【グリー出身CTO対談】
日本人の価値観を変革する急成長ベンチャー。
技術で支えるエンジニアの想いとは?

インタビュイー
井上 正樹

グリーにおいて開発本部副本部長・開発企画室長としてインフラ整備やエンジニア育成を担当した後、ゲーム事業本部長を経て、2016年3月より、ウェルスナビのCTO兼プロダクト開発ディレクターを務める。プロダクトの企画から設計・開発・運用を一貫してリードしつつ、事業成長に向けたマーケティングを推進。社員全体の6割をエンジニア・デザイナーが占める金融機関として、組織作りにもリーダーシップを発揮。

岸田 崇志

2006年3月博士(情報工学)取得。大手ネットワークインテグレータを経て、2009年5月グリー株式会社に入社。エンジニア兼事業責任者を経て日本スタジオ統括部長、開発本部副本部長を歴任。2013年10月同社執行役員に就任。その後、新規タイトル開発やクリエイター育成に従事。2015年11月株式会社LITALICOに入社、執行役員CTOに就任。

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資産運用のハードルを下げ、お金に悩む人を減らすことを目指すウェルスナビ。

「障害のない社会をつくる」をビジョンに掲げ、就労支援や教育サービスなどを提供するLITALICO。

“社会課題の解決”を共通項にもつ両社のCTOは共に、偶然にも、2007年世界初のモバイルソーシャルゲームを公開したことなどで知られるグリー出身者が務めている。

ゲーム業界のメガベンチャーで働いた二人が、なぜ転職をして社会課題解決に従事するのか。

グリーでの経験は、他企業でどのように活かされているのか。ウェルスナビ取締役CTO&チーフ・プロダクト・オフィサー井上正樹氏、LITALICO執行役員CTO岸田崇志氏に聞いた。

  • TEXT BY REIKO MATSUMOTO
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グリーの急成長期だからこそ学んだこと・変えたかったこと

今の会社に転職されるまでは、どのようなキャリアを歩まれたのでしょうか?

井上新卒でSI業界に入り、受託で人事情報管理、百貨店の売上管理、携帯電話会社の分析基盤をつくったりしましたね。海外のパッケージの技術営業担当者も務めたりもしました。

20代後半までは、そういう仕事を続けていたのですが、「もっとユーザーに近いサービスを作りたい」と思ったことをきっかけに、2006年にグリーに入りました。入社当時は30人くらいしかいませんでしたが、その後「釣りスタ」という日本初のソーシャルゲームを生み出す仕事にも関わることができ、会社自体もどんどん成長していきましたね。

ウェルスナビ株式会社 取締役 CTO & CPO 井上 正樹氏

グリーではどんなことをされていましたか?

井上インフラエンジニアとして働きましたし、採用にも携わりました。月に数百人規模で採るような、大量採用の時期でしたので。人材育成や、マネジャーの育成にも携わりました。そんな時でしたね。知り合いにウェルスナビの社長を紹介されたのは。

聞いたこともない新たなアプローチで、金融という産業自体を変えられるかもしれないことを実現しようとしていることを知り、その可能性に魅入られたことを覚えています。

岸田私はもともとスタートアップで活躍したいと思っており、海外ではGoogleなどコンピュータサイエンスの博士号を持った起業家の方が多かったため、まずはコンピュータサイエンスを学ぼうと大学で博士号を取得しました。

株式会社LITALICO 執行役員 CTO 岸田 崇志氏

岸田大学では技術を学ぶ一方で、「技術と教育」をかけあわせることにも興味を持ち、自分なりに実践していましたね。遠隔地間をテクノロジーで繋げて、授業の動画を配信するなど、頭で考えたことを、手を動かして形にしていたんです。

その後は、ネットワークインテグレーター(企業のネットワーク全体の設計からハードウェアの導入、ソフトウェアの開発、運用、保守まで一括請負する企業)を主軸にする企業に新卒入社しました。

ただ、もっとチャレンジングな環境に身を置きたくなったことから、ネットワークインテグレーターでの仕事は3年ほどで辞めてしまいました。そこでグリーに入社。31歳のときのことです。

入社直後に担当したサービスは、トラフィックも多く技術面のみならず企画面や事業面のストレッチを求められるものでした。幅広い裁量でかつスピード感も求められる環境下でいろいろなスキルが身についていったのだと思います。

そういったグリーでの経験を通じて、どのようなスキルが身についたのでしょうか?

井上当時のグリーは成長拡大期でしたので、数百人規模で蓄積させたノウハウを、いかに希薄化させないかという課題に取り組んだりしました。規模が拡大しても、みんながノウハウを活用できるような環境づくりとか仕組みづくりに意識的に取り組みました。

また、会社が2000人、3000人規模になると、せっかく優秀な人が入ってくれても、その才能に最適な仕事をすぐに与えることができなくなるという弊害が生まれます。そこで、例えばアプリコンテストといった大会を開催して、才能を発掘するための方法を編み出していきました。

数百人から数千人という、会社の急成長期では、やはり違和感やもどかしさを感じる部分もありましたか?

井上やはり会社が大きくなると、どうしても一人一人に向き合うことが難しくなったり、プロダクト一つ一つを丁寧に観察したりすることができなくなる傾向にはあると思います。これはグリーに限った話ではないかもしれません。

本来、プロダクトの状況を把握するには、自分で触ったときに、どういったUXなのかを丁寧に実感していないといけませんが、自分の担当プロダクトが増えていくにつれて、時間的な制限などから、結果的な数値しか見られないことも増えてくる。そういった、プロダクトに対する手触りを得る余裕がなくなってしまうことはあると思います。

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ビジョンや「自分にしかやらないこと」に導かれ転職を決意

そこからなぜ、ウェルスナビ・LITALICOへのジョインを決めたのでしょうか?

井上自分が転職活動をしていた時は、金融とテクノロジーの融合領域であるFinTechが注目されはじめた時期でした。このような新しい領域に、早いタイミングで取り組むのはすごく勇気のいることだけど、SIerでの経験と、コンシューマーサービスを創ってきたという両方の経験が活かせるし、挑戦しがいがあるのではないかと感じました。

あとは、「お金の問題って誰もが直面するよね」という、圧倒的に自分が課題だと感じていることを解決できる会社だと思ったというのも、ウェルスナビに入社した理由として挙げられます。

例えばアメリカでは、資産運用が当たり前の風潮がありますが、日本にはまだあまり根付いていない。なぜなら資産運用のハードルが高く、そもそも多くの人にとって金融自体がわかりにくく、理解しにくいものだから。こういった状況を、ビジネスを通じて変えられるというインパクトに魅せられました。

また、社長に惹かれたというのも大きな理由です。ウェルスナビの代表である柴山は、新卒で財務省に入った人なのですが、若い時からずっと、日本に貢献したいという想いを抱いてきた人。財務省を辞めてまで、起業したという柴山の覚悟、熱意にも驚かされました。この人とだったら、日本の働く世代の役に立てると確信しました。

ウェルスナビ株式会社 代表取締役CEO 柴山 和久氏

岸田わたしは、やっぱり人を大切にしているところですね。「LITALICO」という社名は「利他」と「利己」が組み合わさった意味なのですが、これは「関わる人と社会の幸せを実現することが、自分たちの幸せにつながる」という意味が込められています。

株式会社LITALICO|コーポレート・アイデンティティ

岸田この社名が表すビジョンに対して、そこで働く人たちも、会社の事業もすごく忠実。そういう、目指しているところが同じというところが素敵だなと思って、入社しました。

わたし自身が、過去の様々な経験から、利他と利己の両立ができないと、株式会社として存続しながら世の中に価値を生み出していくことは難しいなと感じてきたことも、入社を後押しした要素の一つと言えるでしょう。

もう一つ理由を挙げるとすると、グリー時代に、すでに大きなサービスの事業や運用を任されるような経験をしていたので、同じ業界の同じ領域でもう一度働くよりも、リアルビジネスにエンジニアリングを紐付けるというリアル×テクノロジーのチャレンジをしたかったということも理由にあります。

グリーが創っているゲームのように、福祉の領域にも「楽しさ」を加えられるサービスが自分になら創れるかも、と思いました。

いま実際に福祉という未知の業界に入ってみて、まだまだネットサービスが使われなくて、不便な領域がたくさんあると感じています。そういった福祉の未開拓な領域に、インターネットテクノロジーを融合させることで、業界の標準を変えたいなと思っているんです。

岸田こういうテクノロジーが活用されていない領域って、おそらく福祉に限らず様々な業界のなかに、まだまだ存在するはず。そのような業界こそ、自分たちエンジニアが巻き起こせる変化の可能性も大きいのかもしれません。

現在CTOとして活躍中のお二人が転職後、グリーでの経験が活きているな、と思うことを教えてください。

岸田少人数で意見をいい合うことができる組織づくりができること、チームのつくり方についての経験は活きていると思います。

また、やはり外部環境の変化も激しく、使われるサービスや技術もどんどん栄枯盛衰していくなかで、迅速にPDCAを回していった経験があるため、スピーディに結果を出すことや臨機応変に物事に対応する力は、今でも活きていると思います。さらに、世の中にある競合サービスと同列に並べても負けないクオリティを追求するという姿勢や技術も、強みになっているかもしれません。

同時期に働いていたエンジニアたちも、今では様々な勢いのあるベンチャーで活躍していますし、ゲーム領域のような高速に改善し続ける現場での開発経験は、どんな業界でも役立つものだと言えると思います。

井上グリーにいたときに、岸田さんにいただいたフィードバックは今でも役に立っています。アプリを細部まで作り込むという姿勢や、見るべきポイント、UXに対するこだわり、プロダクトに対する魂。他の人にはつくれないレベルのクオリティを追求するというプロ意識や仕事に対する姿勢。

これらは今でも影響されているように感じます。あとは、つくったプロダクトの成果を定期的に定量的に観察して、「1ヶ月2ヶ月後のKPIを達成できているか」という切り口でチェックして、ダメだったら改善施策を打っていくという、一連の仕事の仕方は身につきましたね。

岸田このような数値目標って、むやみに立てるのではなく、ユーザーの生活をイメージしながら、緻密にリアルにするということが大切です。「ユーザーに真摯に向き合う」というのは、今でも意識していることだと思います。

あとはグリーの成長期にいたから、今後会社が拡大していった場合にどのような課題が発生するか、何が足りなくなるかいうことを予測しながら、身動きができると言えるかもしれません。

井上思い返せば、グリー成長期の圧倒的なスピードを支えた「全員エンジニアリングができるべし」といった思想も受け継いでいます。ウェルスナビにはいま、いわゆるプランナーという職種は存在しません。カスタマーサポートに上がってきた情報を全員で見ながら、対応すべきものを分担してエンジニア全員で対応しています。

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エンジニアリングの力を活かし「やりたいことがやれる」人を増やし続ける

経験豊富なお二人が、これからウェルスナビ・LITALICOで実現したいことはありますか?

岸田これから少子高齢化を迎える日本は課題先進国であるともいえます。社会課題は万国共通だと思っているため、これからは日本以外の国でもすぐに利用できる、非言語化した、言語を使わずとも利用できるアプリケーションづくりをしていきたいと思っています。

まさに、今わたしたちがLITALICOでしていることでもあるのですが、国境を越えてもUXでユーザーの反応を理解することができたり、非言語なので世界同時にリリースすることもできたりします。

今までとは違った、グローバルな市場で勝負することが、今のわたしにとって真新しいことですし、まさにチャレンジしていることでもありますね。

そしてやはりこの領域で仕事をしてみて感じるのは、サービスを利用されている一人ひとりの利用者様の重みを感じることが多いです。一人ひとりいろいろな背景があり課題がある。そういった課題を解決してあげたいなと思っています。

これまでの人生でできなかったことができるようになる人を増やしていく活動が、LITALICOの仕事です。誰かの人生を変えられる可能性がある仕事に関わっていられることは誇りに思っています。

教育・福祉の業界はまだまだテクノロジーが必要です。ですので、福祉や障害×テクノロジーといった領域にたくさん人を集めたいと思っています。そして、テクノロジーを通じて社会課題を解決していきたいと思っています。

井上いままで一般の方にとって、わかりにくかった金融商品や金融の仕組みを、理解しやすいように変えていきたいと思っています。お金で困っている人や、今後困る可能性のある人に、どうやったら自分たちのサービスをつかってもらえるか。

そして最終的には、資産を増やし守ることだけに、「今」を費やすことがないよう、やりたいことに挑戦できる人を、どれだけ増やすことができるか。この課題にいままさにチャレンジしています。

最後に、エンジニアの方にメッセージがあればお願いします。

井上自分たちでサービスを生み出して、改善するという気構えを持ってほしいと思います。特にスタートアップ企業では、技術だけにこだわっても仕方がない。技術と主体性ありきでサービスづくりを引っ張ってほしいです。

岸田最近では3年もすれば技術の大局が変わる時代です。技術変化に追従する大変さの一方で、サービスを生み出しやすい環境になっていると思います。そのような環境変化の中で生き残っていくためには、サービスを生み出してからユーザに届けるまでの「掛け算スキル」が必要です。

ただ言われたものをつくるのではなく、自分の頭で考えることができる人が求められてくるのではないでしょうか。つまり、「考える人」「つくる人」が別々だった時代が去ったのだと思います。過去のエンジニアの概念にとらわれないで、これからは「自分はつくる人であって、考える人ではない」という風に職掌を限定せずに、全社全事業の視点から「考えるエンジニア」として活躍する人が増えてほしいですね。

こちらの記事は2018年02月15日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

松本 玲子

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