連載私がやめた3カ条

20超の事業失敗、自宅玄関で倒れ込む毎日、そして……──Wonder Camel代表・和田 淳史の「やめ3」

インタビュイー
和田 淳史

上智大学経済学部経済学科卒。アビームコンサルティングにて業務改革、システム導入など国内外それぞれで幅広いプロジェクトを経験。ボストンコンサルティンググループではナショナルクライアントを相手に全社的な戦略策定に携わる。その傍ら、ベンチャー企業支援の経験も積んだ。2021年、株式会社Wonder Camel創業。

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起業家や事業家に「やめたこと」を聞き、その裏にあるビジネス哲学を探る連載企画「私がやめた三カ条」。略して「やめ3」。

今回のゲストは、SAP案件を中心に企業とフリーコンサルタントを直接つなぐマッチングプラットフォーム『quickflow』の運営や、経営コンサルティング事業を行う株式会社Wonder Camel代表取締役社長・和田 淳史氏だ。

  • TEXT BY HOTARU METSUGI
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「挑戦する誰かの役に立ちたい」コンサルティング・ファームで腕を磨いた実力派経営者──和田氏とは?

フリーコンサルタント向けに、即払いを強みとした案件マッチングプラットフォーム『quickflow』を運営するWonder Camel。

フリーランスとして独立して間もないコンサルタントのキャッシュフローを改善するべく、報酬支払サイトを最短1日に短縮し、安定したキャッシュフローを実現できるような設計にこだわりを持ったサービスだ。

2022年3月のローンチ後、わずか8カ月で流通総額5億円を達成。新規事業の収益化を早期から達成したスタートアップとして、同社は業界から大きな注目を集めた。

そんなWonder Camelの創業代表である和田氏は、複数のコンサルティングファームでSAPシステム導入やその要件定義、企業の業務改革などの経験を積んだ実力派の経営者である。

和田氏曰く、誰かの課題から事業を生み出すために、「何をするか決めない」まま創業されたというWonder Camelは、「人々が挑戦しやすい社会をつくる」というミッションを軸に、現在は経営コンサルティング事業やヘルスケアベンチャー支援事業など、業界を横断した複数の事業を展開している。

「挑戦する誰かの役に立ちたい」という熱い気持ちを胸に、新規事業を軌道に乗せ、躍進し続ける彼だが、創業当初はそんなミッションが定まらなかった時期もあったという。

和田氏が『quickflow』を生み出すまでの道のりには、どのような苦悩があったのだろうか。彼の躍進の背景には、多くのビジネスパーソンに共感と勇気を与える経験があった。順を追って紐解いていきたい。

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自らの軸を揺るがす「人と比べる」思考をやめた

創業前はボストンコンサルティンググループ(BCG)でやりがいのある仕事に打ち込んでいた和田氏。

しかし、そんな彼も働き続けるなかで、組織から一度抜け出し、自分の力で形にしたもので勝負したいという気持ちが高まっていたという。

JSOLの社内起業家として複数の新規事業立ち上げを行っていたWonder Camelの共同創業者・吉村研人氏に起業意欲を後押しされ、和田氏は独立を決意した。

しかし、「何も決めず」に立ち上げた会社で、自身の想いを実現できる事業アイデアを模索する日々は、決して平坦な道ではなかった。

和田コンサルタントとしてそれなりの実績はあったため、フリーランスとしてある程度の身銭を稼げる保証はありました。

ただ、事業アイデアをひたすら探し続けるなかで、他の起業家に負けたくないという気持ちばかりが先行している自分がいました。

当時、僕と同時期に起業していたキャディ株式会社の加藤勇志郎さんや、株式会社プログリットの岡田祥吾さんなど、コンサル出身ですでに結果を出していた起業家はたくさんいました。

そんな起業家に負けないよう、誰よりも大きくなるためには、どんな事業をやればいいのかという視点でサービスをつくろうとばかりしていたんですよね。

2021年1月に創業し、そこから約11ヶ月の間、20個以上の事業アイデアを検証したものの、結果が出たものはなかったという。そんな苦悩の原因を和田氏はこう振り返る。

和田ニーズがあるだろうと考えてつくったものは、ことごとく上手くいきませんでした。今考えると、お金を払ってまで解決したいと思う課題にアプローチできていなかったんだと思います。

ビジネスアイデアが固まる前に、すでに優秀な人材を仲間に引き入れていた和田氏は、事業を模索しながらも、自身が汗をかいて進めるコンサルタント事業の収入で社員へ給料を払わなければならないという切迫した状況にあった。

だからこそ、そんな袋小路から脱するべく、まずは他の起業家と自分を比べるのをやめ、初心に立ち返って、本当に課題を抱えている人々の助けになる事業を考えることにシフトしたという。そんな和田氏のマインドセットが、後にWonder Camelの活路を開くきっかけになった。

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仲間からの協力を得るため、「1人で抱え込む」のをやめた

フリーランスとして働きながら売上を立てつつ、事業アイデアを模索し続けた和田氏だったが、いくら優秀な彼でも、そんな二重生活には身体的な限界があった。

和田当時は、週3日の稼働が必要な案件を常に5〜6本掛け持ちしていて、土日はもちろんのこと、平日は毎日朝から夜中まで働くのが当たり前の生活を送っていました。

そのうえ、フリーコンサルタントの仕事が終われば、社員の採用面談や新規事業の準備が待っています。

すべての仕事と用事を終えて帰宅したあとは、玄関で倒れこんで、2時間くらいひたすら天井を見上げていることが多々ありました。

そんな衝撃的なエピソードを笑いながら語る和田氏。創業当初の彼の多忙さ、聞くだけで想像するに余りある。

「社員にお金の心配だけはかけたくない」という責任感から、身体的にも精神的にも追い込まれた状況を1人で抱えていたが、このままでは今後の事業に支障が出ると危機感を覚え、周りに頼ろうと考えるようになった。

和田メンバーに自分の状況を知らせるために、「最近の和田」という僕の体調や状態を記載したファイルを共有することにしたんです。

すると、そのファイルを読んだメンバーが僕を心配して、僕の仕事を巻き取ってくれるようになりました。おかげで2週間の休みを取ることができ、徐々に回復していったんですよ。

自己開示ファイルの内容(提供:和田氏)

和田氏の自己開示が功を奏したのか、社員のなかからも「最近の〇〇」というように自身の近況を伝えるためのファイルを用意するメンバーが現れたという。

社員の協力によって改善されたとはいえ、側から見ればあまりに激動の日々だが、起業したことへの後悔はなかったのだろうか?

和田もちろん大変な時期ではありましたが、当時の経験があったからこそ、フリーランスとして働きながら起業を志す苦労を身に染みて痛感することができました。

特に、フリーランスとして得た収入を、早く事業に投資したいと考えたときに、従来のフリーランス向けマッチングサービスは、稼働の締め日から報酬の受け取りまでの期間があまりに長いという課題に気がついたんです。

長く続いた和田氏の苦悩は、新たな事業アイデアを花開かせるきっかけとなった。

自分と同じ熱意を持って仕事に打ち込むフリーランスの役に立ちたいという想いから生み出されたのが、コンサルタントへの報酬支払サイトを最短1日に短縮するというこれまでにない特色を持ったマッチングプラットフォーム『quickflow』だったというわけだ。

人と比べることをやめ、周りに頼ることができるという強さを持った和田氏だからこそ、「挑戦する誰かの役に立ちたい」という初心に立ち返ることができたのだと思うと、彼の仕事への誠実さに胸が熱くなる。

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社員が「自分と同じ目線で考える」と思うのをやめた

『quickflow』を立ち上げ、現在も順調に業績を伸ばし続けているWonder Camel。事業成長に伴って組織も拡大し、社員が増えてきたからこその課題もある。

和田僕自身がコンサルティングファームで働いていたからか、人を見る目が厳しくなってしまうことには課題を感じていました。

自分の能力を自分自身で高めたり、抱えている悩みを上司に打診して、自発的に解決することが当たり前の環境で働いてきたからこそ、そうでないメンバーへ自分の常識を強く押し付けてしまっていた時期があったんです。

コンサルティングファームという徹底的に実力主義の現場で戦ってきた和田氏にとって、まったく違ったバックグラウンドで生きてきたメンバーの働き方に、もどかしさを感じることが多かったという。

しかし、当時のマネジメントでは人は着いてこないということも、和田氏は実感していた。そんな彼の考えを変えるきっかけになったのは、あるメンバーの言葉だった。

和田メンバーの1人から「このままだと、和田さんは裸の王様になりますよ」と面と向かって言ってもらったんです。それが、今でも心に残っていて。

組織を大きくするうえで、自分の考えを強要するだけではうまくいかない。僕自身がもう一段階上のリーダーにならなければならないんだと、目覚めさせてくれた一言でした。

メンバーの言葉を真摯に受け止めた和田氏は、社員が口に出しにくい不満や悩みを吸い上げるために、1on1の実施をスタートした。さらに、課題を感じたときはいつでも和田氏に相談できる体制をつくったという。

すると、今まで拾いきれなかった課題を吸い上げることができるようになり、少しずつメンバーとの信頼関係が強固になっていることを実感しているのだそうだ。

そんな和田氏は現在、これまで5年間で築き上げてきた10億円の売上を、次は10倍まで早期に引き上げ、上場への道を突き進むことを目標にしている。

ひたむきに事業や社員に向き合い続け、自らを顧みて変化することを恐れない彼の姿は、挑戦するビジネスパーソンの希望の光となるはずだ。

「挑戦する誰かの役に立ちたい」という彼のビジョンが、今後どのように世界を彩っていくのだろうか。

こちらの記事は2024年01月19日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

目次 ほたる

2000年生まれ、東京出身。家事代行業、起業、スタートアップ企業の経理事務、ライターアシスタントなどを経て、2019年にフリーランスとして独立。現在はライターとして取材やエッセイの執筆を手掛けるほか、ベンチャー企業の広報部に参画している。主な執筆ジャンルは、ビジネス・生き方・社会課題など。個人で保護猫活動を行っており、自宅では保護猫4匹と同居中。

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