連載エースと呼ばれた20代の正体──若手のノウハウ大全

没頭こそが結果への近道──Apple営業からUIUXデザイナーへ転身を遂げたFAKE・儀保氏の“エースたる所以”

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会社のなかでひときわ活躍している社員がいる。群を抜いて優秀な社員がいる。そんな“エース”と呼ばれる人間は、いかにしてエースになったのだろうか──。

今回取り上げるのは、DXやUI/UXのデザインコンサルティングを手掛けるFAKEにて、UIUXデザイナーを務める儀保健次氏。Appleの販売・営業現場で活躍したビジネスサイドのエリートは、「目の前の物事に没頭する」ことで、UIUXデザイナーへの転身という道なき道を開拓していった。儀保氏の足跡から、キャリアの思考法を紐解いていきたい。

  • TEXT BY AYA SAITO
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新卒でAppleの営業エリートから、ゼロイチを設計するUIUXデザイナーへ

『結果というものにたどり着けるのは、偏執狂だけである』

かのアインシュタインが遺したとされるこの言葉。夢中になることはいかなる努力よりも勝ることを私達に教えてくれている。

提供:株式会社FAKE

儀保誤解を恐れずに言えば、これまで私がしてきたことは、大きなチャレンジというほどではなかった。やれることを、とにかくシンプルにやり続けただけだったと思います。

そう飄々と語る儀保氏からも、似た雰囲気を感じる。デザイナーといえば、芸大・美大あるいは建築系の大学を出ることが必須と思われていないだろうか。そんな常識に一石を投じるキャリアがここにある(そして同時に、FAKEという企業のユニークなところだ)。儀保氏が学生時代に専攻していたのは英語で、言語文化について学んでいたのだという。その心を動かしていたのは、飽くなき探究欲である。

そのキャリアを紐解いてみると、デザインとは無縁の道を歩んできたことがわかる。20代前半までのチャレンジをまずは確認していこう。

儀保大学時代、Appleでアルバイトをしていた経験があり、チームで働く楽しさや、企業の目的をチームに浸透させるエンゲージメントに興味を持ちました。そのチームの裏側、つまり「どうやってチームをつくり上げているのか」が気になって、Appleに入ることを決断しました。

新卒入社後は、営業と販売を5年間担当。最も印象的だったと語るのが、1on1の時間や振り返りの時間、フィードバックをする時間について。一人ひとりと向き合っているマネジメント体制という、知りたかった裏側を、身を持って体験することができた。

儀保売上が目標に達しないかもしれない、そんなタイミングでは、「1on1をするよりも店舗に出て売ろう」って考えてしまいがちだと思うんです。でも、マネジャーはそうではなくちゃんと時間を取ってたんです。

どんなに忙しくても、腹落ちした状態で販売や営業を進めてこそ、チーム全体でいいパフォーマンスができる。それがAppleで学んだことですね。今、組織規模こそ小さいながらマネジメントを任せてもらっている中で大事にしている思想です。

大好きな企業で、ずっと働くことに疑いもなかった。だが、ここでもまた新たな衝動が儀保氏を突き動かした。「自分の力を、また違う領域で試したい」と考え、すぐに行動を起こす。それが、デザイナーへの転身だ。

コルサルティングや委託をメインとするデザインファーム系企業のデザイン職を受けたが、未経験ということもありなかなか良縁には恵まれなかった。60社ほど受け、出会ったのがFAKEだ。未経験採用にも積極的なこの企業で、新たなチャレンジが始まった。

現在任されているのは、UIやUXのデザインをクライアントとすり合わせて実現し、事業の成果を創出すること。現在はリードデザイナーとしてクライアントを複数社抱え、プロジェクト進行とデザイン実務を手掛ける。チームメンバーのマネジメントも同時に担当している。

さあ、儀保氏はいかにして、UIUXデザイナーへの転身を遂げていったのか?足跡を辿ってみよう。

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所以1 徹底的に言語化せよ

転身という大きなチャレンジを成功させつつある所以の一つ目は、とにかく思考を徹底的に言語化することである。

デザインといえば感性やセンスが問われる所業かと思いきや、それだけではないのだと言い切る。むしろ儀保氏が強みとしていたのは、クライアントの求めるイメージを精度高く言葉にすること。そのおかげで、「こんなに納得感のあるものができるのか」と驚かれるほど、評価は上々だ。

実際にも儀保氏が担当する某大手の金融系企業は、年単位での継続的な発注が決まったり、社内での横断的デザイン組織の組成、社内デザイン研修の実施など、担当領域が大幅に広がっている。

まさしくここに大きな特徴がある。事業視点を持った上でUIUXデザインを開発したり、既存のオペレーションを把握したりする必要のあるDXデザインが重要になってきているからこそ、ビジネスバックグラウンドがあるデザイナーのニーズが急速に上がっているのである。従来型のデザイナーではなく、まさしく儀保氏のように、ビジネス経験があるキャリアの人間がデザイナーに転向する形がベストであるとFAKEは考えているのだ。

そんな儀保氏はなぜ、言語化にこだわるのか。その原点はAppleで没頭した経験にある。

儀保Appleで最も没頭したのが、営業で使うスライドづくりなんです。1枚のスライドに、どれだけシンプルにメッセージを吹き込むかを、突き詰めて考えていました。手を動かしながら考えを深めていく作業が好きでしたね。

スライドづくりも当然、デザインの一種といえよう。掲載する文章や単語だけではなく、背景色やフォント、文字の大きさによって、受け手の印象は変わってくる。だが、大事なのは装飾や綺麗さではないのだ。そもそも何を達成すべきなのか、そのためには何が載るべきなのか、逆に言えば何を載せないべきなのか、といった思考こそが重要だ。メッセージの伝わるスライドをつくり上げるための、妥協しない思考を、今、改めて深め、仕組み化しようとしている。

儀保議論する内容は、感性的な領域の議論ではなく、事業の戦略やコンセプト、既存オペレーションやレギュレーションの中でどうミニマライズしていくかといったことが多くなります。感覚には頼ることなく、デザインがなぜそうなっているのかという意図を言語化して伝え続け、会話を通してブラッシュアップしていくことを大切にしています。

課題は何か、解消できるパターンは何か、どう変えるとユーザーの体験が変わるのか。徹底的に議論し、思考を言語化していく。

デザインを、「抽象度の高い、わかりにくいもの」と思ってはいけない。「なぜそうするのか」を言語化し続けてこそ、成果につながるんです。

儀保氏にとって、一番最初に担当した大企業のクライアントが鮮烈に記憶に残っている。最初の案件は、「主力商品の問い合わせから購入、サポートまでの体験一覧」をつくるというもの。3ヶ月という短期間で、4つの大きな体験をデジタル化する形をデザインした。

儀保氏は、綺麗な画面を作り上げることだけではクライアントの事業成長には繋がりにくく、なぜその画面であるべきなのかを伝える必要がある、と考え、上流で考えるべき体験設計の言語化に注力する。これが功を奏した、というよりもむしろこれがUXデザインの本質だったことに少しずつ気づいていくこととなる。

その結果、引き続き儀保氏を中心としたチームに1年の長期プロジェクトを任せたり、案件数を複数に広げたりと、より深い関係性が構築されていった。これが大きな成功体験となり、UIUXデザイナーとしての成長を続け、FAKEとしても創業3年で大きな成長を遂げている。

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瞬時にアウトプットせよ

提供:株式会社FAKE

二つ目は、すぐアウトプットし続けること。

儀保氏はクライアントとディスカッションしたのちに、すぐに新たなアウトプットを示すことを徹底してきた。それは、アプリやサービスといったデザイン面のプロトタイプだけでなく、UX設計やカスタマージャーニーの言語化も含め、納品物に付随するすべてが対象だ。

儀保瞬時に新たな体験を設計して提示する、ということにこだわっています。上流概念の言語化は不可欠ですが、一方でクライアントを含むプロジェクトメンバーは「早くアウトプットを見たい」と感じるもの。逆に言えば、アウトプットをしばらくの間確認できなければ、フィードバックも遅くなり、スケジュールに不安が募っていきます。

新たなヒアリングができたら、できるだけ早くそこからアウトプットを示し、「違う」と思われたらその場で設計を修正し、デザインに再度落とし込む。このサイクルを、最短数日単位で回していく。

このようにして質とスピードを両立させることで、クライアントを含むプロジェクトメンバー全員が腑に落ちた状態でプロジェクトを進めることができるはず。「納得いくものが、こんなに早く出来るとは思っていなかった」と言われたこともありましたね。

FAKEには3つのバリューがある。「JUST MOVE いち早く動こう」「PRODUCT ADDICTION プロダクトを愛そう」「SEEK MINIMAL ミニマルを極めよう」だ。

その中で、儀保氏が強く体現しているのは「JUST MOVE いち早く動こう」だ。とにかく速くアウトプットし、何回も頭だけで思考するのではなく、目で確かめ、不必要な要素を削ったり、精度を上げていくことだ。

儀保初動を早くすることが、誰でもできることで、かつビジネスでは大事だと思っています。PCとWi-Fiさえあれば仕事ができる時代ですから。早い段階で上流から模索して最適なUXを磨き込み共有していくことで、プロジェクトメンバーそれぞれの思想や目的との間で認識の誤差がないかどうか、早い段階で気づけたり、精度のより高い体験構築ができたりします。

アウトプットの1発目が正解ではないことは、むしろ当たり前のこと。より良いものに変えていく前提で、たたき台となるものをつくることが大事です。最初から100点を狙いに行くのではなく、75点をなんとか出し続けて、最終的に100点に近づけていくという気持ちが何よりも大切だと思います。

“巧緻より拙速”、とはあらゆるビジネスシーンで重要と言われる。儀保氏の持つ高い言語化力を120%活かしているのは、このスピード感に違いない。

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目の前のことに熱狂せよ

提供:株式会社FAKE

最後の三つ目は、仕事術というよりももう少し上流の、キャリア観に近い文脈だ。とにかく目の前のことにコミットすること、である。

将来的になりたい姿を思考し、逆算してキャリアを築く。大企業の終身雇用が崩壊したと言われるこの不安定な時代において、なくてはならない考え方であり、スキルかもしれない。だが、「なりたい姿」「やりたいこと」を明確に持てていないビジネスパーソンも少なくない。

儀保氏は、そうした悩みへの処方箋として「まず目の前のことに全力になること」を提案する。

儀保自分のまかされている仕事の中で、どれかを突き詰めることで価値が上がると思います。資料作りが得意だとしたらそれを誰よりも早く仕上げるとか、営業なら誰よりも多くクライアントに会うとか。好きなことを新たに見つけようとするより、今やっていることを好きになることを目指した方がいいんじゃないかと思いますね。

自分のやりたくない仕事だから、、、と取捨選択をする、という考え方もありますが、どの仕事にもやりたくない領域のタスクはあるので、自分のやっていることに対して「なぜこれをやるのか?」と目的意識を自分で生み出せるかが何よりも大事。

そのマインドセットを作り、それ以外は考えるよりもまずコミットして、成功体験を積み上げる。そのための行動を増やしていけば、次にどんなアクションに落とし込むべきかが少しずつ明確に見えてくると思います。そのうち気がついたら愛着がわいていた、というか、認められて、より仕事に熱中できるようになっていた、少なくとも自分の場合はそうでした。

儀保氏は、シンプルに目の前の仕事を面白がり、探究していくことで道を切り開いていった。混沌とした社会で、より大きなチャンスを獲得し、キャリアを開拓していく、そのための一つの道しるべにしたい。

こちらの記事は2023年03月10日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

齊藤 彩

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