連載ベンチャー新卒1年目の教科書

賢者は飲み会に●●を誘う──「ただ優秀な社員」と「組織の大黒柱になる人」との違いとは

寄稿者
白鳥 陽太郎
  • スローガンアドバイザリー株式会社 取締役 

千葉県習志野市出身。市川高校を経て、早稲田大学政治経済学部に入学。カンボジアで教育支援に取り組むNPOにて代表を務める。東日本大震災直後から、特定非営利活動法人ETIC.「右腕プログラム」のメンバーとして被災地域のアセスメント業務に取り組む。東北地域で感じた「新しい産業と雇用創出の仕組みづくり」という危機意識にコミットメントするべくスローガンに入社。入社後はスタートアップ企業の新卒採用コンサルティングに従事。Goodfind Magazine編集長も務める。グループ会社であるスローガンアドバイザリーに立ち上げのタイミングで参画し、キャリア面談から、法人セールス、Webマーケティング、ディレクター、採用と幅広く担当。

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ようこそ狂気とカオスの世界へ!

長い雨が続いた7月も終わりを迎えようとしている。

4月からはじまったこの連載も残すところ、あと2回だ。

みなさんには、せっかくベンチャーに入ったのだから、今の会社で面白い仕事をしてほしいと思っている。

面白い仕事というのは、会社にとって重要な仕事という意味だ。主要クライアントを担当したり、人の採用や育成に携わったり、新しいサービスをつくったり。若くしてそんな仕事にありつけるのがベンチャー新卒の醍醐味だ。

ここで、ちょっと未来の話をしたいと思う。

今年、あなたが大活躍したとして、新人賞でも受賞できたとしよう。あなたは晴れて、同期の中で一番デキルるやつになった訳だ。さて、じゃあ一番能力が高い人であれば、面白い仕事が任されるのだろうか。今日はそんな話だ。

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「横の成長」と「縦の成長」との違い

結論から言えば、能力が高くても大事な仕事にアサインされない人は山ほどいる。転職市場を見ていてもそうだ。有名企業を渡り歩いて、スキル欄もびっしりと埋まっている。ただ、なぜだか重要な役割が与えられていない。だからまた転職する。けれどもやっぱり大事な役目は回ってこない。それは、横ばかりに成長していて、縦に成長していないからだ。

「成長」と一言で言っても成長には2種類ある。一つは「横の成長」。いわゆるスキルアップだ。出来ることが増えたり、職能を獲得したりという成長である。

そしてもう一つが「縦の成長」。これはいわゆる人間としての成長だ。器が大きくなったり、「大人になる」という意味だ。

もちろん自分が生き残ることは重要だ。自身のキャリアに市場価値がつかないというのは困る。だから、ちゃんと評価される職能を獲得した方がいい。3年頑張った結果として世の中的に「無能」になるのは受け入れがたい。

ただ、あなたが「横の成長」だけを目指すのならば、それはキャリアとしても行き詰りを迎える可能性が高い。組織が大きな責任を任せたいと思える人は、「自分が生き残りたい」と思っている人間ではなく、「組織を生き残らせたい、勝たせたい」と思っている人間だからだ。それはつまり人としての器だ。でも、そもそも人としての器とは何なんだろうか。

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器が大きくなるとは自己中心性から脱却すること

人としての器を理解するために、ここで一つの考えを共有しよう。ハーバード大学教育大学院のロバート・キーガン教授は、成人してからの人の発達・成長段階は4つに分類されると定義した。それはそのまま、人としての器の広がりを意味している。

(発達段階は5つに分類されるが、段階1の「具体的思考段階」は幼少期の子供に見られるもので、成人してからは段階2以降に分類される)

発達段階2:道具主義的段階(利己的段階)

いわゆる自己中心的な人。自分の興味関心や欲求を満たすために他者を道具のようにみなす。

発達段階3:他者依存段階(慣習的段階)

所属している組織に依存しており、自らの考えや意思決定の基準を持ち合わせていない。おもに慣習に従う。

発達段階4:自己主導段階

自分なりの価値観や基準を持ち合わせている。自己成長に強い関心があり、自分の意見を明確に主張する。

発達段階5:自己変容・相互発達段階

自分の価値観や意見にとらわれることなく、多様な価値観や意見を受け入れることができる。自分ではなく、他者の成長に意識のベクトルが向かう。他者が成長することで、自らも成長するという認識(相互発達)がある。

※加藤洋平著『組織も人も変わることができる!なぜ部下とうまくいかないのか「自他変革」の発達心理学』より引用

ご覧の通り、器が大きくなっていくこととは、自己中心性から脱却していくことだ。自分のことばかり考えている人に会社は大切な仕事を任せられない。会社が大事な仕事を任せたい人は、すぐに逃げ出す人ではなく、火中の栗を拾いにいける人だ。自分の感情やエゴを脇において、たとえそれがつらい仕事であっても、自分が最も適任なのであれば、迷わず自分をアサインできるような人物だ。

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火中の栗を拾って大黒柱になる

ここでエピソードを一つ紹介しよう。

とあるベンチャーに期待の新人がいた。それはそれは大活躍して、先端事例として業界紙にまで掲載された。もちろん多くの社内表彰も受けた。

そこで本人は悩んだ。外に行った方がさらに成長できるんじゃないか。ただ、結果としては彼は会社に残った。直感的に「やり残した仕事がある」と感じた。

そして、社内のある難しいプロジェクトに飛び込むことに決めた。それは、会社にとっては非常に重要だが、なかなか軌道に乗らない部署の立て直しだった。しかもその部署は地味で、そこでの経験がわかりやすいスキルアップになるようなものでもなかった。だからこそ、経営チームはその難しい仕事に誰をアサインするかを悩んでいた。そこで彼が手を上げたのだ。

彼はそれを見事にやり遂げた。本人にとっては、大したスキルアップにはならなかったかもしれない。ただ、会社全体にとっては非常にインパクトのある結果となった。それで彼は「単なる優秀な社員」から、「組織の大黒柱」になった。もちろん全社MVPとして表彰された。

振り返れば、それは彼が「自己」を手放して、一つ上の段階の成長に踏み込んだ瞬間だったのかもしれない。本人からすれば、「自分の成長のため」に頑張った訳ではないだろう。ただ、結果としては、それは大きな成長に繋がっているし、重要な仕事が任せられる機会となった。大人の階段を登った結果、面白い仕事が舞い込んでくるようになった訳だ。

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朱に交われば赤くなる

では、それぞれの器を広げたり、縦に成長していくためには、どうすればいいのか。

難しいことはさておいて、おすすめは「自分より目上の人」と接することだ。会社の規模が許すならば是非、あなたの会社の社長をオンライン飲み会にでも誘ってみよう。

サシでのお誘いが難しいなら、同期全員で企画してみるといい。きっと快諾してくれるはずだ。新卒社員に誘われて嬉しくない社長なんていない。

「目線を上げろ」とはよく言われるが、個人の努力にも限界がある。目線をあげる手っ取り早い方法が、目線の高い人(器の大きい人)の近くにいることだ。朱に交われば赤くなるとはよく言ったもので、起業家を多く輩出する企業が、なぜ起業家を輩出できるかって、それは「起業する人が多いから」だ。

まるで一休さんみたいな話だが、近くにいる人の考えや行動を人は自然と真似てしまう。だから上の人との接点を多く持ったほうがいい。「あなたがどうなりたいか」は、「あなたが誰と付き合っているか」で決まってくる。

こんな私も年に一度は勇気を振り絞って、会社の代表を食事に誘っている。それは1年目のときから始まったものだ。1年目のとある日、絶対に食事に誘おうと、好きな女の子の下校時間に待ち構えるように、社長のカレンダーをチェックしていた。

そして、偶然(もちろん狙いすまして)トイレで社長が小を済ませているタイミングで、「あ!こんにちは!あのー、●●日の19時からってご都合いかがでしょうか!食事でもご一緒させてください」と未成年の主張よろしく大告白した。一度できたら、こっちのものである。それからは毎年の楽しみであり、おっかな怖いイベントの一つになっている。

さあ、今週のうちに目上の上司や社長を誘ってみよう。その習慣は、きっとあなたを大人にしてくれるはずだ。大事なことだからもう一度言おう、誰と付き合うかであなたの未来は決まっちゃうよ。

連載最終回は、8月14日公開 乞うご期待!

こちらの記事は2020年07月31日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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