連載私がやめた3カ条

事業成長のために、いらないものはすべて捨ててきた。──FCE代表・石川 淳悦の「やめ3」

インタビュイー
石川 淳悦
  • 株式会社FCE 代表取締役社長 

1985年 茨城県立水戸第一高等学校卒業。3年間のフリーターを経て茨城県内の建設会社に務めたのち、1997年に上京し,ベンチャー・リンクへ入社。中古車買取り専門店ガリバーや炭火焼肉酒家牛角、しゃぶしゃぶ温野菜チェーンといった事業の立ち上げや改善を担う。その後、新事業を立ち上げる執行役員兼事業開発本部長として「7つの習慣®」子ども向けプログラムの独占ライセンス権獲得交渉にあたり、2005年には常務執行役員兼人財開発本部長に就任。新卒のエントリー数を4,700人から2年で約50,000人に押し上げ。2009年からはFCEエデュケーション代表取締役会長に就任。2017年から現職。

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起業家や事業家に「やめたこと」を聞き、その裏にあるビジネス哲学を探る連載企画「私がやめた三カ条」。略して「やめ3」。

今回のゲストは、ロボティック・プロセス・オートメーションによるDX推進、企業・学習塾への人財育成事業、世界的ベストセラー「7つの習慣」などの出版を手掛ける株式会社FCE代表取締役・石川 淳悦氏だ。

  • TEXT BY HOTARU METSUGI
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高卒&フリーターから、上場企業の社長に。
圧倒的成長を体現──石川氏とは?

「必要ないと思ったことは即座にやめた。そして、私の20代と30代はまさに“別人”になったんです」

石川氏のキャリアや経営スタイルは、これらの言葉が決して大げさではないことを証明している。

同社は、『「人」×「Tech」で人的資本の最大化に貢献する』をミッションに、事務職がパソコン業務を簡単に自動化できるDXシステム『ロボパットDX』や、動画で学べるオンライン社員教育システム『Smart Boarding』 を展開。

さらには、全世界4,000万部の伝説のベストセラー『7つの習慣』の出版まで、幅広く手掛けてきた。その後、2022年10月に東証スタンダード市場に上場し、上場前の2020年9月期から連結売上高を3年連続で成長させている。

上場企業の代表を担う石川氏は、華々しい経歴の持ち主かと思いきや、実はそうでもない。キャリアを紐解いてみると、20代のころは意外なキャリアを送ってきたことがわかった。

1985年に地元・茨城県水戸市の高等学校を卒業した石川氏は、その後3年間のフリーター期間を経て、建設会社に正社員として入社。

「20代はほとんど働いてこなかった」と人生を振り返る。そんな石川氏を大きく変えるきっかけとなったのが、株式会社ベンチャー・リンクへの転職だった。

転職をきっかけに、石川氏は「人生を変えよう」と考えたという。その決意は実を結び、古車買取り専門店『ガリバー』のチーフコンサルタントとして立上げ支援し、業績改善に貢献。

さらには、 株式会社レインズインターナショナルに常務取締役として出向し、『牛角』や『しゃぶしゃぶ温野菜』といったフランチャイズ事業に携わった。

石川つい1年前までは、田舎の建設会社のダメな営業マンだった私が、誰もが知っているような企業や飲食店の業績改善や立ち上げに携わることができた。

今振り返ると、転職1年目の行動が、この結果を生み出す大きなカギとなりました。

そこで転職1年目にやめたことを聞いてみると、「酒もタバコもやめた」「完璧主義をやめた」「プロセスをかっこよく見せるのをやめた」「自分のアイデアに固執するのをやめた」「自分の考えに固執するをやめた」「自分の欲望に正直に生きるのをやめた」と止めどなく語られることに驚いた。

石川氏は転職1年目の圧倒的な成長のために、一体何をしたのか。そもそも、なぜそうも「やめること」に躊躇がないのか。その理由を、「実際にやめたこと」を通じて、探っていきたい。

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「ワーク・ライフ・バランス」をやめた

東京商工会議所が2024年度の新入社員1,021人を対象に行った、社会人生活や仕事に対する意識調査の結果によると、新入社員が「就職先の会社を決める際に重視したこと」の項目において、約4割が「働き方改革、ワーク・ライフ・バランス(年休取得状況、時間外労働の状況など)」を重視すると回答している。

2019年から始まった「働き方改革」による長時間労働の是正や柔軟な働き方の推進を受け、日本の若者の「ワーク・ライフ・バランス」への意識はさらに高まりを見せてきた。

そんなワーク・ライフ・バランス重視の働き方に、石川氏は警鐘を鳴らす。

石川昨今のワーク・ライフ・バランス信仰には、危機感を覚えています。仕事とプライベートを完全に切り分け、日々の自己研鑽を悪者にしてしまえば、ビジネスにおいて活躍できる日は訪れません。

そんな言葉の背景には、まさに同氏自身が圧倒的成長を体現した転職1年目の経験があった。

石川私は20代の時点で、すでに遅れを取っていました。ですから、転職したときに3年で10年分の成長をしようと心に決めたんです。

3年で10年分成長するには、単純に人の約3倍働けばいいわけです。たとえば、通常の会社員の働き方だと、労働時間は1日8時間×年間250日=2000時間ですよね。

それなら私は、1日19時間、休みなく働こうと考えたんです。1日19時間×年間360日=6840時間働けば、目標は達成できる。

それだけのことだと考え、とにかく必死に仕事に喰らいつきました。

その決意は固く、転職1年目は朝9時から明け方の4時まで働いたという。土日はもちろんのこと、夏休みも正月休みも当時の石川氏には存在しなかった。

そんな驚異的な努力を経て、当初目標にしていた10年分の成長を超えて、15年分以上の成長ができたと自負しているという。

実際に、石川氏はベンチャー・リンク入社1年半で、株式会社レインズインターナショナルに出向し、常務取締役を担い、当時立ち上げたばかりだった焼肉店『牛角』を1,000店舗を超える大型チェーンへと成長させた。

石川氏の努力とその成果は明白だが、とはいえ誰もがこのような働き方をできるわけではない。

さまざまな性質を持った社員をマネジメントしている石川氏は、その働き方に対してどのように向き合っているのだろうか。

石川社員には、ワーク・ライフ・バランスではなく『ワーク・ライフ・インテグレーション』を意識してほしいと伝えています。

仕事で得た知見がプライベートの充実に役立つこともありますし、その逆もある。だからこそ、仕事とプライベートを切り分けるのではなく、双方が相乗する形を目指す必要があると考えているんです。

私たちの生活は、日用品一つとっても、すべてが誰かの仕事によってできている。だからこそ、プライベートでも仕事の結果に繋がる視点を持つことが必要だ。そして、さらなる成長を求めるのであれば、人よりも仕事に時間をかける。

そんなシンプルでありながら、仕事の真理ともいえる姿勢が、石川氏の根底に流れているのだとわかる。

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「自己に固執する」のをやめた

転職によって人生を変えた石川氏だからこそ、同社に転職してきた社員に伝えつづけていることがある。

それは、「OSを変えること」。石川氏によると、ビジネスパーソンにおけるOSとは、これまでのキャリアで培ってきた「常識」によって形作られているのだという。

大企業からベンチャーに転職した社員ほど、このOSの組み換えが難しいのだと石川氏は語った。

石川新しい環境で活躍してもらうには、最初の半年が重要だと考えています。そのためには、これまで培ってきた「自己」に固執してはいけない。

新たな環境で、新たな常識を身につけ、新たな自分として適応していってほしいんです。

そう語る石川氏自身、かつて転職した際には「最も早く環境に適応するために、いらないものはすべて捨てよう」と考えたという。その背景には、「OSを変える」以外にも理由があった。

石川僕は仕事においてアイデアを出すことを得意としていました。だから、転職した当初は独自のアイデアを誰よりも早く出すことばかりにこだわっていたんです。

でも、ベンチャー・リンクの社員と関わるなかで、自分よりはるかに発想力に優れている人がたくさんいることに気が付きました。

自分が凡人であることを自覚できたからこそ、一人でアイデアを出すことに固執せず、仲間と一緒にアイデアを出し合ったり、ブラッシュアップすることを考えたほうが、絶対に成果が出るのだとわかったんですよ」

「成果を出す」という目的意識があったからこそ、石川氏はそれまで培ってきた「自己」に固執するのをやめ、本当に価値のある結果を出すことに成功したのだ。

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「グループ会社経営」をやめた

「環境に適応するために、いらないものはさっさと捨てる」

真顔でこう語る石川氏の行動指針は、経営判断にもあらわれている。同社は2024年1月に株式会社FCE Holdingsから「株式会社FCE」に社名を変更した。グループ会社経営をやめ、5社存在していた子会社の吸収合併を進める方向に舵をきったのだ。

具体的には、「グループ一体の経営体制とすることで、更なる成長戦略推進と経営効率化を図る」と発表していた。

上場後に、ホールディングス化を進めることの多い日本企業だが、石川氏はなぜ上場から約2年が経ったこのタイミングに、グループ会社経営をやめるというのだろうか。

石川弊社の過去の歴史において、グループ会社経営が必要だったフェーズもあります。しかし、これから企業としてさらに成長していくことを考えると、グループ会社経営はスピード感を持つうえでは、足かせになるのではないかと考えました。

同社は中期経営計画(この資料などで公表)において、今後3年間で、売上高と経常利益の着実な成長を目指すとしている。売上高は毎年10%以上の成長を、さらに経常利益は毎年25%以上の成長を目指している。

また、ストック型ビジネスの拡大により、利益率も向上させるという目標もある。2025年9月期には、売上高49億円以上、経常利益8.8億円以上、経常利益率18%という具体的な数値目標を設定した。

この目標を達成するためには、主力事業であるDX推進事業と教育研修事業の両分野で、より大きなシナジーを生み出していく必要があると語る石川氏。

今後さらに、流動的で柔軟な組織と、スピーディーな経営資源の配分、そして事業施策の展開が不可欠なのだ。

「チャレンジあふれる未来をつくる」というパーパスを叶えるために、これまでの手段が足かせとなるなら、すぐに変革する。それを実現できるのは、頭の中に確固とした戦略があるからだろう。

ここまで石川氏のキャリアや思考を見てみると、その圧倒的は努力量は、もはや現実味を感じないほどだ。

しかし、そこの舞台裏にあったのは単なる根性論や精神論ではなく、自身の弱さを見つめ、成果を出すために最善の努力を重ねる切実さだった。

石川氏の考えは、現代社会人にとって酷なものとして感じられるかもしれない。しかし、人が変化するためにはそれだけの覚悟が必要なのかもしれない。

逆に言えば、覚悟を決めれば人は変われる、何倍も成長できる。石川氏の力強い言葉からはそんなエールを感じた。常に覚悟とともにある同氏は、これから何をやめ、何を掴み取っていくのだろうか。

こちらの記事は2024年05月27日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

目次 ほたる

2000年生まれ、東京出身。家事代行業、起業、スタートアップ企業の経理事務、ライターアシスタントなどを経て、2019年にフリーランスとして独立。現在はライターとして取材やエッセイの執筆を手掛けるほか、ベンチャー企業の広報部に参画している。主な執筆ジャンルは、ビジネス・生き方・社会課題など。個人で保護猫活動を行っており、自宅では保護猫4匹と同居中。

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