スタートアップのCOOこそ、“経済学者の原典”にあたるべし──1,000名規模を目指す組織づくりに、「理論」こそが最重要な理由とは

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インタビュイー
渡邉 悠暉

国際基督教大学(ICU)在学中に、人材系大手エン・ジャパンの新規事業企画にてHRtech(SaaS)の企画開発・営業を担当。その後、HRtechスタートアップで、営業兼キャリアコンサルタントに従事。全社MVPを獲得。2018年7月に株式会社ネクストビートでメディア事業・人材支援事業の2つの新規事業を経て、2019年8月よりX Mile株式会社のCo-Founder COOとしてのキャリアをスタート。

松本 拓也

2017年 株式会社オプト(株式会社デジタルホールディングス)へ入社。一貫して人事として、採用・組織開発・人事制度運用などに従事。HRBP機能の立ち上げや経営企画への兼務を経て、2023年 X Mile入社。人事マネージャーとして採用・組織開発・労務周りを担当。

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スタートアップは往々にして、良くも悪くも人事・評価制度が柔軟である。この柔軟性は新しいアイディアや独自の文化を生む土壌となり、革新的な成果を生む可能性を秘めている。一方で、制度の不確定性や変動が多いことで、組織の中での混乱や摩擦が生まれることも。

そんな中で異彩を放つのが、創業から4年で200名規模の組織にまで急拡大した新進のスタートアップ、X Mileだ。

創業のDay1から「売上1,000億円・従業員1,000人」の規模を具体的にイメージし、緻密な人事・評価制度を構築。近年では全国健康保険協会東京支部による健康優良企業に認定されるなど、取り組みの成果が現れはじめている。

同社の人事・評価制度には、Co-Founder COO 渡邉 悠暉氏の深い思いや情熱、哲学が反映されている。曰く、「“原点の理論”と“最先端の知”、その両者のアプローチから生み出された“ウェット(感情への配慮)”と“ドライ(コトに向かう)”のあいの子こそが、これからの成長企業の基本OSになる」とのこと。

本記事では、X Mileの渡邉氏と、人事部マネージャーの松本氏から、X Mileの実例を参考に、「3〜5年後のあるべき姿」から逆算した組織づくりの真髄に迫りたい。

「良くも悪くも柔軟」な人事・評価制度から脱皮し、「良い人事制度」に発展させていく過程で多くのスタートアップが直面する課題とは一体何か。時代の先端を行くX Mileの組織哲学は、多くの経営者や起業家にとって、新たな指針となるだろう。

  • TEXT BY TOMOKO MIYAHARA
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
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理想を語る前に、「原点の理論」と「最先端の知」を学べ。COO渡邉氏の組織哲学

「令和を代表するメガベンチャーを創る」。その信念の下、創業のday1から「1,000億円規模の巨大企業を築くため」、いや「仮に今が1,000億円規模であったならば」どのような組織でなければならないか。X Mile Co-Founder COOの渡邉 悠暉氏は、絶えず自身に問い続けてきた。令和の日本が直面する社会的課題は何か。そして、令和を生きるZ世代の価値観や課題意識が、メガベンチャーの組織構造や経営方針にどのように影響を与えるのか。

その答えを求め、渡邉氏は絶えず自学自習に努めている。成長著しいメガベンチャー、メガスタートアップに共通する要素とは何か。こうした問いを紐解くため、著名な組織論に関するビジネス書はもちろん、組織文化に関する専門論文を読み漁るなどし、日々知識のアップデートを試みている。

渡邉最近あらためて読み直した書籍で、「やっぱこれが一番大事だな」と気づきがあったのは、『組織の限界』(ケネス・J・アロー)ですね。ケネス氏は20世紀のアメリカを代表する経済学者で、「不可能性定理」を発明しました。この理論の中でケネス氏は、「1人の人が意思決定して物事を決められる組織が一番強い」ということを数学的に説明しています。

これはもっともで、マネージャークラスにどこまで裁量を与えるかはっきりと明示して、その人たちに情報を集約して渡すようなタテの組織体系をつくらなければいけない。

さもなければ、いつまでたっても創業メンバーが現場のマネージャーに権限移譲できず、組織がスケールしませんし、創業期からいる古参マネージャーの声が大きくなりやすく、新しく任命されたマネージャーが結果的に裁量を持ちづらくなります。最後には、現場メンバーも、誰に決済を仰げばよいかわからず、社内政治が横行するといった事態にまで発展することも。

ベンチャー・スタートアップの世界では「フラットな組織」を好む人が多いようにも感じますが、あらためて、タテの組織をきれいにつくり込む必要性を感じさせられました。

もう1冊、沼上幹氏らが書いた『組織の<重さ>』には、「タテ型の官僚制組織と、それをサポートするヨコの連携がうまく機能している組織が一番スムーズにビジネスを進められる」とあります。組織が大きくなると、腐敗したり、政治的にドロドロしたりしがちなんですが、タテ型の組織をつくったうえで、メンバー同士ヨコのつながりでコミュニケーションを取って助け合うことで、腐敗を生まない組織をつくるという主張ですね。

流暢に語る渡邉氏だが、もちろん単なる「理論家」に留まらない。創業当初から「売上1,000億円・従業員1,000人」規模の組織を具体的にイメージし、スタートアップでありながら、堅実で緻密な人事・評価制度を構築してきた。

これまでのX Mileの歩みについてはこちらの記事を参照

同社の先進的な組織策は現在実を結びつつあり、近年では全国健康保険協会東京支部による健康優良企業に認定され、大企業やメガベンチャーからの転職も増えている。

COOとして組織を率いる渡邊氏が、どのように人事や評価制度に取り組み、組織の拡大に貢献しているのか、その背後にはどんなストーリーがあるのだろうか。

切り口は大きく3つだ。1つ目は前職までの経験に基づく知見、2つ目は「原点の理論」と「最先端の知」に当たること、3つ目は第一線で活躍する経営の先輩から学ぶケーススタディ。次章から詳しく見ていこう。

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「普通のベンチャー」の再生産に陥らないために、原点の理論と最先端の知を貪欲に吸収

X Mileの組織づくりには、渡邉氏の哲学やビジョンが色濃く反映されている。HR領域への興味から、著名な書籍には一通り目を通し、論文まで読み込んでいるのは前述した通り。ほかにも彼の哲学に影響を与えているのが、前職までに培った組織づくりの知見である。

1つが、創業数年目のITベンチャーでの経験だ。この企業について、渡邉は「KPIマネジメントがすごく洗練されていて、まさにプロフェッショナルの集団だった」と振り返る。感情的な部分を重視するというより、「コトに向かう」「やると決めたらやり通す」という姿勢を一貫して貫いていた。その結果として事業の急成長が続いていた。一方で、強固なプロフェッショナリズムの功罪とも言えるが、ある種ドライとも捉えられる側面から、離職率は一定の課題となっていた。

もう1つが、大手企業。上に挙げたITベンチャーとは打って変わって、大きな組織であるがゆえに雰囲気にゆとりがあり、人を大切にする社風があった。一方で、ベンチャー企業ほど苛烈に成長を志向している人の人口は多くなかった。一人当たりの生産性が、当時は組織的な課題になっていた。

渡邉過去に経験した2社はそれぞれに良いところもあれば、小さくない課題もありました。その中間で、「コトに向かいながらも人を大切にするメガベンチャー」はどうつくればいいのか。それが自分のテーマになりました。

当社のマネージャー陣には「X Mileはドライな会社なのか、ウェットな会社なのか、どっちなんですか?」とよく聞かれます。僕は「どっちも」と答えていますね(笑)。

ドライさとウェットさは、両方兼ね備えていたほうがいいと思っているんです。

FastGrow編集から見れば、渡邉氏は前職での経験をベースに論文や書籍で知識と理論を積み上げ、自分なりに咀嚼することで、「現代の創業期スタートアップ」の組織論に昇華しているように見える。だが、渡邉氏はあくまで、ミッションとして掲げる「令和を代表するメガベンチャーを創る」のために必要な取り組み・施策を行っているだけにすぎない。

渡邉論文の中には、そもそもITやZ世代といった現代の実情を反映していないものも多い。だからこそ、原点となる理論に当たること、最先端の知に触れること、この両方のアプローチが重要だと思っています。

原点となる理論とは例えば、古典的な経営学理論や論文ですね。最近の書籍はどうにも“キャッチーな部分だけ”を抽出した「わかりやすい経営学の理論」のようなものが多くなってきていると感じています。もちろん、それも大事ではあるんですが、それだけを参考にしていると「普通」のベンチャーが再生産されるだけ。その先に行こうと思うと「原点を突き詰めるか」、「最先端の知に当たるか」の2択なんです。

あとは、現場の第一線で活躍している経営者さんなど社外の先輩方やCHROに直接アポを取って壁打ちさせていただいたり、ケーススタディを学ぶ場を設けています。最近だとラクスルでCOOを務めていた福島広造さんにお会いして1時間お話させていただきました。

福島さんは、高利益を創出できる具体的なモデルをきちんとつくったうえで、それにフィットする組織モデルをつくることが大事だと話していました。

たとえば、事業特性から鑑みて、マネージャー一人に対してメンバーを何人つけるべきなのか。それぞれの年収はどれくらいにして、一人当たりの売上目標をいくらにすれば、ユニットあたりの利益が最大化されるのか。こうしたモデルをつくり、拡大再生産していくのが、1→10や10→100のフェーズでの事業開発だと話されていて、興味深かったですね。

前職までの経験に基づく知見、「原点の理論」と「最先端の知」両者のインストール、先輩経営者から学ぶケーススタディ。これら三つの観点から知識のインプット・アウトプットを繰り返し、X Mileの組織制度に落とし込む渡邉氏。

具体的に他のスタートアップとどこが違うのか、X Mileの組織面でのユニークさとは一体何か、続く章でその核心に迫っていきたい。

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「人はそんなに強くない」。
“性弱説”を起点としたドライとウェットのハイブリットな組織こそが理想

組織づくりに向き合う際、渡邉氏は常に自分自身に対し、「そのやり方は1,000人規模でも通用するか?」と問いかけるという。そんな姿を間近で見ているメンバーの一人が、人事部マネージャーを務める松本拓也氏だ。渡邉氏が「大規模な組織を理解しているからこそ、当社の現状を見てどうしたら目標に到達できるかを見通せる人物」と信頼を寄せる松本氏から見て、渡邉氏のリーダーシップをどう捉えているのだろうか。

松本渡邉さんを見ていて思うことは大きく2つあります。1つは、「令和を代表するメガベンチャーを創る」ということを念頭に置いて組織づくりや制度設計に落とし込んでいる点。もう1つが、まさにウェットとドライの合いの子の組織をつくり上げている点です。

「令和を代表するメガベンチャーを創る」ことを見据えた組織づくりに関して、わかりやすい例を挙げると昇給率ですね。多くの企業で昇給率と言えば「どう人件費を抑えるか」といった、コストをコントロールするためのものと考えられがちです。でもそれだと給料が上がりにくいという構造が生まれてしまい、その結果、成長したミドルレイヤーは離脱していき、企業自体の成長率の低下につながりますよね。

そんな旧態依然とした日本企業や、マクロ構造を変えたい。そんな想いが「令和を代表するメガベンチャーを創る」というミッションにも込められています。だからこそ、我々は時代を象徴するような、そしてお手本となるような企業であらなければならない。

まずは我々が、成果を出した人は「大胆に」昇給させたいと考えているんです。それぞれ高い達成目標を掲げてもらって、それを達成すればしっかり給与に反映する。いち企業の成長という観点だけでなく、X Mileを参考にして、多くの企業の給与が上がれば消費や雇用といった好影響が現れることも見据えているのです。

二つ目のウェットとドライの両方を兼ね備えた組織という観点はどうだろうか。

松本ウェットとドライの合いの子の組織について。X Mileの仕組み化やKPIマネジメントはとても洗練されていると感じています。この仕組み化のおかげで再現性が高まり、しっかりと成果が出ていると思います。

一方で、コミュニケーションは驚くほどウェットに行われています。特に、“ラストワンマイルのデリバリー”の部分。例えば、新任マネージャーが異動伝達などのコミュニケーションをする際は事前にスクリプトと想定問答を作成して、それを上長がチェックしたうえでコミュニケーションをするように促されています。

これだけ若くて急成長している会社なので、属人的なパワープレーで乗り切っている部分も多いのかと思いきや(笑)、仕組み化と合わせてラストワンマイルのコミュニケーションを大切にしているからこそ、推進力が維持されているんだろうと感じていますね。入社前と入社後ではそのイメージが180度変わったのを、覚えています。

渡邉ドライとウェットの言い換えとして、性善説・性悪説といった言い方ができると思うんですが、僕自身はそのどちらでもなく、「性弱説」だと思っているんです。その前提には、「人間ってそんなに強くないよね」という思いがあって。

ごく一部の強い人間は、すごくドライに淡々とビジネスのことだけを考えられて、共感が得られなくてもびくともしない。でも普通に生きていたら、人は共感を求めたくなるものだし、承認されたい。自分が頑張っていることに対してフィードバックがほしいと思うものなんです。

そうした一定の感情の満足のうえにプロフェッショナリズムを求めるべきだと思うので、感情部分はすごく大切にしていますね。

僕がドライだと感じていた以前在籍していたITベンチャーも、当時はカリスマ的なCxOがいっぱいいて。みなさん普段はドライで厳しい一面が目立つんですけど、別の面ではものすごく尊敬できる、感情的にぐっと惹きつけるものがありましたね。

渡邉氏がこうした組織づくりを実行できるのは、事業を仔細に見ているからだ。もしも、X Mile創業後、事業に別の責任者が就き、渡邉氏が組織や人事のロールのみにとどまっていたとしたら、現在の組織はあり得なかっただろうと松本氏は語る。

松本渡邉さんが、経営者でありながら「ほぼ現場レベル」で「HRBP(Human Resource Business Partner)」としての役割を担っていたのが大きいんだと思います。文字通り、自分自身で責任を持って事業を回しながら、一方で組織・人事についても具体的に検討し、採用・育成含め最適化していく。事業と組織の密接度が非常に高いと感じますね。

渡邉それは、創業時から人事や組織の手綱は握ったままでいようと考えていたからですね。なぜなら、人事と経営者って喧嘩しがちなんです。人事はウェットな従業員的言語、経営者はドライな経営的言語で話しがちだからです。お互いに使う言語や基になる視点が違うので、そこは自分のように創業経営者が橋渡し的な役割でいなければと思っていました。

もう1つ、労働集約的な事業モデルが多い当社の現状を考慮しました。SaaSにしてもHRにしても、採用数と採用の品質がキーサクセスファクターになる。だとすると、採用も手放さずにいたほうがいいだろうと思ったんです。

ただ、ウェットとドライ、両方を大切にする仕組みとカルチャーができつつあるので、これが自律駆動し始めているなと感じています。そろそろ自分がいなくても、人事と経営はうまくパイプを繋げられそうです。

渡邉氏のこの発言にうなずきながら、松本氏はX Mileで実際に起こったあるエピソードを語る。

松本当社では創業2期目から、半期に一度全社の総会イベントを開催しています。実は、渡邉さんがこのイベントを開催しようと言ったとき、共同創業社長の野呂さんが「このイベント、この金額を投資してまでやる意味あるの?」と疑義を呈したんです。コロナ渦ということもあり野呂さんはCEOとしてコストを意識して指摘したわけなんですが、渡邉さんは「絶対必要だ」ということで、喧嘩寸前の議論の末、開催が決定した経緯があると聞いています。

成果が見えにくい一方でコストがそれなりに大きい取り組みではあるのですが、実際にいま、このイベントは社内のカルチャー醸成にものすごく大きな効果を発揮しています。ただ、こうしたイベントは人事部だけで発想してもうまくいかなかっただろうと思いますね。組織と事業の両方を見ている渡邉さんだからこそ信念をもって押し通せたのではないかなと。

渡邉僕、文化人類学がめちゃくちゃ好きで、そのなかに「ハレとケ」の概念ってあるんですよ。人間って、日々変わり映えのないルーティンの仕事をしていると嫌気が差してくるものだと言われています。だから、定期的にお祭りで気分をぶち上げる。そうすると、成果を出すことに対してエネルギーを向けられるようになるんです。そんなアニマルスピリッツを失わないためにも、年に1〜2回は「ムダ」だと思えるくらいの取り組みをする必要があると感じています。

というのも、日々顧客・成果に向き合っているメンバーは、もちろん一人の人間。色々な感情の揺れ動きがあると思います。KPIと評価だけでドライに縛るのは経営層の私からすれば楽で簡単ですが、せっかくX Mileにジョイン頂いたのであれば、押しつけにはならない形で少しでも感情が前向きになるような機会を作っていきたいんですよね。

でも野呂さんは「ハレとケ」について学んできたわけではないので、イベントを開催することで離職率が減ることや、それによって将来コストカットできることを理論的に訴えて、開催にこぎ着けました(笑)これもウェットとドライの橋渡し的な取り組みですね。

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「令和を代表するメガベンチャー」から逆算すれば、“高水準の報酬制度”も当然だ

ここまで、組織づくりに当たっての渡邉氏の哲学やビジョンを紹介してきた。それを実際にどう組織に反映しているのか、ここからは具体的にX Mileの人事・評価制度の独自性や目的を見ていこう。

ここで紹介したい同社の主要な人事・評価制度は大きく3つ。高水準な報酬制度と経営権的報酬、マネジメント経験の機会提供だ。このセクションでは、高水準な報酬制度について、次のセクションでは経営権的報酬とマネジメント経験の機会提供について解説していく。

まず、同社の報酬制度について。一般的な組織では、役職が上がらなければ給与も上がりづらい。しかし同社では、プレイヤーにも昇給の機会が用意されている。また、リクルートや東証プライム上場ベンチャーなどの報酬セルを参考とし、それとほぼ同水準の平均年収900万〜1,000万円を実現できる報酬制度を設計しようとしている。

松本 ハイレイヤーに関しては、COOの渡邉、代表の野呂が毎日数名の候補者の方と採用面談で会い続けているので各職種のどのレイヤーの方がどれだけ報酬を得ているか、前提としての相場観があります。加えて、四半期から半期に一度、競合調査をして、勇気を持って昇給しにいっているなと思いますね。人事としては見ていてヒヤヒヤします(笑)。

ジュニアレイヤーの方は、はじめは一般的な初任給水準からスタートしますが、成果を出せば半年〜1年でも年収50万〜100万円単位で一気に昇給しています。

渡邉創業間もないスタートアップがここまで強気なオファー金額を出すのも、全ては目指す姿から逆算した意思決定です。中長期的な時間軸を見据えた上で、X Mileのカルチャーにフィットしている方にはしっかり投資することが重要だと思っています。

東証プライムに上場するにはどんな体制で、誰が必要か、数年後の組織図から逆算して人を採用するということは、創業期からかなり意識していることですね。

もちろん、事実として創業期に比べてビジネスも組織も次のステージに上がった感触があり、それもオファーの金額を強気に出せるようにはなった要因ではありますが(笑)。

どうしても人事の立場では、「今あるテーブルをどう運用しているか」に囚われ、その延長線上でしかオファーが出せなくなってしまうことが往々にしてあるだろう。X Mileが令和を代表するメガベンチャーを目指すのであれば、既存のテーブルの運用にこだわるのではなく、目指す姿から逆算し中長期的に制度がどの水準であるべきか、そのためにどんなポジションの人を採用しなければならないかを考えなければならないというわけだ。

松本もちろん多くの社員が既に在籍している場合、簡単に報酬テーブルを変えることはできません。

一方で、既存の報酬テーブルの運用にこだわり、結果として優秀な社員が離脱する/優秀な方を採用できず、事業が成長しなければ元も子もありません。

理想の事業・組織状態から逆算して、どのような人が必要なのか、その人たちが市場でいくらもらっていて、そこに対していくらのオファーを出すか。報酬テーブルとのギャップが生まれたときに、既存メンバーとの整合性を含めて何をどう調整をしていくのか。X Mileはそんな既存の延長線上にないことを創業当初からやり続けています。

X Mileは既にメンバーが200人規模になってきている。時には実行に移しにくくなる場面もありそうなところだが、松本氏は前職でそれを痛感したからこそ、X Mileがこれから成し遂げようとしていることの「すごさ」を身にしみて実感しているのだ。

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評価面談は“毎月”実施。抜擢人事とマネージャー育成への強いこだわりのワケとは

既存事業の成長や新規事業の拡大に伴い、X Mileでは抜擢人事といった経営権的報酬を充実させている。一般的な企業は、異動や昇格を行うのは半期や四半期に一度だが、同社の場合はなんと毎月必ず行われているという。

渡邉毎月結構な数のメンバーが入社してくるので、通常のサイクルだと管理職への登用や抜擢が追いつきません。なので、誰を昇格させるべきかの確認は毎月行っていますし、マネージャーからも自動的に情報が上がってくるようにしています。

また、マネージャーは次のマネージャーを、リーダーは次のリーダーを育てることを第2のミッションとしていて、メンバーに対しても新たなミッション、次のキャリアを見せながらコミュニケーションしてもらっていますね。

もちろん、昇進とは逆に降格することもありますが、メンバーとの不和を産まないよう数ヶ月に渡り丁寧なコミュニケーションを重ね、最終的には合意を得るようにしています。

FastGrowではこれまで幾度にわたって、同社の成長環境への取り組みに密着を続けてきた。

もちろん抜擢人事の前提には、既存事業の成長が必須だ。事業成長がなければ新しいポストも生まれない。年率500%成長を続けるX Mileだが、それでも抜かりなく「四半期ごとに新規事業のタネを仕込んでいる」と松本氏は続ける。

松本既存事業が成長していると、どうしてもそこを伸ばすことに注力する力学が働きます。ところが野呂さんや渡邉さんは現状に満足せず、次のビジネスチャンスはどこにあるかをそれぞれが探っている。機会があればそこにポストをつくって、社内の誰に任せるか、適任者がいないのであれば採用するといった動きをしています。

この抜てき人事の評価基準は、個々が持つケイパビリティと事業のキーサクセスファクターがフィットするかどうかにある。

渡邉大前提として、向こう5年でどんな事業がしたいか、週次のミーティングで野呂さんと話し合っています。そこから、事業のキーサクセスファクターが何で、どんな能力を持っている人が必要か、人員配置を頭の中でシミュレーションしているんですよね。

今当社は120〜150名のメンバーいますが、マネージャーとも週次でミーティングして、誰がどんな強み・弱みを持っていて、これまでどう成長してきたか、そろそろ次の機会を与えるべきではないかといったコミュニケーションをしています。

ここまでの話から、一見、空いたポストに能力がフィットするメンバーをパズルのように当てはめているように映るかもしれない。X Mileの場合、ただ能力軸だけでなく、人間性も加味して抜擢人事を行う点がユニークだ。

松本そのポストに就いたとき、周りにいい影響を与えられるか。最後にそうしたチェックが入ります。事業成長はもちろんですが、組織への影響も考慮したうえで人事を決定する。X Mileらしいなと思いますね。

抜擢人事は組織の公平性や透明性の確保、メンバーのモチベーション向上といったメリットがある反面、抜擢した人材が実務に耐えうるかといったリスクも存在する。同社では組織の中で常に「小さな抜擢」を繰り返し、リスクの軽減を図っている。

渡邉当社には委員会制度などがあるので、そこでどんな役割を担っているか、チームでどんな役割を果たしているか、事前にマネージャーから情報を吸い上げています。ですので、社内からは驚かれるような大抜擢でも、抜擢する側からすると全体の8割は「カタい抜擢」とも言えますね。

同社ではマネージャーに対し、現場のマネジメントはもちろん、事業をグロースする役割を求めている。そのため、マネージャーの裁量を明確にし、個々の第1ミッション、第2ミッションを定義したうえで、当社のマネジメントの考え方や部下との接し方、アサインの仕方について学ぶ機会を提供する。目の前の組織の状態、数字の状態だけでなく、向こう3カ月、半年後のことを考えられるマネージャーの育成を念頭に置いているのだ。

研修の内容や1on1や定例ミーティングで運用するテンプレートは、渡邉氏と野呂氏、経営企画のメンバーで作成。マネージャーは直接経営陣とコミュニケーションするため、裁量を持った状態でスピーディーに意思決定ができる。それが成長にもつながっている。

こうした教育体制を実現するためには、コミュニケーションラインが整っていることが大前提だという。

渡邉マネージャーが経営陣とコミュニケーションする際に、「経営陣の言っていることが理解できない」となると、経営陣としては「理解できないなら権限を戻しなさい」という形でマネージャーの権限を奪ってしまいかねないですよね。

当社はお互いの言語的なすり合わせをしたり、共通のガイドラインをつくったりして相互に理解したうえでコミュニケーションしているので、「ズレ」が起きません。マネージャーは裁量権を維持できるので、フェアな状態で仕事ができています。

とはいえ、事業によってキーサクセスファクターやKPIを置くべき場所は異なっている。その点の景色合わせや言語のすり合わせはどのように行っているのだろうか。

渡邉そこは、「報告テンプレート」「会議体の整理」「マネジメントガイドライン」の3つで担保しています。戦略、HRマネジメント、オペレーションの3すくみを整理することが大切なので、数値の報告があり、目的・戦略があり、それを支えるマネジメントの仕方やオペレーションをどう動かすかということで、言語のすり合わせを行っています。

松本人事の当事者として思うんですが、マネジメントの共通言語ができているのは大きいですね。当社では社内ウィキペディアのようなシステムに数千本の記事が溜まっています。そこを見れば、X Mileで求められるマネージャーの考え方や評価面談の進め方が分かる。マネージャーの実務で迷ったら立ち戻るポイントになっています。

「マネージャーに権限を渡す」というトピックでもう1つ、同社には「斜めがけ」と「1つ飛ばし」のコミュニケーションを禁ずるルールがある。斜めがけは、例えば別部署のマネージャーが別部署のメンバーに指示を出すこと。1つ飛ばしは、上司→マネージャー→メンバーの関係で、上司がマネージャーを飛ばしてメンバーに直接指示を出すことを言う。斜めがけや1つ飛ばしが起こると、マネージャーの権限が曖昧になってしまう。

同社がマネージャーの権限の明確化にこだわるのは、内部統制に関わる重要な要素だからだ。そしてもちろんこれも「目指す姿から逆算した」組織づくりの一環だ。

渡邉現場のマネージャーが求心力を持ち、タテの組織を機能させなければ、内部統制が効きません。令和を代表するメガベンチャーを目指し、上場を見据えるうえで、早い段階から内部統制を意識する必要がある。そのために、マネージャーに裁量を与えることが重要だと思っています。

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まだまだ「私がX Mileの創業メンバーだ」と言えるフェーズ

令和時代の旗手となるメガベンチャーを目指すX Mile。その大志のもと、教育や人事の枠組みを確立してきた。では、この先X Mileの舵取りはどのように進むのか。渡邉氏によれば、既に次なる5年間の事業計画は明確に策定されているとのことだ。

渡邉ミッションに向かううえで、一番の課題は事業家人材とマネジメント人材の不足です。採用やマーケティングに関しては一定の知見や人材が揃ってきたので、事業責任者としてキャリアを邁進したい、成長したい人には非常にいいタイミングですね。

実際に、最近結婚したばかりの人や、子どもが1〜2歳といった方で、第2創業期の会社に入ってもっと成長したいといった方が参画するケースが増えています。ベンチャーには珍しく、当社は子ども手当の制度を設けていますし、お子さんが急に発熱した場合などは帰宅したりリモートワークに切り替えたりと柔軟に働けるカルチャーもあります。

キャリアもライフも両方取って、かつレバレッジをかけたキャリアを築きたい人にとってはよい環境ではないかと思います。

松本そうですね。急成長を続けているとはいえ、まだメンバーと経営陣の距離が近いですし、管掌範囲外のことでも提案合理性があれば、翌日には会社の制度として実装されるくらいのスピード感がある。自分が会社をつくっている実感が得られると思います。

新規事業を複数仕込んでいる点にもつながりますが、この規模でマルチにプロダクトや事業を展開しているからこそポストが生まれている。創業時からこれらを見据えて基盤を整えてきているので、つまずきにくい点も特徴ですね。

まさに、レバレッジをかけて自分のキャリアをつくっていきたい方にとって、いま当社に参画することで、3〜5年後、「自分たちがこの事業、この会社をつくった」といえる。これはおもしろいフェーズなんじゃないかと思います。

渡邉いや、本当にそうですね。今入社すれば、将来的に「私がX Mileを上場させた」とか「私が令和を代表するメガベンチャーを創った」とか言えます。

僕は現場のマネージャーこそが一番の主役であり、社長だと思っているので、その人のキャリアを全力で支援しますし、それが上司としての責任だと思っています。現場の皆さんと一緒に成長していきたいですね。

同社は、令和を代表する「売上1,000億円・従業員1,000人」規模の企業となることを前提にしているからこそ、上述した組織制度に加え、D&Iの観点もこのフェーズから取り組みを強化している。将来の潜在的な顧客も含め、多様なニーズに対応していくためには、ジェンダー、年齢、国籍、価値観など、より多様なバックグラウンドを持つメンバーで組織を構成する必要があるからだ。

理想を語るだけに終始せず、「原点の理論」と「最先端の知」に触れ、貪欲に実践のサイクルを回し続けるX Mile。ウェットとドライの合いの子の組織の作り方といった実践的な文脈のみならず、渡邉氏の「組織」に対する洞察は、多くのスタートアップの人事課題を解決するヒントとなり得るのではないか。

そんな同社で「令和を代表するメガベンチャー」を創り上げていく過程、それは多くのビジネスパーソンにとってとびきり刺激的な経験となるだろう。我こそは、と思う方はぜひチャレンジしてみてほしい。

こちらの記事は2023年10月31日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

宮原 智子

写真

藤田 慎一郎

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