連載私がやめた3カ条

挑戦とは、他力本願とは無縁の世界にある──スマートシェア・西山統の「やめ3」

インタビュイー
西山 統
  • スマートシェア株式会社 代表取締役 

「好きなことを好きなようにやりたい」をポリシーに、大学時代から塾経営で月収50万円を得る。卒業後は大手製薬メーカー入社。7年間サラリーマン経験を積み、1993年に独立。その後通信分野に興味を持ち再就職。ダイアルアップ(1回ずつ接続し通信料金が都度発生する形態)からインターネットが常時接続に変わるタイミングで、マンションへのインターネットサービスを提供する株式会社オーエフを設立し、2000年にサービス開始。日本で一番最初の頃に導入できたことで、様々な実績も出来、その中でスマートシェア株式会社を設立。 実家は愛媛の和菓子屋。パン職人だった一面も持つ。

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起業家や事業家に「やめたこと」を聞き、その裏にあるビジネス哲学を探る連載企画「私がやめた三カ条」。略して「やめ3」。

今回のゲストは、SNSマーケティングツール『OWNLY』を提供する企業、スマートシェア株式会社の代表取締役・西山 統氏だ。

  • TEXT BY HOTARU METSUGI
  • EDIT BY TAKUYA OHAMA
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西山氏とは──SHIFTへの売却実績も持つビジネス玄人であり、人情とバイタリティに溢れた日本男児

「私の人生は、やめることからスタートしたんです」。

西山氏のこの言葉は、彼の人生とキャリアの中で重要な役割を果たしている。スマートシェア株式会社の代表である彼は、「心地よいコミュニケーションの実現」を企業理念に掲げ、SNSマーケティングツール『OWNLY』や、Instagram分析ツール『InsightSuite』を運営している。

西山氏は人生を通じて幾度もの挫折を味わい、その都度「やめる」決断を下し、新たな道を歩んできた。彼の人生のポリシーは「好きなことを好きなようにやること」であり、この考え方は彼の青年期からのパワフルな性格を物語っている。

大学時代に塾経営を始め、平均的な会社員以上の収入を得ていた彼は、独立志向が強かった。しかし、大学卒業後は一度まわりの意見を受け入れ、大手薬品メーカーに就職し、8年間勤務した。その後、彼はサラリーマン生活に疑問を抱き、親戚の家業のよしみでパン職人を目指すも、その道も断念。そこから通信業界への関心が彼を再就職に導き、結果的に再び独立の道を歩むこととなった。

そこからは、インターネットサービスを提供する株式会社オーエフの設立、輸入業の展開、SES事業の買収と、西山氏のビジネスは多岐に渡る。2016年にはSHIFTの買収第一号案件として企業売却も経験しながら、現在はスマートシェアとして、SNSを用いた企業と消費者のコミュニケーションプラットフォームを運営している。

西山氏のキャリアは挑戦と変化に満ちており、彼の決断がその都度新たな機会をもたらしてきたことが窺える。そのバイタリティとパワーの源泉を探ることで、彼の成功の秘密が明らかになるかもしれない。この魅力的な経歴を持つ西山氏の人生は、多くのビジネスパーソンにとって学びと刺激を提供するはずである。

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大組織ならではの慣習が合わず、「サラリーマン」をやめた

大学卒業後は就職という道を選んだ西山氏は、やがて「サラリーマンとしての生活はボタンのかけ違いだった」と振り返る。大手製薬メーカー子会社の化粧品会社では400人規模の組織をリードし、組織内で重要なポジションを確立していた彼だったが、大組織ならではの構造に違和感を感じていた。

西山組織内での決済権限の持ち方に違和感を感じていたんです。

上位の部長に稟議を通すためには、下位の課長が稟議書の意味を理解してくれなければ進まない。私がどれだけ提案を作り込んで打診しても、その意味をスピーディにキャッチアップしてもらうことができず、もどかしく感じるケースが多々ありました。

大組織において事業をスピーディに進めるためには、マネジメント層が事業に対する理解力を深めることがキーとなると感じていましたね…。

企業のスピード感に肌が合わず、フラストレーションを感じながらも、大組織での経験から学び得たこともあると西山氏は語る。

西山もちろん得たものもたくさんあります。大組織での勤務は、人事制度や社員教育、専門知識の研修など、社会人としての基盤を築くのに非常に有益でした。

しかし、最先端のビジネスに身を投じる実業家との出会いが、彼の人生を変えるきっかけとなった。友人に誘われた食事会で『ツタヤオンライン』を作った藤本 真佐氏と出会ったのだ。その当時はちょうど、藤本氏がクリエイター育成スクール「デジタルハリウッド」を立ち上げたばかりの時期である。

西山藤本氏のビジネスに対するスピード感は、私がこれまで経験したことがないものでした。そんな彼の存在は、組織に縛られない自由なビジネスの世界に目を開かせてくれたんです。

新しく面白いビジネスに人生を投じる実業家の姿を目の当たりにして、劇的に変化する時代を前に、サラリーマンでいては面白い人生は描けない。そう気がついた西山氏は、1度目の独立を決意することとなる。

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事業としてはスケールし難い、「パン職人」をやめた

1993年、会社を辞めた西山氏が目指したのは、パン職人だった。大規模なパン屋を経営する親戚の影響で、パン作りを学ぶためにパン屋で修行を積むことにしたのだ。

しかし、ここでも西山氏は壁にぶつかった。どんなに修行を重ねても、パン屋で1日に作れるパンの数は1,000個が限界だった。たとえ、150円のパンを1,000個作ったとしても、15万円の売上にしかならないことに気がついた彼は、「パン屋の事業をスケールさせるには、ブランド化し、大量生産するしかない」と気づく。しかし、そのすべてを1人で実現するのは難しい。

そして、もう1つ気がついたのは、西山氏自身が「スペシャリスト」ではなく「ジェネラリスト」に向いているということだった。1つの領域で専門的な知識を付けるのではなく、自らで事業を開拓し、細かい専門領域は人に任せるスタイルが彼には合っていた。

パン屋は自分の主戦場ではないと気が付き、パン職人の道を諦めた西山氏は、また新たな挑戦をすることを決め、通信会社に再就職する。サラリーマンをしながら通信事業について学び、再起の機会を伺っていた彼は、マンションへのインターネットサービスを提供する事業を思いつき、2度目の独立をすることになる。

2000年に株式会社オーエフを設立しサービスを開始すると、当時はまだ珍しかったマンション向けのインターネット事業は注目を浴び、右肩上がりに契約件数を伸ばしていった。

会社のグロースに向けて力を尽くしていた6年間、西山氏は文字通り365日毎日働く日々を過ごす。取り憑かれたように次々と新たな挑戦をする西山氏だが、そこに不安やためらいは感じないのだろうか?

西山そもそも自分の力を最大限に発揮して、やるべきことをやりきれば、挑戦するのは怖いことではありません。

多くの人は、誰かのサポートをするとか協力者になるとか、誰かがチャンスを持ってきてくれるかもしれないとか、そんな他力本願なことを考えている。だから、意思が弱く、すぐに挑戦することをやめてしまうんです。

能力や知識なんて関係ありません。大切なのは、やる気と根性です。

何に対しても全力で向き合ってきた西山氏にとって、やり続ける意思さえあれば、怖いものはないというわけだ。そして、挑戦を続けるなかで、西山氏が大切にしていた信念は「約束を守る」ことだった。1度交わした約束は必ず守り、嘘をつかずに生きてきたことで、彼への信頼は積み重なってきた。

西山現在、経営しているスマートシェアでも、以前増資を検討したことがあったんです。1億円を目指して仲間たちに投資を募ったところ、5億円ものお金が集まりました。信念を曲げず、想いを持って動けば、おのずと必要なリソースは集まってくるものなんですよ。

誠実な姿勢と熱意を貫けば、目に見える結果が現れるということを、彼は身をもって知っていたのだった。

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移動時間すら勿体無い。
オフィスへの「通勤」をやめた

西山氏は6年間、365日休むことなく働き続けたが、この間、効率的な時間の使い方について深く考えていたという。

西山事業に没頭できるように、長く住んでいた横浜を離れ、東京に移住したんです。無駄な通勤時間を減らし、もっと仕事に集中できる時間をつくったんです。結果、時間だけでなく人脈も広がり、事業もより大きく成長させることができました。

まさしく「没頭」という言葉が相応しい西山氏の生き様。そんな彼は現在、スマートシェアでSNSを起点にしたコミュニケーションプラットフォームを構築し、主に大手メーカー向けに、自社の消費者とのコミュニケーションを活性化させる仕組みづくりを提供している。

これまでの彼の実績を見れば、このスマートシェアも大きく事業拡大していくものと思えるが、西山氏が目指すビジョンとは何だろうか。

西山“Smart Smile Share”、心地よいコミュニケーションを実現することです。

スマートシェアは、「世界で通用するデジタルマーケティング力が日本を復活させる」という理念のもと、弊社の主力SNSプラットフォームである『OWNLY』をベースにX(旧Twitter)、LINE、TikTok、YouTube、などのSNS拡散ツールを駆使し、企業の認知拡大から販売促進に向けたマーケティング施策そのものをパッケージとして企業様、市場に対して価値提供してきました。

これはただの販促・広告宣伝ではなく、消費者に企業のファンになってもらい、自然な口コミで企業の情報が広がることを目指しています。本来のPRとは、企業側のエゴや虚偽なしに、お客様が実際に見たものを正当に評価し、それが世の中に広がっていくことではないでしょうか。

かつてインターネット事業を行っていた西山氏は、「これからはモバイルが台頭する時代だ」と見越していた。2010年代初頭、アメリカへの視察を通じて「モバイルの中でもコンテンツが重要になる」と確信し、その考えを基にスマートシェアを設立した。

そんな西山氏は今後、UGC(ユーザー生成コンテンツ)をさらに活用し、AI技術を駆使して今以上に価値を生み出すサービス開発を進めているとのこと。このバイタリティ溢れる経営者が率いるスマートシェアの今後に、FastGrowとしても注目していきたい。

こちらの記事は2023年11月16日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

目次 ほたる

2000年生まれ、東京出身。家事代行業、起業、スタートアップ企業の経理事務、ライターアシスタントなどを経て、2019年にフリーランスとして独立。現在はライターとして取材やエッセイの執筆を手掛けるほか、ベンチャー企業の広報部に参画している。主な執筆ジャンルは、ビジネス・生き方・社会課題など。個人で保護猫活動を行っており、自宅では保護猫4匹と同居中。

編集

大浜 拓也

株式会社スモールクリエイター代表。2010年立教大学在学中にWeb制作、メディア事業にて起業し、キャリア・エンタメ系クライアントを中心に業務支援を行う。2017年からは併行して人材紹介会社の創業メンバーとしてIT企業の採用支援に従事。現在はIT・人材・エンタメをキーワードにクライアントWebメディアのプロデュースや制作運営を担っている。ロック好きでギター歴20年。

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