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連載私がやめた3カ条

ワンルーム暮らしを卒業、しかし豪邸ではなく……──リブセンス村上太一の「やめ3」

インタビュイー
村上 太一

1986年、東京都生まれ。両祖父を経営者に持つ家庭に育ち、小学生時代から将来の夢は一貫して社長になること。
早稲田大学在学中、ビジネスプランコンテスト優勝を機にリブセンスを創業。代表取締役社長に就任。
2011年に東証マザーズ上場(25歳1ヶ月)、翌年10月(25歳11ヶ月)には東証一部に市場変更を果たす(ともに史上最年少記録を更新)。

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起業家や事業家に「やめたこと」を聞き、その裏にあるビジネス哲学を探る連載企画「私がやめた三カ条」。略して「やめ3」。

今回のゲストは、アルバイト求人サイト『マッハバイト(旧ジョブセンス)』や口コミ付き転職サービス『転職会議』などを手掛ける株式会社リブセンスの代表取締役社長、村上太一氏だ。

  • TEXT BY TEPPEI EITO
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村上氏とは?
史上最年少上場を果たした外柔内剛な社長

「昔は自分ひとりでSMAPをやれると思っていました」。

早稲田大学入学直後にビジネスプランコンテストで優勝し、19歳で起業。史上最年少となる25歳で株式上場に導いた。スタートアップ界隈で彼の名前を知らない人はいないだろう。

そんな村上氏は当時、「ひとりでSMAP全員の役割をこなせる」と思うほどに、常に努力し続け全てを仕事に捧げていたと言っても過言ではなかったという。実際、会社や事業のあらゆることを把握し、会社を成長させていた。

しかし、改めて言うまでもなく、会社経営はそう甘くはない。リブセンスにも苦しい時期が訪れた。業績が伸び悩み、株価はストップ安に。幹部層は離職していき、会社全体が負のスパイラルに陥っていたという。

当時を振り返りながら村上氏は、「苦しい時期でしたが、大きく成長できた時期でもありました」と話す。そのとき彼はどんな決断をし、何をやめたのだろうか。

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モグラ叩き的な課題解決をやめた

前述の通り、彼は創業からしばらくの間、会社のあらゆる事象を把握し、会社を成長させてきた。

しかし、メンバーが増え、事業が増えていく過程で、従来うまくいっていたアプローチのままでは限界があると感じたという。会社の業績が芳しくなかったのもそういった時期だ。

そんな状況を変えたのは、一頭のポニーだった。

村上「会社というのはサラブレッドではなく、マッチョなポニーの集まりであるべきだ」という話を社外役員から言われたことがありました。当時私はそれを聞いて、組織が「マッチョなポニーの集まりであるべき」という主張には納得しましたが、私自身は「サラブレッド」に近いと勘違いしていたかもしれません。

しかし、旅先で偶然、本物のポニーを見たんです。そうしたら、ふと「あれ?今まで自分はサラブレッドだと思っていたけど、こちらの方が近いかも?」と感じたんです。会社が厳しい状況で、精神的にも疲れていたというのもあったと思いますが、自分は一人でなんでもできる人間ではない、自身ですべてをコントロールできるような力はないかもしれない、と思ったんです。

実際に影響を受けたのはポニーだけではありません(笑)。レイ・ダリオさんの『PRINCIPLES』や三枝さんの『V字回復の経営』、小森さんの『企業変革の実務』といった書籍を読み、自身の役割についての考えを改めさせられました。

目の前の課題を一人で解決しようとするのではなく、その裏にあるメカニズムやルールを変えることに尽力すべきだと。

以降、社内の認識ギャップをなくすために情報をオープンにしたり、会議体の整備や決定権の明確化をしたりと、会社のOS(オペレーティングシステム)アップデートをしました。その会議の目的は情報共有なのか、決議なのか。その問題の決定権と責任は誰にあるのか……。

Netflixの『NO RULES』にもあったが、適切な権限整備ができていれば、社長の意思決定は少なくなる。実際、従来から続いていた会議で村上氏の発言量は減り、より重要で大きな意思決定のために時間と思考を使えるようになったという。

こうした変化は、メンバーのストレスを軽減し、責任感を伴うオーナーシップをもたらした。

村上氏も念を押していたが、こうした「やめたこと」を一般化して肯定するわけではない。だが間違いなく言えることは、会社の成長に合わせて社長の役割も変化させていくべきだということだろう。

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口出しするのをやめた。ある一つの事業を除いて

会社の業績が良くないと社長は頑張らなければと焦る。自然と指示命令が増えてくる。すると、任されている側はオーナーシップとやる気と成長の機会を失い、さらに結果が出なくなる。だからより社長が頑張る……。会社経営をしていく中で、よく陥ってしまう負のサイクル。

以前の彼は、事業の全てを把握しようとし、些細なことにも口を出していた。しかし、それがまさに会社に負のサイクルをもたらしていたわけだ。

そこで彼は意識的に“見ない”ように心がけた。見ると意見を言いたくなってしまうので、チャットルームもミュートに設定した。役割や責任の明確化、適切な目標を設定した上で、何か問題が起きればアラートが上がってくる仕組みを作り、自分から情報を取りに行く必要性もなくした。

しかし、それ以前まで全ての事業に責任を持って関わりたいと考えるあまり、過干渉になっていた村上氏としては、口を出したい欲求を抑えるのは容易ではない。そこで彼がとった方法は、「ある一つの事業だけは見る」というやり方だ。

村上人間には、一日のなかで一定量以上『脳を使いたい』という欲やエネルギーのようなものがあると思うんです。これを消費しないと、楽しくないし刺激的ではない。だから一つの事業だけはそうしたエネルギーの消費先として深く関与することにしています。

私のような事業をつくることが好きなタイプの経営者を「起業家型経営者」と呼んでいます。そういう人たちは、「事業をつくること」が全てのエネルギーの根源であり、消費先でもあるので、なくなると死んじゃうんです(笑)。

著名な経営者が社員から「うちの社長は興味のある事業が変わると、他の事業には一切関わらなくなる」と言われるのと近いのかもしれません。任せる仕組みをつくった上で、全ての事業にフルコミットしてお節介を焼くのではなく、集中すべきところに徹底的に集中することが大切なのかなと思うんですよね。

会社経営の方法は千差万別だが、会社がある程度の規模に成長してくると、社長1人で全ての事業の指揮を執るのは難しくなる。本連載ではさまざまな経営者に話を聞いてきたが、そうした状況においてよく聞くのは、権限移譲を進めて自らは採用などのミッションにフォーカスするというやり方だ。

村上氏の、起業家としての自分に刺激を与えるために一事業に絞ってコミットメントするというやり方は、なんとも人間らしく感じる。

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ワンルームの部屋に住むのをやめた

史上最年少で上場を果たした村上氏。当時さまざまなメディアに取り上げられたが、特に注目されたのは当時のITベンチャー社長のイメージとは程遠いその暮らしぶり。彼が住んでいたのは質素な8畳のワンルームだったのだ。

しかし、現在はワンルームを出て、少しゆとりのある住まいに移った。

村上当時はただがむしゃらに働く場所であり、寝るための場所としてワンルームの部屋に住んでいました。仕事か睡眠しかしていなかったので、それで十分だし最適だと思っていたんです。

しかし、自身の仕事内容が没頭してタスクを消化するようなものから、自ら課題を設定したり、新しい事業を考えたりといったクリエイティビティが必要なものに変わってくるにつれて、最適な環境も変えるべきなのではないかと考えるようになったんです。

例えば、天井の高さとクリエイティビティには相関性があると言われています。散歩しているときに良いアイデアが浮かんだりするのも天井がないという環境が影響しているんだと思います。

もっとクリエイティビティが刺激される環境に身を置く必要があると思い、引っ越しすることにしました。

クリエイティブ型の仕事に最適な環境を整備すべく、彼は現在の部屋に引っ越し、リフォームで天井を高くした。他にも、無駄な脳のリソースを使わないため、部屋にあるモノのロゴにマスキングテープを貼ったり、歩きまわりながら考えるためのスペースを設けたり、浮かんだアイデアを書くためのホワイトボードを設置したり……。

ワンルームの部屋を出たと聞くと、「ついに社長らしい優雅な暮らしに手を伸ばしたか」と思ってしまうが、そうではない。彼は今でも仕事に重きを置いて生活していた。当時の仕事ではワンルームが必要十分で、今の仕事で必要だったのは天井が高く空間にゆとりのある部屋だったというだけだ。

正直なところ、取材をしていて「情熱に燃える人間」だという印象は感じなかった。物腰が柔らかくフレンドリーな印象だ。しかし、考えていることや実践していることは常に仕事に直結していて、誰よりも仕事を愛している。

何かをやめるということは、何かを始めるということでもある。村上氏の始めたことには、そうした仕事への愛が込められているように感じられた。

こちらの記事は2022年12月13日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

栄藤 徹平

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