連載高齢者の生活をリデザインー介護DXで社会的インパクトを狙う、Rehab for JAPANの挑戦

介護ヘルスケアのスタートアップこそ、世界を変える急先鋒だ──グローバルメガトレンドを捉え、圧倒的な社会的価値を生み出す構想を、Rehab for JAPANから学ぶ

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インタビュイー
大久保 亮

1987年11月18日長崎県壱岐市生まれ。リハビリ養成校を卒業後、通所介護事業所や訪問看護ステーションにて在宅リハビリテーションに従事。働きながら法政大学大学院政策学修士を取得。要介護者、介護現場で働く人、地域住民まで、介護に関わるすべての人が安心していきいきと活躍し続けられる世界の実現を目指して2016年6月株式会社Rehab for JAPANを創業。「リハプラン」を開発。日本介護協会関東支部局副支部長。

池上 晋介

1977年12月29日生まれ兵庫県明石市出身。大阪市立大学卒業後、NECを経て、2007年リクルート入社。 2010年より「HOT PEPPER Beauty」の統括プロデューサー、ビューティ事業ユニット長として、事業成長を牽引。サロン向け予約管理システム「サロンボード」を企画開発し、美容業界のIT化を主導。2019年10月より株式会社Rehab for JAPANに参画。取締役副社長兼COOに就任。

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世界的な株式不況もあり、スタートアップの資金調達環境はやや難しい雰囲気が続いている、という認識の読者が多いかもしれない。だが実際には、良い企業にはしっかりと資金が集まり、そうではない企業には集まらないという、大まかに言えば二極化が起き始めていると指摘する向きもある。

では、資金が集まりやすくなっているのはどういった企業なのだろう。日本国内で明らかに好調と言われるのが、ヘルスケア領域だ。超高齢社会が目前に迫る中、医療や介護、その周辺領域の事業に、大きなポテンシャルを感じる投資家や大企業経営者が増えている。

そんな実例の1つとして、介護ヘルスケア領域で事業展開するRehab for JAPAN(以下、Rehab)を紹介したい。この領域の中でも、介護リハビリ市場での事業展開に特化し、SaaSを起点に堅実な成長を遂げてきた。そしてこれから事業の多角化戦略をしたたかに推進していく。まさに「いま知るべきスタートアップ」だ。

同社は2023年2月、シリーズDラウンドとして総額11.3億円の資金調達を実施したと発表。これにより、累計調達額は約21億円となった。既存プロダクトの大幅リニューアルと、複数プロダクト体制への移行、そしてより大きなポテンシャルを秘めた新規事業への投資も進めていくという。

今回はCEO・大久保亮氏と、COO・池上晋介氏の2人から、大きな節目を迎えた資金調達で感じた「投資意欲の高まり」についての生々しい様子や、介護ヘルスケアという事業領域が持つ大きなポテンシャル、そして緻密に練られた今後の成長戦略などについて詳しく聞いた。

  • TEXT BY MAAYA OCHIAI
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
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投資家の期待値が高まり、投資ニーズがガラッと変わった

「投資家の反応が前回ラウンドとはまったく異なり、前向きにとらえてくれる反応はものすごく多かった」

大久保氏、池上氏ともに口をそろえるのがこの点だ。本人たちが驚くほど、スムーズに調達活動が進んだ。

池上誤解を恐れずにやや大げさに表現すると、想定以上に順調に進められた資金調達だったと思います。

事業の進捗としてしっかり想定通りの実績を積めたファクトと、改めて描いた未来像や戦略、そしてそれらを伝えるための入念な準備。まずこれらをやりきれたことが大きい。ですがそれ以上に、外部要因で驚きを感じた部分が私たち自身でもあったのは事実です。

2022年夏ごろから本格的に調達に向けた活動を始め、秋の後半ごろにはほぼほぼ全体像が固まりました。4~5カ月で完了というスピード感。投資家の皆さんには、感謝しかありません。

多くの皆さんが、当初からかなり具体的に投資検討してくれたんです。前回ラウンドの時にも話をしていた方々からは、現状に対して「さすがですね」「化けましたね」と言っていただきました。

大久保前回ラウンド(2021年5月発表)は、SaaS色の強い調達でした。そこから調達環境や業界がどんどん変わっていく中で、投資家の方々が抱く「この領域に対する期待値」が非常に大きなものへと変わりました。

一般的なSaaS指標を見て、いわゆるマルチプル法の成長期待を計算するだけではなくなった、という感じでしょうか。市場拡大の最前線に位置して牽引していくような、「ヘルスケア銘柄のベンチマーク企業」として期待していただけるようになっていることを感じた調達活動でした。

もちろん投資家も、ヘルスケア関連事業ならなんでも評価する、というわけでは決してない。Rehabが高い評価を得ている理由は、連続と非連続の両面からさらなる成長を期待できるためだ。まずはこの概要を確認していこう。

連続成長の観点は、外と中の2点から説明される。「外」というのは、すでに見えている市場の変化である。やや専門的な内容になってしまうが、介護リハビリ市場では、2024年に予定されている新たな介護報酬制度の改定で、介護事業者の経営環境に大きな変化が起こる。これに対応できるサービスを提供することが、スタートアップとしての連続成長に大きな影響を及ぼす。Rehabはこの点、情報収集と準備に余念がない。

「中」はRehab自身が残してきたトラクションだ。詳細な経営指標は明かされないが、導入事業所数の伸びはとどまるところを知らず1,400超にまで広がり、プロダクトへの不満を原因としたチャーンはほぼゼロ。急成長がこれからも続くであろう基盤は盤石なものだ。メンバー自らが“大人なスタートアップ”と称するように、単なる夢物語を追いかけてがむしゃらに取り組むというよりむしろ、現実的な打ち手を考え、1つひとつ地道に実行していくことで、継続成長を実現している。

池上氏は「もっとやれた感覚はある」とも話すが、メインプロダクトの『リハプラン』における各指標のうち特に、NPSスコアははっきりとプラスの値を示しており、大きな手ごたえを感じている。

大久保リハビリ業務をサポートしているというだけではなく、記録を残したり、書類作成をしたりといった、介護事業所の従業員一人ひとりの日常業務の流れになじむプロダクトになっていることが、満足度高く利用し続けていただけている理由だと思います。

池上スタートアップとしての本質からはズレた話かもしれませんが、メインプロダクト『リハプラン』が2022年度のグッドデザイン賞をいただけたのも、非常に象徴的なことだったと思います。単に「見やすい」とか「綺麗」といった点が評価されるのではなく、高齢者さんの身体機能向上や事業所での効率化といった実績も含めての評価ですから、自信になりますね。この介護領域のソフトウェアでの受賞自体、かなり珍しいとも思います。

大久保この領域は、厚労省が介護保険制度を改定すると業界ルールが一気に変わります。お客様である事業者のペインが外部要因によって広がり続けるという、特異な市場です。我々はこのことをきちんと捉えて、中長期的にもっと使いやすい、愛されるプロダクトをつくり続けなければなりません。

順調なご利用状況やグッドデザイン賞といった事実が、体制の強化についても評価してもらえているようで、一層身が引き締まりますね。

そう、組織面もこの1年で大きく強化した。「大きな戦略からSaaSの戦術、日々の打ち手まで含めて、再現できるようなチームアップができた」と大久保氏は自信をもって話す。こちらの記事でも紹介したように、スタートアップやベンチャー企業での経験が豊富なCxOやミドルマネジメント層が増えた。このことにより、大久保・池上両氏が目の前の事業に必死になるだけでなく、中長期的な戦略検討の機会が増えていることもポイントだ。

そして、今後に向けて重要な「非連続」という観点では、さらなる本質的なデジタル化と、データ活用における大きな可能性がある。ヘルスケア領域は病院、医療機関、医療機器メーカーなどの既存プレイヤーだけではなく、GoogleやAmazonといったビッグテックを含めたあらゆる企業が参入してくることによる進化・拡大が進むとされている。

Amazonがサブスクリプション型医療サービス『One Medical』を約39億ドルで買収した件は、市場関係者に大きな驚きを与えた。こうした例が示すように、テクノロジーの発展を活かしたヘルスケアの市場拡大には非常に大きな期待が集まっている。Rehabが目指す「要介護者の生活改善」における成長機会も、同様に大きく広がっているのだ。こうしたテクノロジー活用についても、今後に向けてRehabは優位なポジションにあると投資家から評価されたようだ。

池上今の市況感だと、バリュエーションも低くなりがちですが、決して安くないサイズを適切なバリューとして評価していただくことができました。

1~2年前だったら絵空事のように見えたかもしれない戦略を、「Rehabなら実現できそうだ」と感じてもらう。そのためにがんばってきたことがここで一旦、実を結んだ。実際にはまだまだこれからですが、前職とはまた異なる大きなやりがいを感じていますね。

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インベスター、パートナー、行政とのつながりにおけるRehabの特異性

ここから、その戦略において学ぶべき点について大きく3点に分けて深掘りしていきたい。一つ目は、ステークホルダー間の取り組み方だ。Rehabは、投資家や行政との関係構築において、特異性を持っている。今回の資金調達では、SMBCベンチャーキャピタルとJPインベストメントの共同リードとなっている。大手金融機関とのつながりを重視したかのような構成となっている。

大久保大手金融機関系のファンドは、いわゆるレイターフェーズのスタートアップを投資対象にしています。こうした、株式市場により近いVCファンドが、当社をはじめとしたヘルスケア領域への投資に旺盛になってくれているのは非常にうれしいことです。

また、昨今ではインパクト投資やESG投資といった言葉を聞く機会が増えています。当社の事業そのものが社会インパクトにつながり、大きく社会を変えていける。そう信じて私たちは事業に邁進していますし、それを表現できたのが今回の調達活動でもあったかなと振り返っています。

池上SMBCベンチャーキャピタルさんは投資理念で「人々の生活向上・社会的課題の解決」と明確に打ち出しています。JPインベストメントさんもその目的に「日本の基幹産業となり得るテクノロジーや本格的な事業拡大期にあるベンチャー企業への投資を促進」と明記しています。

「我々は、そうした存在なんだ」ということをこれから改めて打ち出していきます。この介護リハビリ市場という拡大し続けるマーケットにおいて、そうした責任を負っているつもりです。

また、単に介護リハビリのバーティカルSaaSとして成長していくわけではない、ということを示す株主構成となったことも確認したい。小野薬品、アフラック、オムロンという、ヘルスケア関連事業を展開してきた大企業3社のCVCが、将来への大きな期待を込めて投資しているのだ。

大久保介護ヘルスケア事業の拡大だけでなく、そこから医療や製薬にも派生するような広義のヘルスケア領域において価値を創出していく。そんな期待を、世間には伝えていきたい。このことを裏付けてくれるような陣容になっているともいえるかもしれませんね。

池上自画自賛のようですが……この3社との関係性をこれから強化していくことで、事業戦略を強力に推し進めることができそうだと感じています。単にキャピタルゲインを多く提供できるというような話ではなく、長期的な提携や協業といった面で、さまざまな可能性を探っていくつもりです。

市場拡大という点では大きな可能性を秘めているヘルスケア領域。だが、大企業を含め、次なる大きな打ち手をすでに持っている事業体は決して多くない。だから企業内起業だけでなくスタートアップ投資も一つの手段として、さまざまな打ち手へのチャレンジを模索している。

その期待が向く先として、Rehabは十分すぎるケイパビリティを示すことができているのだ。

大久保ヘルスケア領域で事業を拡大していくためにここ1年ほどの間、特に重視しているのがパブリックアフェアーズの活動です。

パブリックアフェアーズはロビイングをするという目的ではなく、行政や大学、医療機関、介護事業者団体といった専門的なステークホルダーとの対話を通じた関係構築・強化をミッションとする専門的な部門だと思います。そのためにヘルスケア領域で実績を持つ村田章吾という人物を招聘し、活動を進めています(プレスリリースはこちら)。

介護ヘルスケア業界は行政が主導する官製市場であり、制度改定が事業に与える影響は非常に大きいもの。だから、それを少しでも早く転換点を察知したり、当社が持つエビデンスを政策決定に活用していただいたり、改定に即した支援ができるというイメージを醸成したりといった、幅広い活動を確実に進められるようにしています。

着実に実現してきた事業成長と基盤構築、そしてそれを基にしたイメージ醸成と関係構築。これらをバランスよくこなそうと、スタートアップらしからぬ落ち着きと先回りで活動を進めるRehab。

介護ヘルスケアスタートアップとしてかけられる期待は、まったくもって小さなものではない。その中で、『リハプラン』が着実な成長を見せ、次の事業も立ち上がり始めた。そして、ステークホルダー間の連携も強力に推し進める。なぜここまでの注目を集めることができているのかについて、その戦略面を、ここからさらに具体的に見て、探っていこう。

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プロダクト群へとリニューアル。
狙いは「バリュー重視」というトレンドの体現

先に書いたように、ヘルスケア関連事業ならどんなものでも投資に値する、というわけでは決してない。明暗を分ける要素が、いくつかある。二つ目に深掘りしていく要素は、グローバルメガトレンドを先駆けて意識しながら描く、既存事業の拡大構想だ。

金融機関系VC複数社、そしてヘルスケアに関連した事業をいくつも展開している事業会社など、合計8社から新たに大きな投資を受けた事実。これだけですでに驚きなのだが、それを実現することとなったユニークな事業戦略にも、詳しく触れていきたい。

ここで改めて、前提を確認しよう。Rehabはその名の通り、リハビリ(=rehab)市場を事業領域として創業したスタートアップ。なお、リハビリにも、病気やケガからの社会復帰を目指す治療(cure)としてのリハビリと、加齢から身体に不調が出るのをじわじわとやわらげる維持・向上(care)としてのリハビリの2種類がある。前者は著名な医療ベンチャーらの事業領域となっており、Rehabの事業領域は後者が中心だ。

日本だけでなく世界中で、高齢者の割合は大きく増えていく。このことは紛れもない事実であり、誰もが理解することのできる変化だ。だから、Rehabの事業領域はこれから大きく拡大していくことも自明であると、まずは理解できるだろう。

さて、この前提のもと、もう少し踏み込んでいこう。事業領域は今確認したとおりで、バーティカルSaaSプロダクト『リハプラン』は、デイサービス事業所に通所する高齢者に対して効果的なリハビリを続けるためのサービスとして着実に拡大してきた。高齢化がさらに急速に進む社会情勢を捉えた事業になっているというわけだ。

大久保高齢化は日本だけでなく、グローバルメガトレンドといえるものです。

社会保障費の増大や労働力不足、活力低下といった社会への負の影響が、今後世界中で噴出していくことが予想されます。その中でも日本は課題先進国ですから、私たちが最先端の課題解決を実践していくんだという強い気持ちを持って臨んでいます。

見ているのは、介護リハビリのより効果的な実践だけではなく、その先にある未来なのだ。では、大久保氏の言う「最先端」とはどのようなことなのだろうか?それが、「バリュー重視」の考え方だ。従来の価値観と比較しながら確認しよう。

グローバルメガトレンドに先回りした事業の考え方(提供:株式会社Rehab for JAPAN)

これまで介護事業者は、サービスの提供量を重視してきた。提供量に伴って、介護報酬というかたちで売上が生まれていくためだ。その背景には、国の政策として、まずはより多くの高齢者に対してサービスが提供される社会を構築することが至上命題だったことがある。このフェーズで、様々な介護事業所が全国に広く整備された。

その後、介護報酬として計上される社会保障費の膨張が新たな業界課題として認知されるようになり、効率化による抑制の必要性が出てきた。このときに浸透したのがアウトカム重視の考え方だ。介護報酬制度を効率的に進めようとする機運も生まれ、サービス品質の向上と同時に生産性の改善が進められるようになった。これが2021年頃までのトレンドであり、Rehabのこれまでの事業もこの考え方にある程度則ったものであった。

だが、これまでの介護の広がりでは不十分だと語気を強めるのが、この2人だ。

大久保高齢者の生活は、当然ながら介護保険でカバーされる範囲にとどまるものではありません。にもかかわらず、高齢者自身がその介護保険以外に触れることが少なく、保険制度の中で生きているように私は感じることが多々あります。保険の持続性可能性を意識しつつ、保険外も含めて高齢者の生活を豊かにすることが、「バリュー重視」の考え方に則ったこれからの事業展開なんです。

池上現状の介護保険カバー範囲の活動も素晴らしいことですが、未来を見据えると、最低限のものでしかないはずです。高齢者さん一人ひとりがより豊かな生活を求めようとする気持ちを、さまざまなかたちで支援する。そんなプロダクトをそろえていくんです。

介護事業所にとっての成果だけを追い求めるのではありません。高齢者さんに対して、バリューを発揮する。私たちの事業・プロダクトは、そのためにあると思っています。

そう、重要なポイントは「介護保険カバー範囲外」の支援だ。

池上要介護状態であっても、高齢者さんは生活の中でいろいろな活動をしたいという気持ちを持っています。買い物やをはじめとした外出はもちろん、自宅での趣味も含めて、「もうちょっと元気だったらやりたい」と思うようなことが少なくありません。でも今、そのための支援はあまりない。

衣食住の最低限のこと以外の活動を「選択できる」という状態こそ、QOLに寄与する重要な要素のはずなんです。その可能性を広げていきたい。

「バリュー重視」のために、事業のリブランディングも進める。これまでのメインプロダクト『リハプラン』を軸に、新たなソリューションサービスを追加する。価格の改定も含めて、高齢者の生活を支援しつつ事業所の業務効率化を進めるプラットフォームとして『Rehab Cloud』へと呼称を変更することを決めた。

新規事業として立ち上がり始めたオンラインリハビリをはじめとした新プロダクト群・新機能群を、ワンストップで広く提供していく戦略だ。次のセクションで、事業展開の戦略を深掘りしていく。

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データ基盤を基に、「Rehabにしかできない」と言える新規事業を続々打ち出す

このセクションで迫るのが新規事業の構想。非連続成長を新たに生み出すための戦略だ。これが、この記事で深掘りしたい要素三つのうち、最後になる。

保険カバー範囲外での新たな支援のファーストステップとして、Rehabが立ち上げるのが「オンラインリハビリ」だ。海外に似た事業の例こそあれ、高齢社会に広く実装された前例はない。次なる中核事業化を目指し、実証実験を終え、本格ローンチが近づく(その軌跡はこちらの記事に詳しいので参照いただきたい)。

「高齢者のより豊かな暮らしにおける、新しい選択肢の提供」という意味で、リハビリをオンラインで手軽に進めることができるという未来像に対して、画期的なものだとして期待が高まっている。

ただしこれは、Rehabが使いやすいUIのプロダクトを提供しさえすれば社会に広がる、といった単純なものではない。まず高齢者一人ひとりがオンラインでのサービス提供に慣れる必要があるし、現場を担う作業療法士やケアマネージャーの共感を得て継続活用してもらう必要もある。

だからこそ、既存事業で1,400超という介護事業所の顧客基盤の活用に期待が高まるのだ。言い換えるならば、Rehabにしかできない事業である。

大久保すでに少なくない介護現場の方々やエンドユーザーの高齢者さんとの関係構築ができていますから、まさに「うちだからこそできる事業」になっています。ビジネスとしてはBtoBtoCのかたちでの拡大を目指し、オンラインリハビリの魅力を広く伝えていきます。

池上「介護」という言葉の捉え方を変えることができると思っています。身体に明らかな不調が出てきた高齢者さんだけでなく、アクティブシニアと言われるような元気な高齢者に対してさらに強くなるような支援を、オンラインリハビリの延長線上でできるのではないかなと。

そうしてさらにいろいろなサービスを周辺領域で生み出していき、Rehabが高齢者にとっての幅広いサービス提供ができるライフラインとなる未来を描いています。

大久保日本の人口は30年後には9,000万人ほどになり、そのうち3人に1人が高齢者、そしてさらにそのうちの3人に1人が要介護者になると予測されています。社会がしっかり対応していかなければなりませんし、それを担えるようになれば事業成長のポテンシャルも非常に大きいはず。

そしてもう一つ、これから本格的に取り組む新規事業が「データ事業」だ。

2022年2月、オムロンが約1,100億円を出資し、医療統計データサービスを提供するJMDCの株式を33.4%取得した。先述したアマゾンの事業参入も含め、ヘルスケア領域でいかにデータが重視されているかを表す事象だ。

ただ、参入したいと考えるビッグテックや旧来型の大企業にとって、高齢者や要介護者のデータをゼロから取得することはほとんど不可能だ。介護関連ソフトウェアは数多くあれど、その多くが経営支援に重きを置いていることから、要介護者のデータを取得するのに向いているとは言い難い。Rehabのデータ事業は、質という点で、すでに圧倒的な優位性を持っているのだ。

そこで、これまでRehabが蓄積してきた要介護者データをベースに、データの解析基盤装置『Care Data Platform』を構築し、製薬企業や行政、ヘルスケア企業との「事業共創」を狙う。

大久保まずは製薬会社や医療機器メーカーなどが新たなソリューションを提供する際に、高齢者や介護事業所の協力の下、データ利活用ができるプラットフォームへと進化をさせていきます。また、「健康寿命の延伸」につなげるためのヘルスケア領域のアカデミアとの連携強化をします。

私は超高齢者社会時代をより良くするために、「医療は医療、介護は介護で解決する」というような考え方ではなく、個人情報保護や倫理指針に配慮した上で、情報へのアクセスはできるだけオープンにして、活用する意義を持つ企業や機関が広くデータを使える構造を創り出したい。そうでなければ、社会が変わるなんてことにはならないと思うんです。

現時点で明らかにされている新規事業の構想は、この二つ。いずれも実現と拡大までには非常に大きな困難が待ち受けていそうな事業である。だがこの現状と構想だけでも、国内投資家からの期待は非常に熱いものとなっている。そこでは「日本社会が目指すべき姿を描いてくれている」という理解も、大きく存在しているのだろう。

超高齢社会が到来する中で行政と企業はどのようにふるまうべきかというグローバルメガトレンドと、実際に介護事業所それぞれの現場が抱える課題感、そして高齢者一人ひとりの生活について、どこよりも深く思考しているのがRehabというスタートアップだ。堅実な事業成長を続けながら中長期的な戦略を描き、単一プロダクトから複数プロダクト体制へと移行する。そんな大きな節目となるのが今なのだ。

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経営陣2人の圧倒的なコミュニケーション量で、未来構想を磨き続ける

ここまで、ステークホルダー関係、既存事業の拡大、新規事業の立ち上げという三つの要素に分けて、戦略や構想について深く探ってきた。「介護ヘルスケア事業に今、注目が集まる理由」はそれなりにイメージできるようになってきたのではないだろうか。同時に、Rehabのユニークな事業展開に期待が集まっていることも、伝わったと思う。

だが、戦略が秀逸であればスタートアップは伸びるのかといえば、そう単純な話ではない。特に重要なのが「組織」だ。この点、大久保・池上両氏は「組織の進化こそ、この1年で特に誇れるものかもしれない」と話す。これがどういうことなのか、最後に探っていこう。

池上「ここでやる価値がある」と思って踏み込んできてくれる人が何人もいます。この1年で、部長レイヤーを任せられるミドルマネジメント層が倍増し、事業推進が非常にスムーズになりました。

今、本当に優秀で実績のある人たちが、全力で仕事をしていることをひしひしと感じています。それだけ会社と事業の魅力が高まってきたということだと思います。

大久保プロダクト開発組織はとても力強くなりました。2022年1月に執行役員CTOとして入社した久良木が中心となってレベルアップが目に見えて進み、執行役員CPOの若林が見るプロダクトマネジメントのチームと合わせれば40人ほどの規模にまで拡大しています。1年前の数倍の規模ですから、多くの開発を同時に動かせるようになりました。

Rehabが手掛ける介護リハビリ市場のプロダクトは、とにもかくにも現場に寄り添うことが必要不可欠だ。現場解像度の低いプロダクトではまったく使い物にならない。たとえば業務の流れをただデジタルに置き換えただけでは、価値を発揮できないのである。

重要なのは、現場の業務フローと担当者の思考や感情を具体的に理解した上で、デジタルを活用した場合の最適な業務の流れを新たにデザインすること。そのために、プロダクトチームのメンバーが何度も現場に足を運びながら実装状態のイメージをつくり、それを最適なかたちで反映する技術を選定し、プロダクトとして形成しているのだ。言葉にすると当たり前のことだが、実践し続けることは決して簡単なことではない。

Rehabでは、プロダクトマネージャー(PdM)やエンジニアに加え、介護現場出身の知見が深いメンバーも含めたチーム設計にすることで、この取り組みの質を向上させようとしているのだという。

このように、ミドルマネジメント層、CxO層そしてプロダクト開発チームという、事業の中核メンバーが活躍し続ける状態になっている点を、両氏は何度も強調する。ただ気になるのが「それではこの2人は何を……?」という点だろう。安心してほしい。最後にこの2人のとっておきのエピソード紹介を用意している。

池上我々2人のコミュニケーション量は、ほんっまにえげつないですよ。ほぼ週4で夕食を共にしており、さらに日中もオフィスで喧々諤々議論。どこの企業の経営チームよりも濃い関係性を築けている自信があります(笑)。

大久保まじめな話でちゃんと補足しますが(笑)、現場出身の私と、リクルートの事業家畑出身の池上との間では、すり合わせをし過ぎるくらいがちょうどいいと考えているんです。介護ヘルスケアに関する言葉一つひとつの使い方や表現から、意思決定において何を最重要視するかという点に至るまで、かなり細かく何度も話をしています。

池上氏がジョインしたのは2019年10月、すでに3年以上が経過しているが、大久保氏と池上氏の交流が減ることは考えられないという。創業当初ならまだしも、このシリーズDラウンド発表のフェーズまでこの頻度で話し合い続けるケースは、なかなか珍しいのではないだろうか。

大久保先ほど紹介したように、ミドルマネジメント層が増えたおかげで、私たち2人が未来について思考して議論する時間を非常に多く取れるようになったんです。会社がどんどんアップデートされているので、話すことはぜんぜんなくなりませんね。増え続けています。

意見がぶつかることもあります。それも含めて、すごく健全なディスカッションをし続けられていると感じられるのが、何よりも刺激を感じるところかもしれません。

池上ニュアンスの部分は特に、お互いに説明しすぎなくらいに説明し合い、認識ずれがないようにしています。今ではお互いにおおよそ何を考えているかわかるようになってきていますが、それでも話すことをやめるのはちょっと、怖いですよね(笑)。

なぜRehabが投資家からの高い評価を得ることができたのか。そこには、グローバルメガトレンド、市場環境、介護報酬制度の改定といった外部要因から、順調で着実な事業展開といった内部要因まで、諸条件が揃っているからだとまとめるのが、シンプルでわかりやすい結論だろう。だがおそらくそれ以上に、この経営陣2人のチーム感にも期待が集まっているのではないかと思わされる取材だった。

池上氏がリクルート時代に、事業家として大きな成果を残したことは有名で、個人の力にも期待があるだろう(その詳細はこの記事で深掘りした)。一方の大久保氏も、作業療法士という出自を力強く活かし、これ以上ないほど強い気持ちで事業と市場に向き合っている(そのパワフルさはこちらの記事で語られた)。

この2人がこれから改めて、非常にユニークで興味深い化学反応を見せてくれるのだろうと、そんな期待こそが高まる。注目市場における注目スタートアップの、注目すべき経営チーム。今後の展開を注視していこう。

こちらの記事は2023年02月02日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

落合 真彩

写真

藤田 慎一郎

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