連載高齢者の生活をリデザインー介護DXで社会的インパクトを狙う、Rehab for JAPANの挑戦

とにかく“イケてるプロダクト”を創ろう──「美容サロンのネット予約」というDXを成した2人が、介護SaaSで躍動するワケ

Sponsored
インタビュイー
池上 晋介

1977年12月29日生まれ兵庫県明石市出身。大阪市立大学卒業後、NECを経て、2007年リクルート入社。 2010年より「HOT PEPPER Beauty」の統括プロデューサー、ビューティ事業ユニット長として、事業成長を牽引。サロン向け予約管理システム「サロンボード」を企画開発し、美容業界のIT化を主導。2019年10月より株式会社Rehab for JAPANに参画。取締役副社長兼COOに就任。

若林 一寿

1978年9月25日神奈川県横浜市生まれ。早稲田大学卒業後、アビームコンサルティング株式会社を経て、2006年リクルート入社。ホットペッパービューティー、ホットペッパーグルメ、SUUMO、Airレジなどのプロダクトデザイン・UXデザインに従事し各事業成長を牽引。リードデザイナー、機能ユニット長、執行役員を歴任。2020年8月より株式会社Rehab for JAPANに参画。執行役員兼CPOに就任。

関連タグ

介護業界のDXに挑んでいるRehab for JAPAN(以下、Rehab)。「エビデンスに基づいた科学的介護」の実現による「健康寿命の延伸」を目指すために、高齢者の生活をReデザインする存在であると自分たちを定義する。このスタートアップに、あのリクルートで名を成した事業家が集っていることをご存知だろうか。取締役副社長COOの池上晋介氏と、執行役員CPOの若林一寿氏だ。

池上氏はまだネット予約が一般的ではなかった時代、『HOT PEPPER Beauty(以下、ホットペッパービューティー)』の統括プロデューサーを務め、ネット予約サイトへの大転換を主導した。若林氏も『ホットペッパービューティー』のほか、『SUUMO』、『Airレジ』など数十種のプロダクトでUXデザインを徹底的に磨いてきた人物である。

2人はなぜ、輝かしいキャリアを持ちながら、アーリーステージの介護スタートアップに飛び込んだのだろうか。その背景や想いを聞いていくと、市場のポテンシャルはもちろんのこと、リクルートで業界構造を変えてきた2人が手掛けるからこそ実現できる、Rehabの可能性が見えてきた。

  • TEXT BY MAAYA OCHIAI
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
SECTION
/

高齢者の生活という「最高難度のUXデザイン」

池上40代に差しかかって、違う産業でもう一度、産業構造を変える達成感を味わいたいと思ったんです。

株式会社Rehab for JAPAN 取締役副社長COO 池上晋介氏

COO・池上氏は、『ホットペッパービューティー』のプロダクト責任者として美容業界の産業構造を変えてきた。当時は紙での予約管理が当たり前だったアナログな美容業界に、PC・iPadベースの予約管理システム『サロンボード(SALON BOARD)』を普及させ、約8年の間に1日20万件ものネット予約が入るほどのサービスに成長させた。今や誰もが知る、リクルートを代表するDXプロダクトだ。

年間売上は約200億円から約700億円まで伸び、営業組織も含めた事業組織は約2,000人まで拡大。マーケティング&プロダクト部門を統率してきた池上氏は、達成感に浸るのではなく、「次なる刺激」を求めていた。

池上リクルートを卒業し、経験を生かしていろいろなベンチャー企業の支援を始めました。実はRehabもその時に支援していた企業の一つだったんですね。

介護業界において僕は完全な門外漢でしたが、CEOの大久保亮から介護の世界を聞くにつれ、面白い可能性が広がっていると感じ始めました。社会インフラやITの導入が不十分すぎる状況で、高齢者の生活には選択肢が少ない。エンドユーザーが全然潤っていないんです。「これは自分がやるべきテーマなんじゃないか」と思い至ったんです。

人は、人生の終わりが近づいてきたとき、ささやかな日常を味わいたい、願わくばもう一度元気になりたい、といったように、再び根源的な欲求に戻っていくような気がします。身体能力だけでなく、社会的にも精神的にもその人がその人らしくいられる環境を作る。UXデザインの分野が強みである自分にとって、高齢者の生活をデザインすることは、いわば「究極のUXデザイン」に挑戦することのように思えて、情熱が宿ってきました(笑)。

さらに、大久保氏が抱いていた「介護業界への強い情熱」にも突き動かされた。

池上親や自分が要介護状態になったときに、今のままの介護業界や社会インフラでは物足りない。子どもの頃から介護業界に課題意識を持って解決に邁進する大久保の姿にも惹かれ、楽しい老後を創りたいなと思ってジョインしました。

多くの人が「介護って凄く遠いもの」と考えがちです。でも実は、まもなく自分自身にも到来する未来。ある時、平日に家の近所で市営バスに乗ったら、乗客のほとんどが高齢者で、「あっ、高齢化社会ってこんなに身近にあったのか」と気付きました。

都会のオフィスで仕事してた時は、まったくイメージできていなかったんですけどね(笑)。このことに気付いてから、「やるぞ」という気持ちをより一層強く持っています。

リクルートで良いプロダクトを創り上げ、業界変革を実現させてきた池上氏にとって、高齢者の生活をより良くするプロダクトを考えることは、より重要な課題解決だったわけだ。

一方で若林氏は、池上氏をきっかけにRehabと出会った。転職の大きな理由は池上氏と同じように、リクルートで「やり切った」という思いを抱え始めていたからだ。

若林14年在籍して、『ホットペッパービューティー』をはじめ、いろいろなプロジェクトやプロダクトにいろいろな立場で関わらせてもらえて、自分のスキルの仕上がり感を感じていました。

40歳を迎え、「40代の青春をどう過ごすか」と考えたときに、根源的な社会課題の解決に身を投じたいと思ったんです。

株式会社Rehab for JAPAN 執行役員CPO 若林一寿氏

40代の時間を捧げるテーマを探していた若林氏は、リクルート時代から師と仰いでいた池上氏に相談した。そこで介護業界の話を聞き、「スイッチが切り替わった」という。

若林それまで介護業界に興味なんてなかったのに、池上から10分くらい話を聞いただけで見方が大きく変わり、パチッとスイッチが入る感覚がありました。

介護に対するイメージが「介護する側は大変そう」だけだったところから、もっと先にある「高齢者の豊かな老後を創り出す」ことなんだと気づいた瞬間に、介護というテーマが一気に自分事になりました。

リクルートに所属していたときの師匠である池上がいて、介護業界を熟知していて尚且つ圧倒的な熱量を持つ代表の大久保がいる。2人から情熱や使命感がビシバシ伝わってきて、この会社だったらミッションで目指す未来を本当に創れるんじゃないかと、確信めいたものを感じたことが決め手でした。

SECTION
/

誰もまだ、高齢者の真のニーズには応えられていない

超高齢社会の今、介護業界の市場が拡大していることは、誰でも容易に想像がつく。プロダクトに熱い事業家の2人は、それをどのように表現するのだろうか。

池上介護業界では、介護保険をベースとした収益構造で事業所の経営がなされています。この前提は、社会保障として良い面も多々ありますが、一方でマーケットの進化を阻む要因でもあります。

例えば、保険の点数によって売上の天井が決まってくるので、他社より独自性のあるサービスを提供して収益を上げようといった自由競争が働きにくい。スタッフの給与水準が低いうえに、サービス提供の質を人数で担保しようとする構造のため、人員不足課題は慢性的なものとして起きています。

こういった事業所を取り巻く構造的な問題が原因で、高齢者は周囲に迷惑を掛けないように色々な事を諦めながらひっそりと暮らしている現実があると、池上氏は話す。また、今後この高齢者の価値観が大きく変わっていくとも指摘する。

池上今後、僕たちが考えていくべき課題は、“高齢者”と呼ばれる人たちの価値観が大きく変わってくることなんです。

今の一般的におじいちゃん・おばあちゃんと呼ばれる世代は、戦中戦後の貧しい時代を経験しており、ある意味、「我慢が当たり前」で育ったと言えます。一方で、これから後期高齢者になる人たちは、高度経済成長期やバブル経済の中を生きてきた世代、つまり「やりたいことをどんどん実現していった」人たちです。

その人たちが後期高齢者になると、介護に対するニーズが大きく変わる、パラダイムシフトが起きるのではないかと考えています。だとすると、今のままの介護のかたちでは、みんな我慢できない。

高齢者が持つ「○○のように生きていきたい」というニーズが確実に多様化することが見えているのに、高齢者を介護・介助する側の制度や体制、ITを含めたインフラの問題で、そのニーズを受け止めきれないという新たな社会課題に直面します。これからの高齢者が、したいこと、選びたいことを諦めずに実行できる社会の仕組みづくりに向けて、さて我々に何ができるだろうかと考えるわけです。

そんな面白い業界、他にないですよね。

若林CPOとしてプロダクトに深く関わる僕の立場から見るとですが、「課題だらけ」だということは、プロダクトを世に出せる余白がまだまだあるということです。ワクワクしますよ(笑)。

ここ数年で、介護事業所の経営を支援するプロダクトは乱立しています。一方で、「高齢者の生活」の領域は、まだまだ手が付けられていないブルーオーシャンなんですよね。だからこそ良いプロダクトを出せば出すほど社会に貢献できる。その意味で、成長機会としての打席がたくさんある場所だと思います。

僕も、この年齢になっても成長実感が持てていますし、この感覚を自分ひとりで得るのはもったいないなと思うくらいです。

介護業界は国によってスピーディーな改革が進んでいる業界であり、ポジションを正しく取れれば本当に業界を変える動きができます。飛び込むなら絶対に今だなと思います。

ビジネス経験の豊富な2人が大きなやりがいを感じているという介護業界。だが、一般的にはレガシーなイメージの強い産業であるがゆえ、従事者のITリテラシーは低いと思われている読者も少なくはないだろう。プロダクトを事業者に対して展開していく中で、テクノロジーに対して反発や抵抗はないのだろうか。

池上実際に触れてみて、「介護業界の方はITリテラシーが低い」というのは先入観でしかなかったことに気づきました。

普通にLINEやSNSを使っていますし、我々がオンライン会議を通して商談や導入後のオンボーディングをしても、大きな問題を感じることはありません。20~30代のスタッフもたくさんいますし、現場のITへの拒否反応で導入が進まないことはあまりない。これは強く言いたいですね。

IT技術の導入によって業務を進化させる余地は、まだまだ十分にある。だがその一方で池上氏は、「顕在化していない課題が多い」点をDXの際の注意点として挙げた。

池上どの業界でも共通する話ではあるのですが、DX、デジタル化って所詮手段です。何のためにDXをするのか?DXすると何の業務がより良くなるか?を、介護業界のみなさんがイメージできているとは言い難いかもしれないです。

介護業界にITの導入が遅れている背景の一つとして、非常に労働集約的で、今の当たり前を疑うきっかけがないんですよね。

介護現場の方に、今の現状に何か不満があるか?と聞いてもなかなか言語化されていないんです。むしろ、ギリギリでオペレーションを組んでいるので、新しい取り組みによって変化することを尻込みしてしまう。

現場から強く要望が上がる前に、いかに我々が現場の業務を解像度高く捉え、潜在的な課題を見つけていくことができるか。このことを日々意識しています。

SECTION
/

「イケてるプロダクト」なら業界構造を根本から変えれる

冒頭でも述べた通り、池上氏は『ホットペッパービューティー』によって美容業界の構造を変えてきた。ユーザーが行きたい日時をネット予約で可能にするためには、美容サロン側の予約管理業務をデジタル化することが必要不可欠だったのだという。それによって、美容業界がどのように変わっていったのかを、せっかくの機会なので聞いてみた。

池上もともと美容サロンの予約台帳や顧客カルテは、紙が中心でした。そこで、顧客管理全体をデジタル化する『サロンボード』という予約管理システムを無償提供していきました。

紙で管理していたものが、デジタルデータになったことで、「誰がいつどんな予約をしているのか」を定量的に分析することが可能になった。すると、スタイリストごとのリピート率や顧客単価の推移、失客予測や再来店予測からのCRMまで行えるようになりました。

その結果、美容業界における経営管理のあり方が変わったんです。以前は各店舗の月次売上くらいしか見られていなかったのですが、スタッフの評価や運営戦略で新たな仕掛けを考えるサロンが出てきました。

以前と比べて、Web中心に集客が行われるようになり、美容室の出店場所も変わってきています。ガラス張りの路面店は少なくなったと思いますね。

業界構造として、介護業界は美容業界に似ている部分があるという。それは、一つひとつの事業所は小さくてたくさんあり、アナログなやり方でオーナーがスタッフに指示を出している点だ。そんな業界で変革を実現させてきたからこそ、「どのようなプロダクトなら、介護業界にDXを浸透させることできるのか、イメージを持てた」と池上氏は語る。

つまり、DXが進まない業界の特徴は、「イケてるプロダクトが少ないマーケット」であるというのだ。

池上率直に言えば、介護業界でDXが進まない理由は、従事者のITリテラシーの低さにあるのではありません。「当事者たちが当たり前だと感じている環境」をリプレイスできるような業務体験を提供する「イケてるプロダクト」がまだまだ少ないから、です。

業界をDXさせるなら、これまでの業務プロセスや、そこで生まれる情報(データ)を因数分解して正規化し、分析した上で、科学的に改善策・解決策を実装していかないといけない。ですが、介護業界では、現場の人たちにとって使い勝手の良いプロダクトや、利用時に取得したデータの利活用まで想定されたプロダクトが、まだまだ十分に提供されていないのです。

この現状を、誤解を恐れずに言えば、「イケてるプロダクト」がまだまだ少ないということなんです。

若林一般的に「レガシーな産業」と括られてしまうような介護業界に対しては、現場の抵抗があるのでSaaSで勝負するのは難しいと思われることも少なくありません。

ただ、様々なプロダクトに関わってきた我々からすると、正しくデザインされているプロダクトが入ってきていない、というだけなんですね。現場で働いている人は今の状態でも業務は行えるので、中途半端なプロダクトを見せられても切り替える必要がないですよね。

そこをRehab は変えていきたいですし、目指す「高齢者の生活を変えること」のために、現場の方の事務作業を圧倒的に楽にすることがスタートラインだと考えてます。

この20年間で、介護を取り巻く制度や仕組みはどんどん複雑になっている。介護事業者は介護保険制度等の変更対応に追われてしまい、本質的な課題解決に至っていないのだという。

また、介護業界に限らず、DXを見据えて新たなデータを取ろうとすると、一時的に現場負担が増えてしまうのが一般的だ。データを取ることが目的化してしまうと、そもそも現場理解が得られず、業界に定着するプロダクトを作ることすら難しい。池上氏は冷静に、こうも語る。

十分にDXが進んでいない業界では、現場の業務オペレーションに即した形でプロダクトを提供することに加え、現場スタッフがしっかりとそれを使いこなして業務として定着するまでのオンボード、すなわち伴走する力が勝ち筋となる。だからこそ、40人弱の従業員数のスタートアップにおいて、この二人の存在はことさら大きい。

SECTION
/

テクノロジーで、「高齢者の元気」は創れると証明した

このように勝ち筋を定義した上で、池上氏は今の介護業界に必要なプロダクトをどのように描いているのか。その脳内もぜひ、覗いてみたいところだ。

池上今、我々が提供している『リハプラン』は、介護現場のリハビリ業務課題を解決するプロダクト。その提供を通じて高齢者の生活データやリハビリデータを大量に集めています。どんな高齢者がどんな因子によって元気になるのか?ならないのか?を可視化し、高齢者の生活体験をアップデートさせたいのです。

一人で食事に行ける、トイレに行ける、洗濯物を干せるようになる。そういったリハビリのデータって、高齢者自身が「もう一度やりたいことをやれるようになろう」と日々努力している情報の集積です。このログを、家族や介護スタッフなどに共有できる仕組みを創れると、高齢者の努力が可視化でき、周囲も本人も達成感や充実感を味わえる。

そうした事例や、それを活かした新プロダクトを積み重ね、社会的かつ精神的に、その人がその人らしい生活を送れるようにするシステムを創っていくんです。エンドユーザーに対してきちんと価値を提供できるプロダクトがもっと増えていかなければ、DXなど進みません。

ここまで聞いて、理想論だと思う読者もいるかもしれない。高齢者体験をアップデートするためのデータとはいったい何なのか。それは本当に、本質的な業界DXにつながるものなのか。

介護業界では何のデータがどのように生かされるのか、製造業や物流業などモノを扱う業界に比べてイメージがつきにくい。そこで、実際のプロダクトの活用事例を語ってもらった。

池上本当にリハビリで元気になってもらえるのかどうかを測る実証実験をしてみたんです。『リハプラン』を使っている事業所に通われている高齢者さん約300人の身体能力について、データを毎月収集しました。定点観測していくと、リハビリをすることによって身体能力が上がっていくというファクトがちゃんと見えてくるんですよ。

「要介護1」とか「要介護2」という、要介護認定ってありますよね。基本的には、当然歳を減るごとに段階的に身体能力は悪化していきます。これをどう維持・改善するかがリハビリの必要性です。ただリハビリがどこまで寄与していたのか?本当に改善に繋がっているのか?ということの証明ってまだまだ不充分なところがあります。しかし我々がきちんとファクトを取って調べたら、効果的なリハビリを実施できれば、移行率を低く抑えられることがわかってきたのです。

自分たちが提供するリハビリによって、本当に効果が上がっている。これが可視化されたことによって事業所のスタッフのみなさんの行動が変わりました。「元気になってもらえている!」と感じたら、そりゃ楽しく働けますよね。やりがいを感じる機会も増えていくというわけです。

SECTION
/

現場負担を先回りしてプロダクトに落とし込むことこそ、本当の課題解決

『リハプラン』の実証実験によって、事業者や高齢者にインパクトを残せている確かな実感はあったと語る二人。

しかし池上氏は今はまだ業界の状況としても、Rehabという会社の目指す状況としても、ようやくマイナスをゼロにできた段階に過ぎないという。コンスタントにプロダクトをリリースできる環境が整ったのが今。今後はデータやエビデンスの蓄積を加速させつつ、「科学的なリハビリの提供」が実現できるプロダクト群にまとめ上げていく。

プロダクトの開発について、「介護保険制度はすごく複雑で、今まで経験してきた業界の中でも一番難しい」と若林氏は指摘する。だからこそRehabがそこに良いプロダクトを提供できる余地がある。大切にしていることとして、「現場に溶け込むこと」「圧倒的に使いやすいこと」の2点を挙げた。

若林スムーズで、シンプルで、簡単。使っていることを意識しなくていいようなレベルにまでプロダクトを昇華させたいです。言うだけなら簡単なんですが、それを実現するとなると本当に難しいんですよね。

現場のニーズを集めて、業務フローにフィットする機能を提供する、そういうSaaSはもう当たり前だと考えています。このレベルだと、実はまだ潜在的なユーザーの負担はあまり解消されていません。僕は、当たり前を超える「圧倒的な使いやすさ」を追求しています。

これは何も、介護業界だけに留まらない話です。多くのプロダクトが、ただ目の前の業務をデジタル化しているだけ、ということは往々にしてよくあります。

しかしこれからは、ITプロダクトが爆発的に増えていきますから、本質的な価値を備えていなければ、すぐに淘汰されてしまう。ストレスなく業務ができる、ユーザー自身が言語化出来ないような潜在的な顧客ニーズに応えている、こうしたことは当たり前に備えている必要があります。

現場の負担を圧倒的に軽減できるという価値を出せなければ、介護業界を広くDXすることなど夢のまた夢。現状を厳しく指摘するように聞こえる。だから、「現場スタッフが集中できるプロダクト」を創り続けることが、若林氏のミッションになる。

Rehabのプロダクト設計思想を示す、象徴的な事例がある。介護業界では国が主導して、『LIFE(Long-term care Information system For Evidence:科学的介護情報システム)』という新システムの運用が始まった。科学的介護を全国的に進めるための施策だが、入力項目が多かったり、複数の書類間での転記が多く発生したりといった課題があるそうだ。

こうしたシステムの入力負荷を一定割合削減するというのは、若林氏にとってはもはや当たり前の話。それに加え、データ提出のスケジュール管理に目を付けた。

若林専門的な説明は割愛しますが、データを提出すべきタイミングが利用者によってまちまちになっています。とりまとめようにも、設計がかなり複雑で、正しく管理して提出するのがものすごく大変そうなんです。これでは科学的介護の推進が滞るリスクがあると考えました。

そこに着眼して、業界内で唯一、ほぼ自動で提出書類のスケジュール管理ができるプロダクトの機能を創り上げました。

『LIFE』の運用はまだ始まったばかりで、現場から顕在化した課題が上がっていたわけではなかった。事業所の多くがまだシステム対応に追われ、入力や管理の課題に気づいていない段階から、若林氏はその課題を想定し、現場の負荷を極限まで下げようと機能に落とし込んでいたのだ。

こうした事業所の負担や不安を先回りした対応により、事業所からも高評価を得ている。

若林事業所で働くスタッフのみなさんから、電話で感謝の言葉をいただきました。安堵の気持ちもあったのでしょう、「一人で全部データを提出しなきゃいけなくて不安だったけれど、『リハプラン』さんのおかげでなんとかできました、ありがとうございます」と涙ながらに言っていただけたんです。

このときは「芯を食った課題解決ができたな」と思いましたね。

紙での業務を、単にデジタルに置き換えるだけではなく、現場の業務フローを把握し尽くし、スタッフの負担まで想像しきる。その上でデータや情報を収集し、解決策を提供する。文字にして書くと当たり前のようだが、これらを高いクオリティで推進できるのが、池上・若林コンビなのだ。このこと自体が、Rehabのプロダクト全体に流れる設計思想になっている。

若林今までの経験から、「あえて見せる機能」を絞り切ることにこだわり続けていますし、Rehab のプロダクトとしての強みにも繋がると信じています。例えば、網羅的にシステムに織り込もうとして、「どのケースにも対応できるけど、ボタンだらけの画面」になってしまうことってよくありますよね。

介護業界はすごく複雑な制度を抱えていますから、これが起こりがちなんです(笑)。そうなってしまう気持ちもわかりますが、あえて機能を絞り込めば差別化になるし、ユーザーが相対的に感じる価値も大きなものになる。

業務の順番や、タイミングに合わせて、必要な情報やボタンだけが表示されるのです。業務フローと、その裏のインサイトを細かく想像して、画面の情報量も踏まえて計算し尽くす。こうして、理想のプロダクトを実現していくんです。

SECTION
/

経験と成長を両取りできる唯一無二の環境がRehabにはある

若林氏も池上氏も介護業界に精通してきた人物ではないため、業務フローや現場負担の課題を現場以上に想像しきることは簡単なことではないだろう。だが、Rehabではそれがスピーディーに行える環境があるという。

若林Rehabの特徴は、大久保をはじめ、介護業界に精通した現場出身者がたくさんいることにあります。こうしたメンバーと一緒にプロダクトに関する議論ができるから、良い価値提供ができるんです。

例えば僕が「この法令ってどうなってるんだっけ?」と思った時にも、専門的な観点ですぐ調べてもらえたり、コンプライアンスの観点で意見をもらえたりします。そこは僕が後から身につけようとしてもなかなかたどり着けない奥深い知見と理解レベルです。だから介護に明るくない人が入ってきても、Rehabであればある程度早く立ち上がれると思います。

池上やっぱり答えは現場にあります。現場に対する興味関心を持って、理想と現実との間で、徹底的に顧客の真のニーズを見極めること貪欲に向き合える人なら、早くそこまでたどり着けると思いますね。

これはリクルートにいた時から大事にしている考えなのですが、一番使ってくれる人の気持ちに憑依してニーズを紐解くことで、成功へのリアリティを高めていくしかない。そのリアリティを最も強く持っている人が、企画の首謀者でいるべきなんですよね。Rehabには現場を直接知っているメンバーがたくさんいるので、キープレイヤーになっていくでしょう。

でもそれだけでなくこれからは、業界経験のない僕らのようなメンバーも増えていくわけです。現場経験者を追い越していく意気でキャッチアップして、良いことを言っていけるようになると、企業がどんどん強くなります。楽しみですね。

早期に知見をキャッチアップができる環境があると、必然的にプロダクトの完成度も上がりやすくなる。Rehabでは、リリース前の磨き込みが他にないスピード感で行えるのだ。

クラウドの普及以降、あらゆるプロダクトは、リリースしてから改善を重ねるスタイルが主流となっている。だが、本当に課題を抱えているユーザーからすれば、最初から磨き込まれたプロダクトがあったほうが良いことは言うまでもない。この点で、若林氏は発言に力を込める。

若林カスタマーサクセス担当にユーザーの生の声は日々集まりますし、たくさんの介護業界出身者がいるため、日常的にユーザーインタビューやユーザビリティテストができている感覚です。だからプロダクトはリリース前に95点くらいの完成度にまで磨き込めています。

現場のユーザーからすれば、中途半端なものを出してから磨き込まれるよりも、最初から磨き込まれたものを出してくれたほうが良いに決まっていますよね。この点は前職のリクルートの環境と比べても特異な環境だと思います。いわば実際に使うユーザーの声をすぐに取りに行ける状態ですから。

Rehabのプロダクトがいかに緻密な設計思想のもと、現場に寄り添って創られているのかが、ここまでの話で伝わってきた。

そして最後になるが、あえて言及したいのは40名程度のSaaSスタートアップでありながら、リクルートという大企業で豊富な経験をしてきた2人がいるということ。こんな環境で働くことは、かなり面白い魅力があると言えるだろう。

若林氏は、リクルート時代に数十種のプロダクトデザインに関わり、コンバージョン数を数十倍に改善したり、売上向上やチャーンレートを抑止してきた経験がある。あらゆる業界、あらゆるビジネスモデルのプロダクトを設計するだけでなく、レビュアーとして評価もしてきた。その意味で、プロダクトの質を見る「眼」も若林氏は備えている。

若林レビュー観点とか、レビューの深さとか、クオリティに対する厳しさみたいなのは自分の持ち味かなと思います。手前味噌ですが、一緒に働くことでプロダクト開発に関するスキルは絶対に上がるはずです。

池上氏も先に述べたように実績は飛び抜けている。業界構想を変え、業界の常識と言われてきたものを一新した『ホットペッパービューティー』ほどのITプロダクトは、ここ数十年の日本を見渡しても数少ない。

池上ビジネス的な事業成長と、本当に質の良いプロダクトを提供するというのを両立できたことは、ものすごく大きな経験であると自負しています。正直なところSaaSって一定科学されてきたと言われてますが、あくまで連続的な成長をする上での話だと思うんですよね。もちろん前職でもそういった科学の部分、「この数字をどう伸ばすのか」は徹底的に科学しました。

ただ、非連続的な成長を実現するために必要なのって、顧客も言語化できていない“潜在的な課題”を“的確に”捉えていくこと。その課題をスマートに解決するプロダクトや機能を“最適な”タイミングで提供していくこと。結局はそれに尽きるような気がします。

リクルートでは常に顧客理解を徹底して「こうあるべきだ」というものを考え、ビジネス上の懸念点を一つひとつつぶしながら実装し、業界構造を変革してきました。

介護業界の課題は大きいですが、大久保の情熱や知見があって、いろいろな成功経験のある若林と僕がいて「課題解決できないはずがない」と思っています(笑)。僕や若林は自分の人生をかけるに値するマーケットであり、会社であると本気で考えています。

事業やプロダクトの開発、組織運営、オペレーション、プライシングなど、多くの経験を持つ二人を間近で見て、教われる環境は他にはない。この厚みや強靭さが、年齢的にも経験的にも“若い”スタートアップにはない、Rehabが持つ唯一無二の魅力ではないだろうか。本気で社会を変えるプロダクトを創りたい、という想いを高めるのに最適な環境と言えるかもしれない。

こちらの記事は2021年12月27日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

次の記事

記事を共有する
記事をいいねする

執筆

落合 真彩

写真

藤田 慎一郎

おすすめの関連記事

会員登録/ログインすると
以下の機能を利用することが可能です。

新規会員登録/ログイン