連載急成長スタートアップX Mileに学ぶ「本当に強い組織」のつくり方

成長したければ「挑戦機会」「事業家人材の存在」「ピープルマネジメント」の3要素を満たす会社を選ぶべし──急成長スタートアップX Mileに学ぶ「本当に強い組織」のつくり方(後編)

インタビュイー
渡邉 悠暉

国際基督教大学(ICU)在学中に、人材系大手エン・ジャパンの新規事業企画にてHRtech(SaaS)の企画開発・営業を担当。その後、HRtechスタートアップで、営業兼キャリアコンサルタントに従事。全社MVPを獲得。2018年7月に株式会社ネクストビートでメディア事業・人材支援事業の2つの新規事業を経て、2019年8月よりX Mile株式会社のCo-Founder COOとしてのキャリアをスタート。

坂井 風太
  • 株式会社Momentor 代表 

1991年生まれ。DeNA新規事業部でのインターンを経て、2015年DeNAに新卒入社。DeNAトラベル(現エアトリ)に配属後、16年にゲーム事業部、17年に小説投稿サービス『エブリスタ』に異動。サービス責任者、組織マネジメント、事業統括を担当。19年にエブリスタならびにDEF STUDIOSの取締役に就任。20年にエブリスタ代表取締役社長、経営改革とM&Aなどの業務を経験。22年8月DeNAとデライト・ベンチャーズ(Delight Ventures)から出資を受け、人材育成・組織強化をサポートするMomentorを設立。

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X Mile Co-FoundeCOO渡邉悠暉氏、Momentor 坂井風太氏の対談から、「本当に強い組織」のつくり方を全2回に渡りお届けする本企画。

前編ではスタートアップのありがちな組織崩壊のパターンや、本当に強い組織づくりに必要な要素、そして、強い組織を仕込む最適なタイミングなど、一言も見逃せない数多くの知見が語られた。

後編となる今回は、実際のX Mileの組織づくりを題材に、X Mileがいかにして令和を代表するメガベンチャーたり得るのか、紐解いていきたい。

独自の組織強化プログラムでX Mileの組織づくりをサポートしている坂井氏は、X Mileの魅力について、理想の組織の三つの要素である「挑戦機会の多さ」「事業家人材の定着」「ピープルマネジメント」に加え、X Mile独自の「社会的意義」「地に足がついた経営」の計5つにあると話す。坂井氏曰く、これらの条件が揃った企業こそ、若手ビジネスパーソンにとって最適な成長環境だという。

X Mileはどのようにして、これらの条件を満たす組織を作り上げたのか。今後、その組織を更にどう磨き上げていくのか?坂井氏からの率直なフィードバックも踏まえ、ざっくばらんに議論を深めていこう。

  • TEXT BY TOMOKO MIYAHARA
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
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日本の産業構造を変革するために「令和を代表するメガベンチャーを目指す」

「本当にメガベンチャーを目指すんですか?」

「令和を代表するメガベンチャーを創る」をミッションに掲げるX MileのCOO、渡邉悠暉氏に初めて会った際、Momentorの坂井氏が思わず口にした言葉だ。

坂井氏が渡邉氏にこんな言葉を投げかけた背景には、これまでいくつものメガベンチャーの「失敗」を目の当たりにしてきた自身の経験があった。これまでに停滞してしまったメガベンチャーを観察すると見えてくる共通点が、「よくないブランド化」だ。一般的なスタートアップ、ベンチャーよりも年収が高く、キャリアも安泰。そうなると、野心的な人材がいなくなり、挑戦の機会も失われていく。

そんな例をいくつも見てきた坂井氏だからこそ、「そっちに行くんだ……」という気持ちが強かった。

ただし、X Mileが目指すのは、「令和を代表するメガベンチャー」。坂井氏がこれまで分析を重ねた2010年代の「平成のベンチャー」とは、少し思想を異にする。

坂井平成のメガベンチャーは、「ガンガン事業を立ち上げようぜ!」という野心みたいなものがあった。ギラギラして見えました。それでいくと、X Mileさんにはギラつきがない。渡邉さんはちょっとギラついていますが(笑)、CEOの野呂さんは本当にピュアに社会的価値を追求していますよね。フェイクや建前をまったく感じないんですよ。ああ、これが「令和のメガベンチャー」なんだな、と僕も納得しました。

渡邉野呂さんのひたむきさは、高校時代に原点があると思いますね。当時、アメリカに行って経済の成長度合いを目の当たりにして、「ここままじゃ日本、ヤバくない?」と思ったんだそうです。

そうした問題意識と、あとは野呂さんが育った環境ですね。北海道で生まれて、20年ほど過ごす中で、「このままじゃダメだ」「ここを出よう」とずっと思っていた。そういう「解き放たれたいマインド」が醸成されたんだと思います。

X Mileには、そんな野呂氏の思想が色濃く反映されている。X Mileの言う「令和を代表するメガベンチャー」には、自分たちが有名になりたい、成功したいといった「我欲」は含まれていない。根底には、日本の産業構造を改革したいという強い思いがある。

渡邉日本経済の停滞を打破するには、産業構造を変えていく必要があります。日本でもスタートアップはたくさん生まれているものの、ユニコーン企業が生まれにくい環境にある。この構造がイノベーションを起こす足かせになっていると思うんです。

だったら、我々が令和を代表するメガベンチャーになって、「X Mileにできるなら、自分たちにもできるよね」という空気を醸成し、ほかのスタートアップにもどんどん後に続いてほしい。そうして産業構造の改革や社会全体の効率化・デジタル化につながっていけばという、マクロ寄りの視点で考えています。

坂井X Mileの経営陣が、建前ではなく純粋に社会的意義を追求している点は、X Mileの組織づくりにとても大きな影響を与えていると感じています。なぜなら、それを宣言することによって、単に自社の直接的な利益を追求するだけでなく、業界全体や社会全体の利益に寄与するような資源や活動に資金や労力を投じる、つまり公共財への投資が進むからです。X Mileの「令和を代表するメガベンチャーを創る」というミッションがあることによって、人材育成や組織文化の醸成に注力できるわけです。

ただ「売上を上げること」をミッション・ビジョンに掲げている企業では、そもそも公共財への投資という選択肢が経営の重要課題として上がってこないですからね。

渡邉おっしゃる通りだと思います。短期売上主義的な思想では、大義は達成できないと信じて日々働いています。XMileはノンデスク産業をDXすることを掲げていますが、レガシーな産業をよりよくしていくにはどうしても時間がかかります。だからこそ、XMileという会社自体もじっくり中長期的な目線も持ちながら経営する必要があると考えています。

X Mile COOの渡邉氏とMomentorの坂井氏による全二回に渡る対談。前編では、急成長スタートアップが直面する組織崩壊の兆しと、その突破法に焦点を当てた。

前編はこちら

後編となる本記事では、「スタートアップやベンチャーにとって理想の組織とは?」というテーマについて、考察を深めていきたい。早速、次章では「理想の組織の3要素」について触れていこう。

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理想の組織の3要素、「挑戦機会」「事業家」「ピープルマネジメント」

坂井氏が提唱する理想の組織の3要素とは、「挑戦機会があること」「事業家人材がいること」「ピープルマネジメントの枠組みが整っていること」だという。

坂井まず、「挑戦機会」は必要不可欠です。企業の成長が停滞すると、市場を自らの手で開拓する事業責任者ポストが減少していきます。この点、スタートアップが優位のように見えますが、分業化などが進みすぎている場合、この経験は得られないので、スタートアップだからOK、成長産業だからOK、というわけでもありません。

また、事業家人材=自分で市場を開拓して、利益を稼いだことがある人がいない組織は、それを若手に教えられないから、若手が育たない。事業部門で重役に就いている人々のほとんどが、事業創出経験がありませんといった状況もありえるわけです。事業創出経験がある人も、独立志向が強い場合は「この会社でやる必要はないか」と消えてしまうわけなので、「事業家が入社して定着する会社」って、本当に良い会社だと思うんですよ。

けれども、事業家が入社すると大体ハレーションが起きる。事業家だけが頑張って、若手の自己効力感が育たない状態になるのはもったいないですよね。だから、事業家と若手をつなぐ「ピープルマネジメントの枠組み」が必要。

僕にとってのスタートアップの理想の組織は、この3つが揃っていることですね。逆にこの3つが揃っていなかったら、ベンチャーに入る意味ってあるの?とすら思います。

スタートアップやベンチャーに必要な3つの要素。早速ではあるが、X Mileはこの三つの条件を満たすことができているのか。それぞれ順番に見ていこう。

まず語られたのが、「挑戦機会」について。坂井氏曰く、20代の若手が継続的に入社しており、成長できる環境が整っていることが重要だという。そして、その挑戦機会は、会社が置かれている状況に依存するものだという。

坂井挑戦環境ってつまり、「事業を伸ばさないと死ぬ」という局面をどれだけ経験できるかなんです。十分に会社が成長し、売れ筋のサービスをつくったことで、事業を伸ばさなくても死ぬことはありません。だから社内に「挑戦する機会」はあっても、「必死こいて挑戦する機会」が少ないんですよ。

どの企業でも、創業メンバーは自分で利益や顧客価値を生まなければ死ぬ、という経験を山ほど積み上げてきています。そうした使命感を背負わせてくれる企業に入ることが自分の成長につながるわけですが、X Mileには間違いなくその環境があると言えますね。

それからもう1つ、X Mileはメンター制度が素晴らしいんですよね。業界を1周回って、事業のつくり方や失敗例がよくわかっている起業家が若手のメンターになっている。これってものすごく大事で、メガベンチャーや大手企業でも、事業をつくったことのない先輩って結構いるんですよ。20代のうちに「とりあえず仕事をこなせる人」で終わるか、「事業をつくって利益を生み出す人」になるか、この差分は大きいんだろうなとも思います。

そして、この「挑戦機会」に惹きつけられて、「事業家人材」は集まると坂井氏は続けた。

X Mileにおいても、事業の立ち上げフェーズや事業グロースを経験したメンバーが続々とジョインしていることはこれまでの記事でも述べられた通り。だが、まさにこのような事業家人材が増える時期だからこそ、留意すべき点があるというのだ。

坂井事業家人材が入社してくると、「水と油」現象が起きる可能性があるんです。例えば、誰かが「このベンチャー、ぬるくね?」と言いはじめる。そうすると、若手メンバーたちは事業家人材から知識やスキルを吸い上げる前に自己肯定感をへし折られてしまって、潰れてしまうんですよ。

すると若手は育たず、組織の成長にもつながりません。当然、事業も伸びなくなりますので、前提条件であった挑戦環境が失われ、事業家人材の離脱という負のループに陥ってしまいます。

読者の中にも、せっかく入社した事業家人材が定着しないことに課題を感じている方もいるだろう。その場合、ピープルマネジメントを整えたほうがいい、と坂井氏はアドバイスする。事業家人材を採用して、そのノウハウを吸い上げる人材に橋渡しをする。このアプローチを続けることで、結果として強固な組織を構築できるという。

坂井事業家人材と若手メンバーを接続するピープルマネジメントが機能していないと、良い成長機会がつくれないんです。

X Mileはその部分が非常にうまくミックスされていると感じます。つまり、私が述べた三つの要素をX Mileは既にこのフェーズで整えているんですよね。これには驚きです。

そして、X Mileさんを祭り上げるみたいな見え方になってしまいますが(笑)、この三つの要素が揃った企業こそ成長意欲に溢れた若手ビジネスパーソンにとって最適な成長環境だと思います。

もちろんメガベンチャーの特権として、多様なバックグラウンドを持つメンターが集結する点が挙げられる。企業の規模が大きくなるにつれ、様々な専門分野のプロフェッショナルが一堂に会し、多くのノウハウを共有できる環境が生まれるからだ。

しかし、このメリットは従来ほど若手の成長にとっての重要な要素ではなくなりつつある。SNSの発達や、業界や企業を越えた交流会の普及により、専門知識は社外からも容易に得られるようになったのだ。

一方で、「事業をどうつくって伸ばしていくか」に関しては、その道の経験者と肩を並べ、共に学び合うことでのみ理解が深まる。坂井氏が「事業家になりたければ、事業家がいる会社にいくべき」と語る理由は、まさにこの点にある。

坂井氏が太鼓判を押すX Mileといえども、創業当初からこれら三つの条件を満たしていたわけではない。特に「ピープルマネジメント」については、どうしても組織の急拡大に伴い手が回っていない現状があったのだ。そんな矢先に渡邉氏は坂井氏と出会い、サポートを依頼したのだ。

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2010年代のピープルアナリティクスは「点」だったから限界を迎えた

X Mileでは以前より、ピープルマネジメントの一環として、ピープルアナリティクスに力を入れてきた。このピープルアナリティクスというのは、従業員の特性や行動データを収集・分析し、組織の意思決定や人事戦略を強化する手法として近年注目を集めている。

渡邉坂井さんとお会いするまでも、X Mileでは「人」を見て業務にアサインする仕組みをつくり、実行してきました。

例えば、いわゆる性格診断のデータをもとに、誰が、何に強くて、どんな課題を抱えているか、どんな職種で適性を発揮しそうかが測れるモデルをつくり、その人がフィットしそうな領域を整理したうえでアサインするといった取り組みです。

この取り組みが奏功し、良い成長環境を構築することができた……のだと思いきや実は、渡邉氏はこの実行過程で大きな課題感を覚えていたのだという。

渡邉人事部とマネージャーが主導してこうした仕組みを整えてきたまではよかったのですが、そこから先の運用面まで手が回っていない実情があったんです。

「このままでは、良い成長環境を提供し続けられなくなる可能性もある」、そんな焦燥感がありました。

そこで、現場にアサインされた後、メンバーをマネジメントをしながら活躍を支援する仕組みづくりや、サーベイなどの方法でそれを定点観測していく方法について、「生きたマネジメント」を導入すべく坂井氏にサポートを依頼したんです。

坂井「人を見て業務にアサインする」というところまでが、2010年代のピープルアナリティクスの限界だったんだと思います。平成のメガベンチャーでも相性分析はやっていたんですよ。マトリックスに分けて、性格診断をして、この人とこの人をペアにする、みたいなことをするんですけど、うまくいかない。なぜかというと、その後の運用やコミュニケーションができていないから。でも、その「後工程における運用」こそ、圧倒的に重要なんです。

本当はピープルアナリティクスって、「点」じゃなくて「線」なんです。性格診断してアサインして終わりではなくて、「リアリティショック*を受けてるの?大丈夫?」「経験学習回ってないの?」といった、後工程でのフォローをして「線」にするまでがピープルアナリティクスなんですよ。

*……リアリティショックとは、その名の通り「現実に直面した際のショック」を意味する。特に、新しい環境に身を置いた際に「実際の状況が思い描いていたものと違った」と感じてギャップに思い悩むことを指す言葉。

渡邉そうですね。その人がどんな性格か、誰と相性がいいか、といったことを性格診断のデータから分析できたとしても、肝心なのは実際に現場に配置されて業務を遂行する中での相互作用なんです。その相互作用までデザインしているのが坂井さんの研修なんですよね。

これを社内でしっかりと型化できたのは大きい。社内に共通言語をつくれただけでも、坂井さんの研修を導入してよかったと思います。

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MVVをマグカップに貼っていてはだめ。
地に足がついた経営が事業家人材を呼び込む

坂井氏は、前述した三つの要素に加えて、X Mileの「地に足がついた経営ができている」という点も高く評価する。なぜなら、坂井氏、渡邉氏らの年代は、Facebook(現Meta)創業者のマーク・サッカーバーグ氏らに憧れて、Webサービスで成功することを目標に事業を立ち上げた者も少なくなかったからだ。

そんな中、X Mileの事業戦略は非常に地に足がついている、と坂井氏は評する。事業の成長に浮かれることなくコツコツと利益を積み上げる、堅実な事業モデルだ。この実直なアプローチは、事業成長以外の面でも大きな強みをもたらしているという。

坂井これは余談ではありますが......ミッション・ビジョン・バリューをステッカーにしてマグカップに貼るようなベンチャーがあると思いますが、それ自体にはあまり意味がないと思っています。

ミッション・ビジョン・バリューを自分事化するにはナラティブが発生しないといけない。ナラティブって、「自分にとってなぜ大事なのか」が大切で、自分によって紡がれし物語にしなければ自分事化はできないんです。

でも、ミッション・ビジョン・バリューを唱和させたりマグカップに貼ったりするのって、派手なんですよね。だから「やってるつもり」になってしまうんです。

最近いろんな企業で導入されているジョブポスティング制度もそうですよね。もともと自分に向いている部署に異動するための制度なのに、逃げの異動に使われがちです。自分が得意だったり向いていたりする場合はいいんですが、逃げの場合だと向いているかどうかもわからない部署に異動することになる。そうなると、異動先で活躍できず、むしろ人事コストがかかってしまうんです。

でも、これらの施策も「X Mileでならうまくいく」と思わせるものがあります。地に足がついた経営をしながら、現場には「利益をつくらないと死ぬ」と思っている事業家人材がいる。そんな会社は、ムダなことはしません。それが強みですね。

渡邉それでいうと、売上は伸びているし、利益を出せる構造がある。でも、マインドはずっと創業1日目。“オールDay1”なんです。逆もしかりで、Day1からメンバーが1,000人いる会社だと思ってやっています。1,000人の会社、1,000億円のメガベンチャーをつくる。だからこそ、5万円、10万円の投資でも、「本当にそれ以上のリターンが返ってくるのか」を徹底的に議論します。そこに妥協や忖度が生まれると腐敗の元ですから、事業上の意思決定は経営者としてきっちりピュアに合理性を追求しています。

ただ、答えになっているかわかりませんが、やはり「令和を代表するメガベンチャー」を創るために、みんなスピード感を重視しながら頑張っていますね。やはり、野呂さんの掲げる将来の目標を達成する上で、とにかく時間がない(笑)。なんとかして間に合わせよう、というので必死にやっている感じです。

僕は最近この感じを「文化祭実行委員会的空間」と呼んでいるのですが、限られた時間の中でみんなで文化祭の準備をやっているような感覚があるんですよね(笑)。だから、日々忙しいしいろんな問題も出てくるんですけど、なんだか楽しい。そんな感覚を持って仕事をしています。

X Mileの他にも三つの要素を備え、チャレンジを続けているベンチャーはあるのか?という問いかけに、坂井氏はサイバーエージェントやビジョナルといった著名企業の名前を挙げた。そして、これらの企業群は渡邉氏もベンチマークしているという。

渡邉こうした企業さんの背中を見て、「うちも何かやらなきゃヤバいぞ」と感じて、実際に2つの取り組みをしています。

1つは、ミッションである「令和を代表するメガベンチャーを創る」を標榜したこと。これって、永遠に追い求められるテーマなんです。ミッションの意味するところの姿勢はわかるし、やるべきことはわかる。でも、到達点については「海賊王に俺はなる!」くらい、曖昧なんですよね。それを意図してこのミッションを掲げました。

もう1つは、常にスピードを要求すること。いつでも、どんなときも、「●日▲時××分までに出す」「リマインドを徹底する」といった仕組みをつくり、常にスピードを追い求めています。

具体的には、社内で「エスカレーションフォーマット」という、メンバー間での報告・連絡・相談におけるテンプレートのようなものを運用しています。これを運用することによって、タスクや依頼の目的や期限、ゴールイメージが正確に伝達されるようになっています。これに近い取り組みは、Appleでも行われています。また、CRMとslackをワークフローで接続することで、とにかくタスク漏れが発生しないような状態を仕組みで作っています。

坂井ミッションって、大事ですよね。僕は自分が就活生だった頃、サイバーエージェントの「21世紀を代表する会社をつくる」という真意やメリットが完全に理解できていない時があったんです。

でも最近ようやくわかってきました。なぜなら、冒頭でも述べましたが、それを宣言することによって公共財への投資が進む。人材育成や組織文化の醸成にどんどん投資していこうという経営の意思決定ができるわけです。

「令和を代表するメガベンチャーを創る」「21世紀を代表する会社をつくる」となると、やらなければいけないことの時間軸も増える。3世代後の人も勝ち続けられる事業をつくろうと思うし、文化を醸成しようと思うようになるんです。だから、会社や組織をつくることをミッションの中に内包するのは、公共財投資の促進を促すメッセージとして「アリ」なんだと思うようになりました。

「事業利益をつくるために修羅場をくぐれる環境があるか」「事業をつくった経験のある人がいるか」「ピープルマネジメントの仕組みがあるか」。これが坂井氏が提唱する若手ビジネスパーソンの成長に最適な、理想の組織の三つの要素である。

さらに上記に加えて、次の二つの観点も重要であったことを忘れてはいけない。

一つ目がその企業の事業に社会的意義があるかどうか。それは建前ではなく純粋に社会的意義を追求している経営者かどうかが肝要であろう。X Mileやサイバーエージェントのように、ミッションを基盤に長期的繁栄を目指す企業は、自ずと人材、育成、文化への投資が促進されるのだ。

そして二つ目が、強いビジネスモデルをつくるための地に足がついた経営をしていること。経営者が浮き足立たず、事業や組織がダウントレンドになることを見越して対策をしていること、そうした細心の注意を払いながら顧客価値に向き合っているかどうかを見極めることが重要だ。人材への投資や育成に資するためのキャッシュをしっかり会社が保有していることも注目すべき点なのかもしれない。

これらが揃った環境で、自身の可能性を思う存分に伸ばしたいと望む若手ビジネスパーソン、また組織の壁に悩む人事担当者、経営者は、X Mileの動向にぜひ注目して欲しい。坂井氏にして、「本当に令和を代表するメガベンチャーになれるポテンシャルがある」と言わしめた同社の今後の進化からは目が離せない。

こちらの記事は2023年11月28日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

宮原 智子

写真

藤田 慎一郎

連載急成長スタートアップX Mileに学ぶ「本当に強い組織」のつくり方

2記事 | 最終更新 2023.11.28

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