連載高齢者の生活をリデザインー介護DXで社会的インパクトを狙う、Rehab for JAPANの挑戦

「失われた30年」ならぬ「約束された20年」を、SaaSでDXせよ──日本の介護Techが世界に踏み出せるワケを、ライフタイムベンチャーズ木村・Rehab池上に聞く

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インタビュイー
池上 晋介

1977年12月29日生まれ兵庫県明石市出身。大阪市立大学卒業後、NECを経て、2007年リクルート入社。 2010年より「HOT PEPPER Beauty」の統括プロデューサー、ビューティ事業ユニット長として、事業成長を牽引。サロン向け予約管理システム「サロンボード」を企画開発し、美容業界のIT化を主導。2019年10月より株式会社Rehab for JAPANに参画。取締役副社長兼COOに就任。

木村 亮介

一橋大学商学部経営学科を卒業後、プライスウォーターハウスクーパース株式会社(現:PwCアドバイザリー合同会社)及びKPMGヘルスケアジャパン株式会社にて公共インフラ/ヘルスケア領域に関するコンサルティング業務に従事した後、インキュベイトファンドへ参画し、ispace、Gatebox、Misoca、ベルフェイス、iCAREなどの急成長企業を含む40社超の投資先支援に従事。2017年1月にライフタイムベンチャーズを設立。プレシード/シードステージに特化して投資を行う。Rehab for JAPANの社外取締役も兼務。

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1990年頃に始まった日本の経済低迷を指す「失われた30年」という言葉。これがまだ続き、「失われた40年になるのでは」という指摘がある。日本経済を評する言葉には昨今、ネガティブなワードばかりが並んでいるように感じる。だが、この2人が見ている将来は全く異なるものだ。曰く、「約束された20年」。

介護業界でバーティカルSaaSを展開し、DXを押し進めようとしているRehab for JAPAN(以下、Rehab)。これまでの連載3記事で、介護SaaSがもたらす社会的インパクトの大きさを、社内メンバーの話を基に紐解いてきた。

今回は、よりマクロな視点で、「介護Techに、どれだけ大きなポテンシャルがあるのか」を紹介したい。招いたのは同社取締役副社長COOの池上晋介氏と、同社にシード期から投資しているライフタイムベンチャーズ・代表パートナーの木村亮介氏(社外取締役も兼務)。

「失われた30年から、約束された20年になるのが、日本の介護業界だ」と口を揃える二人。その裏側にある思考を詳しく聞けば、これからの日本で、どのようなSaaSスタートアップが躍動していくのかを知り、予測できるようになるかもしれない。

  • TEXT BY MAAYA OCHIAI
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
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ようやく始まった、介護の本格的なDX時代

池上介護業界に対して馴染みのない方も多い前提で、まず初めに伝えたいことがあります。今我々がやっていること、つまりリハビリを科学することは、言ってしまえば「一つの産業を新しく創ること」に繋がるんです。

日本は、2040年まで高齢者人口比率が世界でトップであることが既に決まっているんですよ。20年という長い期間、世界1位であることが約束されている市場って、介護くらいしかないですよね。

木村まさに「失われた30年」ならぬ「約束された20年」になると考えています。こう言えば、産業としてのポテンシャルが他の業界と比べても大きいとわかるのではないでしょうか。

池上だから、当たり前のように、海外展開だって将来に向けて考えることができます。世界をリードする事業開発ができる環境にあるわけですから。

もちろん、各国とも介護保険制度や環境が異なるので、日本で行っていることをそのまま輸出できるとは思ってはいません。ただし、リハビリのプロセスや、高齢者の日常生活って、世界共通の部分が大いにあるんです。なので、我々が開発したリハビリの計画策定のアルゴリズムや解析データは、間違いなく、海外で事業を創る際にも重要な意味合いを持ちます。

介護Techといえば、内需に偏っているイメージを持つ読者も多いだろう。そんな中、グローバルな産業を新しく創造していくポテンシャルまであると、前のめりに語る二人。その背景を、じっくり聞いてみたい。

木村氏はまず、日本の介護Techの概況を語った。大きく3つの世代に分かれると指摘した。

木村日本の介護Techで長らく対象とされてきたのは、介護保険請求業務に関わる課題解決です。開発されてきたプロダクトのほぼ100%が、介護保険請求ソフト。代表的なものが、2000年前後から増えてきた「レセコン(レセプトコンピューター)」ですね。受託開発で作るIT企業が大きくシェアを獲得し、今も維持している。こうした企業を、第一世代と呼べるでしょう。

レセコンはいずれもオンプレミスのサービスでした。それに対して、2010年前後にはクラウド化の流れが生まれはじめました。後発のプレーヤーがシンプルなUIやUXを意識した使いやすいプロダクトを開発し、第一世代のプロダクトからのリプレースが進みました。今、「介護Tech企業」として認知されるエス・エム・エスさんは、ここに当たるでしょう。私は第二世代と呼んでいます。

そして、2016年ごろから介護Techの第三世代となるスタートアップが次々と立ち上がり、アーリーステージを迎えています。注目すべきは、解決すべき課題を「介護保険請求業務」だけに置いていない点です。プロダクトが、「レセコン」の枠を飛び出してきたんです。

介護事業所には、レセプト以外にも重要な業務がたくさんあります。ただ、介護保険制度のもとで運営されている以上、レセプトの重要度が非常に高く、事業所経営の根幹をなすところだったので、その電子化がまず行なわれました。ようやく最近になって、他の業務領域にもデジタル化が進んできたというわけです。

池上私たちのメインのプロダクト『リハプラン』は、介護事業者のさまざまなお仕事のうち、リハビリテーションの支援に特化したものです。業界内に、先行する競合はほとんどいません。

でも、そもそも、私たちがリハビリ支援をできるのは、すでにレセプト業務でクラウドサービスの支援が行き届くようになってきているから、とも言えます。第一世代や第二世代が事業展開に成功し、今も存在しているおかげなんです。

レセプト業務に関してはデジタル化が進んできた。それに加えて、Rehabをはじめとした新規プレイヤーが他業務のデジタル化にも取り組むようになった。こうしていくつかの領域でデジタル化が進むことにより、介護業界全体でのDXを語ることができるようになっていく。

つまり、ここからが「介護DX」の本番。その最前線に立とうとしているのがRehabなのだ。

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Web3.0時代のプロダクト思想を、介護業界に

だがここまでの話では、プロダクト開発において見据える業務領域が変わっただけ、と感じるかもしれない。「なぜRehabが介護DXの最前線に立てるのかわからない」と疑問を持つ読者もいるだろう。

もちろん、明確な強みがRehabにはある。それは、プロダクトの設計思想に隠れている。昨今話題のWeb3.0の考えかたにも通ずるものだ。

木村第二世代のプロダクトはじわじわと広がり、介護保険請求業務のクラウド化は驚くほど進んでいます。ですが介護業界全体を見れば、まだまだ課題は山積みです。特に生産性向上は喫緊の課題です。社会の高齢化に伴って仕事量は増えていく一方で、人材の供給量は足りないままですから。

介護士や理学療法士といった存在が、その専門性を十分に発揮できる状況に変革していかなければなりません。

レセプト業務を効率化するだけでなく、もっと全体最適で個々の業務を最適化・効率化していく。そのためにテクノロジーをいかにして活用できるのか。第三世代のプロダクトが価値を発揮するのは、この領域です。

介護業界内でもITリテラシーは少しずつ高まっています。なので新しい事業開発もしやすくなっているんですよ。

なるほど、確かにITサービスを受け入れる素地は、介護業界だけでなく、さまざまな業界において広がっているように見受けられる。だが、そうであるなら、第二世代のプロダクトを開発・運営してきた企業のほうが有利なのではないか?そんな疑問も浮かぶ。

だが実は、先行事業者が必ずしも有利というわけでもないと、木村氏は強調する。

木村ここから先の時代に求められるのは、単なる自動化やクラウドサービス化だけではありません。介護事業の根幹、つまり高齢者へのケアそのものをより良く変えていけるようなプロダクトができるかどうか、これが勝負の分かれ目だと思います。

つまり、プロダクトを新たに開発する上で考えるべきことが、ものすごく多くなっているんです。データを効率的かつ効果的に蓄積すること、誰もが使いやすいUIを徹底すること、業界を超えたサービス連携を可能にするクラウドサービスとして設計すること、など。

ITプロダクトに関するテクノロジーって、このたった5年を切り取るだけでも、ものすごい速度で進化してますよね。だから、先行して参入しているというだけで、良いプロダクトを提供できるわけではないんです。むしろ、テック業界における新たな常識を備えている進行参入組のほうが有利かもしれません。

例えば会計ソフトという市場を見ると、受託開発やオンプレミス型ソフトを昭和の時代から提供してきた古参企業がいた。だが、現在クラウドサービスとしてシェアを拡大していっているのは、マネーフォワードやfreeeといった平成生まれのスタートアップだ。

この2社は、それまでの会計ソフトとは異なり、他業界や他サービスとの連携を積極的に行ったのが特徴だ。「会計業務の電子化」だけではなく、「企業経営全体の効率性」や「会計担当に限らない多くのユーザーにとっての利便性」を実現していった。

同じことを、Rehabは介護業界で行えると、木村氏は考えているのだ。

COOの池上氏も同様に、これまでの介護Techの先進性と、残る課題について厳しい目で語る。

池上レセプト業務の効率化は、介護事業者の経営改善に直結しますから、もちろん取り入れやすいし広がりやすい。介護業界で新しい事業をどこから始めようかと考えたら、当然、まず検討される業務領域です。

ですがこれだけでは、介護業界全体の変革は十分に進まないと思うんです。まだ足りないのは、「エンドユーザーである高齢者に寄り添ったIT支援」です。

介護業界のメインの仕事は、介護保険請求ではなく、高齢者さんと直に接するところにあります。だからRehabはリハビリ支援をしながらそのデータをしっかり蓄積できるSaaS型プロダクトとして事業を始めているんです。つまり、従来のプロダクトが提供価値としている、請求に関する業務効率化はあくまで、リハビリを含めた介護全体を科学しDXする上での通過点として捉えています。

こういう思想で事業を始められているのが、第二世代との違いでしょう。僕らのほうが優れている、とまでは思っていませんが、先輩たちが必ず勝つというわけでもない、ということです。真っ向勝負はできるんです、そこで頑張って勝っていきます(笑)。

少なくとも今後数年の間は、すでに市場で一定の地位を築いている先輩企業のほうが有利に見える。それでも真っ向勝負ができると話す池上氏。その自信はどこから来るのだろうか。

池上クラウドサービスとしての可能性には、もっともっと伸びしろがあるはずです。大量のユーザー情報を基に、プロダクトを非連続的に進化させていくことができるのが、本来の強みですよね。

この強みを活かしきるためには、レセプト業務の蓄積だけでは不十分だと個人的に感じています。先ほども言った通り、介護のメインは「高齢者支援」です。だから、高齢者に対して良い介護を提供して元気になってもらうか、この部分のデータの蓄積こそが必須なんです。

これが進んで初めて、クラウドといった先端テクノロジーを活かして変革を実現していけるんです。

こうした思想のもとに事業を始めていること自体が、介護業界のIT変革を進める上で有利に働く点になると信じて事業を推進しているのが私たちです。

クラウドサービスとしての可能性を最大化しようとしたり、その先にデータ活用プラットフォームの構築を見据えたりしている点は、Web3.0というこれからの世界観にも対応し得るものと言えるかもしれない。新規参入組だからこそ、未来に向けたこのような発展も意識しやすいのだ。

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介護業界では、政界からの追い風は予測し、先取りできる

世代が変わると、思想や世界観が大きくアップデートされることは、SaaSスタートアップに精通する読者なら容易に理解できるはず。しかもその変化のスピードは、ますます速くなっている。

そこで今回はあえて、介護業界の特性が表れているであろう「技術導入やデータ活用に対する制度的なインセンティブが少なかった」という木村氏の指摘を深掘りしてみたい。

介護事業者は、収益の8割以上が国からの介護報酬によってまかなわれる。この仕組み上、電子化そのものへのインセンティブは少なかった。だが、ここ数年で介護報酬制度も変化してきたという。

木村2016年頃から介護業界で大きな変化が起こってきています。それは、従来の「とにかくケアを実現しよう」という考えかたがアップデートされ、エンドユーザーである高齢者にとって「意味のあるケア、つまり高齢者の身体機能に効果があるケアを増やそう」、という機運が高まってきたんです。行政も実際に、そういったサービスに対して、より多くの報酬を支払うようになってきました。高齢化が目前に迫る未来を見据え、政府の焦りが如実に表れた転換だと思います。

今までは、良いサービスを提供して高齢者の身体機能に改善が見られた場合、施設を出てしまったり、ケアの頻度が下がったりして、事業所の報酬が減り、目先の収益まで減ってしまうという仕組みでした。ちょっといびつですよね。それが、きちんと高齢者の元気を実現したという成果を重視した報酬体系に変わっていっています。

これがリハプラン(RehabのSaaSプロダクト)や、他の介護スタートアップの追い風になっています。

介護の質を上げることが、介護報酬の加算に、ひいては収益の増加につながる仕組みができていく。今後は、各介護事業所の経営戦略も、利用する高齢者に寄り添ったものになっていくだろう。

その中でプロダクト開発におけるポイントを木村氏はこう分析する。

木村介護業界の長期的な方向性は、国の関係者やアカデミアの方々、現場の方々の意見を踏まえて継続的に議論されて決められています。そのため、いきなり「これやらなくなりました」みたいな急変化はほとんどありません。

だから、変化を先取りしてプロダクトをつくっていくことが、実はしやすい業界なのです。

介護報酬のトレンドに合わせた開発をちゃんとやっていけば、事業者さんに必要とされるプロダクトをつくれるということです。そしてRehabには、政策に則ったプロダクト開発を遂行できるだけの要素がそろっている。

例えば、Rehabの特筆すべき点として介護業界に対する解像度の高い人材が多いことが挙げられます。複雑な介護報酬制度や業界の仕組みを理解しているメンバーが多いため、筋のいい課題解決方法を検討していくことができると考えています。

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toBを突き詰め、toCでドライブをかけるタイミングを探る

大きく国の潮流が変わっていく中で、これからの介護Techのプロダクトには、大きく2つの方向性が考えられると指摘する木村氏。1つは、専門性の補完ができるプロダクトを活用し、これまでよりも高品質なケアを行うこと。もう1つは、これまでと同等のケアを、圧倒的なローコストで行う仕組みの構築だ。池上氏はこれを受け、難しい顔で見通しを語る。

池上我々がプロダクトをつくる上で、どちらをどの程度、どれくらいの時間軸で実現するのかという視点が大事です。

ただ、目先で一番難しいのは「事業所のソフトウェアに対する予算」です。マーケット全体の傾向として、介護事業所にはまだソフトウェアへの投資予算をしっかりと持っているところは少ない。

なので、他社との予算の取り合いというよりは、ソフトウェアへの投資価値、つまり『リハプラン』を使う事で高齢者だけでなく、事業所にもメリットを伝えていく必要があると考えています。

Rehabの方向性としては、両にらみで考えていきます。かなり悩ましいのですが、安いものを提供すると導入こそされやすいかもしれませんが、商売としての成長性は少ない。逆に、高品質で高価なプロダクトを提供しようとすると、「高品質とは何か?」という定義づくりから進める必要があり、浸透に時間がかかる。

これからのマーケットであるからこそ、このバランスが悩ましいですね。誰もやろうとしていなかった理由は、ここにあるのかもしれません(笑)。

ちなみに『リハプラン』は現在、SaaSプロダクトとして事業所を対象にサービスを提供している。「リハビリがそんなに重要なら、BtoCのかたちで高齢者に直接提供すればいいじゃないか」と考える読者もいるかもしれないが、Rehabはその戦略をあえてとっていない。

木村BtoCは一見インパクトがありそうですが、まだ今はある程度意識の高いコンシューマーにしかリーチできず、ベネフィットが本当に届いてほしい人には届かない可能性が高いのです。しかも日本は潤沢な公的介護保険財政がある珍しい国なので、その介護インフラを国民は享受できます。

それであれば、国のインフラの周辺でできることをやり尽くしてから、その際に得たデータを持って、toCプロダクトを展開していくべきだと考えているんです。幸いなことに、2021年現在、『リハプラン』の事業基盤はかなり整ってきたので、今後はできるだけ早くC向けにチャレンジしたほうがいいと、僕は思っていますけどね。

池上そうですよね。でも正直、そのタイミングを決めるのが難しい(苦笑)。スタートアップってやりたいことが多すぎるから、優先度を付けていくのにものすごく苦労しますね。

介護やリハビリはまだまだ多くの事業所が、サービス提供、つまり「マニュアルに則ったオペレーションをちゃんとやること」がゴールになっています。どうしたら利用者が元気になるのか、より良い状態に導けるのかということを測るものさしがないので、利用者側もどこの事業所がいいのかを選べない状況ですし、高齢者の家族も胸を張って「家族に良いサービスを受けさせてあげている」とは言い難い状況だと思います。

だからこそ、「いい介護、価値あるリハビリとは何か」を定義するために、まずは事業所が提供している介護サービスやリハビリをデータ化して解析し、何が本当に高齢者にとって価値があるサービスなのかを解明する必要があるのです。

もちろん将来的にはtoCプロダクトの事業展開を見据えていますが、まずは現状のオペレーションを可視化・分析することで、介護やリハビリを定義づけしていきます。そのために、toBプロダクトから登っていくことが重要だと考えています。

前述のように、国の政策的な追い風が第三世代の介護Techに吹く今、二人は、Rehabが持つ優位性をこう分析している。

木村『リハプラン』をローンチした当時は、今のように国がリハビリに注力する方向に舵を切るかどうか、まだ不確実な状況でした。ですが、創業当初から代表である大久保さんが強い想いを持ってリハビリの可能性を信じて事業を展開してきた。

それが結果的に、政策的なギアが入ったタイミングで既にプロダクトが存在し、トップランナーとして走って来られた要因だったと思います。これは他社が後発で再現しようと思ってもなかなか難しいのではないでしょうか。

池上実際に事業を行う中で感じるRehabの魅力は、リハビリのデータをプロダクト開発の当初から意図して集めることにフォーカスしているところではないでしょうか。高齢者の元気を科学するという、誰もトライしていないことに挑んでいることが我々の独自性だなと思っています。

木村本当におっしゃる通りですね。僕は一番初めに大久保さんに会ったときに言われたことを今でも覚えています。

彼は「リハビリでおじいちゃんとおばあちゃんを元気にできると僕は思っているし、実際してきました」とはっきり言っていた。大久保さんはそれが高齢者にとってもその家族にとっても、介護事業者にとっても喜んでもらえることであり、リハビリこそが日本社会に対する処方箋なんだと心の底から信じていました。

この想いを実装してきた会社は他にありません。しかもまさに今、国による介護報酬制度改定の追い風を受けている。ここまでの追い風を受けながら事業をやれる環境は他業界のスタートアップでもあまりないかなと思いますね。

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市場環境は世界一恵まれている。
「約束された20年」を歩みだした日本の介護業界

Rehabの独自性を池上氏は「リハビリデータを、狙いを持って集めていること」と述べた。だが、池上氏はなぜ介護業界DXにおいてリハビリデータを重視するのだろうか。冒頭でも二人が話した産業としてのポテンシャルはこの部分にあると話す池上氏。

池上リハビリのデータって、つまるところ「高齢者の努力の過程」を可視化したものなんですよね。高齢者自身は何を頑張ればいいのか、介助者はどうすればいいのか、家族はどうすればいいのか、必要な環境因子は何か。そういうことを知ることによって、高齢者の幸せのあり方が見えてくると思っています。

これがリハビリデータの価値であり、これを科学していくことで介護マーケットの価値観が変わると確信しています。

日本におけるリハビリデータの収集や分析は、グローバルで考えたときにも優位性がある。言うまでもなく、日本は人口構成上、世界で最初に超高齢社会を迎えている。だが、高齢化の波はアメリカや中国などの大国をはじめ、今後高齢化の流れは世界各国に広まっていく。高齢社会の先陣を切る日本は、裏を返せば世界に先駆けて大量のデータが取れる環境にある。

また木村氏によれば「データを取りやすい環境」が日本にはあるのだという。

木村国レベルでこれだけの予算と統一的な運用をされた介護報酬と診療報酬が両方ある国は、現状日本だけです。他国だと、介護保険がなかったり、限られた給付範囲だったり、事業者や地域の独自ルールでバラバラに運用されていたりします。例えば日本以外でリハビリのデータを取りたいと考えても、サービスの提供方法や測定方法などはバラバラ。もし提供方法を統一しても、一部地域での実証実験が限界です。

だから一貫したルールでデータを取ることがまだまだ難しい状況にあります。それに比べ日本はそもそも介護保険制度のおかげでどういったサービスをすれば何点と決まっているため、 大規模にデータが取りやすい特異な環境です。

こうした中、日本は他の保険制度的にも財源的にも一番整っているので、海外の投資家たちと話していても、投資への納得感が得やすいのは事実です。

池上各国とも介護保険制度や環境が異なるので、同じビジネスモデルで輸出できるとは思っていないのですが、リハビリのプロセスや、高齢者の日常生活って、世界共通の部分が大いにあるんです。

なので、我々が開発したリハビリの計画策定のアルゴリズムや解析データは一定程度のローカライズをすれば十分輸出可能だと思っています。

実際日本は、2040年まで高齢者人口比率が世界でトップであることが既に決まっているんですよ。冒頭にもお伝えしましたが、20年間世界で1位であることが約束されている市場って介護以外ないじゃないですか。まさに失われた30年から約束された20年になると我々は考えています。それほどまでに産業としてのポテンシャルは他の業界と比べても大きいと考えています。

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ビジョン、人材、国の後押しが奇跡的に重なったRehab、「小さくまとまるな」

ここまで見てきて、介護市場とRehabのポテンシャル、さらにはグローバル観点での日本介護市場の可能性について十分に理解してもらえただろう。最後に、Rehabの経営層の魅力をお伝えすることで、いま熱い日本の介護業界DX領域だけに限らず、Rehabが莫大な可能性を秘めた企業であるということを認識いただきたい。

投資家としてさまざまな企業を見てきた木村氏から見ても、Rehabの経営層は稀有な人材が集まる「このうえないマネジメントチーム」だという。池上氏については「このフェーズのスタートアップにジョインしてくれたことが奇跡」だと語る。

木村池上さんは、僕から紹介するのはおこがましいくらいの“すごい人”です。日本で本当に業界のDX化を実現したプロダクトの中で、ホットペッパービューティーとサロンボードは間違いなく圧倒的にナンバーワンだと僕は思っています。そんな方が本当によくジョインしてくださったなと思います。

でも、それだけではありません。池上さんって全然偉ぶらないんですよ。もうちょっと主張した方がいいんじゃないですかって思うくらい、謙虚な方で。リクルートや美容業界での学びは生かすのですが、Rehabのメンバーに対してもお客さんに対しても、本当にその人が求めていることを深く考えられますし、押し付けることもない。すごく気遣いをされる方だなと思います。

あえて言うとしたら、本当はもっと大規模に事業をやってらっしゃった方なので、今のRehabの規模では、ある意味「縛りゲーム」になっていて。制約条件が多い中で、インパクトを出すことを実行していただいている状況です。ですが、せっかくリクルートのエース・オブ・エースからスタートアップの共同経営者になっていただいたわけですから、さっさとそこは超えたいじゃないですか。

規模がすべてではありませんが、Rehabには池上さんに一刻も早く制約条件なく大暴れしてもらえるような規模まで進んでいってほしいと思いますし、僕自身も全身全霊で支援していきたい。そして、約束された20年を迎えるこの巨大成長課題産業のトップランナーになりたいと思います。

一方の池上氏は、スタートアップ経営者に転身したことで「見える景色が変わった」と謙虚に振り返る。

池上スタートアップに来て痛感したのは、これまでいかに「事業家視点」でのみ会社を見ていたかということです。私はキャリアの中でずっとPLベースで事業を営んできましたが、Rehabに来て初めて「時価総額ってどうしたら上がるんだ?」という問いを持つことになりました。

例えば、TAM(獲得できる最大の市場規模)の設定についても、投資家の方々と話しますよね。TAMを顧客の今あるソフトウェアへの投資予算を上限として捉えてしまうととても小さい市場に見えてしまう。『HOT PEPPER Beauty』だと、圧倒的な新規送客力を元に掲載費をいただくビジネスモデルですが、美容室に昔は潤沢な広告宣伝費予算の財布があるわけではなかった中で、美容室の売上を伸ばすと共に、売上に対する広告宣伝費率はどんどん増えていきました。

では結果的にどのお財布からお金もらっていたのかというと、とてもマクロに捉えると、Web集客中心になることで、美容サロンの出店場所がガラス張り路面店から雑居ビルの上層階などに変わっていったので、テナント賃料や内装費などのコストが下がって、その財布が広告宣伝費に切り替わっていったと言えるかもしれない。

ただ、サービス開始最初からそのTAMが想定できてたわけではないのです。結果論としてそう市場構造が変わったと言えるだけ。でも今では、そのTAMをどう見据えるのか?が投資家に問われる。

そのようなマクロ視点で、投資家の方々が市場を理解したり投資判断をしているわけです。時価総額を考える上では、「投資家からどう魅力的に見えるか?」という観点で我々の事業をとらえることは、新しい経験でもあります。

木村さんのような投資家の皆さんと話すことで、経営に関するさまざまな目線を知り、市場の捉え方や会社の成長を見る観点が広がります。このように新たな学びが本当に多くて、楽しい日々ですね。

これからRehabは国やテクノロジーの追い風を受け、グローバルを見据えた成長拡大をしていくだろう。木村氏は、今後の展望を力強く語った。

木村一言でいうと、「小さくまとまらない」です。初めて大久保さんにお会いしたときから今まで一貫したビジョンを持ち、池上さんのような事業のプロとチームを組むことができ、国の政策転換のタイミングも含めて奇跡的に重なっている唯一の会社がRehabです。大きくならないわけがない。

そういう自負を中の人ほど持ってほしいなというのは強く思いますね。僕は経営会議でよく池上さんや大久保さんに「もっと外に伝えるべきです」と言っているんです(笑)。お二人を筆頭にRehabの方々はすごく控えめでプロフェッショナル気質な方が多い。なので外から見た時に中の様子がわかりづらいと思います。そこは課題だと思いますね。

介護分野はすごく意味のある社会的活動ですし、ビジネスとしても価値があります。それをより社会全体に知ってもらう必要がありますし、そのためには中の人たちにこそ、自信と自覚を持って発信してもらいたいですね。

こちらの記事は2022年01月31日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

落合 真彩

写真

藤田 慎一郎

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