連載パナソニックが提唱するミッションドリブン 〜人生100年時代の新・キャリア戦略〜

「徹底的にヒマになれば、本当の自分を思い出せる」
アイセック阪田が見出した、やりたいことの見つけ方

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インタビュイー
阪田 直樹
  • 特定非営利活動法人アイセック・ジャパン 事務局 専務理事 兼 事務局長 

神戸大学工学部電気電子工学科3年生。2019年度特定非営利活動法人アイセック・ジャパン専務理事兼事業局長を務めながら、専務理事として外務省直下の次世代SDGs推進プラットフォームのステアリングコミッティに参画。起業家と投資家の口コミサイトを開発しているHackjpn株式会社で2BSalesを担当し、スタートアップの常識を再定義するために起業準備中。

杉山 秀樹

慶應義塾大学を卒業後、新卒で大手メーカーに入社したが1年足らずで退職し、ドリコムに入社して約9年間従事。営業およびマーケティング、経営企画、広報/IR、HRに携わる。その後、エスクリでHR責任者を経て、パナソニックに入社し現職。

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世界126ヵ国と地域(2019年4月現在)に支部を構え、7万人以上の会員を擁するアイセックは、世界最大の学生NPOである。

「すべての若者にCross Cultural Exchangeを届けることで、リーダーシップを育み、より良い社会に向かう若者を中心としたムーブメントを起こします」というミッションを掲げ、海外インターンシップ生の送り出し受け入れを主な事業として展開していることは広く知られている。そして、その活動を支える学生は国内だけでも1,600名を超える。

この歴史ある組織で今年4月、専務理事 兼 事務局長に就任したのが阪田直樹氏。この明快なミッションを共有する集団になぜ、阪田氏は全力を注ぐのか。そして、どのようにしてここまで熱中することと出会えたのか。

ミッションドリブンな働き方を提唱するパナソニックの杉山氏が話を聞いた。

  • TEXT BY NAOKI MORIKAWA
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
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出会いはささいなことだった。でも、気がつけば生まれ直している自分がいた

中学・高校時代からバスケットボールに没頭してきた阪田氏は、バスケットボールに熱く燃える大学生活を送るために受験勉強に打ち込んだ。志望校であった神戸大学への合格を果たすと、入学前からバスケットボール部の練習に参加していた。

しかし入学後、キャンパスで新歓活動が繰り広げられると、華やかなキャンパスライフへの憧れと新しい出会いを求め、様々な新歓に参加した。その中にアイセック神戸大学委員会の新歓があった。

阪田一人暮らしをしていたので食事目当てでたくさんの新歓に参加しました(笑)。

アイセックの新歓でも他のサークルと同様に食事はふるまわれていましたが、他のサークルでは感じられなかった雰囲気や会話がありました。

例えば、アイセックの先輩から「きみの夢はなんなの?」と真剣な表情で尋ねられました。そこで僕はとっさに「親父みたいに海外を飛び回る営業マンになりたいです」と答えました。すると、その先輩は「いいね、どこの国に行きたいの?」「僕は○○に行って、こんな経験をして・・」と目を輝かせながら、様々な話を語ってくれました。

将来の夢やありたい姿、それを叶えるための努力や行動、社会や世の中をこんな風により良くしたいという視座の高さ、立場に関係なくお互いをリスペクトし合う姿勢など、これまで自分が触れたことのない価値観や考え方でした。

それまで「バスケットボールで勝利を摑み取るため」に生きていた自分にとって、「100年後の世界でみんなが幸せであるため」に生きているアイセックの先輩との出会いは新しい世界が広がるきっかけとなりました。

そして、「そんなアイセックの先輩方みたいになりたい」という強い憧れからアイセックに入会することを決めました。

杉山アイセックは非常に有名な団体ですが、多くの人は「海外インターンシップを運営する、世界的な学生団体」という程度の認識でいると思います。実際のところ、アイセックとはどのような組織なのでしょうか?

阪田「若者がもう一度生まれる場所」というのが僕の認識です。

杉山「もう一度生まれる」というのは、どのような意味でしょうか?

阪田社会との利害関係が少なく、比較的好きなように生きやすい学生生活の中でも特に「言いたいことを素直に言えて、聞きたいことを純粋に聞ける」、「夢を語り、追いかける人を笑う人はいない」という心理的安全性が当たり前にある空間がアイセックだと僕は解釈をしています。

そういう空間に身を置き、気の置けない仲間たちと好きなことをとことん話し合うことで、自分の胸の内に潜んでいるけれど、気付けていなかった想いを思い出すことができます。すると、ダムが決壊するように「自分はこれが好きだったんだ」とか「これは好きじゃないんだな」といった素直な想いが溢れ出てきます。

つまりそれは本当の自分に気付き、生まれ直すことができるということだと捉えています。

でも僕の場合、アイセックに入ってからの数ヵ月はアイセックが持っている価値観とその当時の僕が持っていた価値観が大きく異なり、相当葛藤していました。

杉山具体的にどのような価値観の違いがあったのでしょう?

阪田それまでの僕の価値観はスポーツの世界で培われた「勝利」というものでした。しかしアイセックの先輩方が共有していた価値観は僕が持っていた価値観とは全く異なる「共存」と「達成」でした。

「相手を打ち負かす」のではなく「皆と手を取り合い達成する」、「勝ち取る」のではなく「分かち合う」、そのような異なる価値観がそこには存在していました。

「OR発想(どちらか)」と「AND発想(どちらも)」の視点で言えば、アイセックの活動で培われ、重要となるリーダーシップは「AND発想」であり、勝つか負けるかという「OR発想」で生きてきた僕には持っていなかった発想でした。

そんなアイセックの価値観に憧れつつも、その価値観に馴染めないこともあって大学1年生の8月上旬くらいまではあまり熱心にアイセックの活動ができていませんでした。

そんなある日、先輩方に囲まれてボコボコにされました。もちろん物理的な意味ではなく、甘い考えをもっていた自分に対して、

「もういい加減、うわべだけの夢を語ることはやめたら?カッコ悪い」と真摯な言葉で先輩からご指摘を受けました。夢を語ってはいるものの、その夢の実現に向けて行動を起こそうとしていない僕のことが気になっていたようです。

僕のことを想って忠告してくださっていたことは分かっていましたが、先輩方の言葉に反論の余地もなく、正直キツかったです。

「そこまで言われるなら、やってやろうじゃないか。俺は言葉だけの人間じゃない」という反骨精心がモチベーションとなり、この出来事をきっかけにようやく気合いを入れて活動するようになりました。

今振り返ると、その時点ではまだまだ「勝利」の価値観を引きずっていたと思います。

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「AND発想」で人間関係はよりよく変わっていく

学生たちが夏休みに入る8〜9月はアイセックの活動期となっているが、阪田氏は一念発起して営業活動(海外インターンシップ生の受け入れを企業や団体にお願いする活動)に集中。自室でPCに向かいながらリスト作成やアポ取りなどを行い、アポイントが取れればスーツに着替え、企業に出向いて営業を行っていく日々。

いつしか反骨精神は薄れ、アイセックの活動そのものにやりがいを感じるようになっていった。そして冬が訪れる頃には、プロジェクトのリーダーとなり営業活動の統括を任される役職に就くことになる。

阪田ちょうど同じ時期に、僕は先輩が働いていた教育系スタートアップ企業の長期インターンシップにも参画していて、この活動がとても面白く感じられていました。なぜ自分はこんなにも面白く感じているのだろうと自問自答した結果、「コミュニケーションのベクトル」が理由だと分かりました。

アイセックに入るまでの僕は、誰と話していてもコミュニケーションのベクトルは「自分」に向いており、自分の勝利のためにコミュニケーションしていました。だからこそ、新歓の時に出会ったアイセックの先輩たちがしていた「相手である僕にベクトルを向けたコミュニケーション」が新鮮かつ魅力的に感じました。

当時はここまで具体的に言語化はできていませんでしたが、アイセックでの活動で成果を得ていくうちに、僕自身がそのようなコミュニケーションを楽しめるようになっていました。インターンで携わった教育の世界でも、教育を受ける「相手」のためのコミュニケーションがメインですよね。だから、とてもやりがいを感じたのだと思います。

杉山ものすごく共感します。パナソニックも「社会」にベクトルが向いているからこそ、ここまでの大きな組織になるまでに成長できたのだと思います。その揺るがない軸があるからこそ、27万人の多様な人たちがパナソニックとしてひとつの組織にまとまっていられています。

私自身がパナソニックにキャリア入社したのも、パナソニックが1人ひとりや社会に向いて真摯にビジネスをしているからでした。コミュニケーションのベクトルが「相手」や「社会」に向いていることで人が惹きつけられ、発展し続ける組織の根幹を成すものだと思っています。

阪田やはりその観点はビジネスや組織においても大切なことなのですね。この時期から「ビジネスの本質」も少しずつ理解できてきた気がします。単に売上や利益という観点でなく、何かしらの価値を相手に届け、そこで得たリターンを別の価値に換えて享受していく。それがビジネスの根本的なサイクルなんじゃないかと。

その理解のもとで誰かに価値を届ける活動に対してより積極的になり、やりがいを感じられるようになったことが大学1年の時に僕に起きた変化だったと今なら言えます。

杉山大学1年生ですでにビジネスの本質について感覚的にでも理解でき、ポジティブに考えられるようになれる経験は貴重ですね。 少し話は変わりますが、最初は理解し、憧れているが違和感があったアイセックの価値観を自分の中に落とし込めるようになったきっかけはあったのでしょうか?

阪田1年生の冬に起こった出来事がきっかけになりました。その当時、僕は7人編成のチームでリーダーをしていました。そのメンバーの1人と意見が衝突し、僕はついつい打ち負かすコミュニケーションを取ってしまいました。

その後、彼女はアイセックを辞めることになり、結果的にチームを崩壊させてしまいました。

そもそもの意見の衝突は彼女の好きなアイセックと僕の好きなアイセックの違いから生じました。しかし、意見の衝突自体は彼女がアイセックを辞めた理由ではありません。僕の彼女に対するコミュニケーションの取り方が彼女を追い込み、アイセックを辞めさせてしまいました。

僕がアイセックに入ってから意識的にコントロールしようと気をつけていた「打ち負かす」コミュニケーション「OR発想」を無意識的に彼女に向けてしまっていました。

杉山そのメンバーの離脱を機にどんなことを考えたのでしょうか?

阪田この出来事の直後はシンプルに、「あぁ、やってしまった」という反省でいっぱいでした。ただ、その後何がいけなかったのか考え続けていく中で少しずつ気付いたこともあります。それは『アウフヘーベン』で物事を捉え、相手の思想との共通項を見つけられればよかったのだな、ということです。

杉山(ヘーゲルが提唱した)弁証法の話にでてくる『アウフヘーベン』ですよね。

阪田はい。アウフヘーベンを理解する時に、円柱の話がよく使われると思います。どのくらい円柱に近づくかという視点の置き所次第で円柱は円にも見えるし、長方形にも見えるけれども、一歩退いて大きな視野で見れば、それが円柱だということがわかる、という話です。

私と彼女は長方形なのか円なのかという「OR」の議論に終始してしまったけれども、その時リーダーである僕が冷静に一歩後ろに下がって、「円でもあるし長方形でもあるんだよね」と「AND発想」に立ち、互いに共通した想いもあるのだということを起点にして分かち合うコミュニケーションをしていけば、達成に拘ってメンバーをうまく巻き込むこともできたのだろうなと、今となっては思っています。

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3年目の壁。乗り越えるきっかけは「原宿・竹下通り」

杉山その後、2年生・3年生でも重要な役職をアイセックで担われていたと聞いていますが、どのような経験を経て、成長していったのでしょうか?

阪田先ほどお話した通り、1年生の冬にメンバーを辞めさせてしまい、チームを崩壊させたことは間違いなく僕の失敗だったと大いに反省しました。 しかし、アイセックのサポートに期待をしている海外研修希望者は大勢いますから、立ち止まってはいられませんでした。 2年生の時は自分の努力や行動に対してそれ以上の成果もでていましたし、自己肯定感の高さが相まって、「俺はなんでもできる」みたいに思い上がって活動していました。かなり生意気な感じだったはずです (笑)。

そうして3年生になりましたが、相変わらず大学には馴染めないままで、アイセック以外には友達と呼べる人もいませんでした。アイセックだけでした。

それなのに、2年生の頃とアイセックの中での役割が変わったことでアイセックの活動でも成果が出せず、アイセックにすら自分の居場所がどこにもないと思い、非常に孤独感を感じていました。

杉山2年生と3年生ではどのような変化があったのかもう少し詳しく教えてください。

阪田端的に言えば立場の変化です。アイセック神戸大学委員会の副代表になり、動かすべき人の数が今までの10倍に増え、自分のふるまいや直接的なコミュニケーションだけではチームをまとめられなくなりました。そして、組織としての戦略も考えなければならない立場なのに、与えられた役割に対してどのように行動・ふるまいをすればよいのかわからず空回りしていました。

杉山相談できる人がいなければ大変そうな状況ですよね。辞めたい、と思うことはありませんでしたか?

阪田相当辛かったです。ただ、「ここで辞められない」という想いもあり踏みとどまっていました。慕ってくれている後輩たちを放ってはおけないし、なにより「俺の居場所はアイセックにしかない」と、悶々としていました。でも、この悶々としていた約半年の時間がその後の僕にとっては本当に大きな分岐点になりました。

杉山その悶々とした想いを突破できるような出来事があった、ということですね。

阪田結果的にそうなりました。この悩んでいる時期に初めて原宿へ行き、竹下通りをぼんやり歩いていました。すると驚くほど色々な方がいるじゃないですか(笑)。

りゅうちぇるさんみたいなファッションで歩いている子や、カタコトでジーンズを売っている海外の方もいれば、「ワンコイン漫才します」と営業している芸人さんもいる。

そんな多様性に溢れる竹下通りを呆然と眺めていたら、優しく無視されている感覚になっていきました。

杉山それはどんな感覚ですか?

阪田「いろんな人がそこに存在していることはお互い理解しつつ、だけど干渉することなく、それぞれ楽しく生きている」という竹下通り独特の空気のおかげで、とても久しぶりにホッとできて、開放された気持ちになりました。 それまでは、せっかく入学した大学の授業を受けず、アイセック以外には友人がいない「普通と違う自分」と「いわゆる普通の大学生」との間で悩んでいました。

しかし、竹下通りでの経験を通じ、みんなと同じように大学に通い、授業を受けることができない「普通と違う自分」に悩むのはもう辞めよう、という気持ちが湧き上がってきました。誰かの思惑や社会の枠組みに惑わされず、自分の気持ちに素直に生きよう、と思えました。そして、自分の気持ちに素直に大学に休学届けを出すことにしました。

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ミッションを見つけたいなら、徹底的にヒマになろう

杉山そのあたりの心境の変化にとても興味があります。さきほど阪田さんは「アイセックではどんな夢でも語り合える」と言っていましたが、それって社会でも大学でも、なかなか出会えない特殊な環境だと思います。

そんな特殊な環境がアイセックで長年維持されているのには、何か理由があるはずです。それに、なぜ阪田さんは竹下通りで救われた気持ちになった後、さらにアイセックに打ち込むようになったのでしょうか?

阪田アイセックのコアであるミッションと「AND発想」のリーダーシップが関係しているように思います。アイセックのミッションはCross Cultural Exchange 、つまり異文化交流を若者に届けることで「AND発想」のリーダーシップを育み、より良い社会に向かうムーブメントを若者達の手で起こしていこうというものです。

そのミッションを達成するためには、より多くの仲間が必要です。よって、同じ方角を向いてくれる人を世界中で増やしていくためにも、多様性を受け入れ、様々な人を包み込んでいくような「AND発想」のリーダーシップが不可欠になっているわけです。

結局、僕の場合も新歓の時に、このミッションやリーダーシップに出会えたから、共鳴して参加することを決めました。そして竹下通りをボーっと歩いていた時の僕は、何にも縛られない自由な状態にいましたし、優しく無視される空気にふれる中で、この空気感は「AND発想」でどんな人でも受け入れてくれるアイセックと同じだ、と感じました。そこで、やっぱり僕にはアイセックしかない、と思い直すことができたのだと思います。

杉山アイセックの活動は意義のあるミッションを抱えているからこそ、社会的な責任感も大きいでしょうし、組織を背負えば大変なことも沢山あるのではと思います。でも阪田さんはアイセックが「好き」だから大変なことがあっても今まで続けることができたのだと思います。

一方で、自分の「好き嫌い」をしっかり理解できている学生は、そこまで多くありません。自分の「好き嫌い」を見つけるための、阪田さんなりの方法論はありますか?

阪田まず思い切り圧迫から自由になって、徹底的にヒマになればいいのだと僕は思っています。僕らは学生のときも社会人になったときも、何かしらに圧迫されながら生きているじゃないですか?「やりたいか、やりたくないか」、「好きか、嫌いか」という当人の意志などお構いなしに「次は数学の時間。授業始まるよ」、「大学卒業したら働く」みたいな(笑)。

ところが大学では初めて自分に選択権がうまれますよね。受けたい授業があれば、選んで受ければいいし、休学してもいい。言い換えれば、初めて誰も圧迫してくれなくなる環境が大学生活です。

まあ、卒業単位数というKGIは課せられているので見えにくい圧迫は存在していますが。

その環境を存分に利用して、とにかく何もしないでいればいい。すごく極端に言えば、何年も休学して、本当に何もせずヒマにしていれば、自ずと本当にやりたいことが見つかると思います。

杉山新鮮な発想ですね。私も仕事上、様々な学生と会話をする機会がありますが多くの学生から「自分のミッションが見つからないんですけれど、どうすれば見つかりますか」、「自分で自分の好きなことがわかりません」といった質問を多く受けます。

その時私は、「人と会ってみたり、環境を変えてみたりすることがきっかけになるかもしれませんよ」と答えているのですが、それとは違う観点ですね。

阪田僕の考えでは、杉山さんの回答は行動を起こすための2歩目のアクションです。1歩目はまず、思い切りヒマになることだと思います。僕はインドに行ったとき、「自分は探すものではなく、思い出すことである」と教わりました。

周りに流され、焦って自分探しなどせずに圧迫的な社会構造から逃れ続けて、徹底的に何もせずヒマになる。そうしたら誰もが心の奥底に持っている「本当の自分」を思い出すことができる。そのようにインドの教えから学びました。

ですから、「本当の自分」を思い出し、自分のやりたいことや好き嫌いが見えてきてはじめて、次のアクションとして誰かに会ったり、どこか新しい環境に飛び込んだりという行動を起こせばいいと思います。

杉山徹底的にヒマになるというのは言葉では簡単ですが、なかなか難しそうですね。大学生はお金は無いが時間があると言われます。でも時間があったとしても、常に学校とか、家族や友人、学年によっては就職など頭の中が常に何かに捉われがちです。だからこそ、あえてしがらみから離れて「徹底的にヒマになる」という言葉が新鮮に聞こえます。

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ミッションあってこその多様性と自由闊達さ

杉山結局、悩んだ阪田さんはもう1度1歩目を踏み出してみて、アイセックを続けたい、という自分の意志に気づいたわけですよね?でも、阪田さんのように続ける人もいれば、途中でやめる人もいるはずです。両者にはどのような違いがあるとお考えでしょうか?

阪田組織のミッションや価値観を「身体知」として受け止めているかどうかの違いだと思います。アイセックのミッションに自らの体験を通じて共感しているかどうか。そこで続けられるか否かの違いが現れてくるのかもしれません。

僕はリーダーとして、メンバー1人ひとりに自由闊達な裁量権を渡すのが学生団体においては特に重要だと信じているのですが、とにかく自由であればいいかというと、そうは思っていません。

まずアイセックのミッションや価値観というものを、「身体知」として受け止めてくれるかどうか。その「一様性」にはこだわります。そういった組織の哲学を共有できている集団であってこそ、初めて自由闊達さや多様性に意味が出てくると思います。

杉山たしかに多様性の議論はよく企業でもでてきますが、前提にミッションや哲学といった土台があり、それを前提にした自由闊達さ、多様性をもとめていかないと強い組織にはなりません。

パナソニックも「志と多様性」を大事にしていますが、多様性の中でも変わらずに中心にあり続けるのは経営理念です。多様性の前の一様性がミッションドリブンな組織の特徴といえるかもしれませんね。

阪田おっしゃる通りだと思います。組織が何を志すのかミッションが不在だと、結局どこに進むことが正解なのかが不明瞭になります。

そうすると何が重要で、何が不要なのかもわからなくなってしまい、目標達成のために取るべき手段も不明確になってしまいます。

自由や多様性はもちろん大事なのですが、それはミッションが共有されていることが前提だと感じています。

杉山ミッションや組織哲学の共有、それを踏まえた上での自由と多様性の浸透という組織的な考え方は一企業としても大いに参考になります。なぜアイセックはここまでミッションドリブンな組織であり続けられるのでしょうか?

阪田選挙という仕組みがあるからだと思います。毎年1回、25大学の委員会それぞれの代表を決める選挙とアイセック・ジャパンの代表である事務局長を決める選挙が行われます。事務局長を決める選挙は支部である25大学のリーダーが投票します。その選挙運動中には本当に白熱した議論が交わされます。

今回、僕は事務局長に当選しましたが僅差の結果でした。選挙の時もそうですがアイセックのメンバーはどんな時でもオープンな場で厳しい意見を直接言ってくれます。

杉山会社に置き換えれば毎年経営陣が投票で決められる、ゼロリセットされるということと同じですよね。一企業ではなかなかこれ程思い切った手法はとれませんが、言い換えればアイセックにはこうした手法もあって皆が求めるリーダーの下、公正で健全な組織として長年継続できているのかもしれませんね。

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いま、「個人のミッション」は無くてもいいが、ついていくリーダーは哲学で選べ

杉山最後に「個人のミッションと組織のミッションの違い」についても意見を聞かせてください。パナソニックにも“A Better Life, A Better World.” というブランドスローガンがあり、これが組織のミッションを示していると捉えています。

でも、必ずしも個々の社員のミッションとは同一ではありませんし、私などは「両者は別物だから、それで構わない」、かつ「個人のミッションは必ずしも全員が持っていなくてもよい」と考えています。

阪田僕も杉山さんと同じ考えで、世の中にはリーダーと信者と傍観者がいる、という表現をよく使います。

リーダーというのは世の中に問いを立て、変革を起こそうとする人、信者はリーダーを信じ、救われようとする人、傍観者は問いも立てないし、誰かを信じようともしていない人です。僕が伝えたい事はこの3つのうちどれが良くてどれが悪いなんて話ではなくて、3つ全てのタイプどれもいいと思います。

ミッションを持ち、掲げた人を、結果論的にリーダーと呼ぶと考えていますが、「全員がミッションを持たなければいけない」という発想自体が誰かからの社会的圧迫でしかないと思います。

例えば自分個人のミッションを持っていなくても、救われたいと願っていた人がある集団のミッションに共感をして、それを信じて生きていくことで救いが得られるなら、それも良い選択だと思っています。

また、信じられるものを持たなかった傍観者が何かしらの刺激を受けることでミッションが芽生え、リーダーとして生きていく道を選び直したとしても素晴らしいと思います。

杉山まさにこの「様々なタイプの人がいて良い」という考え方こそが「AND発想」ですね。ちなみに、信者タイプである人はどのようにリーダーを選ぶとよいとお考えですか?

阪田それはシンプルに自分の哲学とフィットし、ついていきたいと思えるリーダーを見つけるべきだと思います。

どのような事象に問いを立て、どのような答えを出す癖があるのかを知ることです。自分にとって良いリーダーを選ぶためにも、まずは徹底的にヒマになって、「自分を思い出す」必要はあると思います。

杉山阪田さんご自身にいま、「個人のミッション」はありますか?

阪田はい、もちろんあります。今の僕のミッションは幸せに生きる人がひとりでも増えるよう、能力に応じて働き、求められば与えられる社会インフラを整え、今はまだ存在していない、新たな概念や仕組みに基づいた仕事のあり方を生み出していくことです。本当に好きなことをやりながら充実した人生を送れる人を増やしていきたいとも思っています。

杉山ありがとうございます。今後もアイセックのミッションと、阪田さんご自身のミッションの実現をパナソニックとして応援しています。

こちらの記事は2019年04月25日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

森川 直樹

写真

藤田 慎一郎

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