アーリー期からミドル期の難局、こう乗り越えよ──急成長スタートアップCxOら5名から学ぶ打開策【イベントレポート】

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登壇者
金井 芽衣

1990年生まれ。キャリアカウンセリングに出会い、2010年に法政大学キャリアデザイン学部に編入学。卒業後はリクルートエージェント(当時)にて人材紹介の法人営業として勤務した後、2017年に国家資格キャリアコンサルタントに登録。同年ポジウィル株式会社を設立。現在までに総額約3億円の資金調達を実施しつつ、キャリアに特化したパーソナル・トレーニング「POSIWILL CAREER(ポジウィルキャリア)」を運営している。

渡邉 悠暉

国際基督教大学(ICU)在学中に、人材系大手エン・ジャパンの新規事業企画にてHRtech(SaaS)の企画開発・営業を担当。その後、HRtechスタートアップで、営業兼キャリアコンサルタントに従事。全社MVPを獲得。2018年7月に株式会社ネクストビートでメディア事業・人材支援事業の2つの新規事業を経て、2019年8月よりX Mile株式会社のCo-Founder COOとしてのキャリアをスタート。

新貝 仁那

2007年4月、JPモルガン証券の投資銀行部門に入社。10年以上にわたり、同社及びゴールドマン・サックス証券二社にて、M&Aアドバイザリー、株・債券のグローバル・オファリング、またSyndicated & Leveraged Finance等の実務に従事。2020年9月より、五常・アンド・カンパニーにてIR・資金調達を担当。翌年7月より、同社のグループ戦略及びFP&Aを統括するStrategy & Analytics部門の立ち上げに従事、同部門の部長に就任するとともに、同社経営チーム(Executive Committee)に参画。 2022年8月、株式会社Linc’wellにて執行役員CFOに就任。2023年11月より、コーポレート部長を兼務。

小笠原 羽恭
  • 株式会社Sales Marker 代表取締役 CEO 

新卒で野村総合研究所に入社し、基幹システムの開発、PM、先端技術R&D、ブロックチェーン証券PFの構築、新規事業開発に従事。その後コンサルティングファームに移り、経営コンサルタントとして新規事業戦略の立案、営業戦略立案、AIを活用したDXなどのプロジェクトに従事。2021年にSales Marker(旧:CrossBorder)を創業。2022年には国内初のインテントセールスSaaS「Sales Marker」の提供を開始。ローンチから現在まで400社以上の企業様に導入いただく。2023年、Forbes 30 Under 30 Asia List選出、一般社団法人生成AI活用普及協会(GUGA)協議員就任。

髙瀬 大輔
  • 株式会社バンカブル 代表取締役社長 

事業会社のマーケターを経験後、デジタルホールディングス傘下のオプトへ入社。同グループのインハウス支援コンサルティング会社ハートラス(旧エスワンオーインタラクティブ)代表を経て、2021年4月より株式会社バンカブルの代表取締役社長に就任。“新たな金融のカタチを創り出す”をミッションに掲げ、広告費の分割・後払いサービス「AD YELL(アドエール)」、在庫/仕入費の分割・後払いサービス「STOCK YELL(ストックエール)」を展開中。

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スタートアップでイノベーションを起こし、社会に新たな価値を創出するためには、会社を経営する上で訪れる難局を打開していかなければならない。

顧客が真に求めているサービス・プロダクトを開発できているか?先行き不透明な組織に協力してくれる優秀な仲間を集められているか?再現性のあるモデルをつくれているか?

難局を打開できず失敗に終わるスタートアップも珍しくない。そんな中、急成長スタートアップと呼ばれる企業は、どのように取り組んできたのだろうか。

ビジネスメディア『FastGrow』はスタートアップの難局の切り抜け方を学ぶため、2024年3月、急成長スタートアップ経営者4名をお招きして「スタートアップ経営のここだけの話」を、スタートアップのファイナンスを支援する『AD YELL(アドエール)』などを提供するバンカブルと共催。同社代表の髙瀬氏がファシリテーターを務めた。

この記事は、ご登壇いただいた経営者4名から、アーリー期やミドル期の難局の切り抜け方を伺ったイベントのレポートである。なお、展開、話題に沿って順序などは再整理している。

  • TEXT BY KANA MAKINO
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
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Twitterでの地道な地上戦や、「強み」を活かすピボット、そして創業者の熱意

まず盛り上がった話題は、創業や事業立ち上げフェーズからPMFに向けての時期について。各社、事業の立ち上がり方がさまざまな中、ぶつかる壁には共通点があるようだった。ファシリテーターを務めた髙瀬氏の問いかけを基に聞いていこう。

髙瀬氏

──(バンカブル髙瀬氏、以下同じ)スタートアップでは「PMFが教科書通りに進まない」とお聞きすることもありますが。みなさんはどのような苦労がありましたか?今はミドルフェーズと呼べそうなポジウィルさんからお聞かせください。

金井私は「キャリアカウンセリングを広めたい」と思いサービスを始めたのですが、実はリリースした直後は誰からも使ってもらえませんでした。その時期は仕事がなくてつらかったです(苦笑)。

そこで、まずはキャリア相談サービスを無料で体験してもらい、継続して利用したいと思ってもらえるかどうかを調査しました。

10分間のキャリア相談サービスを「無料です、ご興味ありませんか?」とTwitter(現X)でDMを送り続けたんです。その結果、約100人の方がキャリア相談を受けてくださり、1割の方からは「お金を払うから、継続でキャリア相談に乗ってください」と言ってもらえたんですよ。

この時に「キャリア相談は需要がある」と思えたため、事業化を一気に進めました。キャリア相談サービスページをWixとGoogleフォームで制作し、LINE公式アカウントでキャリア相談事例を紹介していきました。すると、あっという間に数百人のユーザーがキャリア相談サービスを利用してくれるようになったんです。「需要の存在」が確信に変わり、正式に『そうだんドットミー(現在はクローズ済み)』をリリースしました。

このサービスはその後、投資家様からの「グロースさせていくためにはサービスを見直した方がよい」とアドバイスもあり、単発の相談ではなく徹底して伴走する『POSIWILL CAREER』というサービスとして立ち上げ直しました。

金井氏

──サービスの利用実績がつくれると自信になりますよね。シリーズAラウンドの調達を2023年末に発表されたアーリーフェーズのSales Markerさんはどうですか?

小笠原私たちは当初、現在のサービスとは全く異なるAI翻訳SaaS『Glance』を提供していました。しかし、シードラウンドの資金調達を進める中で「このままではPMF達成も難しいだろうな」と感じ、ピボットしました。

──どのようにピボットされたんですか?

小笠原強みを活かしつつ事業領域を変えて新たなサービスをつくることにしました。というのも、私はベイカレント・コンサルティングで営業戦略の立案を経験し、COOはキーエンスで全国1位の営業成績を収めた経験があるため、営業領域が弊社の強みであり勝ち目があるのではないかと考えたからです。

また、日本はテック先進国の米国に比べて、特に営業活動においてデータが上手く活用されていないと言われています。その差はなんと5年ほど。つまり、営業こそが弊社が大きく貢献できる領域ではないかという思いに至り、22年に国内初のインテントセールスSaaSである『Sales Marker』を開発しました。

さらに、自社の強みや徹底した市場分析をもとにピボットしたことで、ローンチ前からプロダクトに関心を寄せていただきご契約に至ったケースもありました。

──ローンチ前からですか!すごいですね。X Mileさんにも聞かせてください。すでにサービスが11ほどあるとお聞きしましたが、どのように進めてきたんですか?

渡邉創業した2019年は、共同創業者の野呂と本当に二人だけでやっていて、セールスに汗水垂らしていました(笑)。物流会社さんとか倉庫会社さんとかに自ら訪問して……。また、人材紹介業でのスタートだったので、求職者のマーケティングも全部二人だけでやっていました。あともちろん、人事もそうですね。

2年目からは数人の学生インターンと一緒に進めていきました。初年度から新卒採用を始めたというのはうちの特徴ですね。そこから今、正社員が300人くらいになっています。

ターニングポイントになったのは、シリーズAの資金調達のころですね。後ほど詳しく話せればと思います。

渡邉氏

──ではレイターフェーズのお話もお聞きできればと思います。Linc'wellさん、新貝さんはCFOという立場から、なぜここまで調達や成長がうまくいっていると感じていますか?

新貝弊社は、国内ヘルスケアセクターの発展に貢献したいという想いで、戦略コンサルティングファーム出身であり、大学病院にて8年の臨床経験のある医師・金子と、同じく戦略コンサルティングファームで同僚であった現・代表取締役の山本で共同創業しています。

当時の米国のトレンドなども参考としながら、様々な事業アイディアを検討した結果、お客様が本質的に価値を感じるサービスを提供せずして、事業の確立は困難との判断からも、まずは医療現場のDX化に着目しました。2018年10月に、医療法人の展開するプライマリ・ケアのスマートクリニック「クリニックフォア」のクリニックDXを手掛ける形で事業を開始しています。

その後、2019年の資金調達で参画した米国の投資家様のアドバイスもあり、オンラインでの事業アイディアについて準備を進めるなか、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、2020年4月より特例としてオンライン診療による初診が解禁となったことをきっかけとして、同月よりクリニックフォアグループのオンライン診療サービス「クリニックフォアのオンライン診療」のデジタル実装を手掛ける形で、現在の主力事業であるオンライン診療システム提供サービスの提供を開始しました。

他社に先んじて同領域に参入し、事業のスケール化を図ったことで、シリーズCラウンドにて80億円の資金調達を実施、同調達資金を投下し、更なる事業規模の拡大を実現しています。

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チャンスは一瞬?投資家との出会いを、形にするためのスタンスとは

事業グロースと並行して、各社が工夫を凝らしていたのがパートナーとしての投資家とのつながりだ。Sales Markerとポジウィル、Linc'wellの事例を見ていこう。

──スタートアップが成功していくためには、投資家という良いパートナーが欠かせません。どのようにご縁を引き寄せていますか?

小笠原私には投資家の方々とのつながりがゼロだったため、当時はとても困りました。まずはインキュベイトファンドさんが開催している「Circuit Meeting」に応募し、運よく受かって、ピッチの機会を獲得しました。

しかし、ある投資家様から「君は大企業病だからスタートアップで成功できないと思うよ。来週、日本最大級のスタートアップカンファレンス「IVS」があるから見てくるといいよ」と言われたんです。

そのアドバイスを頂いてすぐに行動に移し、そのカンファレンスに参加しました。そしてほぼ同時期に勤務していた会社を退職しました。

──VCからの資金調達が決まったことは、退職の意志が固まることにつながりましたか?

小笠原いえ。資金調達以前に、フルコミットしたいという思いから勤務先を辞めてしまいましたので。私の熱意が伝わったのか、その投資家様が色々な方を紹介してくれました。

小笠原氏

──他の方は、どのようにパートナーシップのご縁を得ていますか?

金井私はTwitterでVCの方と出会いました。半年間Twitterの運営を頑張ったらフォロワー数が1万人を突破して、その頃にVCの方がDMをくださったんです。

私の場合、最初は「起業家として大成するんだ」という思いが先行していたわけではなく『キャリア相談』の必要性を感じていて、それを広めていきたいと考えていたので、当時は資金調達については疎く、「投資してくれるとは言っているけど本当かな…?」と思っていましたね(笑)。でも、勇気を出して会ったところ、資金調達について知るだけでなく、経営の視座も高まるような良い機会になりました。

──Linc’wellさんは、大型の資金調達を実現していますよね。投資家の方に恵まれているのは、タイミングも影響していますか?再現性のあるポイントはありましたか?

新貝そうですね。前述のとおり、タイミングの要素はあると思います。他方、それを実現に結び付けたのは、メンバー一人ひとりのお客様に最良のサービスを提供することへの情熱と高いエグゼキュ―ション能力であると考えています。

予算管理やFP&A面で申し上げると、現CSOを筆頭に、大変優秀なメンバーが経営戦略部に参画し、KPIの精緻化を行ったことが、機動的な投資判断、またより解像度をあげたIRのつくり込みにつながったと考えています。

よって、タイミングもよいと思いますが、その裏でしっかりとしたサイエンスが働いているので、再現性もあるのではないかと思います。

新貝氏

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熱量で人を巻き込むこと

続いて採用面や組織面で、ポジウィル金井氏から吐露された悩みを皮切りに、各社の苦労や工夫が次々と表出。ここは、二つのセクションに分けてお伝えしよう。

──不透明なスタートアップでは優秀な人材が欠かせませんよね。採用で難局にぶつかった方はいらっしゃいますか?

金井私は27歳で起業したため、初めは、いろいろな経験をされている方は採用しづらかったですね。

「どうして、わざわざ若いキミの会社で働かなきゃいけないの……」と思われてしまうこともありました。組織をつくるためには上から採用することが大事とは聞きますが、実際には難しいなと思いました。

──金井さんは、どのように経営メンバーを採用されたんですか?

金井取締役の1人は、私のキャリアカウンセリングを受けたことがきっかけで出会い、採用することができました。でもいきなり役職をつけるのではなく、まずは地道な業務も含めてしっかり担ってもらい、社内で評価や期待が高まるようにしました。

その後に、株主や経営者と話す場に同席してもらうなどして、段階的に成長してもらえるようにし、執行役員、そして取締役になってもらいました。やはり、ステップを踏むことが大切だと思いました。

──やはりみなさん、パラシュート人事(*1)は行っていないということになるのでしょうか?

小笠原パラシュート人事は難しいですよね。弊社では、どんなに優秀で、前職での実績が豊富でも、いきなり役職を与えることはしていません。

たとえば、弊社がインテントセールスSaaS「Sales Maker」へと社名変更する際に、ブランディングの刷新も同時に行いました。リブランディングに際し、当時Yahoo! JAPANとLINEの統合にかかるブランディング刷新を手掛けたトップクリエイターを採用しました。ただし、あくまで役職はなしです。

しかし採用という点においてはものすごい本気度で取り組みました。“あなたがSales Markerに来るべき理由”みたいなプレゼン資料を100枚ぐらい作成してオファーレターを出したんです。

弊社の熱意が伝わったのか、逆転勝利で、優秀な人材を採用することができました。サイト制作会社にサイト制作を依頼すると3ヶ月かかりますが、内製化すれば1ヶ月。ブランド力も会社の機動力も格段に上がりました。

*1……パラシュート人事:中途採用した人材を、いきなり役員などの経営人材として活用すること

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「組織は、上(=マネジメントレイヤー)からつくるもの」

──スタートアップは事業拡大する上で組織づくりが欠かせませんが、躓いた方はいらっしゃいますか?

渡邉はい。私です。組織づくりで30人の壁、50人の壁、100人の壁と耳にすることもあるんですが、東京大学発のベンチャーキャピタル・UTECさんから経営的に関する視座をグッと引き上げて頂き、壁を乗り越えることができました。

この時にも、「組織は上からつくるものだ」と教わりました。進めやすい「若手採用」からではなく、マネジメントレイヤーの採用に早期から取り組むべしということですね。

そして、「来年はこんな壁にぶつかるだろうな」と想定した上で、前倒しで対策しておくことで、比較的スムーズに事業拡大をしてこれたと感じます。

──X Mileさん、先ほどもお聞きした通り、サービスが11個ほどもあるコンパウンドスタートアップとなっており、正社員も300人を超えているということで、本当に凄いなと思うのですが、30人の壁、50人の壁、100人の壁について詳しくお伺いできますか?

渡邉はい。30人の壁=業務の属人化です。創業メンバーが裁量を持ちながら仕事をすると業務の属人化が起きます。そのため、いかにドキュメントやオペレーションをつくり込むかを意識しました。オペレーション通りに行えば、オンボーディングの早期化ができるように落とし込みましたね。

そして50人の壁=ミドルマネジメントの壁です。事業規模が拡大すると、経営者が見切れなくなるため、中間管理職に業務を切り渡していくことが重要となります。そのため、業務プロセスを型化してパスしていった感じですね。この時期に人事担当者を採用しました。

最後に、100人の壁=カルチャーからの脱却ですね。事業規模が大きくなると統制を取るのが難しくなるため就業規則や人事評価制度を実装して仕組みをつくりました。制度の下に組織が回るようにカルチャーからの脱却を図りました。

──組織づくりで、渡邉さんが一番苦労したことをお聞きしてもよいですか?

渡邉私は30人ぐらいの規模のときにモデル化で苦労しましたね。

ラスクル元COOの福島さんに相談させてもらい、「1→10」から「10→100」のフェーズに向かうためのモデルを確立させることが大事だと教えていただきました。

たとえば、「年収〇〇〇万円のマネージャーが1人いて、年収〇〇〇万円の部下を〇人」と決める。次に各自のオペレーションを決めて、利益が出るようになれば、そのモデルを徐々に拡大していく。このモデルづくりを頭では理解していたものの、実際に進める際には結構苦労しましたね。

具体的には、属人化を防ぐため、社内オペレーションについては徹底的にドキュメント化を図ってきました。この取り組みが奏功したと思います。

──どのように乗り越えたんですか?

渡邉どれぐらいの年収ゾーンで、どのようなモデルをつくるべきか、社外の知り合いにインタビューして他社の事例を集めました。そして、自社にあてはめてみて、利益が出るかどうかみたいなことを考えましたね。インタビューデータを活用することで、自社に勝ち目があるか意思決定がしやすくなりました。

数年先の組織図を描き、逆算して足元の実行を進めたということです。もちろん、ファクトを基に振り返り、随時見直しもしてきました。

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ファイナンスで意識すべきは、既存投資家の「追加投資」

そして最後、時間が足りない中でさまざまなご意見が出たのがファイナンス面。各社、IPOを当然のように意識する中で、特に参考になるTipsが多く出る。

──最後にファイナンス戦略をお聞きしたいのですが、まずは投資家を選ぶ基準について教えていただけますか?

小笠原私が投資家の皆様に求めるものとして「どれだけ視座を上げていただけるか」という点を何よりも重視しています。

たとえば面談が1時間あったとして、「その限られた時間の中でどれだけ気づきが得られて、どれだけ成長できたか」というところを重要視しています。成長角度が一番高くなると感じた方とご一緒したいなと考えています。

──新貝さんにお伺いしたのですが、振り返ってみてレイターステージに至るまで、CFOとして何か気にかけていたことはありますか?

新貝そうですね。まず大事な前提として、大型の資金調達をすると資金の使い方がこれまでとは変わってきます。平たくいうと、より多くの資金があると使い方もその分大きくなっていくわけです。勿論、事業成長のために成長資金を投下するのはとても大切なことなのですが、同様に、いかに効果的に投下しているかも大事です。そのためにも、予実管理やランウェイ(*1)の精緻化による可視化は特に意識していました。

また、レイターステージに進むにつれて、リターンを意識することは大事かなとも思います。

そこで重要なことは、強固なPLの構築に加え、「調達の多様化」であり、CFOとしてのバリューの出し方として、「銀行や証券会社など、創業者ではリーチできていなかった方々とどのように関係を構築するか。そのために、創業者に代わり、どのように会社の良さを伝えていくか」と思っています。CFOの私がどのようなバリューを出していけるのかと言えば、銀行や証券会社などの金融機関、クロスオーバー投資等も検討している上場株投資家や未上場株投資家など、幅広い方々に会い、継続的に協議するようにし、今後の資金調達のオプションを広げていくことにいかに貢献できるかだと思っています。

*1……ランウェイ:現状の事業運営とキャッシュフローが進むと仮定した際の、会社の資金がなくなるまでの猶予期間

──Linc'wellさんの場合、投資家の顔ぶれがあまり変わらないことに驚いているのですが、それらも戦略ですか?

新貝戦略的と言えるかどうかはわからないですが、弊社には主要投資家様が数社おりますが、結果、その多くはアーリーステージから現在に至るまで、継続投資していただいている方々となります。特にマーケットが良くないときには、既存投資家の皆様から新たに投資してもらえることが大切なことだと思います。

小笠原さんがおっしゃられていたとおり、高い視座を与えてくれる投資家の皆様との出会いはとても大切です。長期に渡って向き合ってくださり、また、より先を見据えてご助言をいただけるかどうかも極めて重要なことだと思います。投資サイズについては、最初は小さなチケットサイズだったとしても、次のラウンドでチケットサイズを大きくしてくださるVC様もいるので、ポテンシャルを意識して投資家の皆様と対話されると良いかもしれません。

──X Mileさんはどのようなファイナンス戦略で取り組んできましたか?

渡邉ほぼ同じで恐縮ですが……視座を上げて頂ける投資家様を大切にしています。また、弊社は創業当初から「絶対に上場する」と決めていたため、新貝さんがおっしゃっていたファンドのサイズ、つまり「継続してフォロー投資いただくことは可能か」というところも意識していますね。

やはり、何度も同じ投資家様から資金調達できるというだけでも、信頼が勝ち取れると思うんです。

また、上場を見据えて主構成比率を意識していますね。VCさんのLPに機関投資家様が一定割合はいた方が、目先も将来もバリュエーションが上がりやすいのではないかと思うんです。このあたりを意識しています。

──ポジウィルさんはいかがですか?

金井昨年までと比較して、最近少しずつIPOが増えてきていますよね。その中で私たちはIPOに対する方針を見直したんです。

今日、みなさんのお話をお聞きして、「未上場の段階でどれだけ強い戦略と事業を持てるか」という点はやはり重要なのだという理解が深まりました。「コンパウンドスタートアップ」と呼べるような企業さんが増えるのは素晴らしいことですよね。仮に上場した場合、その後も安定して経営をするために、改めて、しっかり複数の柱を持っていけるようにしようと思いました。

まだまだ話し足りなそうな4名、そして聞き足りなそうな髙瀬氏の様子もあったが、ここで時間が来たため終了となった。この後は懇親の時間として、参加者と登壇者がより細かな話をやり取りする会を開催し、大いに盛り上がった。

さて、記事に記録した内容は、いかがだっただろうか。

スタートアップが必ず直面する難局を乗り越えるため、各企業がさまざまな創意工夫を重ねてきたことが、いくらか垣間見えただろうか?もちろんこれはほんの一部であり外に出せないような大変な苦労も多かったはず。そうした数多の壁を乗り越えながら得た経験や気づきを活かしながら、「急成長スタートアップ」と呼ばれるようになり、上場やその後の社会変革を生み出していくのだろう。

こちらの記事は2024年04月25日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

牧野 花菜

写真

藤田 慎一郎

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