「仕組み化」とはマニュアル作成やオペレーション構築のことではない
──平均売上成長率300%超えのACROVEに「誰もが活躍できる」組織づくりを学ぶ

インタビュイー
荒井 俊亮
  • 株式会社ACROVE 代表取締役 

株式会社ACROVE(アクローブ)代表取締役。日本大学法学部在学中にACROVEの前身となる株式会社アノマを設立。植物性プロテインをはじめとした自社ECブランド事業を展開する傍、完全成果報酬型ECコンサルサービスを提供し、事業者のEC拡大や全体設計についても携わる。現在はEコマースやマーケティングの知見を生かし、EC事業者向けBIツールや周辺サービスを展開している。

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ビジネスシーンでしきりにその重要性が叫ばれる、「仕組み化」とは何だろうか。業務のマニュアル化?あるいは、オペレーションの構築?

独自のBIツールを用いてEコマースの売上を最大化する事業を展開するACROVEの代表取締役、荒井俊亮氏は「それだけでは不十分」と力強く語る。

2018年11月創業のACROVEは、独自開発のBIツール『ACROVE FORCE』を用いて、各ECマーケットプレイス内でのマーチャンダイジング、ブランディング、物流、サプライチェーンなどを最適化し、ブランドの成長を促進する事業を展開している企業だ。このようなビジネスモデルは「ロールアップモデル」あるいは「ECアグリゲーター」などと呼ばれ、米国ではユニコーンも生まれるなど高い評価を得ている。

同社の株主にはイースト・ベンチャーズやサイバーエージェント・キャピタルなど、著名投資家が名を連ね、シード・アーリー期ながら合計30以上のECブランドを運用している。

その著しい成長の根幹にあるのが「仕組み化」だ。社員数は15名(2021年2月時点)だが、数百、数千人の社員を抱えるメガベンチャーにも匹敵するレベルの「成長のための仕組み」を構築している。「創業して間もない頃から、メンバーが主体的に学び、成長しつづけるための『仕組み』を整えてきた」と語る荒井氏に、「メンバー全員が経営を担えるスキルを身につけられる」仕組みの構築法を聞く。

  • TEXT BY RYOTARO WASHIO
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
  • EDIT BY MASAKI KOIKE
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仕組み化の要諦は「事業全体を見せること」と「メンバーが自発的に学べる環境をつくること」

「仕組み化が大事」「今期は仕組み化に力を入れる」……ビジネスシーンにおいて、「仕組み化」の重要性が語られることは多い。

しかし、その多くが、業務オペレーションの構築やマニュアル作成といった付け焼き刃の施策にとどまっているのではないだろうか。荒井氏によると「長期的に強い組織を作るためには、初期から“本当の意味での仕組み作り”にこだわる必要がある」という。

株式会社ACROVE 代表取締役 荒井俊亮氏

荒井アルバイトの方向けのマニュアルを作り「これさえ読めば業務が回せる」状態を作れば、短期的に事業を成長させることは可能です。しかし、それだけでは本当に強い組織にはならないと考えています。

事業が成長する中では、「マニュアルにはない」対応が求められる局面が必ず訪れます。だからこそ「事業全体を見る力」と「自発的に学べる環境づくり」が大切なんです。

 

ことわっておくが、荒井氏は、業務マニュアルやオペレーション構築を否定しているわけではない。ACROVEにも業務マニュアルは存在し、それらはむしろ、他社と比較してもかなり詳細かつ精密なものだ。

ACROVEの業務マニュアルの一例。notion上に蓄積している。

ただ、ACROVEにおける仕組み化の要諦はそこにはなく、前述のように「事業の全体を見せること」と「メンバーが自発的に学べること」にある。緻密な業務マニュアルは、あくまでも「業務に行き詰まったときの国語辞典のような役割を果たすもの」であって、育成を目的としているものではない。荒井氏は、事業全体を見ようとせず、“短期的なハック思考”だけを持つことに警笛を鳴らす。

荒井たとえば、『楽天市場』の運用に関する知識だけを学んだ社員がいたとしましょう。もちろん、その知識に特化すること自体は悪いことではありません。しかし、事業全体が見えていなければ、『楽天市場』を利用することが目的化してしまう。

事業の目的が「いかに売上を向上させるか」であれば、手段は『Amazon』でもいいし、「オフラインの店舗集客」でもいいわけです。単なる業務のマニュアル化だけでは、個々のメンバーが正しい意思決定をすることができなくなってしまいます。

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独自の「TMBモデル」で、知識やスキルを細分化して学ぶ

より中長期的な知識やスキルを自発的に学ぶことを重視する荒井氏は、それを実現するために独自の育成スキーム「TMBモデル」を構築している。

TMBモデルは、経営学者であるロバート・カッツ氏が提唱した、ビジネスパーソンが身につけるべきスキルの“割合”を示す「カッツ・モデル」を参考にしている。ビジネスパーソンに求められるスキルを「テクニカルスキル(業務遂行能力)」「ヒューマンスキル(対人関係能力)」「コンセプチュアルスキル(概念化能力)」に分類し、メンバー層はテクニカルスキル、経営層に近づけば近づくほどコンセプチュアルスキルが求められると説明するモデルだ。

1950年代に提唱されたこのモデルをもとに、荒井氏が考案したのが「TMBモデル」だ。

荒井カッツ・モデルは非常に的を射ていると感じています、一方で「コンセプチュアルスキル」と言われてもわかりづらいので(笑)、私たちは業務遂行能力を指し示す「T(テクニック)」、マネジメントの際に求められる姿勢を言語化した「M(マインド)」、経営を手がける際に求められるスキルやスタンスを意味する「B(ビジネスマネジメント)」にスキルを再分類しました。

メンバー層はT、マネジメント層はTに加えてMを、そして経営層になればBを学ぶ必要がある。ACROVEのメンバーは、このTMBモデルに沿ってさまざまなスキルやマインドを自発的に身に着けることになります。

TMBモデル

T(TECHNIC)
業務の知識
事業ドメインの知識
経営の知識
M(MIND)
マネジメント層に求められる心構え、スタンス
B(BUISINESS MANAGEMENT)
経営者としてのスキル、スタンス

TMBモデルの特徴は、大きく分けて二つ。一つが前述のように「事業全体を見せる」こと、もう一つ「メンバーが自発的に学ぶ仕組み」になっていることだ。

荒井「事業全体を見せる」ことと、「気づきを与えて自発的に学ぶ環境をつくること」を、同時に手がけることが大切です。たとえば、いくら事業全体を見せようとして「財務が大事」とメンバーに伝えても、「なぜ必要なのか」が分からないと、ただの暗記になってしまうし、聞いている間に眠くなってしまいます(笑)。ですから、そもそも「財務が必要だ」と気づくまでのプロセスを大切にしています。

たとえば、セールスとしてクライアントにEC施策の提案をしているメンバーがいるとします。提案後、お客さんに「売上のシミュレーションが欲しい。営業利益でどれくらい出るのか知りたい」と言われたら、そもそも営業利益と売上総利益はどう違うのか、あるいは事業計画はどうやって作るのかを勉強しないといけません。これに気づいたタイミングで初めて「実は、財務って損益計算書っていうのがあってね、営業利益とは、こういうものでね……」と知識を提供するようにしているんです。

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自発的な学習は、コーチング理論の延長。“自ら成長する組織”とは?

荒井氏の言葉を借りれば、知識が本当に身につくのは「自らがその知識を必要だと感じたとき」。だからこそ、企業からメンバーに知識を提供する「ティーチング」的なアプローチではなく、メンバーから「何を学ぶべきか」を引き出し、必要に応じて知識を提供する「コーチング」的なアプローチをするのは前述の通りだ。

しかし、実際の現場では、メンバーが気づきすらないことも多い。そんなときは、いかなる対応を取っているのだろうか?

荒井マネジメントのあり方は、大きく2つに類型化できると考えています。1つ目は、「恐怖」や「罰則」で統治するスタイル。監獄をイメージしてもらうと分かりやすいかもしれません。厳格なルールを定め、ルールを破った者には罰則を与える。罰則への恐怖によって、メンバーの行動を統制するやり方ですね。このスタイルは短期的な成果をあげるためには有効かもしれませんが、各々が考えて行動しているわけではないので、メンバーから新しい気づきは出てきません。

もう一つのスタイルが「信頼」と「共感」をもとに組織をマネジメントするスタイルです。大切なことは、メンバーに心理的安全性を感じてもらうこと。そのうえで共感できる高い目標を提示すれば、メンバーは自発的にその目標にチャレンジしてくれ、その過程で「気づき」をたくさん得られます。これこそが、「自発的に学べる環境作り」です。

ACROVEが理想とするのは、後者のスタイル。ですから、マネジメント層には「いかにメンバーに心理的安全性を感じてもらい、気づきを与えられるか」という方法論をインプットしてもらっています。これが「マインド(M)」の部分です。もちろん、このMについても、一方的に教えるのではなく、マネジャーたちが必要だと感じたタイミングで、必要な事を私から伝える仕組みにしています。

となると、TMBモデルの「B」、つまり経営に関する知識やスタンスも徹底的に仕組み化している……と思いきや、「経営に関する学習だけは、5年や10年では仕組み化できない」と荒井氏。

荒井B、つまりはACROVEの経営を担うための心構えについては、私たちが大事にしている4つの価値観(「People first」「Use leverage」「Wisdom and speed」「Be consistent」)が、いかにして事業成長につながるのかを説明するのみ。経営を担う可能性がある人は、会社への責任感をもとに、仕組みが無くとも会社や自らに足りないものを考え、学び続ける力をつけてほしいと思っているからです。

マネジャーとして大きな成果を残し、次のステップに進む可能性があるメンバーたちには、これらの価値観がなぜ大事なのかを丁寧に説明します。たとえば、「大企業に勝っていくためには、知恵とスピードが必要だよね」と。「では、どうすれば、もっと知恵とスピードを持った組織になれると思う?あなたはそういった組織をつくるために、どういう力をつけるべきだろう?一緒に考えていこう」と話すんです。こうした問いかけを続けることによって、自分自身や自部署の担当領域を越えた、会社への責任感が芽生えてくるのだと考えています。

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仕組み化への執念は、自身の経験と事業戦略の両輪から生まれた

繰り返しになるが、ここまで紹介してきた「仕組み」は、数百人規模のメガベンチャーのものではない。創業2年あまりで社員数たった15人、シード・アーリー期真っ只中のスタートアップが、これだけの仕組みを構築しているのだ。

荒井氏の仕組み化へのスタンスを形容するとき、「こだわり」という表現では不十分だろう。そこには、強い「執念」が感じられる。その原点のひとつが、中高時代の陸上部での経験である。

荒井中学時代から陸上部に所属していました。中学時代も、高校時代も国内で三番以内に入る強豪チームでしたが、僕の場合中学校では活躍できていたのに、高校ではどんどん同期に抜かれて、とうとうレギュラー入りもできませんでした。

結果が出なかったこと自体より辛かったのは、「なぜ自分が伸びないのか? なぜ失敗したのか? 」という問いに対して、うまく答えを言語化できなかったこと。だからこそ、メンバーには同じように失敗を言語化できずに悩むようなことはあってほしくないな、と思います。

言い換えれば、なるべく多くの人が各々の長所を理解し、それを発揮できる環境を作りたいと考えるようになったんです。これがいまでも、組織構築の原動力になっています。

とはいえ、一般的にスタートアップでは「事業フェーズによって求められるスキルが違うから、組織の成長に応じて必要な人材も変わる」と言われている。この通説について、荒井氏はこう語る。

荒井「事業フェーズによって求められるスキルが違う」は正しいと思います。一方で「(事業フェーズによって)必要な人材も変わる」はファクトではないと思います。

“組織の成長に人の成長が追いつかない”問題の原因は、ほとんどの場合、センスではなくスキルにあると気づきました。つまり「スキルとは何か?」という問いに対する答えを言語化できれば、メンバーの成長を促進し、「活躍できないから辞める」というメンバーを減らせると考えたのです。そのためには、事業フェーズに応じて求められるスキルを言語化し、装着するための仕組みが必要だと思いました。

もちろん、ACROVEの「仕組み」は荒井氏の「組織の成長に追いつかず、辞めていく人を減らしたい」という想いのみを実現するためだけのものではない。ACROVEが勝負する領域には、Amazonサードパーティ・プライベートレーベル事業を買収するサービスを展開し、創設2年でユニコーン入りしたThrasioをはじめ、米国を中心に競合がひしめく。このEC市場で勝ち残り、事業成長を実現していくために、肝となるのが「徹底的な仕組み化」なのである。

荒井僕らと同じようにニッチ市場のEコマースで戦うコングロマリット・モデルは、一つひとつのEC運用に「時間のリソース」をかけることができません。

週の労働時間は40時間しかなく、その中で売り上げを向上させる戦略を立て、それぞれのECプラットフォームの運用や販売法を考える必要があります。だからこそ、僕たちはソフトウェアによる効率化と同じくらい、「組織の仕組み化」を重要視しているんで。事業が拡大すればするほど、仕組み化が大きな参入障壁になると思います。

2021年3月に移転したばかりの新オフィス。移転当時は社員数15名でかなりスペースに余裕があったが、1年以内にはこのオフィスがいっぱいになる採用計画を立てているという。(写真提供:株式会社ACROVE)

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多くのスタートアップを悩ませる「仕組み化」を、ACROVEが実現できた理由

徹底した仕組み化を進めるのは、組織の規模が拡大してからでは遅いと荒井氏は指摘する。2021年2月時点でのACROVEのメンバー数は15名。まだまだ「拡大前」の組織ではあるが、荒井氏は「メンバーがいないとき」から仕組み化を意識しはじめていた。

メンバー数が一桁で、全員の意思統一が比較的容易な時点から仕組み化の重要性を説き続けてきたからこそ、全員がその重要性を理解し、運用を徹底してこられたのだろう。そして、その重要性への認識は、漏れなく新たなメンバーにも受け継がれ、いまのACROVEを形作っている。

荒井創業時から取り組んできたことが大きいと思います。規模の大小を問わず、仕組み化に取り組んでいる企業は多いと思いますが、創業したそのときから、僕たちほど徹底して推進してきた企業は他にないと自負しています。

また、先程も申し上げたように、僕たちにとって仕組み化は、事業戦略の生命線。メンバー全員がその重要性を理解しているからこそ、推進のモチベーションを高く保ち続けられるのだと思います。

学びの仕組みが整っているACROVEだからこそ、仮にビジネス経験が浅くても、ACROVEに入社すれば多くの経営者と渡り合う経験ができる。そして、やがて自らが経営を担うために必要とされるスキルが身につくと荒井氏。

徹底した仕組み化によって、メンバーの成長を実現し、組織力を武器に順調な成長を遂げてきた同社。見据えるのは、「EC市場の代表となること」だ。

荒井現在事業を展開している2つの市場における第一想起を取りたいと思っています。誰もが「ECといえばACROVE」と認める存在になりたいですね。

そのための第一歩として、まずは5年以内に、年間の売上高80億円を達成する事業計画を立てています。現時点でその計画は順調に進んでいますが、まだまだ人が足りていません。求めているのは、事業だけではなく「人を育てる」意識が強い人。育成のための仕組み化をさらに推し進められる人には、特に仲間になってほしいですね。

こちらの記事は2021年04月07日に公開しており、
記載されている情報が異なる場合がございます。

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執筆

鷲尾 諒太郎

1990年生、富山県出身。早稲田大学文化構想学部卒。新卒で株式会社リクルートジョブズに入社し、新卒採用などを担当。株式会社Loco Partnersを経て、フリーランスとして独立。複数の企業の採用支援などを行いながら、ライター・編集者としても活動。興味範囲は音楽や映画などのカルチャーや思想・哲学など。趣味ははしご酒と銭湯巡り。

写真

藤田 慎一郎

編集

小池 真幸

編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。『CAIXA』副編集長、『FastGrow』編集パートナー、グロービス・キャピタル・パートナーズ編集パートナーなど。 関心領域:イノベーション論、メディア論、情報社会論、アカデミズム論、政治思想、社会思想などを行き来。

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