INTERVIEW
槇村 賢哉
18-03-26-Mon

“おいしいレシピ”を伝えてリピーター増!
「槇村野菜笑店」的八百屋2.0

TEXT BY MISA HARADA@HEW

「次世代の八百屋」を標榜する東京・青山の「槇村野菜笑店」は、
店頭で野菜を売るだけでなく、フレンチレストラン「naître」を経営したり、
野菜教室「槇村野菜食堂」を主催するなど、“野菜”をキーワードに多角的な事業を行う。

店主である槇村賢哉は、
八百屋というものを現代にアップデートしようとしている。

彼が目指すのは、“野菜ディレクター”だ。

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20年前、来そうで来なかった有機野菜ブーム

「槇村野菜笑店」の歴史は、1999年にさかのぼる。ヒルトン東京・グランドハイアット福岡でホテルマンを経験した槇村が、29歳で独立するにあたり、目を付けたテーマは、“エコロジー”だった。さらに「無農薬にこだわる農家を応援することが、地球全体のエコにつながる」という思想を持った長野県の八百屋と出合ったことをきっかけに、彼は八百屋を始めることを決意した。そして、1999年東京都福生市に八百屋を開業したのだが、そちらは3年ほどで閉店することになってしまった。

ファーストリテイリングが2002年、子会社エフアール・フーズを立ち上げて、食品販売事業に乗り出したのを覚えている人もいるだろう。2000年に日本農林規格 (JAS) が改正されて、食品に“有機”や“オーガニック”と表示するためのルールが正式に定められた。そして、2002年にユニクロが野菜販売に乗り出した。2000年ごろ、有機野菜ブームが起きる萌芽は間違いなくあったのだ。しかし、そうはならなかった。

当時はまだ、“有機野菜”という言葉もなく、エコロジーに対して新興宗教を連想する人々が多かった。

槇村世間はオーガニックの方向に進むと思っていたのに、コケた。まだ消費者たちが、有機やオーガニックというものに馴染めなかった。時代が早すぎたんです。

八百屋を閉めた後、槇村は、クレヨンハウスにてレストランマネージャー、暗闇坂宮下にて社長室長を務めて、野菜を販売する「野菜マルシェ」などを立ち上げる。その間に、マクロビやローフードという言葉は当たり前のものとなり、2014年に「槇村野菜笑店」を立ち上げた。

前回の失敗から実に10年以上が経ち、槇村の頭の中には、今度こそ八百屋を成功させるためのアイデアがぎっしり詰まっていた。

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レシピを聞きにくるリピート客たち

八百屋経営で一番大変なのは、野菜の廃棄ロスだ。ロスを減らすために槇村が見つけた解が、ランチボックスやコールドプレスジュースの販売、レストランを経営することだった。事業の中で食材を上手く回すことで、現在の「槇村野菜笑店」では、ロスはほとんど出ていない。

また、売り場面積が広ければ広いだけ、陳列しないといけない商品数も増えて、ロスの危険性が高まっていく。8坪という狭い売り場面積は、売り切れる量を計算した、あえての結果だ。そして、むやみに広い売り場を求めなかったことにより、青山という一等地への出店が実現した。

再び八百屋を始めるにあたって、槇村が重視したのが“どれだけレシピを知っているか”だ。

槇村百貨店の食品売り場って、魚屋さんがだいたい奥にあるんです。買い物客はまず魚屋さんに行くから、出口に戻るときに他の物を買わせるためなんですけど、なんで魚屋さんがそれだけ強いかわかります?

フライにできるものとか、刺身にできるものとか、「その日のメニューにできるレシピを教えてくれるから」なんですよ。

エコにこだわった食品店で、店内の壁には「有機野菜を食べるべき理由」のようなポスターがびっしり貼られている……という光景を目にした経験がある人もいるだろう。しかし、「槇村野菜笑店」の対面販売では、有機であることをそれほどアピールしていない。その代わりレシピを伝えるのだ。取材中訪れた買い物客に、「こうして食べるとおいしい」と伝える槇村の姿が印象に残った。

槇村インターネットがない時代は、料理のレシピとは、八百屋さんや魚屋さんに教わるものでした。現代にも、レシピを教えてくれる八百屋さんの需要はあると思うんです。

だから、八百屋で一番大事なのは、安心安全を訴えることよりも、“レシピをいくつ用意しているか”。

おいしい料理が作れるレシピを伝えることができたら、お客さんは当然、「また他のレシピも聞きに行こう」と思ってくれますよね。

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“選ばれる理由”になるために現場に立つ

最初にオープンした八百屋は、完全な“いわゆる八百屋”。B to Cのビジネスモデルだったが、現在の「槇村野菜笑店」はB to B、主にレストラン卸を行っている。卸先は、銀座「エスキス」や御成門「クレッセント」など、ミシュランガイドで星つきのレストランも少なくない。

やはり一般消費者に5kg、10kg単位で購入してもらうことは難しいため、レストラン卸に注力していくことは、安定して売り上げを出すための判断だ。しかし、レストランのシェフとのコミュニケーションが事業に活きていることも大きい。彼らにさまざまな野菜の情報を伝える一方で、料理のレシピを教わる。そのやり取りが、槇村にとっては楽しくてたまらない。

槇村は、地道なコミュニケーションを意識している。小規模な店でありながら、全国に契約農家を持ち、年間1000種以上の野菜やハーブ、果物を取り扱うことができているのも、18年かけて日本全国の農家を直接訪ね歩いたからだ。レストラン卸も農家との契約も、紹介によって広がっていった。

槇村いろいろな選択肢が増えて、「あの人がいるから、あの店に行こう」「あの人と話したいから、あの店で買おう」という時代になってきています。

レストラン事業でも店頭販売でも、僕が現場に立って野菜の説明などをすると、お客さんは楽しんでくれる。

地道なコミュニケーションが、ビジネスにおいて“選ばれる理由”になるというのは、ホテルマン時代に学んだことです。

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自分がブランドとなり、人の流れを作る

多角的な事業展開に加えて、店舗は黒を基調としたモダンなデザイン。「槇村野菜笑店」は、いわゆる“八百屋”のイメージとはまったく違うことをしている。

槇村は、「普通の八百屋で一度失敗しているから、違う角度から攻めないと、八百屋で成功できないと思いました」と語る。彼が目指しているのは、“野菜のディレクター”。消費者、レストラン、生産者の真ん中に「槇村野菜笑店」が位置して、それぞれが求める、料理のレシピや野菜の情報といった情報をつなげていくイメージだ。

「槇村野菜笑店」がブランディングにこだわるのは、日本の農家を応援するためには、まず槇村自身がブランドになることが必要だと考えているから。小さな八百屋がいくら頑張ったところで、世間からは「誰?」という話でしかない。まず自分たちが注目される存在となり、集まった人たちに、野菜のおいしさを伝えていく。

「次世代の八百屋」を標榜する槇村は、“仕入れたものを、何割か値段をのせて売る”という従来の八百屋のやり方を「限界なんじゃないか」と指摘する。

槇村今はAmazonだって野菜を取り扱っているし、欲しいものはネットですぐ買える時代です。また、共働きが増えて、外食が当たり前になったので、料理を週末のイベントとして捉えている人も増えてきているでしょう。

そうなってくると、野菜の買い方だって、今までの「大根1本、キャベツ1個」のようなものとは変わってきますよね。

時代が変化している中で、八百屋のビジネスモデルそのものを変えていく必要があります。

槇村は今後、自治体などから依頼を受けて、野菜をどのように売っていくべきか農家にアドバイスする仕事を行っていきたいと考えている。いわば、野菜専門のコンサルタントといったところか。

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作りがい、売りがい、料理しがいが一致する流通の形を

槇村は、「現在の流通の在り方を見直さないと、日本の農業はよくならないと思います。」と語る。

槇村現在、大手の野菜販売企業では、どれくらいの量を買うのか、収穫前に農家と契約しているんです。

でも、「この畑全部を使ってキャベツ作って。そのぶん買うから」というのは、契約した量を作ることを優先させたぶん、味が落ちてしまう場合も多い。

その土地にあった畑作りをして、いろんな野菜を作りたい農家さんもたくさんいらっしゃるでしょう。

槇村は、志を持ち、クリエイティビティを発揮する農家を、事業を通して応援していきたいと考えている。実際、そういった農家を後押ししたい地方自治体も多いのだが、いかんせん彼らは、野菜を売るノウハウを持っていない。そこで槇村が“野菜ディレクター”として手腕をふるうというわけだ。目を輝かせて、「作りがい、売りがい、料理しがいのすべてが一致する流通の形を構築していきたいです」と意気込んだ。

2014年に開業して、3年間は事業の基盤を作ることに注力した。これからの3年間は、スケールを目標としていく。そのために槇村が、重要なポイントとして見据えているのが、2020年の東京オリンピック。「槇村野菜笑店」を青山にオープンさせたのも、東京オリンピックにともない外国人観光客が増えるエリアだと見込んだからだ。

槇村日本は将来、観光国にならないと生き残れないと思います。そして、日本のシェフの技術は世界的にも高いレベルにあります。もっと海外から、日本の食材や料理はおいしいと注目されてほしい。

そのためには、いい店がもっと増えないといけません。僕がそのサポートの一端を担えたら、それは素晴らしいことだと思います。

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