連載テクノロジーが最適化する10兆円市場〜衣服産業で起こる変革の兆し〜

「サステナブル」は事業フェーズごとに世界観を変えることで実現できる
──シタテルに学ぶ「論語と算盤」の実践方法

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インタビュイー
河野 秀和

1998年外資系金融機関(AIG/ALICO)を経て独立後、総合リスクマネジメント事業や . 衣服のカスタマイズ事業を行い、2013年に米サンフランシスコ/シリコンバレーでインターネットサービスのプロダクト開発、M&Aやベンチャー企業の経営、デザイン経営、事業戦略等の見識を深める。帰国後2014年シタテル株式会社を設立。
現在、熊本と東京を拠点に活動。

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スタートアップとして短期間での加速度的な成長を追求しながら、サステナブルな社会の実現を目指している企業がある。衣服・ライフスタイル製品の生産や販売を支援するクラウドサービスを展開するシタテルだ。

同社が展開する『sitateru CLOUD(シタテルクラウド)』は、衣服・ライフスタイル製品を作りたい事業者とデザイナー、パタンナー、縫製工場、生地・資材メーカーなどをつなぎ、生産や販売をワンストップでサポート。これまで閉鎖的だったサプライチェーンを解放し、旧態依然とした産業構造や環境問題など、産業が抱えるさまざまな課題の解決を目指す。

人や環境に配慮をしながら、事業も成長させる──社会性と収益性の両立は、連続的な成長を求められるスタートアップにとっては、決してたやすいことではない。だが、シタテルは創業当初からこの難題に挑み続けている。

ときには、「収益にまだまだ伸びしろがある状態で、『社会性』との両立は難しいのでは?」と言われることもあった。それでも、衣服・ライフスタイル産業が抱えるさまざまな課題をビジネスの力で解決し、全てのステークホルダーを幸せにしたいという決意は揺るがなかったという。社会性と収益性をいかにして両立させてきたのか、代表取締役の河野秀和氏に聞いた。

  • TEXT BY RIKA FUJIWARA
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
  • EDIT BY MASAKI KOIKE
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衣服・ライフスタイル産業に地殻変動を起こす『sitateru CLOUD』

多重構造化、デジタル化の遅れ、労働問題。そして、衣服の大量廃棄による環境破壊……衣服・ライフスタイル産業が抱える課題は根深い。シタテルは「ひと・しくみ・テクノロジーで衣服の価値を変える」をミッションに、これらの解決に挑戦してきた。

2015年には、衣服を生産したい事業者と工場やサプライヤーをつなぐ衣服生産プラットフォーム『sitateru(シタテル)』をローンチした。2020年には、アパレル業務のDXを支援するSaaS『sitateru CLOUD 生産支援』をローンチし、衣服生産における情報管理や共有、各サプライヤーとのコミュニケーションをデジタル化。そして2021年2月には、衣服やライフスタイル製品の生産や販売、配送までをクラウド上で完結できる『sitateru CLOUD販売支援』の提供を本格開始した。

河野氏が「『sitateru』の進化版」であり、プラットフォーム事業の重要なプロセスとなると語る『sitateru CLOUD生産支援』は、『sitateru』で培ってきたアイテムやスケジュール管理のノウハウ、事業を展開するなかで広げてきたサプライヤーのネットワークをクラウドに実装したものだ。『sitateru』では、衣服生産を希望する事業者と縫製工場がマッチングされたあと、セールス担当者が仲介役として入り、アイテムのデータやスケジュールを管理しながら衣服生産をサポートしてきた。これらの機能をクラウドに搭載することで、事業者や工場が自ら各種データやスケジュールをハンドリングできるうえ、コミュニケーションもクラウド上で自由に行えるようになる。

『sitateru CLOUD 生産支援』のダイレクトメッセージ機能。スケジュール管理はもちろん、サプライヤーとのコミュニケーションもクラウドで完結する。

河野『sitateru CLOUD 生産支援』は、アパレル産業のDXの加速を目的に、これまでのナレッジの実装と、高い視認性(UI/UX)にこだわりました。

アパレル産業は、ブランド事業者や縫製工場、資材メーカー、仲介業者などさまざまなプレイヤーが存在し、多重構造化しています。しかし、それぞれの業務は紙などのアナログな方法で管理されていることも少なくありません。また、コミュニケーションも電話やFAX、メールなどが使われており、煩雑化しています。

この方法だと情報が分散され、業務が属人的になってしまいますし、やりとりの過程で複数アイテムの話が混在するという課題が生じます。アイテムのデータやスケジュールの管理機能、アイテムごとのチャット機能を搭載することで課題を解決し、アパレル業務の効率化や生産性の向上を目指しました。

『sitateru CLOUD 生産支援』を導入すると、業務効率化が図られ、現場の負担もコストも大きく削減できると、これまで250社ほどに導入いただいています。

2021年2月にリリースした受注生産特化型のクラウドサービス『sitateru CLOUD販売支援』は、生産や販売、配送までのプロセスをクラウド上で一元管理できる。受注成立数や目標数を設定し、クラウドファンディングのように注文数が最低ロットを超えた場合にのみ、生産や販売につながる仕組みだ。もともとD2Cブランドを展開する事業者向けに提供していた『sitateru SPEC(シタテルスペック)』を、アパレル事業者全般向けに開放した。

河野ユーザーにとっての利便性はもちろん、衣服の大量在庫・大量廃棄の問題にアプローチをしたいという考えのもと、開発を進めてきました。

日本では、推定で年間100万トンもの衣料品が廃棄されていて、大きな社会問題となっています。特に、新型コロナウイルス感染症の拡大による外出自粛の影響で小売店の売り上げが減少し、大量の売れ残りが発生している。

そもそも近年は、社会的にも環境問題への意識が高まっています。多くの衣服の廃棄を伴う従来の大量生産・大量販売のやり方のままでは、限界が来ていることは明らか。在庫を持たずに必要な分だけ生産し、販売をしていく流れは、生活者の趣味嗜好も多様化するなかで、今後のスタンダードにもなっていくはずです。

人々のライフスタイルやニーズが多様化していくなかで、長いあいだ変革が起きなかった衣服・ライフスタイル産業。『sitateru CLOUD』の存在は、その産業に地殻変動を起こし、人や環境に配慮したサステナブルな産業への変化を促す可能性を秘めているのだ。

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スタートアップに「社会性と収益性の両立」は可能なのか?

世界の企業が一丸となってSDGsの達成やESGの取り組みを続けるなかで、至るところで「サステナブル」という言葉を目にするようになってきた。日本国内でも、環境や社会、ガバナンスの要素も組み入れたESG投資の市場規模が、2016年から2018年の2年間で176兆円の増加を見せた。今や、企業も自社の成長だけではなく、人や環境への配慮といった社会性も求められているのだ。

ただ、シタテルの場合は、単にこの潮流に「乗っかった」わけではない。環境配慮や働き方改革が声高に叫ばれる前から、社会性と事業の収益性の両立を目指してきた。

河野メーカー、金融機関に勤めた後、独立してリスクマネジメントやファイナンシャルプランニングに関する事業を展開してきました。その際、新規事業を検証する過程で、サンブリッジグローバルVCのアクセラレーションプログラムにて起案したビジネスモデルを評価していただき、米国のシリコンバレーでインターネットサービスのプロダクト開発やスタートアップ経営についての見識を広めてきました。

ベンチャー企業の様々な成功事例や失敗事例、自らの失敗など、“リアル”な現場での経験に基づき独学で経営学を学んでいくなかで、「企業・事業の継続」という観点で生々しい現場の実情を目の当たりにし、打算的に動くのではなく本気で挑まないと、この産業の永続性やディスラプションは起きないと感じ取ったんです。

実際に縫製工場やアパレル倉庫に足を運ぶなかで、工場で働く人たちが納期に追われていたり、原価を抑えられていたりする状況や、消費者の手に渡らずに残ってしまった大量の衣服を目にしてきました。そうしたひずみを目の当たりにするたびに違和感を覚え、スタートアップとしてビジネスで解決していこうと決めたんです。

だだ、産業にはびこる課題を解決し、サステナブルな産業をつくり上げるためには、長い年月がかかる。急速な成長が求められるスタートアップとの相性は、決して良いわけではないだろう。当初は投資家に構想を話しても、なかなか理解を示してもらえなかったという。

河野当時はまだSDGsやESG投資といった概念が普及していなかったこともあり、構想を話しても「スタートアップなのに『サステナブル』なんて言っていていいのか?」と苦言を呈されましたね。当時は、創業したばかりでもありましたし、足元の資金がないなかで、「サステナブルな産業を作る」のは難しいのでは? と。

産業の課題を現実的に解決していくためには、ビジネスとしての足場を固めなければいけない。そう考えた河野氏は、創業からの4年間は「サステナブル」というキーワードは掲げなかった。

河野2018年ごろまでは、産業課題の解決を目指してプロダクト設計をしつつも、まずは一定の収益をあげることを最優先にプロダクトを磨き込んでいきました。

さまざまな産業課題のなかでも、テクノロジーによる課題解決がイメージしやすく、収益性も確保できそうだと感じたのが、BtoBに特化した衣服生産プロセスの支援でした。閑散期の顧客獲得に苦戦する縫製工場は多く、ニーズがありましたし、衣服を作りたい事業者を直接的につなぐことで、業界構造の分断を補正していくことにもつながります。

『sitateru』やそこから派生したプロダクトやサービスを展開して、実績が出てきたタイミングで、「社会課題の解決」「衣服産業をサステナブルに」といった目指す世界観を、より積極的に打ち出すようにしていった。同時に自社の事業も、属人性を排したサステナブルな仕組みとして提供していくことを目指し、これまで『sitateru』を通して得たナレッジを、クラウドに昇華させることにした。中長期的に産業を支えていくためには、シタテル自身がサステナブルな状態でなければいけないと考えたのだ。

河野事業を設計するうえで、「自分たちが届けるサービスに関わる人たちは、全員が幸せなのか?」という問いは欠かしませんでした。もちろん、社内外にかかわらず、です。

市場の課題は自社のプロダクトで本当に解決できるのか、収益をあげられてもどこかに負荷がかかっていないか、そうしたチェック項目などを作ってプロダクトの設計に盛り込んでいきました。もしも負担がかかっているところがあれば、課題を抽出して、プロダクトを設計し直していく必要がある。

これらのプロセスを踏んでいけば、プロダクトの改善と同時に、社会的な問題の解決にもつながっていきます。事業の成長性と社会性は二律背反のイメージがあるかもしれませんが、決して両立は不可能ではありませんし、相乗効果が生まれていくと思います。

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「収益性と社会性のはざまで生じた課題」を解決する組織設計

ただ、道のりは順調ではなく、収益性と社会性を両立していくにあたっては、プロダクトやチャネルが分散したこともあったと振り返る。

河野ビジネスとしての成長性に加えて、社会課題の解決を打ち出してから1年ほどが経ったころですね。

たとえば、社会性を重視するがあまり、過度な工場への原価の配慮があったり、現場のアイデアだけで収益性を意識しないままプロダクトが開発されたり、事業の収益化を焦るあまり目先の施策が乱立したりしたと。その分散をひとつに束ね上げていくことには、非常に苦労しました。

ただ、プロダクトやチャネルの精度を高めるためには、一度フラグメンテーション化させることは必要不可欠な工程であったとも思っています。

この課題に対して、河野氏は組織設計と構造を見直すことでこの危機を乗り越えた。事業開発やエンジニアなど価値を作る部署、セールスやマーケティングなど価値を広げる部署、経営管理など会社の基盤を支える部署の3つの役割を明確にする。そのうえで、注力すべき部署をフェーズごとに決めていった。

河野ミッションを達成するために、どこの部署から強化すべきかを見極めて、順番に対処していきましたね。コロナ禍の影響もあり、立ち込める市場の不安からも、一定離職も発生しました。でも、まずは会社の財務基盤を整え、経営管理など会社の支柱になる部署を強化し、社員が安心して働くことができる環境を丁寧に整えていきました。その後、取締役の鶴征二と共に、価値の創出を担う事業開発や開発のメンバーに目を向けて最適化し、プロダクトの品質が向上したタイミングで、価値を広げる営業やマーケティングの部署の育成に力を入れていきました。

ブレない思想と、それらをいかにプロダクトや組織に組み込んでいくのかが全てだと思っています。創業時から今に至るまで、優先順位、攻め方、プロダクトの作り方のチューニングには力を注いでいますね。

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有機的なプラットフォーム連携で
『sitateru CLOUD』の非連続な成長を加速させる

衣服・ライフスタイル産業が抱える課題に着目し、ビジネスで解決していくことにこだわり続けてきた河野氏。テクノロジーの力で産業の負を解消し、人や環境に配慮した産業へと変革するために、『sitateru CLOUD』はプロローグのような役割を果たすという。

河野私たちが目指しているのは、あらゆる衣服生産や販売に関わるコミュニケーション、ネットワーク、ワークフローの支援を『sitateru CLOUD』で実現できるような状態です。たとえるならば、「衣服作りのインフラ」とも言えるでしょう。衣服を主として、製造や販売に関わるバリューチェーン内の機能やサービスをクラウドで享受でき、全てのプレイヤーがワンサービスのなかでビジネスの取引ができる未来を描いています。世界中で使われているような、AWSが近いかもしれませんね。

それを実現していくため、構築したネットワークに加え、『sitateru CLOUD』でSaaSを用いたワークフローの支援に注力していきたいです。その先には、衣服を作るための細やかなサービス、生地資材などのマテリアルが並ぶマーケットプレイスも必要だと感じています。

アパレルのバリューチェーン全体に対して機能を提供し、どのセクションでも自由に使えるような機能を実装することで、今後は産業構造自体が一気に変化していくと思います。

産業のインフラ構築に向けて、シタテルはプロダクトの磨き込みとあわせて「拡大」に力を入れる。今後は、金融機関や小売業など、さまざまなパートナーと連携していく。

河野ようやく、生産支援や販売支援というかたちでクラウドのパッケージができたのですが、拡大スピードがまだまだ課題だと感じています。そこで、2021年に入ってから注力しているのがパートナー戦略。大手の小売店や金融機関などと連携し、直販だけはないアプローチが始まりました。

シタテルは、まだまだここから飛躍的に拡大する。産業課題を俯瞰して捉え、そのひずみを解消していきたいと考えているパートナーと有機的につながり、プラットフォーム連携しながら拡大し、成長を加速させていきたいですね。

難易度の高い課題であっても自らの意思を貫き、一歩ずつ歩みを進める。「自分たちが提供するプロダクトは、関わる人たちを幸せにできるのか?」。この問いに答え続けることが、シタテルの今後の事業成長と社会性の両立を、揺るぎないものにするための礎になるはずだ。

こちらの記事は2021年04月20日に公開しており、
記載されている情報が異なる場合がございます。

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執筆

藤原 梨香

ライター・編集者。FM長野、テレビユー福島のアナウンサー兼報道記者として500以上の現場を取材。その後、スタートアップ企業へ転職し、100社以上の情報発信やPR活動に尽力する。2019年10月に独立。ビジネスや経済・産業分野に特化したビジネスタレントとしても活動をしている。

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藤田 慎一郎

編集

小池 真幸

編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。『CAIXA』副編集長、『FastGrow』編集パートナー、グロービス・キャピタル・パートナーズ編集パートナーなど。 関心領域:イノベーション論、メディア論、情報社会論、アカデミズム論、政治思想、社会思想などを行き来。

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