産業変革では、「非効率なフロー」よりもまず「現場の負け癖」に目を向けよ──東京のIT企業から青森での事業開発に飛び込んだニチノウCOO河合が語る“人間成長論”

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河合 秋人

慶應義塾大学を卒業後、スローガン株式会社で法人営業を経て、2017年に株式会社日本農業に入社。「日本の農業で世界を驚かす」をミッションに、国内生産(りんご、キウイ、ぶどう、いちご、さつまいも、大根、玉ねぎ)、海外輸出、海外生産(いちご)を担当。

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「産業変革」という仕事に読者はどのような印象を抱くだろうか?

東京の洗練されたオフィスで、最先端のテクノロジーを駆使して、非効率な業務フローを改善していく──。否、もちろん実態はそんな甘いものではない。

それは、自ら現地に根ざし、人々と酒を酌み交わし、信頼を一歩ずつ積み上げ、深く根ざした「意識」そのものを変えていくプロセスだ。そこにはITビジネスのようなスマートさはないかもしれないが、人と人との繋がりから生まれる喜びは計り知れない。

そう熱弁するのは、ニチノウこと株式会社日本農業COOの河合氏だ。

ニチノウといえば、前回の取材にてCEO内藤祥平氏より、「儲かる農業」の赤裸々な戦略を伺った。22年には日本の農林水産物・食品輸出が1兆4,148億円と過去最高を記録し、前年比14.3%増という右肩上がりの成長を見せているポテンシャルの高さ、そして日本農業が初めからグローバル展開し農業バリューチェーンの垂直統合を目指す戦略は印象的であった。

今回の取材では、“農業の変革の現場”に強く焦点を当てていきたい。同社の主要なビジネスフィールドである青森に長年根ざし、現場にて“生々しい”と表現できるほど手触り感のある事業開発を行ってきた河合氏の、唯一無二の挑戦にクローズアップしていきたい。

  • TEXT BY YUICHI YAMAGISHI
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
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都会で消耗する若者よ、産業を根本から変えるような仕事をしてみたくないか

ニチノウの原点は、「日本の農産物はもっと評価されてもっと高く売れるはずだ」、という同社CEO内藤氏の強い想いから始まっている。この一人の理想は、河合氏をはじめ多くの優秀で熱量の高いビジネスパーソンや、地方自治体や農水省といった行政などのプレイヤーまでを巻き込む、壮大な挑戦へと発展した。

河合日本農業を始めた当初、少なくとも僕はこんな壮大なことを考えたことがなかったんですけどね。今の僕らのプロジェクトは、農家の方々を巻き込んで補助金をもらうなど、行政が絡んできます。あるいは、高密植栽培*を展開するのに、もっと平たい土地がほしい場合に、空いている田んぼの放棄地を使えないか考えます。

田んぼは地盤を固めて水を逃がさない構造で水はけが非常に悪いので、行政と一緒に田んぼの土地改良が出来ないかと協議したりします。そんなことを続けているうちに、「これができるのはニチノウしかいない」と、行政から相談が来るようにまでなりました。

*……単位面積当たりの植栽本数を今まで以上に多くして、より早期多収と高収量を目指す栽培方法。(https://www.maff.go.jp/j/seisan/gizyutu/hukyu/h_zirei/r3/attach/pdf/r3-71.pdf

この産業はどうあるべきなのか。COOを務める河合氏であっても初めからこのような高尚な想いで事業に向き合っていたわけではない。ひたすら目の前の仕事に集中することで、徐々に自分が農業界に与える影響度合いの高まりを実感し、責任感が芽生えたのだ。

今、日常を忙しく過ごす読者はどうだろうか? 自分の日々の仕事を“産業の未来”というスコープで捉えることはできているだろうか。もちろんそうでなくても、恥ずべきことではない。河合氏が当初そうであったように。

だがしかし、せっかくならば、より高い視座で、一つの産業を変えてしまうほどの極大インパクトある仕事をしてみたくないか。そんな考えを持つ河合氏だからこそ、昨今の若手ビジネスパーソンに対してある種の“提言”とも取れるその心情を吐露したのだ。

河合都会で消耗し、誰のために働いているか分からなくなることがある。そんな感覚は誰でも身に覚えがあるはずです。例えば、SaaSの開発・提供に携わるにしても、その事業の本質はクライアント企業のコストカットの場合が多い。ITビジネスをじわじわとグロースさせる存在へと成長することはできるかもしれませんが、「○○さんの役に立てた」「○○さんがこの商品を食べて幸せを感じた」「この一瞬のためにみんなで汗を流してきたんだ」などと強く実感するのは、なかなか難しいかもしれないと感じるんです。

一方、僕らの展開している事業は、農家の方々の所得を2倍、3倍に引き上げたり、めちゃめちゃ甘いりんごを食べたことのない国の人たちに届けたりなど、人々の生活に密接に関係しているとても前向きな活動です。また、世界中を探しても僕らと同じ活動をしている競合他社はいませんから、僕らがやらなければ他に誰も担い手がいません。そんな唯一無二の環境で、手触り感のある仕事に携われる。自分の目の前にいる人々の生活を変える手触り感を味わい、自身の喜びに変えることができる。

ビジネスパーソンとしてのスキルアップや成長といった観点と合わせて、目の前の人間に喜んでもらえる仕事、そんな欲張りな想いを素直に持ってもいいのではと思うんです。

河合氏はもちろん、東京のスタートアップやSaaSビジネスを批判したいのではない。これまで都会で働く若手ビジネスパーソンにはなかなか想像するのが難しい選択肢もあるのでは?と提言しているのだ。

可能性を求める人ほど地方へ行くべき。非効率の中にこそ、大きなチャンスがある。悲喜交交の人間模様の中で、“コテコテの商売”に身を置き、ビジネスの筋肉を付けていくことこそ、ビジネスパーソンとしても人間としても成長できるのかもしれない。

目の前にいる人へ直接働きかけることで、世の中や産業構造そのものが変わる。そんな仕事は、他にあまり思い浮かばないだろう。競合他社がなく唯一無二というのは、決して過言ではない。

河合もしあなたが挑戦をしたければニチノウのメンバーみんなが背中を押してくれるし、そもそも道に迷って悩むことがありません。この事業は前に進むことしかないのですから。また、「食」というのは必ず誰かを幸せにできる点も魅力です。関わってくれる周囲の人を幸せにしたいと思える人が一人でも多くニチノウに入ってきてくれると嬉しいです。

農業へ参入するなら、若手ビジネスパーソンの席はまだまだガラ空きだ。ニチノウだけに限っても、売り上げを毎年倍々に引き上げようとしている。この実現には、インフラ整備から販路拡大、マーケティングの強化に至るまで、解決すべき課題が山積している。しかし、これらは決して不可能な挑戦ではなく、むしろ新しい風を呼び込む好機である。

かつてコンサルタントやメガベンチャーが切り拓いた「次のビジネス」の地位を、今や農業界が狙っている。この動きは、未踏の地へ最初に足を踏み入れるファーストペンギンになる可能性を秘めているのだ。日本の経済を良くしたい、手触り感のあるビジネスがしたいと願う人にとって、まさに理想的な舞台なのかもしれない。成長余地が大きく、将来的なキャリアを戦略的に築ける場所、それがまさにここにある。

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地方の農家の方の所得は、すぐに2倍、3倍に引き上げられる

青森県弘前市、この地はりんご産業が栄える場所だ。ではなぜ、ニチノウがりんごにこだわるのか。それは、買い手からもっとも引き合いが多かったからだという。シンプルに「需要の大きさ」から、狙うセンターピンをりんごに定めたのだ。

河合弘前市、ここはりんごの街として知られ、農家の方々がその地域経済の核を成しています。りんご農家の方々が一人いなくなると、周辺の運送業など関係者だけで5人が職を失うと言われています。また、りんご農家5軒で1台の機械を共同購入してシェアするなど、緊密に協力しながら生業を成り立たせています。まさに共存共栄の関係なんです。

しかしながら、この地域は新しい担い手の不足と高齢化の問題に直面しています。40代~50代が「若手」と呼ばれる現状で、20代~30代の若者はほとんど見かけません。

弘前市のりんご産業は、密な人間関係の網の目の中で息づいている。ここでは、「安く仕入れて、高く売る」という商売の大原則が、季節や需要の変化と共に日々目の前に現れるのだ。例えば、りんごを入れる木箱一つを取っても、その価格はりんご自体の需給のバランスによって変動するのだから、なんとも手触り感のある商売と言えよう。

さらにそのコミュニティの中では、小さな課題解決にも、度々贈り物が必要な生々しい世界。リアルビジネスは、人間とのコミュニケーションが100%と言ってもいい。

河合僕はコミュニティに入り込んで信頼してもらえるまでに4年かかりました。りんご農家の方々だけでなく、卸売や仲買人といった“りんご屋”と呼ばれる業界の人とお酒を酌み交わす「飲み二ケーション」を通じて、徐々に信用を得て……。そのうちにいろいろとりんご産業の課題が見えてきたんですね。

地域コミュニティに溶け込む4年間を過ごす中で、河合氏は日本の農家の方が直面する根深い課題への理解が深まっていった。気づいたのは、日本と海外のマーケットに対する根本的な考え方の違いである。

河合日本の農業は、「見た目、味、色」といった国民の高い品質基準に応えるため、世界と比べても独自の道を歩んでいるんです。その結果、日本の農家の方々はあくまで国内マーケットを主軸に据え、県ごとに特産品を生み出し、「甘さ」といった特定の特徴で勝負を繰り広げている。

他方で、海外では、国単位で競争相手を捉え「まあまあの品質の商品を、いかにスケールさせるか」にフォーカスが当たっています。生産性とコスト効率を重視し、技術力を駆使して消費者にリーズナブルな価格で農作物を提供できるかが主軸なんです。

つまり、両者が目指しているマーケットやそこで求められる戦い方が全く異なるので、日本のりんごの慣行栽培では、諸外国では30年前に廃止された栽培方法が未だに残っている。とあるオランダ人がそれを観て指差し「ホビー(趣味)か?」と言ったほどです。

また、「農業を技術力だけでしか捉えていない」ことも大きな課題だと河合氏は続ける。

河合りんご農家の方々が海外へ視察に行くと、「技術力は自分たちのほうが勝っているね」と満足して帰国することが多いんです。

りんごの見た目が綺麗じゃない、枝の切り方が雑だ、だからやはり自分たちのほうが技術があるなど、そこには技術以外の経営的な視点がすっぽり抜け落ちてしまっている。何にいくら投資をしていくらのリターンがあったのか、そういったビジネスの基本的な部分が蔑ろにされているんです。

残念ながら、経営力や資本効率など中身をみれば、日本の農業のほうが生産性はかなり低い。また、日本の農家の方々のほうが平均的に所得が相当低く、海外のほうが儲かっていることが分かります。

だったら生産性を上げて儲かるようにすればいい。しかし「儲かる農業」への道にすら、日本人に根付いてしまった“負け癖”というマインドの壁が立ちはだかるのだ。「日本の農業にはポテンシャルがあるにも関わらず、農業に携わっている当の本人たちが、農業の持つポテンシャルを信じきれていない」とは、前回、内藤代表も指摘していた通り。

河合例えば「儲かるなら高密植栽培をやってもいいけど、3倍の収穫が見込めるなら、生産面積は3分の1に減らしたい」といった具合に。つまり、収穫が増えるなら仕事量は減らして、収入は現状維持で良いと言うんです。

もちろん、選択は個人の自由ですので、この生業としての家族経営を頭ごなしに否定するつもりはありません。しかし、お酒の場でよくよく話を聞いてみると、「本音ではもっと収入を増やしたい」と思っていたりするものなんです。

今の青森のりんご農家の方々は、夫婦で働き通しでも世帯年収が300~400万円ほど。いくら青森は土地代が安く固定費を抑えられるとはいえ、決して「それで満足だ」という水準ではないですよね。

しかも、二十代の息子に農作業を手伝わせるのに、まだ修行期間中だからと月5万円程度しか渡していないことも少なくない。「親の仕事が儲からない」といったイメージでは誰も農家を継ごうとは思わないでしょう。

長年染み付いた習慣を変えることは、誰にとっても難しい問題だ。だからこそ、ニチノウの介在価値があるのだ。

河合実際、我々と取引を始め、農作業の負担が軽くなり、生産数あたりの単価が上がったことで、「旅行に行けるようになった」「君たちに会えて良かった」と喜んでくれた農家の方がいます。もちろん一方で、納得がいかないと、「もっと高く農作物が売れるはずだろう」と怒鳴り込んでくる農家の方もいます。

良くも悪くも、僕らのサービスは人の生活に深く関わっている。こうして地方の人の所得を2倍、3倍に引き上げられる提案ができる存在は世の中にそう多くありません。人の生活に関わることで社会的意義を実感できますし、手触り感を日々得られます。

手触り感のある仕事は、ITベンチャーとは異なる、農業というリアルビジネスならではの面白さなのだ。

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今が農業界の“藤田晋”になれる最後のチャンス

話を少し戻そう。最初はまったく相手にしてもらえなかった河合氏。具体的にどうやって青森の農家の方々の信用を勝ち得ていったのだろうか。

河合何十年も伝統を守り続けてきたのですから、当然と言えば当然。どの地域も似たようなもので、他所者は警戒され、アレルギー反応が強く、「どうせ長居はしないだろう」と邪険に扱われることも多いです(笑)。

でも、変えていくことが重要だという強い信念で突き進んでいったら、いつの間にか僕らが青森のりんご産業の中心になっていました。どんどん多くの人を巻き込み、また我々も農家の方々の密な人間関係に巻き込まれにいった結果、冒頭で述べた通り想像してたよりも遥か大きな視野で農業を捉えざるを得なくなっていったのです。

現在はその積み重ねもあって、農家の方々に対しても「他の農家はもっと作ると言っていたのに、◯◯さんはやらないの?もったいない!」といったように、なんでも遠慮せず対等に話し合えるほどの関係性を築くことができました。これまでは「現状維持でもいい」と言っていた農家の方々に、競争原理を持ち込んでいるわけです。

負け癖が根付き、本来あるはずの可能性から目を背けていた農家の方々に、ニチノウが触媒となり適切な競争原理を持ち込むことができた。これが河合氏始めニチノウメンバーの仕事のやりがいであり、社会的意義なのだ。

もちろんそのためには、コミュニティの中にある人間関係を把握して、決定権や影響力を持つ人物を把握して根回しを怠らないこと、地域の飲み会には極力参加すること、朝の市場に顔を出すことなど。一見すると事業成長には直接関係がないように思える“ウェットなコミュニケーション”の積み重ねにより、信頼を獲得していくことが最も重要なのだとか。

河合過去には工場のパートさんたちにボイコットを起こされたり、輸入業者の方から毎晩クレームのメールをもらっていたりした時期もありましたが.....(笑)。

とにかく逃げないことが重要です。もうシンプルに、続ける。そして、あくまで他所者として地域への最大限のリスペクトと謙虚さを示しつつ、それでいて信用してもらえるよう、取り繕わない本音でのコミュニケーションを心がける必要があります。

ほぼ毎日のように飲み会が開催されていますが、とにかく成功するまで通い続けました。そして農家の皆さんと顔を合わせるたびに、「高密植栽培を成功させる」と言い続けたんです。

敵情視察だ、と訝しんで絡んでくる人もいるし、一見無駄とも思えるようなコミュニケーションも多いですが、そもそも僕と話してくれるということは何かしら潜在的に課題を抱えていて、現状を変えたいと思っていることなんだとも思うんです。

次第に、その地域において、どの家族がどの品種の農作物を作っていて、何ヘクタールの土地があり、おおよその収入が想像できるようにまでなったのだとか。

そこまで地域に密接に張り込むこと4年。冒頭で述べた通り、気づけば河合氏は「農家を背負う若者代表」のような立ち位置として見られるようになったのだ。

河合日本農業が起点となり、行政ともやりとりするようになりました。ただし、行政は主に、農水省・県・市町村の3階層に分かれているので、それぞれと交渉や議論を重ねる必要があるんです。

一般的な栽培方法である慣行栽培を続けることのデメリット、一方で高密植栽培の収益構造や期待される所得の上昇幅、そして雇用創出期待値など、その地域に与えうる経済的なインパクトなどをプレゼンするんですが、当初は「なんで行政は考えてこなかったんだろう。」なんて思うこともしばしばありました(笑)。

ただし、もしIT分野で起業していたら、こんな立場になれなかったでしょう。その意味では、今なら「農業界の藤田晋」になれる可能性を秘めていると強く感じますね。

とにかく、IT業界のようにベータ版を出して小さく試してみるというような進め方はできない。リアルビジネスゆえ大きな先行投資が必要、また一度プロジェクトが動き出せばなかなか途中で撤退ができない。とはいえ、調達した資金を投入すれば売り上げが上がるSaaSのようなシンプルなモデルでもない。つまり、一般的なITスタートアップのセオリーが一切通用しない世界なのだ。

スマートさとは対極のように思えるが、決してAIには代替できない仕事。これこそ“人間らしい”、これからの時代に求められる仕事なのかもしれない。

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「よそ者×スタートアップ」だからこそ、前例のない高密植栽培を推し進めることができた

日本の農業に潜む可能性は、未だに広く認識されていない。それでも河合氏が指摘するように、「非効率な産業」における伸び代を「儲かる農業」へと転換する過程には、格別な面白さが存在するのだ。しかし、CEO内藤氏が前回記事で語った通り、実際にその道を切り開く過程は極めて地道な作業の積み重ねである。

青森県には約2万ヘクタールのりんご園地が点在しているが、高密植栽培の普及率はわずか0.2%、約45ヘクタールに過ぎない。つまり、圧倒的多数の99%が依然として慣行栽培に依存してしまっている。

河合高密植栽培は、その計り知れない伸び代と共に、青森県のりんご産業へ新たな希望をもたらしつつあります。輸出市場の成長と並行して、世界的な人口増加による食料不足の懸念は、農業分野における緊急の課題となっていますよね。特に東南アジアでは、今後の増える人口とともに食料不足が予想されており、青森の農家の方々にとっては新たな挑戦の機会がまだまだたくさん存在しています。

そんな流れを受けて、青森では「高密植栽培」と「輸出」が農家の方々の生活を根本的に変える2つの柱となっています。最近だと、2ヘクタールの園地を持つ農家の方が、そのうちの1ヘクタールで高密植栽培に取り組むことを宣言してくれるなど、この新しい栽培方法が徐々に広がりを見せているんです。

今年収穫できた高密植栽培のりんごは、一般的な栽培方法である慣行栽培よりも光合成量が多く、糖度が高く作れたそうだ。既存の日本のりんごの“美味しさ”に、更なる糖度と収穫力がついてくれば鬼に金棒だと、河合氏は力を込める。

さらに来年には、オランダからAIでりんごの大きさを自動判別して仕分けできる機械を導入予定だそうだ。これにより、仕分けの時間とかかる人員の人件費を削減できるようになる。「儲かる農業の道」はこうして地道に一つ一つ、変えていく。

とはいえ、AIなど俗にいうAgriTechを導入しただけではインパクトは小さく、その手前の段階でやるべきことが山積しているのが農業だ。「テクノロジーで変えられる部分は少ないし、もっとプリミティブな手法で生産性が何倍にもなるのでそこから始める必要がある」とは、前回内藤氏からも語られた通り。

地道ながらも着実な取り組みこそ、農業の将来を明るく照らす一筋の光となる。ニチノウに触発され、果敢に新しい技術を取り入れる農家の方々のの姿勢は、今後の日本の農業界を切り開く鍵となるだろう。

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手に突き刺さるほどの手触り感を求める人に来てほしい

最後に改めて、日本農業の目指すビジョンと、今後の成長に向けてどんな人材を求めているのかを聞いてみたい。

河合もっと農家の方々の生活が豊かになり、地域が盛り上がって、自分たちの街や村に誇りをもってくれるようになればいいなと思っています。

しかし、まだまだ農家の方々の間には、長年挑戦しても大きなリターンを得られなかった経験から、負け癖が漂っています。僕たちの役割は、“攻めることの重要さ”を伝え、一人でも多くこの現状を変えたいと願う人々の背中を押してあげることです。

日本農業の売上げ推移(作成:FastGrow)

農業を産業として捉えれば決してマーケットは小さくなく、むしろそのポテンシャルは十分すぎるほど大きい。

河合ニチノウの仕事はもちろん「プランニングをして終わり」ではありません。実装現場ではこれまで紹介した通り、えげつない失敗をたくさんします。

だから言えるかもしれませんが、「失敗をしたくないマインド」を持つ人にとっては、正直キツイ環境と言えるかもしれません。

今新たに作ろうとしている農作物がこれから上手く育って想定通りの利益をもたらしていくかどうかなんて、10年先にしか分からない。今のところ上手くいっている高密植栽培も、あるとき急に樹が枯れてしまう可能性だってゼロではない。

リアルビジネスには、このような多くの生々しいトラブルやエラーに対する耐性が求められるんですが、逆に、「手に突き刺さるくらいの手触り感」が欲しい人にとっては、この上ない素晴らしい事業だと思います。もし少しでも興味がある人はぜひ一度青森に来てみてください!

青森のりんご畑から始まった小さな一歩が、大きなうねりとなり、今や日本の農業の変革を率いている。毎年売り上げ倍々での成長を目指すニチノウの挑戦は、単なる数字の増加だけを意味するものではない。農家の方々の生活を豊かにし、地域社会を活性化させるという大きな目標を実現させるものだ。

その過程は、ビジネスパーソンとしてだけでなく、人としても圧倒的に成長できる貴重な機会となるだろう。地方の濃密な人間関係の中で、真の“コテコテの商売”を体験し、ビジネスの筋肉を鍛える。競合がまだいない中、唯一無二の環境で手触り感を味わいながら産業を変えていくのだ。地方にこそ、日本の未来を開く可能性が秘められていると取材陣は感じさせられた。

こちらの記事は2023年12月20日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

山岸 裕一

写真

藤田 慎一郎

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