多様な働き方を推進するなら「透明性」を意識せよ。全社員の給与リストを開示するBufferの狙い
SNS予約投稿サービスの「Buffer(バッファー)」。同サービスを運営するBuffer社は、全社員の給与リストを開示したり、世界中のメンバーをタイムゾーンごとに確認できるなどの透明戦略を打ち出している。
こうした透明戦略は、注目されている多様な働き方を推進する方法の一つといえるだけでなく、社員のモチベーション向上や人材採用にもつながるだろう。国内でも、リモートワーク導入に関する動きは耳にするようになったが、成功事例はなかなか見ない。
本記事は、Bufferを参考にしながら、組織の「透明性」がもたらす意義を考えたい。
- TEXT BY HITOMI YOSHIDA
- EDIT BY TOMOAKI SHOJI
高まる「多様な働き方」のニーズ
リモートワークや週休3日制など、多様な働き方の推進が国内でも広がり始めている。少子高齢化による人材不足を解消するため、介護や子育てによる離職を防ぐため、個人の自己実現のため……さまざまな要因から「働き方の未来」が注目されているといえる。
リモートワークという視点でみると、国内はまだ発展途上の段階にある。エン・ジャパンが2017年7月に発表した、「テレワーク(時間や場所の制約を受けない勤務形態)」実態調査では、対象になった企業642社のうち、リモートワーク導入企業は9%に留まっている。
一方で、働き手のニーズは高まっている。同じくエン・ジャパンが2018年6月に発表した、「テレワーク」についてのアンケート調査では、社会人8,341名のうち、リモートワーク経験者の7割以上、未経験者の4割が「リモートワークで働きたい」と回答した。
このように期待はされていながらも、企業側はなかなか導入ができていない現状がある。普及を進めるときに、何が重要となるのだろうか? そこで参考にしたいのが、複数のSNSをまとめて予約投稿できるサービスを提供しているBufferの事例だ。
「透明性の追求」で知られているBuffer
Bufferは、2012年から世界中にいるメンバーに対して「フルリモートワーク」という働き方を採用している。
世界中にメンバーが分散していることで、顧客からのメールの80%に対して、1時間以内に回答できるようになったそう。BufferのCEOであるJoel Gascoigne氏は、ブログで「リモートワークの導入はユーザーの利便性につながる」と語っている。
リモートワーク導入の障壁となるのは、管理の難しさが大きな要因と考えられる。その点、Bufferは世界中のメンバーの状況をタイムゾーンごとに閲覧できるようにしている。
Bufferは、“透明性の追求”という企業文化で知られている。全社員の給与リストや株式の保有比率をスプレッドシートで社内外に開示したり、毎月の売上や新規顧客獲得数をリアルタイムで見られるダッシュボードを公開したりと、その透明性は極端なほどだ。
給与は下記の計算式で決められている。誰でも従業員の給料を算出することが可能だ。実際には、住んでいる地域で必要な生活費や役割の重みなどを考慮して決められる。
透明性を高めるメリットについて、Joel Gascoigne氏は「社内の不平等の是正につながる」と語っている。従来のように交渉などによって給料を決めると、不平等が発生する恐れがある。能力や仕事内容に見合っていない給料を受け取るメンバーが出てくるかもしれない。
こうした偏りは、かつてBufferに存在していた。サンフランシスコ・ベイエリアの従業員に、仕事内容に見合った十分な給与を支払えていなかったという。しかし、給与を開示していたことで多くの従業員が改善を求め、経営陣は給与公式を調整。今では、ベイエリアの人材に魅力的なポジションを用意できているとしている。
このように社内の全ての情報にアクセスできるようにすることで、「経営陣は隠し事をしているのでは」といった疑心暗鬼を少なくできる。リモートワークで従業員同士で直接会う機会が少なかったとしても、こうした取り組みが組織への信頼感の醸成につながり、従業員のモチベーション向上をもたらすといえるだろう。
人材採用にもつながる透明戦略。国内で導入する企業も
また、透明性という戦略は「人材採用」という面でもメリットが大きい。Bufferでは、透明戦略について自社ブログ等で積極的に開示している。価値観の共有や信頼の獲得につながり、採用にも良い影響をもたらしているようだ。Joel Gascoigne氏によると、従業員の給料を公開したときに求人への応募は2倍になったという。
国内にも、多様な働き方の推進や自走型の組織を構築していくうえで、透明戦略を導入している企業がある。オンラインアシスタントサービス「CasterBiz」などのサービスを展開する株式会社キャスターだ。CasterBizでは、秘書や経理、人事、Web運用などの業務を、自社で雇用する「リモートで働くオンラインアシスタント」に依頼することができる。
同社は、リモートワークや副業が可能なだけでなく、会社の収支や役員報酬、全社員の給与などの情報を社員に公開している。希望すれば、会社で行われている全てのミーティングに参加することも可能だ。
こうした取り組みにより、同社では結婚や出産などの事情によりフルタイムで働けなくなった人や、パートナーの転勤に伴い、地方に住んでいる女性からの応募が多くなったという。
Bufferやキャスターが推進する「透明性戦略」。多様な働き方の推進や人材不足に悩む企業にとって、大きなヒントになるのではないか。逆に言うと、テレワークの導入率が10%を切る日本もしかり、多様な働き方を希望する人材が活躍できる場を用意しなければ、これからは人材確保が難しくなるのかもしれない。
こちらの記事は2019年03月18日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
吉田 瞳
1994年生、上智大学文学部新聞学科卒。PR会社で働きつつ、フリーランスのライターとして複数媒体で執筆中。記事を通して、自然、体験、歴史など、「カタチのないもの」の姿を伝えていきたいです。山が好き。
編集
庄司 智昭
ライター・編集者。東京にこだわらない働き方を支援するシビレと、編集デザインファームのinquireに所属。2015年アイティメディアに入社し、2年間製造業関連のWebメディアで編集記者を務めた。ローカルやテクノロジー関連の取材に関心があります。
1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。
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