CAC回収期間は上場SaaSの1/10!?──令和のECプラットフォーマー・ACROVEが開示する事業創造ノウハウ

登壇者
荒井 俊亮

日本大学法学部在学中にACROVEの前身となる株式会社アノマを設立。植物性プロテインをはじめとした自社ECブランド事業を展開。その後株式会社ACROVEに社名変更し、現在はEコマースやマーケティングの知見を生かしたEC事業者向けBIツール及び周辺サービスの提供を行うECサービス事業、ECブランドの買収とバリューアップを行うECロールアップ事業を展開している。

守屋 智紀

慶應義塾大学法学部法律学科卒業後、NTTドコモに入社、IR・経営企画等に従事。その後、ベイン・アンド・カンパニーにて多くの業界向けに全社・事業戦略策定、M&A、新規事業創出等のプロジェクトに従事、2020年シニアマネージャー。その後エクサウィザーズにて経営企画部長として全社戦略、資金調達、上場準備等をリードし2021年12月に上場。2022年7月ACROVEに参画し現在に至る。

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一般的に、SaaS立ち上げ期におけるCAC(顧客獲得単価)の回収期間は3年程度、M&Aにおける投資の回収期間は8年程度が望ましいとされている。しかし、このスタートアップではCACの平均の回収期間は約1ヶ月。そしてM&Aをした事業における投資回収期間は1-2年だ。

そんな、一般的に望ましいとされている水準の10倍のスピードで収益を上げてきたスタートアップとは、EC関連事業を複数抱える、ACROVEだ。

先の2022年8月に開催した「START UP! powerd by FastGrow」では、同社CEOの荒井 俊亮氏と、社長室長の守屋 智紀氏に登壇いただき、まさにこの急成長の裏側を語ってもらった。

セッションテーマは、「高収益を実現する、事業創出方法とは?──獲得コスト回収期間は上場SaaSの1/10?顧客価値への思考法から、事業選定と立ち上げ方を学ぶ」。ACROVEの事業立ち上げにおけるノウハウを、ここであらためておさらいしていこう。

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EC支援というレッドオーシャンで競合なきスペースを見つけ、高利益率を実現

まず、ACROVEの高収益の謎に迫る前に、彼らが手がけている事業について整理しておこう。

ACROVEは大きく分けて2つの事業を展開している。1つ目は上図の左側にあるECサービス事業。これは、EC事業者向けにSaaSとコンサルティングを合わせたサービスを提供し、集客からフルフィルメントまで一気通貫で支援することで、EC売上・利益の最大化を狙うものだ。

2つ目は右側のECロールアップ事業。自社発あるいは買収したブランドを急速にグロースさせていく。こうしたブランド買収→グロースを繰り返し事業を拡大していくモデルは“ECロールアップ”と称され、世界各国では3桁〜4桁億円の資金調達をするような巨大プレイヤーが続出している。(ACROVEの事業詳細については、FastGrowで取り上げたこちらの記事に詳しい)

イベントではまず守屋氏より、ECサービス事業で高収益を実現できる要因を解説いただいた。守屋氏は新卒でNTTドコモに入社し、その後ベイン・アンド・カンパニーを経てエクサウィザーズに参画。経営企画部長として2021年のグロース市場への上場に貢献した経歴を持ち、2022年の7月にACROVEにジョインしている。

この事業のARRは、ここ1年で4.5倍と大きく成長。売上総利益率は83%で、獲得コストの回収期間は1.2ヶ月と、他のSaaS企業を大きく上回る水準となっている。

SaaS系スタートアップに多くみられる、赤字を掘りながらJカーブを目指して事業開発をするというスタイルではなく、立ち上げからわずか1.2ヶ月強で利益が出ている状態だ。

守屋SaaSの事業はP/Lドリブンで考えています。基本的な構造は「売上高×原価率-獲得コスト」の3要素です。

守屋売上高の主なドライバーは、市場規模と顧客の財布の大きさ。TAMは言わずもがなですが、1社に対して与えられる付加価値とその対価の大きさも重要ですね。

ACROVEが属するECの市場規模は約13兆円と巨大ですし、市場の成長性も問題ありません。また、我々の事業は顧客の売上という最も大きな勘定科目をあげるものなので、顧客から割り当てられる予算も大きくなります。

そこに対して、ACROVEが持つ実績ありきの知見・ノウハウを提供していきますので、顧客は高い金額を払ってもリターンが得られると思っていただきやすいんです。

次の原価率は、「どのように値付けされるか」と「テクノロジーの活用でレバレッジが効かせられるか」がポイントになります。一般的に値付けの方法は、付加価値・競合の価格・原価の3パターンで決まります。

一般的に労働集約性が高く競争が激しいサービスほど原価に近づき、利益率が下がってしまう構造なのですが、ACROVEには現時点においてダイレクトな競合は存在しません。なので、与えられる付加価値を基準に高い利益率を実現する値付けができています。

また、弊社のSaaSプロダクトである『ACROVE FORCE』には日々ECにまつわる各種データが蓄積されており、テクノロジーによる効率化も加速しています。すなわち、原価率の面で見てもパフォーマンスは良い状況ですね。

最後の獲得コストは、簡単に言うと、「どれだけ容易にリード獲得ができて、その中でどれだけコンバージョンすることができるか」ということです。

ACROVEの顧客対象となる規模のEC事業者だけでも日本に数万社ありますし、誰が何をどれくらい売っているかはAmazonや楽天を見ればわかるので、自社の分析ツールも用いながら我々が価値を提供できそうな顧客リストをスピーディに作成することができます。やはり、顧客の一番のペインである売上向上に貢献できるという点からニーズも顕在化させやすいですし、獲得コストの面から見てもとても優秀なモデルとなっています。

ここまで読んだだけでも、ACROVEの事業がロジカルに整理されており、随所に圧倒的な高収益を生み出す要素が散りばめられていることを感じただろう。この完璧とも言えるビジネスモデルを組み上げたCEOの荒井氏はこう語る。

荒井ACROVEでは、何においても「与えられる付加価値で値付けができる」というビジネスモデルを構築できている点が大きいです。提供しているサービスを施策単位で見ると、広告代理店やEC運用代行などとも被る点はあります。

しかし、ACROVEのように顧客のバリューチェーンを上流から下流まで一貫してサポートする、いやできる会社は少なく、ユニークなポジショニングを築けていると思っています。

与えられる付加価値の大きさについても、これまで支援したブランドでは平均で300%を超える売上増加を実現してきていますし、顧客によっては月の売上が数十万だったところから1,000万円を超えるくらいに急拡大することもあります。

守屋あとは市場の構造もありますね。ECによる売上が数億円あるメーカーでも、ECの担当者は僅か数名しかいらっしゃらない企業が多いです。そしてチームは他部署から異動してきたメンバー陣で構成されており、ECにおけるプロフェッショナルは少ない印象です。

しかし、Amazonや楽天等のプラットフォームのサービスやアルゴリズムは日々変化していきますし、TiktokやInstagramなどのSNSの知見も必要。自社努力だけではカバーしきれない問題が生じているんです。だからこそ、ECにおける幅広い知見とノウハウを蓄積できているACROVEが出せる価値は大きいんです。

詳しく知れば知るほど、冒頭に紹介した圧倒的な高収益も納得できてくるのではないだろうか。巨大なマーケットで、ニーズの大きな課題を独自性のあるアプローチで解決する。スタートアップのお手本のようなビジネスモデルではないだろうか。

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ブランド買収では、変数をすべて書き出し、仮説立てを繰り返すべし

次は、ACROVEのECロールアップ事業に話を移そう。

冒頭に紹介した数字をおさらいすると、一般的なM&A後の投資額回収までの期間は8年とされているが、ACROVEはなんと1-2年で回収してしまう。ここからはACROVEのCEO・荒井氏に高収益の秘訣を解説してもらった。

荒井M&Aを考える時には、DD / ソーシング力・バリューアップ力・調達コストの3つが基本的なポイントになります。調達コストについては専門的なCFO業務の話になるので今回は割愛して、事業家が担う「どうやって伸びるブランドを探すか」と「どうやって伸ばすか」の2点についてお話しします。

荒井DD / ソーシング力の肝は簡単に言うと、「どれだけ綺麗な管理会計に落とし込めるか」で決まります。

例えば財務会計ではECの送料は販売管理費に含まれますが、これは商品が売れた分だけかかる費用なので性質は原価に近いですよね。資材に分類される段ボールなどのコストも含めていくと、原価率は平気で5〜10%変わります。

ここを丁寧に計算し直して管理会計に落とし込んでいくと、その会社が持っている本当の収益性が精緻に見えてきます。だからこそ、変な赤字構造を持つ会社を避けることができます。

バリューアップのポイントは、最初にシナジーが生めそうな変数を全て書き出して、その変数に対してさらに仮説を立てることです。

荒井例えばECサービス事業の知見からAmazonや楽天のトレンドがわかるので、ブランドを適正価格に揃えたり、他のブランドと共通する梱包のような業務は統合してシナジーを生んだりといったことがあります。そして、それらについてコストとリターンを一つ一つ確認し、打つべき施策を決定します。

事業を魚の骨のように丁寧に分解していくと、何をすべきかが明確になり、綺麗なバリューアップが実現できるということですね。

ACROVEのECロールアップ事業は、丁寧に管理会計に置き換えて事業の本質を見たり、全ての変数に対して取りうる選択を洗い出して最も効率的なものを選んだりと、その細やかさに支えられているようだ。

SaaS事業も含めて、ACROVEが高収益を実現しているのが決して偶然ではなく、確かな戦略と独自性に支えられているのがおわかりいただけただろう。

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「具体⇔抽象」の思考力は、ひたすら書いて言語化を繰り返せ

ここで、ACROVEの隙がないビジネスモデルを組み上げた荒井氏に対して、イベントの視聴者からは「どのように事業家としてのスキルを身につけたのか?という質問が飛んだ。

荒井今のようなビジネスモデルや戦略は、事業を手掛ける中で仮説検証を繰り返しながら学び、完成させました。

普段から、ビジネスについて考えたことを書いてまとめることが好きで、昔はA3のプロジェクトノートを1日で使い切るほど書いていました(笑)。

頭で思考するだけでなく実際に手を動かして言語化すると、具体と抽象の行き来を繰り返してどのドライバーを回すべきかが自然とわかるようになった感覚があります。

守屋確かに私もコンサルティングファーム時代は常に「具体と抽象」の行き来を繰り返してきましたが、その立場から見ても、荒井はその思考力がずば抜けて優れていると感じますね。

例えば、荒井が最初にプロテイン商材(BtoC)で起業した際の経験を抽象化し、次のEC事業(BtoB)に具体化したということもそうです。

事実、守屋氏をはじめ周囲からは「俯瞰力が高い」と評されている荒井氏。ACROVEの美しいビジネスモデルは、荒井氏のそんな思考力が土台となって生み出されてきたのだ。

また、守屋氏に向けてもキャリアにまつわる質問が投げかけられた。エクサウィザーズの中心メンバーとして同社を上場に導いた後、なぜ次のチャレンジの場としてACROVEを選んだのだろうか──。

守屋私は世の中に大きなインパクトを与えることを重視していて、その観点では市場が大きく競合がいないACROVEはピカイチでした。

そして、まだ創業浅いフェーズでありながらも、すでに高い収益性を確立できている。シリーズAラウンドというフェーズにしては極めて珍しいのではないでしょうか。そして何よりも、“組織の若さ”が大きな特徴であり魅力かと思います。

荒井確かに若さはACROVEという組織を表す最大の特徴だと思います。インターンも含めると、メンバーの平均年齢は24歳くらいですね。

守屋この若さが、事業にも組織にも良い影響を与えるんです。まずは事業面において、変化が激しくキャッチアップ力が求められるEC業界では、情報感度が高く柔軟な思考を持った若さこそが武器となります。

また、組織面においても、中途採用のプロフェッショナルばかりが集まるとチームが全体的に凝り固まり、組織としてスケールしづらくなってしまう懸念もあります。ですので、どんどんと若くフレッシュな人材が育ち、突き抜けていくようなカルチャーがあるのは強みでしかないと僕は感じています。

荒井今後も拡大するEC市場において、今回挙げた2つの事業に止まらずに新たな事業も打ち出していきたいと考えています。

そして今すでに、人手がまったく足りていない状況です。今回の話を通して少しでもACROVEやEC事業に興味を持った方は、ぜひ当社のカジュアル面談でお会いできればと思います!

ACROVE社とカジュアル面談をしてみる

今回、その急成長の秘訣を事業観点で紐解いてきたACROVE。最後に2人が述べたように、その急成長ぶりから組織観点では極めてリソースが足りていないという悩みを抱えている。ここ数ヶ月においては毎月4~5名の新規メンバーがジョインしているそうだが、それでもまだまだ人手不足は付きない状況だという。

事業の成長に対して組織の拡張が追いついていない。これぞFastGrowの読者が望む環境ではないだろうか。後は諸君らの行動次第だ。

こちらの記事は2022年12月02日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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