君が描く「データサイエンティスト」像は、インハウス型か?アウトソース型か?
──NECの初代シニアデータアナリストが説く「総合料理人」的キャリアのススメ

インタビュイー
本橋 洋介
  • 日本電気株式会社(NEC) AI・アナリティクス事業部 兼 データサイエンス研究所 兼 価値共創センター シニアエキスパート 

大学院修了後の2006年、新卒でNECに入社。同社研究所にてAI、機械学習、データマイニング技術等の研究開発を担当。2012年以降はNEC独自のコア技術である異種混合学習技術を広く産業界で活用していくミッションにも携わりながら、40以上の業界・100以上の企業へのAI導入実績を築いた。並行してAI領域のエヴァンジェリストとしての役割も担い、ビジネスカンファレンス等での講演活動や企業トップ層へのコンサルティングも実施している。著書に『業界別! AI活用地図 8業界36業種の導入事例が一目でわかる』(翔泳社)、『人工知能システムのプロジェクトがわかる本 企画・開発から運用・保守まで』(翔泳社)がある。

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2016年、NECはデータアナリストの認定制度を新設。データサイエンス領域における研究成果やビジネス活用実績をベースに厳正な基準を設けたのだが、ここで初代シニアデータアナリストの一人となったのが本橋氏。いわばNECにおける「AIの顔」と言っても良い。

「AIを用いて、いかにデータドリブンのイノベーションを実現すれば良いのか」という経営課題を多くの企業が掲げる今、「実績ある水先案内人」として多数のカンファレンスへの登壇やコンサルティングの依頼が殺到している。

そんな本橋氏にストレートに聞いてみた。「これからデータサイエンスの領域で活躍したいと願う若い人材」は何を考え、どう行動すべきなのかを。

  • TEXT BY NAOKI MORIKAWA
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
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インハウスで働くか、アウトソースで働くか。その違いを正しく認識してほしい

最初に言い切っておくが、本橋氏は軽々に「AIで成功したいならNECにいらっしゃい」などと言ってしまうような人ではない。純粋にAIの可能性を信じ、その世界観を愛する人物だということは取材冒頭のこんな発言からもわかるはず。

本橋もしもあなたが、世界中にいる優れた人材の中でもトップ5%だと言えるくらい突出した頭脳の持ち主であり、データサイエンスを通じてお金儲けを効率よく実行していきたいというのでしたら、今すぐ起業して数年でIPOをすれば良いと思います。

微笑みつつも、真っ直ぐな目で語る本橋氏。あっけにとられていると、こう付け加えた。

本橋でも、そうじゃない人はどうしたら良いのか? 私は今日、そういう話がしたいのです。

世界の中でトップ5%ではないにせよ十分に優秀で、なおかつポテンシャルを秘めたかたたちは、どこでどういう取り組みをすればその才能を花開かせることができるか。そういうテーマについてです。

今、AIやデータサイエンスに関わる領域は、産業界からも社会からも大いに期待されていますから、ここで活躍したいと考える若者は世界中にいます。

けれども、まず考えて欲しいのは「あなたはそういうキャリアを歩むことで何を手に入れたいと願っているのですか?」ということなんです。

こう早口で語ると、本橋氏はホワイトボードに座標軸を描いた。そして右側にNECをはじめそうそうたるテクノロジー系の企業名を書き入れていく。縦軸を挟んだ左側には多様な業種のリーディングカンパニーの名前が並ぶ。

本橋これ、どういう分類だかわかりますか? とても大雑把な図ですが、左側の企業に属してデータサイエンスの仕事に就く場合は「インハウス」のデータサイエンティストになるということ。

右側の企業に入った場合の多くは「アウトソーサー」の立場からデータサイエンスに携わっていくということ。

これから企業の一員となってAIに携わろうという人は、この両者の大きな違いをまずきちんと認識して欲しいと思うんです。

例えばメーカーに入社し、そこでデータサイエンティストとして従事した場合、問われるのは自社製品の開発やサプライチェーン、あるいはマーケティング等の局面を改善・改革していくためのAI活用。

向き合う局面や業務による広がりは発生するだろうが、突き詰めれば1つの会社のビジネスにフォーカスした経験、例えば20年間自動運転について研究するといったキャリアを積むことになる。そういう意味での専門性を深めていく部分が大きい。

一方、NECのように多様な顧客企業からの要請を受け、課題解決を担っていく企業に入社してデータサイエンティストとして活動する場合は、担当するプロジェクト次第で毎回大きく異なるテーマと向き合うケースが多くなる。顧客企業の業種や規模、経営状態や戦略によって、扱うデータも、用いる技術や知見も変わってくる。

そのため、経験を増やせば増やすほど、サイエンティストとしての守備範囲は広がっていく。「深さ」と「広さ」。その両方を追求するのが理想ではあるが、インハウスとアウトソーサーとでは比重が変わるわけであり、手に入れられる価値や成長機会もまた異なってくる、というわけだ。

本橋どちらかが正解で他方が不正解、というような話ではありません。端的に言えば「一定の限られた領域で『深さ』を追い求めていく面白さ」を追いかけたいのか、「多彩な経験と気づきを得てAIの可能性の『広さ』を追求する面白さ」を追いかけたいのか。それをきちんと意識して欲しいのです。

かれこれ数年に渡って世間は人工知能やデータ活用技術を「未来につながるもの」として取り上げ続けている。

ポジティブに讃えるものもあれば、「人間の仕事を奪う脅威」であるかのようにネガティブに捉える報道もあるが、その内容がどうであれこれほど世界が熱狂すれば、当の「未来の担い手」である学生や若手ビジネスマンの関心は否が応でもAIに集中する。「私もデータサイエンティストになりたい」と願う。

では現実のビジネス領域や社会課題解決の営みの中でAIはどう使われているのか?クルマの自動運転、デジタルマーケティング、AI自動投資など、いくつかの代表的変化は思い浮かぶかも知れない。

しかしそうした局面以外の場でAIはどう使われているのか。そこにいるサイエンティストはどんな仕事をしているのかを明快に理解できている人はごく少数。あおり立てるメディアもまた然りだ。

近著『業界別AI活用地図 8業界36業種の導入事例が一目でわかる』(翔泳社)で本橋氏が注目されているのも、これほど具体的にAI導入の実践をわかりやすく示したものがなかったからだろう。

データサイエンスによるキャリア形成を志す者の急増は大歓迎するが、だからこそ「あなたはそこにどんな夢を抱き、どうなりたいのか」という大前提を問いただしたくなるというわけだ。

本橋現在のムーブメントは第3次AIブームなどと呼ばれていますが、これほどまで多方面で人工知能や関連技術が導入されるようになったのはごく最近のことです。

長年この領域にリソースを投じてきたNECにしても、その大きな成果として手に入れた異種混合学習技術という独自の仕組みを産業界にアピールしていこうと動き出したのは2012年のことでした。

私も異種混合学習の確立に関与したデータサイエンティストの1人だったわけですが、いざ「この技術を多くの企業の変革に役立ててもらおう」とした時、その効果や可能性をきちんと伝え、クライアントに価値を提供できるメンバーは限られていました。

結局、研究者である私がチームを編成して、手探りをしながら活用事例を増やしていき、現在のAI・アナリティクス事業部の出発点ともなったのですが、ほんの6〜7年前はそんな状況だったんです。

「データサイエンティストとしてビジネス上のキャリアを構築していく」という発想は、まだまだ歴史の浅いものだということ。だからこそ、本質的な目的意識をもってこの世界を見てほしいと思うんです。

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「未知との遭遇」を楽しめて、「データサイエンスを活用したビジネスコンサルタント」になりたいのならNECは良い企業

どんな目的意識や夢を抱くのかは当人次第。「AIをやれば金持ちになれる」でも「データサイエンティストはモテる」でも構わないと言って笑う本橋氏。では、本橋氏自身はどうなのか?

本橋私は単純ですよ(笑)。AIや機械学習を使って「面白い」と感じられる体験をたくさん手に入れていきたい。人工衛星、花の生育、電車、自動販売機、石油など、毎回「こんなデータがあったのか!」と感じられるデータに触れられるのがNECなんです。

まだ誰も経験したことのない成果を真っ先に体感したいと思うからここにいるんです。

現状、AI・アナリティクス事業部において従事するデータサイエンティストは100名弱。本橋氏は彼らを束ねるリーダーの1人だが、今もなお最前線で走り回ることもあるとのこと。

これまでにAI技術の導入支援を行ってきた企業は実に100社を超え、業種も40を超えるというが、それでも「今まで手がけたことのないチャレンジ」と遭遇し続けており、これが自身のモチベーションの源なのだという。

本橋未知の課題解決に挑んで、成果を出していくのは容易ではありませんが、その道のりが面白くてしょうがないんですよ。

今AIがブームのようにもてはやされていて、過熱していることを揶揄する声もありますけれど、データサイエンスの専門性を持っていればありとあらゆる難問にチャレンジしていく権利を与えてもらえる状況です。

1人のビジネスパーソンとして言わせてもらえば、こんなにチャンスが膨らんでいるのに、その潮流に乗っからない手はないでしょ、と思うんです。ただし、だからこそ「このチャンスを活かすためにデータサイエンスの領域を目指すのならば、深さを志向するのか、広さを志向するのかを最初に考えるべき」だと思います。

そしてもし、私と同様に「広く経験を積んでいく面白さ」を追いかけたいという人がいるのなら、私は迷わず「だったらNECをお薦めします」と答えます。

これほど本橋氏が「目的意識」の重要性を強調するのには理由がある。「データサイエンティストのアーリーキャリアは、どのデータで、何をしたのか」によって価値が変わるかだという。

毎回似通ったデータばかりを扱い、同じような課題解決にしか携われないようではサイエンティストとしての成長も加速しなければ、自身の市場価値も向上しない。

「面白さ」と「広さ」を追求したい人材にNECを推す第一の理由は、「この会社には日本中あるいは世界中の企業が次々に新しい難題を持ち込んでくれるから」だと本橋氏。

「歴史ある大企業」では若手が伸びるチャンスは少ないと思い込んでいるかもしれないが、これほどAIに関わる陣容を充実させていても手が足りなくなるほど多様な案件が飛び込んでくるのは、実績という歴史を積んできたNECだからこそというわけである。ただし理由はそれだけではないようだ。

本橋私たちの活動の原資はデータですが、そもそもデータというものには10年レベルでの永続性は薄いんです。

例えばAIの活用で単発的な事業を成功させたり、PoC(実証実験)を成功させたりしたい場合に有効だったデータがあったとしても、「ではこの事業を10年間成功させ続けよう」となった場合には、もっと複合的なデータ活用が必要になりますし、市場動向に対応しながら新たなアルゴリズムを創出し、進化させ続ける必要も出てきます。

常に新鮮で有効なデータを抽出したり、獲得していったりするための努力だって求められます。

データドリブンの取り組みに永続性を持たせるためには、一定の総合力が求められるということですし、そこでクローズアップされるのがITの分野。継続性のあるチャレンジ局面ではその企業のITシステムとの連動が不可欠になるわけですが、NECのようなSIerは、そもそもこの運用局面で強みを持っているんです。

忘れてはならない重要なポイントがここにある。アウトソーサーの立場であろうと、インハウスのAI担当であろうと、ビジネスのゴールは結果だ。「新しいアルゴリズムを導入する」ことや「どこにもない斬新なAIを用いる」ことは、あくまでも手段であってゴールではない。

NECに絶え間なくオファーが飛び込んでくるのは「過去の実績が大きいから」だけではなく、ビジネスとしての結果を引き出すための総合力とシステムインテグレーターとしての力とを備えているからなのだ。

本橋例えばビジネス戦略を立てることに強みを持つ会社と、AIの専門性が高い会社と、システム開発や運用を得意とする会社などなどがコラボレーションしてプロジェクトを立ち上げ、ともにゴールを目指すような形もあります。

でも、そういう枠組みの中で「AIのことにだけ専念すれば良い」という立場に就くよりも、すべての機能をNECというワンチームで担い、データサイエンティストも戦略策定やシステム改革にも関与していったほうが、私は面白いと思うし「お得だな」と感じるんです。

あくまでも「面白さ」を追求する本橋氏は、「お得」感を主張しながら笑う。だが大真面目な理由もそこにはある。「AIしか知らない人間がデータばかりを見つめていても、ビジネスとしてのゴール到達に貢献できる範囲はごく限られたものになってしまう」という発想があるのだ。

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どんな課題もデータサイエンスで解決できる「総合料理人」のほうが面白いに決まってる!

本橋私の持論は「総合料理人になろう」なんです。データサイエンスを料理の世界で例えるならば、「私は刺身を作る包丁さばきが得意な職人なので、刺身しか作れません」的なサイエンティストもこの世界にはいます。

でもビジネスの局面で、しかもアウトソーサーのサイエンティストとして活躍しようというのなら、お客様は「今あるこの材料で最高に美味しい料理を作ってくれ」(今あるデータで最大限売上をあげてくれ)という要望を突きつけてきます。

煮たり、焼いたりと、多彩な料理法を用いて、なおかつそのお客様の好みも考慮して和風にしたりイタリアンにしたりと味付けにも工夫を凝らせる総合料理人にならなければ、「じゃあこんな料理も作れる?」(こういう課題も解決できる?)と何度もお店に足を運んではくれません。

私は料理をするなら食べた人に心から喜んでほしいと思うので総合料理人でありたいし、NECにはそういう料理店を営めるだけの包丁も鍋も釜もスタッフも揃っている。だから私はここに居続けているんです。

シェフがどんなに有能で高い理想を掲げていても、1人の力には限界がある。それぞれの役割に強みを持つスタッフがいて、様々な料理を生み出せる道具や設備が整ってこそ、最高のおもてなしができる。それがNECなのだと本橋氏は言う。

本橋これも「お得」な情報として教えておきますね。

もしも採用面接で私が面接官をしていた場合、例えば学生のかたが「私は(NECが強みとする)異種混合学習のフレームワークをやりたいのでNECを志望しました」みたいなお話をされた時は、正直なところちょっと残念な気持ちになるはずです(笑)。

当社が誇る異種混合学習のことをちゃんと勉強してくれて、強く惹かれてくれたことに対しては嬉しい気持ちもわきますけれど、せっかく「広さ」の部分で強みをもっているこの会社に入ろうというのならば、もっと高い期待をもって来てほしい。

1つのテクノロジーや手法にこだわって「深さ」を追い求めたい、というのがそのかたの真意なのだとしたら、活躍の場はメーカーやWEB系企業など、他にあるかもしれないじゃないですか。

ここまで言いかけて、本橋氏は「誤解しないでくださいね」と前置きした上で補足する。

本橋もちろんNECは「深さ」を追求するフィールドでも明快な強みを持っています。なによりもわかりやすいものとして「難関国際会議への論文投稿」という指標を挙げます。

データサイエンスの最先端部分で新しい理論や技術に到達した企業は、こぞって論文を提出してその先進性や独自性を主張しているわけですが、とりわけ難関だとされている国際会議に、多く採択されている日本企業はNECなのです。

世界が認める高い先進性と専門性も持っている以上、「深さ」を求める志望者にも参画してほしいという気持ちは十分あるのだと本橋氏は念を押す。だがそれでも「NECの真の強みは、幅広いビジネスフィールドに結果をもたらすことを目指している」点にあることを理解してほしいのだという。

そもそも「多くのお客様に役立ちたい」「社会の中で数十年間使い続けられる仕組みをテクノロジーを活用して生み出したい」という志向があり、結果として多様な課題に立ち向かってきたからこそ、他にはない高度な専門性を得ることにもつながってもいるとのこと。

アーリーキャリアにおいて幅広いチャレンジをしていく中で「これだ」と思える専門分野に出会ったならば、NEC内の研究所等でその道を極めていくキャリアパスもあるが、まずは「NECにしかない本当の面白さ」に共感してくれる若い人材と出会いたい。これが本橋氏の真意。

本橋 NECのAI部隊の年齢中央値が20代であることからも明快なとおり、このチームの中心世代は20代をはじめとする若手です。そういうメンバーが様々な企業のイノベーティブなプロジェクトに2〜3人ほどでアサインされ、経験を積んでいます。

未知の業界の新しい経営課題にデータサイエンスで貢献していくのはもちろんのこと、そこで関わってくる業務知識やシステム上の知見と出会うことで「結果を出す存在」としての成長も果たしています。20代のデータサイエンティストが「総合料理人」を目指せる環境が開かれているんです。

しかも全労働時間の20%を「お客様関連の業務以外」に費やしていくことをチームとして推奨してもいます。自分が興味ある領域を深掘りしつつ、「広さ」の醍醐味も味わえる。

私が愛しているこの環境に共鳴してくださる若手のかたがどんどん入ってきてくれることを心から願っています。

「サイエンティスト」という呼び名が想起させるのかもしれないが、データサイエンティストにはいつの間にか「データとにらめっこをする内向きなキャラクター」のイメージが付きまとっている。ITでいうところのスーパープログラマー的なイメージだ。

本橋氏が補足したように、NECにはそうしたトップサイエンティストも多数いて、世界で認められてもいるが、産業や社会がAIに期待しているのは「AIによって生み出された目に見える未来社会」。

そこで不可欠となる「データサイエンスの総合料理人」になろうという者にとって理想的な環境が、ここには揃っているということだ。

こちらの記事は2019年12月25日に公開しており、
記載されている情報が異なる場合がございます。

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Presented by

執筆

森川 直樹

写真

藤田 慎一郎

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