国の悲願“賃上げ”に、膨大なデータと仕組みで切り込む事業開発現場がここに──クロスビットだけが見る世界観「ポジショナルワーキング」とは

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インタビュイー
小久保 孝咲

早稲田大学政治経済学部卒。在学中に転職エージェントにて法人営業マネージャーを経験。人材業秋から日本の人材関連課題を見る中で、テクノロジー活用による人材リソースの最適配分の可能性を強く感じ、起業を決意。2016年に株式会社クロスビットを創業。

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「データは21世紀の石油」と言われ、久しい。だが、活用法こそ多くの人が考え、生み出されているものの、“収集”自体を大きくアップデートするようなスタートアップは、それほど多くは現れていない。今回の記事では、この点で業界の期待を一身に集めているクロスビットの事業戦略を細かく紹介したい。

祖業の『らくしふ』は、その中心機能の「シフト管理」で売上向上・コスト改革をもたらしつつ、社会全体の労働を最適化する新概念「ポジショナルワーキング」を実現することで、経済価値の創出まで生み出すSaaS。労働力を最適化・自動化するための基盤社会インフラとなり得るプロダクトとなっている。すでに17,000超の導入事業所と20万のワーカーユーザーを抱え、順調に拡大している。

その構想「このデータ基盤が持つ、多様過ぎる事業・プロダクト展開」に、大きな期待が集まっている。なぜなら、「一人ひとりのワーカーが、いつどこでどのように働き、そして生きているのか」が、店舗や企業の枠を超えて蓄積されるためだ。

見据える新プロダクトの構想は、労務管理、給与支払い、タレントマネジメントなど非常に多彩。リクルートのような巨人がすでに存在する領域のようにも見えるが、「非正規雇用」を切り口に、非常にユニークな勝ち筋を描いている。今回はその胸に宿る熱き想いと共に、事業戦略を詳しくひも解く。

  • TEXT BY REI ICHINOSE
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
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解約率1%未満。コロナ禍で証明された
「ポジショナルワーキング」の可能性

低賃金、過重労働、ストレスフルなコミュニケーション……。こうした課題一つひとつを解消すべく立ち上がったのが、「Smart Life to All Workers」をミッションに掲げる同社だ。繰り返しにはなるが、「シフト管理」はその入口でしかない。だがこの“入口”の事業選定こそ、唯一無二の強みを構築した要因だ。それを、ストーリー仕立てで読み解いていく。

前提をここで確認しよう。2016年に創業し、受託開発期を経て『らくしふ』をローンチ。主な顧客が飲食店舗だったためコロナ禍で苦しみながらも、2023年初頭には冒頭で紹介した通り1.7万超の事業所への導入、個人のLINEアカウント紐づけが中心となるワーカーのユーザー数は20万超にのぼる。ここ1年のARR成長率は215%、NRRも115%、チャーンレートは0.74%と、まさにお手本のようなSaaSのトラクションを維持している。

この数字だけを見ると、レッドオーシャンな市場でうまく差別化を図り、順風満帆な事業運営をしてきたようにも思える。

だが小久保氏にそう問いかけると「そんなわけないじゃないですか……」と苦笑いを見せる。まずは、急成長スタートアップがすべからく乗り越えてきた「ハードシングス」について語ってもらおう。

小久保転職支援や営業代行といった仕事をしてきた経験から、業務フローが非効率的で負担が偏っている人材業界の課題解決をしたいと考えて起業しました。

当時決めていたのは、「現場仕事で負担の大きい仕事をしている人たちがちゃんと報われる社会になるように、収入がきちんと伸びるようにしよう」「それも、高所得の方の年収を伸ばすよりも、平均年収以下の方の年収を伸ばすべきだ」というミッションの方向性だけ。

平均年収以下の方といえば、パートやアルバイトといった非正規雇用労働者が主な対象になります。でも私には、そういった人たちを雇った経験がなかったため、どんなサービスがふさわしいのかまではまったくイメージが湧いていませんでした。

そのため、2016年のクロスビット創業から1年ほどは受託の案件でキャッシュを得ながら、毎週のようにパート・アルバイトを多く抱える飲食店チェーンのお客様へのヒアリングを重ねていきました。そして、現場で喫緊の課題となっているのがシフト管理だとわかったので、その業務を手助けするプロダクトとして『らくしふ』のリリースに漕ぎ着けました。

このプロダクトリリースですぐに顧客がついた、というわけでは決してない。競合もすでに存在する中、ミッションに共感してくれた少数の顧客のもとへ足しげく通い、飲食店チェーンの現場課題を細かくヒアリング。プロダクトの改善を地道に進めることで、少しずつ利用が広がっていった。

その後2019年にはセールスのメンバーが2名ジョイン、事業も組織もどんどん拡大していこうというタイミングで、2020年へ。ここから何が起きたかは書かずとも明白だろう。

小久保想像に難くないと思いますが、あのコロナ禍で飲食店のお客様の現場に行っても、そもそも店舗自体の営業がままならないわけで、我々のプロダクト云々の話をしている状況じゃないんです。

当然、進行していたプロジェクトが白紙に戻ることはもちろん、新規の問い合わせもガクンと減り、しばらく売上の伸びは期待できなくなってしまいました。

新型コロナウイルス感染症の打撃を真正面から受けたクロスビット。その苦境で受けたダメージは相当なものだったであろう。

一方で、小久保氏の強みである粘り強さが功を奏する局面もあった。しばしの間『らくしふ』を提供できないと踏んだ同氏は、まずコスト削減を徹底的に進めつつ、なんとか別の方法で売り上げを維持したり、将来につなげたりしていこうと試みた。

小久保自分たちのプロダクトの営業はなかなかできない状況でしたが、顧客接点を持ち続ける努力は継続しました。継続的に既存のお客様とのコミュニケーションを取り続けることができたので、『らくしふ』の解約を防ぐ大きな一助になったものと思いますね。

事実、結果としてコロナ禍におけるプロダクトの解約率は1%にも満たないという具合です。

読者の諸君は、お気づきいただけただろうか。この時期は世の中の大勢が支出を見直し、不要不急なサービスに対しては解約手続きをしたことだろう。

その中で、『らくしふ』の解約は1%未満だった。これはつまり、この時点ですでにクライアントにとって、なくてはならない存在となっていたことの証左ではないだろうか。シフト管理を楽にするだけのサービスなら、不要になっていたと言えるはず。予実管理や労務リスクの軽減など、価値を多面的に提供できる素地があるのだと気づくことができたわけだ。

これが、シフト管理プロダクトとして、というよりもむしろ、「ポジショナルワーキング」を実現するプラットフォームとしてPMFが見え始めた最初のエピソードだと言えるだろう。

この「ポジショナルワーキング」という概念についても確認しよう。サッカーの最新戦術論で使われる、試合の状況に伴って一人ひとりが最適な立ち位置を見つけて取り続けることで、攻守両面で効果を発揮する「ポジショナルプレー」を参考にした造語である。労働者一人ひとりの最適配置にとどまらず、どの人物のどの時間を、どの労働環境に当てはめ、どのような価値を創出するのか、といった細かな調整が実現されるという世界観を表している。

念願のエクイティファイナンス(2億円の調達)もコロナ禍に実現し、飛躍へと歩を進め始めたのが、この時期のクロスビットだ。

それではここから、そんな世界観を描くことのできるクロスビットの「プロダクトとしての強さ」をここから深掘りしていこう。

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エンドユーザーに刺さっていないプロダクトなど、競合にあらず

小久保氏はミッションを叶えるためのビジネスを行う上で3つ、決めていることがあった。それは、(1)勝ち切れること、(2)自分がやりたいこと、(3)ユーザー一人ひとりの変化が見えること、だ。『らくしふ』も当然、この3つの要素を持つ。だが、創業時から「シフト管理」に目をつけていたわけではなかった。

小久保クロスビットのミッション実現における初期フェーズのプロダクトである『らくしふ』は、さまざまな飲食店チェーンの現場にお邪魔して「シフト管理」にまつわる課題を聞き、着想を得ました。

初めは、「お客さんが増えない」とか、「増えたと思ったらアルバイトが足りない」とか、「採用したアルバイトがなかなか習熟しない」とか、そんな想像しやすい課題を多く聞いていました。ですが、ヒアリングを重ねる中で「従業員のシフトを効率的に管理すること」が各店舗における共通課題として見えてきたんです。

「Aさんがこの日にx時間入れるなら、Bさんは別日に回そう。でもCさんはまだ入りたてだからBさんと一緒のシフトが良いよな」という調整を、時には店長さんが何時間も掛けて進めていたんです。しかもその多くが、紙や電話を使った非効率的な進め方で……。

ですがすでに、シフト管理を行うツールも存在はしているようでした。ほとんどの店舗の方々がその存在自体は知っていて、使っていた時期もあったそうなんです。それでも未だにアナログな手法を取り続けているということは……「シフト管理の課題を解消したかったが、ツールを導入しても浸透せずに諦めた」という状況になっていたということですよね。

この時点で私は、「シフト管理」の先にある「労働リソースの最適化」というマーケットの広さと勝ち筋がイメージできるようになりました。「これなら業界1位を目指せる」と。そうしてすぐにプロダクトづくりを始めたんです。

話にも出てきた通り、「シフト管理ツール」というと2016年時点でも既に競合が少なくないマーケットだった。小久保氏としても勝ち筋は見えていたとはいえ、実際に後発でプロダクトをリリースして勝ち抜けるかはわからなかった。

だが、壮大なミッションを見据えた今後の事業展開を考えると、やはり「参入すべきだ」と決断。なぜか?それは、『らくしふ』が持つユニークネスを読み解くとよくわかる。

小久保『らくしふ』はBtoBサービスとしてのプロダクト体系にしているので、雇用者(企業や店舗)さんに導入してもらえるための価値創出を最低ラインとして開発してきました。ですがそんなことは当たり前。さらにもう一歩進んだ価値をもたらすため、それ以上と言っても過言ではないくらいに、ワーカー(被雇用者)さん向けの価値創出を強く意識しています。既存のツールでは課題解決に結びつかなかった大きな理由がここにあります。

最もわかりやすい点が、雇用者ではなく被雇用者目線での利便性です。具体的には、我々のプロダクトはLINEのAPIを活用して、QRコードを読み込むだけで瞬間的にシフト提出ができるようにしています。このようにして、日常のコミュニケーションに溶け込む形でシフトに関するやり取りをしていけるようになっています。

私たちも当初は競合と同様に、スマホアプリを自分たちで開発しようと考えていました。でも実際にシフトに入る人たちの利用シーンを考えると、すでにスマホに入っているLINE上で調整の連絡ができるほうがいいはずですよね。この決断が奏功し、導入いただいている店舗それぞれで定着している手応えを感じます。

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我々はシフト管理屋ではない。
社会の「働く」を再定義する者だ

クロスビットのプロダクトが持つ魅力を、まずはワーカー(エンドユーザー)向けという点から読み解いた。次はBtoBという点からも確認してみよう。ここにも面白い観点が存在している。

繰り返しになるが、そもそもクロスビットが目指しているのは「シフト業務の効率化」ではない。あくまでそこを皮切りとした社会全体での付加価値向上であり、その手段として平均年収の底上げを実現しようとしている。ひとことで言えば、国が躍起になって呼び掛けている「賃上げ」だ。

小久保誰もが知っているとおり、少子高齢化によって日本はこれからますます労働リソースが減少していく時代です。そのため、社会全体の労働平準化・最適化・自動化といった価値創出施策が、より強く求められるようになっていきます。

ですが、先ほどの既存ツールの事例のように、解決策として生み出されても現場にフィットせず、実態としてはなかなか改善が進まない現実があるんです。実は店舗労働で言えば、ワーカーが希望するシフトの70%ほどしか埋まっていません。これだけ人不足が叫ばれている中でも多くの企業で需要にマッチした人材配置には、なっていないんです。私たちのプロダクトが広がれば、これを100%に近づけることができます。

業務効率化だけでなく、プロダクトによるマッチング創出という側面からも、労働力不足という社会課題解決に貢献できる。そうわかってきました。

小久保氏が、具体的な要素として挙げるのは3点。正しい人員配置、利益率の向上、そして平均給与の底上げだ。

『らくしふ』はすでに、これらの価値を発揮するプロダクトとなっている。各店舗の責任者が、LINE上で使用できる『らくしふ』のシフト管理機能を用いて、簡単にスタッフたちのシフト管理業務を行えるわけだ。その結果として、先に挙げた「正しい人員配置」を実現することができる。すると、工数・人件費の削減ができたり、繁忙期に適切な労働力確保ができたりといったかたちで、利益率の向上にもつながる。そうなれば、給与への反映も期待できるという流れだ。

この『らくしふ』が生み出す価値をよりイメージしやすくするために、事例を用いて解説しよう。あるオフィス街に位置する居酒屋A店を例にとってみる。アルバイトが9名、店長が1名在籍するこの店舗は、金曜日が一番忙しく、運営には8名のスタッフが必要だ。店長は20連勤中にも関わらず、次の金曜日に出勤できるアルバイトは7名しかいなかったとする。となると、店長は21連勤を余儀なくされる。とうに肉体的にも精神的にもピークを超えているはずだ……。

こんなとき、近隣のカラオケB店からスタッフを融通し合える仕組みがあれば、店長の連勤をストップさせ、過労によるネガティブリスクを防ぐことができる。さらにいえば、「売上が少ない時間帯は少ない人員、売上が多い時間帯は多い人員」という状態に、チェーン店全店舗でリソース調整することで、「中長期的に正しい人員配置をし続けること」が叶っていくのである。事業成長につながることも、自明だろう。

同一チェーンの中でなら、こうした融通を実現している企業もすでに一部ではある。クロスビットはそれを、社会に広く展開していく。そんなプラットフォームを目指しているのだ。

「ポジショナルワーキング」とは、“日本全体”のシフト管理と、その先に見据える労働創出価値の圧倒的な向上、だ

小久保総務省統計局の労働力調査で、非正規雇用のうちパートとアルバイトは約1,500万人いるとされています。ほかの属性も含めると、私たちの事業が対象にできるのは最大で2,000万人ほどいると推計しています。

そのうち1,000万人ほどが、『らくしふ』で対象になるシフト勤務をしている数だと捉え、今は取り組んでいます。これだけの規模ですから、少しずつ給与が上がるようにしつつ、同時に「不本意な働き方」を防ぎたい。毎月300時間働いているのに給与が10万円台だなんて例もあるようです。そんなの、そもそもの社会構造がおかしいとしか言えません。

そんな環境が続けば、人材の定着はおろか、従業員が育たず、悪循環に陥るだけ。労働災害のリスクがなくなりませんし、新規採用と育成のコストだって膨らんでしまいます。経済成長などと言っている場合ではないんです。

「シフト管理」という業務一つとっても、社会課題がこんなにも複雑に絡み合っている。そこにシンプルなソリューションを持ち込み、これからの事業展開の礎を築いているのがクロスビットなんです。

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「シフト管理」はスタートライン。
次なる“したたか”な一手の「労務管理」

LINEを活用することで「働く個々人の生活」に身近なサービスとなり、同時に企業や事業者の利益率改善にも貢献する。ここまでのクロスビットの事業成長について、その秘密がよくわかってきたのではないだろうか。

「『らくしふ』ねぇ、要はシフト管理SaaSでしょ」「パート、アルバイトを抱える店舗事業者に一定広めたらそれで終わりでは?わざわざそこに熱量持って挑む気にはなれないな」と、そう感じている読者がいたとすれば、「事業家としてのセンスは大丈夫か?」と問いたいところ。

もちろん、クロスビットが描く構想はこんなものではない。これからの事業展開をひも解いてこそ、同社が持つ真の魅力が見えてくる。まずは同社の事業における第二の矢として展開し始めている『らくしふ労務管理』について伺っていこう。

小久保非正規雇用労働者の労務管理は、非常に煩雑です。例えば契約内容について、入社時点の契約では特定の曜日のみの勤務となっていたものの、働くうちに曜日にズレが生じるようなことが頻繁に起こりえます。

しかも、それが未成年であったら、親の同意書も必要になる。他にも、給与支払いをどうするのか、経費支払いをどうするのかといった細かな課題が多く存在するんです。非正規雇用労働者を多く抱える企業にとって、これらすべてを厳密に管理する業務が、非常に重たいものとなっていました。

そこで『らくしふ』の基盤となっている就業候補者データベースの存在が活きるんです。これによって個人の識別が明確になり、データのやり取りも非常にスムーズになります。入社時点からデータベース上で管理できる状態にストレスなく進めるので、企業さんからは好評いただいています。

とにかく煩雑で手間のかかる、シフト管理と労務管理。クロスビットはこれらを一気通貫のシステムで、しかも簡単に始め、続けられるようにしたわけだ。そして実はその裏側に、したたかな事業戦略があることも教えてくれた。

小久保これからさらに大きな企業・事業を目指すにあたり、シフト管理以外にもプロダクトや機能を広げ、エンタープライズに対する価値創出ができるように進化させていきます。

労働力不足という大きな社会課題の解決に向かっているので、国内外に広く影響を及ぼしていけるよう、メインの価値提供先はエンタープライズとなっていく必要があります。ただそうなると、ターゲット数は数千社ほどにとどまります。

なので、各企業に対してさまざまな側面から課題解決ができるよう、マルチプロダクトで攻めていこうと考えています。横に広げるよりも、縦に掘っていきながら事業を拡大していくイメージです。シフト管理にとどまらず、複合的で長期的な価値をクライアントに提供していきたい。その新たな一歩目が労務管理ということです。

また、エンタープライズは多くの場合、シフト管理や労務管理を、すでになんらかのシステムを導入しているケースも多く、置き換わるタイミングがそれぞれ違います。それでもマルチプロダクトであれば、何かしらのプロダクトはすぐに導入を検討してもらえるかもしれない。そんな拡販戦略も視野に入れています。

こうした狙いがあるからこそ、非正規雇用に関わる企業の利益率向上や責任者・担当者の業務効率化に直結するサービスを、次々と展開していくんです。ここで活きるのも、先ほど触れた就業候補者データベースなんです。

複数の新規事業・新規プロダクトの展開についても、すでに具体化している。その構想からさらに、大きな事業ポテンシャルを確認していきたい。

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多様過ぎる事業構想、その理由は?
ダイナミックプライシング、タレントマネジメント、そして……

さあ、ここからが本当におもしろいところだ。SmartHRやアンドパッドといった著名スタートアップがこぞって「プラットフォーム化」を掲げる日本のSaaSビジネストレンド。その中にあってクロスビットも負けず劣らずのポテンシャルを持つと言えよう。それを表した「ポジショナルワーキング」を実現するための事業モデルを読み解く。

事業の連続的な成長戦略としては、業界をスライドさせる横展開が基本軸となる。クロスビットのプロダクト『らくしふ』は、飲食チェーン業界においてPMF・Go To Martketを達成した状態と言え、次は工場や医療・介護事業所をターゲットとした新たなGo To Marketを進め、連続的な成長を実現する計画だ。

そしてそれと並行し、“非連続的な成長”を実現するために描くのが、さまざまな新プロダクトの開発なのである。

小久保一つ、読者のみなさんに問いかけます。あなたが大手居酒屋チェーンでアルバイトをしていたとします。繁華街にあるA店で、水曜日の昼もしくは金曜日の夜のどちらかで働かなくてはいけません。どちらも時給1,000円なのですが、あなたはどちらの時間を選びますか?

多くの人は「水曜の昼」と回答するだろう。同じ時給で同じ時間働くのなら、少しでも余裕を持って働けそうなほうを選ぶはず。これは言うなれば、「同一賃金同一労働」のひずみだ。言い換えるなら、「なぜどちらも時給1,000円なのだろうか?」という問いが生まれるということ。

ここに目をつける。忙しい曜日・時間帯は売上を多く得られるものの、シフト観点で見れば従業員から忌避される。であればそれを、例えば賃金(時給)のダイナミックプライシングによって解決することができるのではないか。あるいは、チップの文化と機能を広げることで、客数の多い時間帯に働くワーカーはより多くの対価をチップによって得られるのではないか。こうした、やや突拍子のないようなアイデアを可能にする基盤が、『らくしふ』にはある。そうして生み出すのが「ポジショナルワーキング」という世界観だ。

SaaSでありながら、雇用者だけでなく、被雇用者に向けて価値を提供してきた。これをさらに大きくしていった先に、「ワーカーが常に、社会価値・経済価値を最大化する場所に配置される=ワーカー一人ひとりの稼ぎが最大化される仕事が見つかり続ける」となるわけだ。

ダイナミックプライシングやチップといった構想はあくまで、ほんの一例だ。すでに挿入画像でも示した通り、採用(求職)やタレントマネジメントといった様々なプロダクト展開のポテンシャルがあるわけだ。

このポテンシャルを持つ同社のシステムを、「ポジショナルワーキングプラットフォーム(労働力を最適化・自動化するための基盤)」と呼ぶことができよう。すでに多くの就業候補者データベースがあり、しかもその内容が日々、実態を細かく捉えられるかたちで更新されているのだ。この基盤は、様々な事業展開を期待させる大きな魅力だと言えそうだ。

小久保もちろん、未来の労務関連市場の状況は見えにくい部分もありますし、大企業が大きな資金をもって参入してくる脅威もあります。

ですが、大企業がメインターゲットにするであろう多店舗展開のお客様は、我々が立ち上げ初期から導入をいただいている顧客属性です。先行優位性を発揮していけるんです。何といってもお客様の現場に対する解像度が違いますから。

確固たる自信を示しながら、冷静に取材陣の問いに答える小久保氏。その堂々たる姿から、この企業が早晩、「新規事業創造カンパニー」となっていくであろう期待を強く抱かされる。

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富裕層が潤うためのビジネスではない。
「経済の底上げ」を、最前線で担う

ここまでに触れたような魅力的な戦略もあり、元ラクスルBizDev・事業部長の河合晃誠氏がCOOとしてジョインするなど、経験豊富なメンバーが集まってきている。

その中にあって、小久保氏は誰よりもクロスビットが取り組む領域に熱い想いを抱いており、それが人を引き付ける要因にもなっている。最後に、その背景に触れよう。

小久保私は都内の下町で生まれ、都立の高校に進学しました。その後大学生となり就活時期を迎え、証券会社や外資コンサル等の内定をいただいたのですが、なんだかしっくり来なかったんです。下町で育ってきた私には、富裕層がさらに潤うためのビジネスに当事者意識を持つことができなかったんだと思います。

就活で感じたその違和感に向き合い、自分にとっての「働く」イメージを高めたいと思いました。これを叶えるべく、大学在学中にインターンを始め、セールスやコンサルタントなど様々な仕事を体験させてもらいました。

その中で一時、カウンセラーとして転職支援をしていた時期がありました。そこで出会う転職相談者の方々から、「収入が半減しても良いので、やりがいを感じられる仕事に携わりたい」「昔からの夢だった◯◯な仕事にチャレンジしたい」というようなお話をたくさん聞く機会がありました。

そしてその方々が転職後、「子供に自慢できる仕事ができて幸せです」と見違えるように生き生きとした人生を歩んでいる様を何度も見てきたんです。

そんな体験をしていくうちに、今まで表面的だった社会が立体的に見えてきました。どうお金が動いて、どう人が動いて、それがどう社会に反映されてという流れに面白みを感じられるようになったころ、「自分は『働く』をテーマにした仕事がしたい」といった意志が芽生えるようになったと感じています。

自身の出自や、インターンを通じた社会との接点からビビッドに課題を感じたのが、店舗や工事現場において時給制で働く人々の、労働環境についてだったと語る小久保氏。こうした原体験を基に、これからも「働く」のテーマにチャレンジを続けていく。

小久保最低賃金が「時給」で語られることからもわかるように、こうした労働環境にいるみなさんの中には、決して十分ではない賃金しか得られていない人も少なくないままです。

社会に提供する価値は、もっともっと大きくしていかなければなりません。「給与の向上」と言いましたが、その条件は「企業側の利益率向上」だけでは成り立ちません。「労働者側のアウトプット向上」すなわちスキル・ノウハウ獲得も生まれる必要がある。この領域だって、対象外ではないんです。

また、AIにすべてが代替されることもおそらくないでしょう。一部の飲食チェーンで配膳ロボットが活躍し始めてはいますが、現場がそれだけでまわることは考えにくい。ChatGPTなどによるイノベーションが起きにくい環境だと思うので、より一層、私たちが泥臭く変革を起こしていかなければという意志を持っています。

関係する事業領域は、とてつもなく広い。それを当たり前のことと考えて、より多様で深いデータを収集し、活用方法を模索していく。アイデア創出力が重要になっていきます。仲間を増やし、新たな挑戦をどんどん進めていきたいです。

今回のインタビューを通じて、読者諸君は小久保氏に対してどのような印象を抱いただろうか。硬派で逞く、強い意志を持ちメンバーを守る意識が強い、そんな印象が、対面では特にひしひしと伝わってきた。そんな「つよさ」が、クロスビットをさらなる高みへ導いていくのだろう、我々FastGrow取材陣はそのように感じた。

描きたい未来をしっかりと見据え、何があっても愚直にひたむきに向き合い続ける。そんなバイタリティ溢れる小久保氏が率いるクロスビットに対して、明るい未来の創造を期待したい。

こちらの記事は2023年03月30日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

いちのせ れい

写真

藤田 慎一郎

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