアリング」という働き方改革

社会的トレンドである働き方改革を皮切りに、スタートアップ界隈でも人材やスキルのCtoCマッチングサービスが隆盛を極めている。このトレンドは、ファッション業界でも同様のようである。ネット通販の売り上げが拡大しているとはいえ、アパレル企業は店頭販売員不足により売り上げ拡大に苦戦中だ。単純な接客に加えてバックヤードの在庫管理やSNS運用など、業務が拡大していることもこれに拍車をかけている。

そんな中でベイクルーズ出身の窪田光平氏が今年、店舗(ストア)と販売員(タレント)のマッチングサービス「MESHWell」を発表し、話題となった。誰もが隙間時間を使って気軽に店頭に立つことで、人手不足を解消しようというのだ。メッシュウェル窪田社長が考えるこれからのアパレル業界の働き方とは。

  • TEXT BY TAKAHIRO SUMITA
  • PHOTO BY SHUNSUKE IMAI
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米国で見た、ミレニアル世代フリーランサーの活発さ

窪田氏は学生時代からアパレルの販売員を経験し、大学卒業後は丸紅へ入社、輸入・貿易業務に携わってきた。その後ベイクルーズでEC事業の拡大とカスタマーサクセス(顧客との関係構築)のための新事業などを担当。2015年に青山のCITYSHOP立ち上げを終えると、アメリカへわたりMBA(経営学修士)取得を目指した。

窪田アメリカでは、ミレニアル世代の半数(人口の5%およそ1500万人)が正規雇用ではなく、自分の特技を生かしてフリーランスとして働いていました。結婚・出産といったライフステージに合わせて自分がやりたいことを優先したり、複数の業種で働いたりと、正社員の拘束時間ではなし得ないことを彼らはやっていた。しかも、みんなが生き生きとしていることに感動したんです。

日本での販売員不足とそれによる売り上げ低迷という現実を見比べて、正社員ではない働き方もあれば、現場を離れていった販売員を呼び戻せるのではないかと考えました

メッシュウェル設立の経緯について窪田氏はこう語る。そうして2017年11月に学業と並行してサービス構築のためのチームメンバーを集めはじめ、3月からサービス開発に着手。MBA取得後に帰国した6月に試作品を完成させ、国内アパレルへの営業をスタートした。

8月には、ゴールドウイン傘下のSpeedoによるポップアップストアではじめての実証実験を開始。期間中の販売員をメッシュウェルを通じて集めることに成功した。

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販売員が条件を提示し、働くショップを選ぶ

メッシュウェルの仕組みは簡単だ。販売員として隙間時間を活用したいユーザーが希望の日時やエリア、報酬を登録する。一方で働き手を求める企業は店舗ごとにアカウントを作成し、条件に合うユーザーを探す。マッチングが成功すれば、希望報酬を支払う形で決められた日時だけ販売員が店頭に立つ。

店頭での業務は今のところ接客とおたたみ、レジサポートの3つに限定される。店舗ごとに仕組みが異なるバックヤード業務や売り上げに関わるレジ業務は担当しない。

ユーザーの登録に販売員経験は必須ではない。もちろん、販売員経験や語学などのスキルを記入・アピールすることもできるし、ユーザーが働きたいブランドにオファーを出すこともできる。サービスで重要なことは、条件面において販売員側の希望が優先されているという点だ。

現在はポップアップなどへのマッチングを目的にモデルエージェンシーと法人契約をしていたりもするが、基本的には販売員をしてみたい人であれば誰でも自由に登録ができる。2019年4月現在 270人のユーザーが登録をしており、男女比はちょうど半分。販売員経験がある人は全体の半数程度だ。

メッシュウェルで広報などを担当する伊藤ゆりさんも、実際に販売員として働く一人。これまでヨガインストラクターとして働く一方で、ウエディングプランナーや営業職を経験してきたが、アパレルの販売員経験はない。

伊藤長く働いていたり、そのブランドの商品知識を持っていることはたしかに大切なスキルですが、これがなければ接客できないかといえば、そうではありません。サイズ展開や在庫のことはすぐに他の販売員さんに相談すればいいし、お店側も自分の立場を理解してくれているので、不安はありません。

伊藤もちろん、初めて働くお店ではコンセプトを理解して最低限の勉強はしますが、顧客のニーズを聞くことはアパレル販売員でなくてもできることだし、それも商品知識と同じくらい大事なスキルだと思うんです。

一般的には商品情報がなくて接客できるのかと思われがちですが、すでに現場ではその概念が覆されています。ブランドにとっても最初の一歩はハードルがあることは事実ですが、まずは使って実感していただくより他にないと思っています

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2月にサービスを本格ローンチ、事業拡大へ

夏頃から店頭でのトライアルを重ね、すでに90回以上のマッチングを実施した。対顧客販売実績額も1回あたり平均4万7777円と好調で、これは窪田氏にとっても予想以上の成果だった。

利用企業もSpeedoを皮切りに、ベイクルーズ傘下のSpick and SpanやFRAMeWORK、トゥモローランド、横浜にあるCOMMUNITY MILL、子ども服のMARLMARL、デイトナインターナショナルが実施したFIRST DOWNのポップアップストアなど、すでに幅広い企業から支持を集めている。

利用企業からネガティブな意見をもらうこともなく、むしろ「辞めた販売員を再び取り込むことはできないのか」という相談を受けるようになった。

こうした成果を経て、今年2月にはサービスを本格ローンチした。2019年中に登録ユーザー500人、ショップ数100店舗を目指し、東京以外のエリアへもサービスを広げたい考えだ。

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販売員のフリーランス化は、業界に変革をもたらすか?

販売員の人手不足という社会問題に対して、なぜこれまでこうしたマッチングサービスは生まれなかったのか。

窪田業界の基本として、これまでは安定した正規雇用がベースにあって、働き手もそれを望んでいました。そんな中で複雑化する業務とそもそもの労働人口の減少、また、結婚・出産などを経験してこれまで通り働けない人が増えてきた。

最近ではECの売り上げが増えていますが、それでも売り上げの7〜8割は店頭です。企業がこうした状況に対して危機感を感じ始めたのは意外と最近だったんです

メッシュウェル最大の特徴は、働き手がフリーランスであることだろう。窪田氏は今後対応業種を美容師やマッサージ師など多業種に広げたいと話すが、その先には“自由で多様な働き方”という未来が待っている。

窪田例えば、美容師をやっている人が販売員をしてみたいとか、こうした業種を横断した働き方もできると思うんです。しかも環境を変えることで得意分野を見つけたり、気付きがあって両方の仕事においてステップアップをすることも可能です。

いろんな職業に挑戦できる働き方は今後必要になるでしょうし、職業は一つに絞らなくてもいい時代が来るんだと思います

こちらの記事は2019年04月18日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

角田 貴広

写真

今井 俊介

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