連載株式会社フライウィール

企業のAI活用は、「使われていない情報」こそが価値──MSでのグローバル開発経験を持つフライウィールCTO・波村氏が指摘する、日本企業が抱えるデータ整備の課題

Sponsored
インタビュイー
波村 大悟

米国ミネソタ大学卒業。専攻はComputer Engineering。Microsoft Development Ltd.にて検索及び人工知能事業の執行役員。それ以前は、Google Japanにおいてコマースや決済、Google Play の検索/クーポンシステムなどのエンジニアリングマネージャーを担当。Microsoft Corporation(US本社)にてC#や.NET Frameworkなどの開発にかかわる。2018年にフライウィール創業。

関連タグ

「AIを導入したが、現場で活用しきれていない」。

そんな悩みが、日本企業のあちこちで聞かれるようになった。だが、問題はAIそのものではない。株式会社フライウィールCTO・波村 大悟氏はこう指摘する。

「そもそも、情報が整備されていなければ、AIの効果を十分に引き出すことは難しくなります」。

同社の連載第1弾(解剖記事)では、日本企業に根深く存在する“使えないデータ”の構造課題を明らかにし、第2弾(代表取材記事)では、フライウィールCEO・横山 直人氏が「整えられたデータが未来を変える」というビジョンを語った。

そして本稿では、その構想を“設計と実装”で支えるCTO・波村氏の視点に迫る。

前職Microsoft在籍時にはビル・ゲイツとの技術的な折衝にも立ち会い、次のGoogle在籍時には検索UXの設計にも関わった人物だ。

そんな彼がなぜ今、「情報設計こそがAI時代の勝敗を分ける」と語るのか。

本記事では、“整っていない情報”をどう読み解き、業務に役立つ価値へと変えていくのか、その技術思想と具体的な実装に迫る。

  • TEXT BY HARUKA YAMANE
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
  • EDIT BY TAKUYA OHAMA
SECTION
/

AI・データ活用の肝は、検索と推論の“あいだ”を設計することだ

波村AIそのものの性能が問題なのではありません。多くの企業で、AIに渡す前提の情報が“整っていない”ことが問題なんです。

連載第1弾で挙げた通り、今、日本の多くの企業で「AIを導入したのに現場で機能しない」という問題が起こっている。積極的に業務効率化を進めようとしているにも関わらず、業務改革に繋げられている企業は約3%にとどまっているのが現実だ。

【AIが動かない例①】

ユーザーからの“よくある問い合わせ”に自動で対応できるAIチャットボットを導入。しかし、「回答が的外れ」「結局オペレーターが対処している」といった不満が続出。AIチャットの利用頻度は下がるばかり。

【AIが動かない例②】

AIが「この工程を省略すればコストが削減できる」と提案しても、「品質が落ちてしまう」「顧客との信頼関係上、削減できない」など、“データだけでは読み取れない現場の定性的な情報が含まれていない”ため、AIの提案が次々に却下される。

このように、AIによるChatbotや社内用のGPTを導入しても十分に活用しきれていないケースが散見される。読者の中にも、「普段GPTを活用しているが、どうも上手く活用できている気がしない……」と感じている人も少なくないはずだ。

波村ここでいう“整っていない情報”とは、たとえば次のようなものを指します。「部門ごとに分散するExcel」「更新頻度の低い共有ドキュメント」「検索が困難なチャット履歴」」など──。

これらの情報は、社内に存在こそしていても、「どこにどんな状態で存在しているのか」が可視化されていないために、必要なときに必要な情報を呼び出すことができなくなっているんです。

つまり、「情報は“ある”が、“使えない”」ということですね。

波村氏の弁を整理すると、多くの企業で直面しがちな課題として、以下のような点が挙げられる。

  1. 情報を検索できない
    AIに渡す情報を探そうと思っても「どこになにがあるのか分からない」「探しているのに見つからない」という状態にあっては、そもそも情報を整理することができない。
  2. 情報の形状・粒度がバラバラ
    文書・表・画像・動画など情報そのものの形状が異なるうえ、情報の粒度もさまざまとなれば、一貫性がないため整理の難度は格段に高まる。
  3. 企業独自の情報を伝達できない
    企業の特性、顧客の特性や状況、社内用語や現場の事情など、データからは読み取れない“企業ならではの情報”を伝えられないと、AIはうまく機能しない。

こうした状況のままAIを導入しても、当然ながらアウトプットの精度や求める成果は望むべくもない。なぜなら、AIが正しく判断を下すには、業務の流れや目的に即した、意味づけされた情報が必要だからだ。

情報が業務の文脈と結びつかずバラバラに存在していると、AIは適切な推論ができない。

また、必要な情報を現場でスムーズに“呼び出せる”状態でなければ、AI活用どころか人間の意思決定にも支障が出る。

波村“情報を検索して取り出す部分”と、“AIが推論して答えを出す部分”。その“あいだ”を設計できていない企業が、実はものすごく多いんです。

波村氏が指摘する「検索と推論のあいだ」。これは、「必要な情報を、必要な粒度・意味づけで取り出せる状態」を作り込む設計領域を指している。先の解剖記事で紹介した通り、単にデータベースを整理するだけでは不十分。自社の業務文脈に沿って“使える状態”に整える必要があるわけだ。

SECTION
/

整っていない情報を、壊さず整える。
“AI時代のデータ基盤”構想

そこで登場するのが、波村氏の“壊さず整える”という構想である。A・B・Cという各情報(データベース)を分解して新しいD(データベース)として統合するのではなく、A・B・CはA・B・Cのまま、“検索”で引き出し横断できるようにする。

波村先の記事でもお伝えしましたが、日本企業の中でもエンタープライズになると、数百におよぶデータベースが社内に点在しているケースもしばしば見受けられます。たとえば、あるメーカーでは300以上のデータベースが存在しており、こうした統合プロジェクトは多くの企業で試みられてきましたが、技術的・組織的な困難から、想定した成果が出ないケースも少なくありません。

取材内容等を基にFastGrowにて作成

波村企業内で活用しているシステムが多様であればあるほど、すべてのデータを一つの環境に統合すること自体が困難なんです。なぜなら、データ自体を無理に統合しようとすれば、コストはもちろんのこと、そのデータの破綻リスクも背負ってしまうからです。

そこで僕らは、各データベースは“そのまま”に、仮想的な索引・インデックスを付与するアプローチを採用しました。

企業内で、ある人が「自社の◯◯を知りたい」と思ったときに、インデックスを通じて関連するデータがどこにあるのか推定し、必要な情報を的確に抽出・提示する──。この、情報を壊さずそのままの形で整える仕組みが、多くの日本企業のAI・データ活用を動かす肝、“AI時代のデータ基盤”になると確信しています。

散在し、意味づけされないまま放置されていた情報群。それらを業務文脈に沿って“壊さず、整え”、活用できるようにする。その解決策が、本連載では初公開となる、フライウィールのデータ活用プラットフォーム『Conata®』だ。

SECTION
/

「整えて終わり」ではない。
AI活用には“情報を呼び出す力”が不可欠

「壊さず整える仕組みと言っても、実例を見ないとイメージが湧かない」

そんな声に応えるには、日本生活協同組合連合会の事例が役にたつ。同社ではこれまで、顧客データ・顧客行動データ・発注データ・商品カタログ・レシピデータ・Feedback Dataと、種類も形状も異なるデータが社内に点在している状態にあった。そこで、それらのデータ全てをフライウィールの『Conata®』で収集、整理した。すると、バラバラだったデータが統合され、“データが使える”状態となり、供給予測、レコメンド機能、カタログ配布の最適化など新たなソリューションの開発につながったのだ。

導入事例:日本生活協同組合連合会(生協)
カタログ・チラシ配布の最適化で最大50%の配布部数削減に貢献

波村裏側ではどんなことが起きているかというと──。

たとえば、ある企業で「小売業における顧客の売上がどのように推移しているのか」を知りたいとします。ですが、社内には部門ごとに異なるデータベース(DB)が存在しており、データの保存形式や取得方法も統一されていない。そのため、データを横断的に取得する際には、ユーザーが自然言語で入力したリクエストを、システムが自動でSQLクエリ*やAPIコール*などの適切なアクセス手段に変換し、必要な情報にたどり着けるよう設計しています。

*データベースから情報を取り出すための特別な命令文

*アプリケーション同士をつなぐインターフェースに、データ要求する操作

そうして必要なデータを取り出し、さらにデータ同士を組み合わせて、ユーザーが理解して活用できる情報(グラフやマップなどのUI)に整えてアウトプットしているんです。

また、『Conata®』のサービスの一つであるデータ活用アシスタント『Conata Data Agent』では、「いつ、どこで、誰が、どういう状態のときに、何を見せるか」という、ユーザー一人ひとりの状態や状況に応じた適切なコンテンツ、表現を探して提示する設計が組み込まれている。

波村一昔前の技術では、たとえば「小売業における顧客の売上がどのように推移しているのか」を知りたくても、システム側がユーザーからの“検索”や“リクエスト”を正しく理解すること自体が技術的に難しかったんです。もちろん、まったくできなかったわけではありませんが、ここまで精度高く理解できるようになったのは、ChatGPTのような大規模言語モデル(LLM)が登場してから。

強力な検索技術とデータ処理能力、加えてLLMに軸をおいた生成AIを駆使して情報を変換し、企業情報に精通した専属データアナリストのように価値ある情報を抽出して見える化する──これは従来の検索よりもさらに“一段上のレベルの技術”だと自負しています。

『Conata Data Agent』では企業内のあらゆるデータを横断して、それまではユーザー自身も気がついていなかったデータのつながりを可視化したり、シミュレーションで評価したりすることもできる。結果、ユーザーがよりスピード感をもって最適な意思決定に導くことを可能にしている。

【Conata Data Agentの機能例】

ナレッジ検索機能

ChatGPTのように、知りたい疑問をそのまま文章で入力すると、社内データを横断的に網羅しながらデータ間の関係性を考慮して情報をまとめ、回答してくれる。構造化データはもちろん、PDFや画像などを含む非構造化データから抽出した情報を利用して質問に回答する。

フライウィールコーポレーションサイトから引用

データ分析・可視化機能

対話型の操作で直感的にデータの可視化を実現。対話を進めながらデータをドリルダウンし、集計レベルを掘り下げた、効率的かつ深い分析が可能。

フライウィールコーポレーションサイトから引用

加えて、導入企業内で業務改善が進むと、従来にはなかった新たな業務プロセスや連携ログが生まれる。たとえば、新たに策定された発注ルールの実行記録や、横断的な在庫・購買データなどだ。『Conata®』はこうした「新しい業務データ」も取り込み、既存のデータ群と横断的に結び付けながら、意味づけ・整形・変換を行う。

結果、データ活用の幅が広がり、次の改善施策や意思決定に繋がっていく。つまり、データを壊さず整えることが、新たなビジネスチャンスの創出にも直結するわけだ。

これこそが、フライウィールが目指す「壊さず整える」情報活用の世界観である。

SECTION
/

「その技術にオリジナリティはあるか?」。Microsoftでビル・ゲイツと“C#の生みの親”から学んだ設計思想

波村実は、どの情報を、どの文脈で、どの粒度で引き出せるか──という検索体験を意識して設計する発想は、Microsoft時代から磨いてきたものでした。

フライウィールのデータ基盤ソリューションは、今でこそ国内では珍しいアプローチになったと思っていますが、構想を描きはじめた当初から、「これが実装できれば、企業現場に大きなインパクトを与えられるはずだ」という確信はありましたね。

ただ、そうは言ってもChatGPTが登場するまでは実現方法が見えていなかった。なので、ChatGPTが出てきたことでゲームのルールが変わり、私も構想を具現化する上で一気に流れが向いてきたなと感じています。

とはいえ、ChatGPT以前の時代には、その実装手段がなかなか見えてこなかった。生成AIの進化によって「検索と推論のあいだ」を埋める技術が現実味を帯び、ようやく実現への道筋が開けたんです。

なんと波村氏は、ここまで紹介してきたAI時代のデータ基盤構想を、“AIが注目される前から”考えていたというのだ。しかも、そのルーツには、Microsoftでビル・ゲイツ氏や、世界トップクラスの優秀なエンジニアたちとともに技術開発に勤しんだ経験があった──。

波村2000年代前半当時、まだ世の中に出ていなかった C#というプログラミング言語の開発から私のキャリアが始まりました。ところが、いざ現場に入ると仕様書が存在しておらず、「とにかく書け」と指示がくるんです……(笑)。仕様を議論するよりも、動くものをはやく作るという文化で、当時は時間を忘れて開発に没頭し、ソースコードを更新し続けるような世界でしたね。

また、当時のビル・ゲイツには「Think Week(シンク・ウィーク)」という習慣があって、年に2回ほど1人でどこかにこもり、200万枚くらいの提案書を読む時間を設けていたんです。

<波村氏の経歴>

  • Microsoft(US本社)で C# や.NET Framework などの開発に携わる
  • その後、グーグル合同会社(Google Japan)ではコマース、決済、Google Playの開発などに携わる
  • Microsoft Developmentへ移り執行役員に就任、検索やAIエンジニアリングを担当

波村その提案書は、社員なら誰でも応募することができたので、僕も応募してみました。たしか最終選考前まで進んだ覚えがあります。

当時提案した内容は、AIを使ったテストの自動化に関するものでした。AIによる自動化は今でこそ注目されている分野ですが、2000年代の当時では誰も取り組んでいなかったと思います。時代を少し先取りしすぎましたね。

当時を懐かしむ波村氏だが、フライウィールのプロダクト開発に活かされている原体験は他にもある。そこで彼が学び得たものは、「設計できないアイデアに価値はない」という厳しい技術哲学だった。

波村C#やTypeScript(タイプスクリプト)などのプログラミング言語をつくったことで有名な世界的な言語デザイナー、アンダース・ヘルスバーグ氏が率いるデザインチームに入ることができたことは、大きな財産となっています。

2000年代初期の開発環境であるTurbo Pascal(ターボパスカル)*やDelphi(デルファイ)*などもつくっていたデンマーク出身のエンジニアなのですが、週に2回ほど、彼がどうやって新しいアイデアを形にしていくのかを間近で学ぶ機会がありました。彼はビル・ゲイツ氏にプレゼンをしたこともあるような人(ビル・ゲイツに直に提案できるのは、優秀なアーキテクトや世界的な有名人などの一握りだった)で、アイデアの研ぎ澄まし方が素晴らしかった。

*1980年代〜90年代前半に流行した、プログラミング言語「Pascal」の開発環境

*Turbo Pascalをさらに進化させて、「Windowsアプリケーション」をビジュアルで素早く作れるようにした開発環境

波村まず「これは他の技術でも再現できるか?」と我々に問いながら、ひたすらシンプルな形に削ぎ落としていくんです。「このソリューションでしか表現できない言葉まで具体化せよ」「他の手段で代用できるようなら、そのアイデアは本質ではない」といった考え方です。

チーム全員がその美学のもとで開発を進めるんですが、今思えばなかなかストイックでした。アイデアを持っていってプレゼンしては、手厳しいフィードバックを受けるんです。極端な話、彼にスライドを映した時点で「スライドはいらない。今目の前のホワイトボードに自分の言葉で書いてみろ。その言語化ができないなら、帰ってくれ」とバッサリ切られるような環境でした。ですが、そこでの経験や考え方があったからこそ、今の挑戦があることは間違いありません。

たとえば「AIでデータをどうやって活用するのか?」というテーマでも、「このやり方でしかできないのか?」「他社や他の技術でもカバーできるのではないか?」と、とことん考えて研ぎ澄ましていきました。その結果、Gmailの検索やGoogle Driveの検索、SharePointの検索など従来の検索サービスではカバーしきれなかった『Conata®』を生み出すことができたんです。

Microsoftで鍛え抜かれた設計思想や美学が、20年の時を経て、『Conata®』という高い独自性を備えたデータ活用プラットフォームを生み出したのだ。

SECTION
/

「エンジニア=コードを書く人」ではない。「業務の構造を読み解き、設計に落とし込める人」だ

そして今、波村氏がフライウィールで実現しようとしているのは、“動かないAI”に悩む日本企業の支援だけではない。

彼はもっと根源的な、エンジニアリングの在り方そのものを問い直そうとしている。

波村従来の国内開発現場では、エンジニアが上流で決められた仕様を受け取り、実装に専念する役割にとどまりやすい傾向がありました。

でも、本来エンジニアは「コードを書く」ことだけが役割じゃないはずです。現場の業務構造を読み解き、ゴールに向かって“どう設計すべきか”を考え抜く存在であるべきだと思っています。

ここで言う“業務構造を読み解く”とは、単に業務フロー図を眺めることではない。たとえば「なぜこの情報が必要なのか?」「なぜこのデータは現場で活かされないのか?」といった背景まで掘り下げる思考だ。

波村「データを整理したい」とか「データ活用を進めたい」というのは、あくまで出発点にすぎません。真に問われるのは、“データを活かして自社をどう変革したいのか”というビジョンではないでしょうか。

つまり、情報を整えること自体が目的ではなく、そのビジョンを実現するための設計が求められているんです。

こうした視点なしにDXを推進しようとすれば、データの量だけが無尽蔵に増え、本当に解決したい課題からは遠ざかってしまう。

そして他にも、情報活用を妨げる深刻な構造問題があると波村氏は危惧している。それは、「情報検索にかかる時間」と「自己解決率の低さ」だ。

たとえば、社内で必要な情報を探すために費やされる時間は、1週間あたり平均8時間(=1営業日)にものぼるとされている。さらに、調査しても自己解決できない割合は77%に達しているというデータもある。

波村私たちフライウィールが目指しているのは、“情報を探すこと”に時間を奪われるのではなく、“意味のある行動”に時間を使える状態をつくることです。

企業内に散らばる膨大なデータソースから、業務目的に沿った情報だけを横断的に探索し、わかりやすく提示してくれる。この構想を現実に変えるために開発されたのが、先にも挙げた『Conata Data Agent』となるわけです。

それはまるで、企業専属の「データアナリスト」がいるかのように、現場を支援する仕組みと言えようか。

データをどう整理するかではなく、「どこへ向かうか」を設計する。それこそが、AIやデータ活用を価値に変えるために必要な、エンジニアが持つべき視点ということなのだろう。

SECTION
/

構想は、すでに現場で動いている──『Conata®』が実現する“情報活用”

AIがうまく活用できない理由は、情報の整備・設計にある。

ここまでの連載を通じて、その真意はとくと理解できたはずだ。その課題意識から波村氏が生み出したデータ基盤構想は、いまやプロダクト『Conata®』として、実際の企業現場に根付きはじめている。

あらためて、『Conata®』とは、

  • 企業内に散らばるExcel、PDF、チャットなどの非構造情報を壊さず、
  • 意味づけと索引・インデックスを与え、
  • 必要なときに“業務文脈に沿って呼び出せる”状態にするための情報基盤だ。

つまり、冒頭に記した、波村氏の構想の中核である「検索と推論の“あいだ”」を埋める仕組みが現実に動いているのである。

実際、導入企業ではこんな変化が起きている。

導入事例:KDDI株式会社
物流センターの出荷業務を可視化し、出荷能力を1.4倍に向上し、物流倉庫のDXを加速

倉庫業務の自動化を進める中で、倉庫内作業の可視化とデータ活用によるオペレーション全体の見直しに着手。現状の課題を分析し、分析に基づく改善効果のシミュレーションによるPoCと各物流センターでの実地検証を行った。

キックオフからわずか19日という短期間で出荷業務の可視化と課題特定を実現。人員配置の最適化や設備キャパシティの強化を図り、取り組み工程の繁忙期における出荷能力を最大1.4倍まで向上させることに成功し、物流倉庫のDXに大きく貢献した。

導入事例:CCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)
書籍の実売率が約20%改善(書籍の返品率の引き下げ)に成功

約7,000万人の会員データ、約800店舗、約450万タイトルという膨大なデータを活用し、書籍の自動発注システムを構築。データからAIが書店ごとに売れ行きを予測し、各書店のニーズに基づいて最適な量を最適なタイミングで配本できる仕組みを実現した。

その結果、書籍の実売率(販売業へ出荷されたうち実際に売れた本の割合)が約20%改善し、返品率を引き下げることに成功。ただの自動発注システムではなく、「店づくりの思想と両立できる仕組み」として現場に定着した。

他にも、複数の日系大手企業から、業務データ活用に関する問い合わせをもらっているという。

提供:株式会社フライウィール

「壊さず整える」「業務文脈に沿って意味づける」という、波村氏が技術者として大切にしてきた設計哲学が、プロダクトに落とし込まれた結果と言えよう。

波村AIは情報が整っていないと、正しく機能できません。だからこそ、まずは“情報が業務に沿って引き出せる状態”をつくる。それができて初めて、AIも、人間の意思決定も、正しく動き出していくんですよね。

波村氏がMicrosoft時代に想起し、実現を夢見てきた構想は、今、社会のなかで確かに動き始めている。

そして、その構想を現場の最前線で届けようとしているのが、次回第4弾で取り上げるビジネスチームのメンバーたちだ。単なる「プロダクト売り」や「受託提案」ではない。顧客企業と共に経営課題を読み解き、プロダクトと現場をつなぐ“共創者”として伴走する──。

エンタープライズ変革を担うフライウィール・ビジネスチームの挑戦のリアルも、乞うご期待。

こちらの記事は2025年05月26日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

記事を共有する
記事をいいねする

執筆

山根 榛夏

写真

藤田 慎一郎

編集

大浜 拓也

株式会社スモールクリエイター代表。2010年立教大学在学中にWeb制作、メディア事業にて起業し、キャリア・エンタメ系クライアントを中心に業務支援を行う。2017年からは併行して人材紹介会社の創業メンバーとしてIT企業の採用支援に従事。現在はIT・人材・エンタメをキーワードにクライアントWebメディアのプロデュースや制作運営を担っている。ロック好きでギター歴20年。

おすすめの関連記事

会員登録/ログインすると
以下の機能を利用することが可能です。