INTERVIEW
NUMBER
04

衣服産業は"おしゃれ好きなファッション業界"の人たちばかりの領域なのか?
元リクルートのエースが語る、10兆円衣服産業の課題改革の魅力

10兆円規模の「衣服産業」をテクノロジーで変革すべく、奮闘する急成長スタートアップがある──デザイナー、パタンナー、縫製工場、資材メーカーなどと連携し、衣服生産を支援するプラットフォーム「sitateru」を運営する、シタテル株式会社だ。

印刷業界を変えるラクスル株式会社、製造業の構造改革に挑むキャディ株式会社などと同様、伝統的な“レガシー産業”の変革に挑むシタテル。
同社で取締役を務める鶴征二氏は、新卒入社した株式会社リクルートエージェント(現リクルートキャリア)で本社の営業企画責任者に就くなど「出世頭」だったが、創業期からシタテルに参画している。

「もともと衣服には関心がなかった」鶴氏を、熊本で立ち上がったスタートアップへの転職へと駆り立てたものは何だったのか。「いま衣服ベンチャーが面白い」理由を、同氏のキャリアを軸に紐解く。

  • TEXT BY MASAKI KOIKE
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA

インタビュイー

鶴 征二 (つる・せいじ)

シタテル株式会社 取締役

鶴 征二

つる・せいじ

2007年株式会社リクルートエージェント(現:株式会社リクルートキャリア)入社。中小企業から大手企業、サービス業、各種メーカーまで幅広く法人営業を経験。大手企業への採用・人事プロジェクト企画営業も担当。2016年、シタテル株式会社へ入社し、2017年に取締役就任。

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「成長曲線が鈍化していた」からこそ、貴重な時間の投資先を変えたかった

「やりたいことが決まっていなかったので、あらゆる業界と接点が持てる職に就きたかった」

新卒でリクルートを選んだ鶴氏は、求人媒体の新規開拓営業からキャリアをスタート。順調に出世街道を駆け上がっていき、営業組織長、新組織の立ち上げ担当、本社での営業企画責任者まで歴任した。

しかし、営業企画責任者に就任した頃、ある違和感も覚えはじめていたという。

シタテル株式会社 取締役 鶴征二氏

リクルートは最高にエキサイティングな環境だったのですが、僕の力量不足もあり、「成長曲線が鈍化してきているな」と思うようになって。個人が成長のためにベットできる投資領域はたくさんありますが、時間だけが不可逆じゃないですか。貴重な時間を投資する先を、変えなきゃいけないと感じていましたね。

漠然とした焦燥感を抱えていた折、シタテルとの運命的な邂逅を果たす。初めて同社の存在を知ったのは、テレビ番組『ガイアの夜明け』で紹介されているのをたまたま目にしたときだ。衣服業界への関心はなかったが、自身の出身地である熊本に、面白そうなスタートアップがある──「感覚的にピンときた」そうだ。

気になってさらに調べていくと、衣服産業が抱える「負」の多さと、それを事業やビジネスで解決することの難易度の高さが分かりました。創業2年目の当時は社員が5名ほどで、まさしく求めていた「成長曲線の角度をぐっと上げられる」環境だと思いましたね。また地元の熊本に本社がある点にも運命を感じたので、帰省したタイミングでシタテルのポストに直接、手紙を投函したんです。

その後、創業者の河野秀和氏と面会したところ、「難易度は高そうだが面白そう。このビジネスを50年、100年を続かせたいし、その価値のあるビジネスだ」と意欲が高まった鶴氏。ジョインを決めるとすぐさま家を引き払い、安定や立場を捨て、家族ごと熊本へ移り住んだ。

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圧倒的な当事者意識を持ち、ジェネラリストの立場で組織を編み直す

鶴氏は、シタテルに営業担当として入社した。縫製工場と衣服ブランドのマッチングプラットフォームを構築するにあたり、工場を専任で開拓していく役割が必要とされていたのだ。リストに記載されている工場へ順番に電話してアポを取り、連携を勝ち取っていった。

リクルートで何年もかけて培ってきた営業スキルがそのまま活かせたので、「与えられたミッションをこなしながらも、別のことに時間や思考をはりめぐらせる余裕もあった」という。

しかし、鶴氏の活躍は、営業だけにとどまらなかった。

創業期スタートアップにとって「あるある」だと思うのですが、会社のあらゆる領域に出血箇所があることに気づいたんです。オペレーションが一切整備されていないのはおろか、KPIすら設定されておらず、来たオーダーをひたすら打ち返し続けている状況で。

数値管理もままならないため、「自分たちのがんばり」を計測することもできていませんでしたし、「採用強化するぞ」と言っているわりには、内定通知書の雛形すらない有様でした。

そうしたカオス状態に一つひとつ向き合い、制度を整えていった鶴氏。気がつけば、現在の取締役のポジションに就いていた。いま振り返ると、リクルートで身につけたある能力が、鶴氏の活躍の原動力だったという。

僕がリクルートで得た一番のスキルは、何かの突出した専門性ではなく、「当事者意識を持ち、問題を察知する力」だと思います。初めてのことでも、自ら経験を通して学びながら、自分ごと化して取り組んでいける。そうしたジェネラリストとしてのスキルが、カオス状態だった当時のシタテルが求める役割と、うまく合致していたのでしょうね。

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「伸び代しか感じない」高度に分業化された衣服業界をITで最適化する

「衣服業界」の最大の特徴は、各工程が高度に分業化されている点だ。縫製工場ひとつ取っても、限られた機能しか持っておらず、その役割は「製造」というよりは「加工」に近い。工場側が仕入れるのは糸くらいで、原材料や設計図は別に用意して持っていかなければ縫ってもらえない。

生地メーカー、ファスナーやボタンの付属品メーカー、型紙をつくる「パタンナー」、刺繍工場、プリント工場、検品会社…ひとつの工場だけで生産が完結することはまずあり得ず、さまざまな業者が連携しなければ「衣服」は製造できない。

衣服業界は、大規模な設備投資が不要なために参入障壁が低く、戦後に家内制の軽工業として発展してきた歴史を持ちます。それゆえに、小規模な事業者が全国に乱立し、複雑な分業体制が築き上げられてしまっているんです。

さらに、衣服業界でのビジネスの難易度をさらに高めているのが、ものづくりの流れが一直線ではない点。同じく分業制で発展してきた自動車業界を例に取ると、小さな部品メーカーから、さらに規模の大きい部品メーカーへと部品が渡っていき、最終的にはトヨタなどの自動車メーカーが部品を組み立てるのが一般的だ。

しかし、衣服業界では刺繍メーカーが工程の最初を担うこともあれば、最後を担当することもある。パタンナーから始まるのが一般的ではあるが、同時並行で生地メーカーから調達を進めることもあるなど、ものづくりの流れが毎回変わるのだ。

複雑な分業体制が敷かれていることは、多方面でコミュニケーションを取る必要があることを意味します。しかし、意思疎通の手段としては未だにファックスや電話が主流で、フォーマットも統一されていない。

シタテルは、こうしたコミュニケーションをITで最適化して、分業された各セクションをつないでいるんです。意思疎通チャネルが整備されたら、IoTを活用し、各々の工場のオペレーションの洗練も手がけています。

もう、伸び代しか感じませんね。オセロでたとえると、ひっくり返せる箇所がたくさん見えている状態。むしろ「どこからひっくり返せば、最速で角を取れるのか」の戦略立案が難しく、チャレンジングなポイントです。

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失敗が会社の存亡に直結。スタートアップで得られた「手触り感」

鶴氏は、シタテルというスタートアップで衣服業界の課題解決に取り組むことの魅力を「5年から10年かけて、業界全体を変える大きなチャレンジができる点」だと述べる。

どのスタートアップでも同じことが言えると思うのですが、エクイティファイナンス型のスタートアップでないと実現できないチャレンジの仕方はたくさんあるし、逆にそうしないと産業全体を変革するイノベーションは起こせません。

大手企業の新規事業だと、数年で成果を出さないと撤退判断が下されてしまう。逆に銀行融資だと、スモールなビジネスにしかならないし、時間もかかり、技術が陳腐化してしまいます。エクイティファイナンスを前提とするからこそ、スケールの大きい業界変革に挑めるんです。

さらに鶴氏は、シタテルでビジネスを手がけることの魅力を「手触り感」という言葉で表現する。リクルートで営業企画として、全社の各セクションの営業データを分析し、現場での戦術に落とし込んでいたときには、味わえなかった感覚だ。

数百億円規模の事業戦略や予算設計を担当していましたから、売上へのインパクトは大きかったのですが、一貫して「俺がやってる感」がないなと感じていました。今思うと情けなく思いますが、失敗したとしても自分の評価が下がるだけで、会社の存続が危ぶまれるようなリアルな危機感は正直ありませんでしたね。

一方でシタテルでは、自分で考えて打った施策が、すぐに結果で跳ね返ってくる。そして1回のミスが、会社を潰してしまうリスクも十分にあるので、圧倒的な責任の重さが感じられる。

「この時の判断を誤っていたら会社が死んでたな」と思うこともザラにありますからね。PDCAを1,000人でまわしていくうちの1人と、60人でまわしていくうちの1人では、「手触り感」がまったく異なるんです。

さらには、リクルートで培ってきたスキルが通用しないことも当然ある。採用ひとつ取っても、9年間も携わってきただけに「採用のプロ」を自負していたが、エンジニア採用の勝手が分からなかったり、人材紹介というチャネルを介さない採用の経験が不足していたりと、多くの壁にぶつかった。

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拡大を続けるシタテル。「昨日までの自分で勝負しない」人材の獲得が急務

シタテルは現在、社員数60名まで拡大している。まだまだ成長スピードを止めるつもりは毛頭なく、常にアップデートを続けている。「チャレンジ度合いが毎年増し続けている。会社としてのステージが上がるにつれて、また新しいチャレンジとカオスが生まれる」状況だ。2017年からグローバル拡大にも着手し、ゼロから中国、ベトナム、韓国との貿易体制をつくり上げている。

「衣服業界」を変革すべくチャレンジを続けるシタテルでは、事業開発や経営企画などのロールを担える人材の獲得が急務だ。外資系コンサルやSaaS企業で身につけた実力を「手触り感のある」環境で試したいビジネスパーソンにとって、ぴったりな環境と言えるだろう。同時に、現場でのセールスなどを担ってもらうメンバーとして、若手のポテンシャル人材も採用中だ。

鶴氏が面接の際に見ているのは、「昨日までの自分で勝負しないタイプの人かどうか」。普段から成長を意識し、常にアップデートを続けられる人材が今後のシタテルを担うと考えている。

「俺の力、活かせるでしょ?買いでしょ?」といったスタンスで来る人は、「昨日までの自分で勝負」するタイプであることが多いですね。今の職場で評価されなくなり「もっと評価されるはずの場所に転職したい」という匂いを感じた方は、その人がどれだけ優秀だとしても、今のうちとはあまりフィットしないと思っていて。

あとは、よく誤解されるのですが、おしゃれじゃなくてもOKです。不動産のプラットフォームに関わる方々全員が、不動産にすごく詳しかったり、大好きだったりするわけではないですよね?それと同じです。

もちろん服好きであることに越したことはありませんが、僕も含め、社員の半数ほどはおしゃれ偏差値がそこまで高くない人たちで構成されています。「昨日までの自分で勝負したくない」と思い、スタートアップへの転職に興味がある人は、今おしゃれかどうかは関係なく、一度話を聞きにきてもらえると嬉しいです。

10兆円の市場規模を誇るにも関わらず、IT化が進んでおらず「伸び代しかない」衣服産業。鶴氏の話を伺ったあと、「限られた“ファッション業界”の人たちが関わる領域だ」という固定観念は、ほとんど消えていた。

冒頭で触れたラクスルやキャディをはじめ、最近は“レガシー産業”をテクノロジーで変革するスタートアップも増えている。シタテルが挑む「衣服産業」もまた、社会的インパクトの大きさと開拓余地を兼ね備えた、チャレンジングで魅力的な領域だと思わされた。

インタビュイー

鶴 征二 (つる・せいじ)

シタテル株式会社 取締役

鶴 征二

つる・せいじ

2007年株式会社リクルートエージェント(現:株式会社リクルートキャリア)入社。中小企業から大手企業、サービス業、各種メーカーまで幅広く法人営業を経験。大手企業への採用・人事プロジェクト企画営業も担当。2016年、シタテル株式会社へ入社し、2017年に取締役就任。

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執筆

小池 真幸

編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。東京大学(教育思想)→某AIスタートアップ(マーケティング・事業開発)→現職。関心領域は、ビジネス・テクノロジーから人文知まで。

写真

藤田 慎一郎

デスクチェック

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

こちらの記事は2019年04月19日に公開しており、記載されている情報が異なる場合がございます。