連載Andreessen Horowitz投資先スタートアップ

“教育版Airbnb”から、老舗金融と組むブロックチェーン企業まで。
Andreessen Horowitzの2018年8〜9月の投資先スタートアップ10社

FacebookやTwitter、Skypeといった大手テック企業に投資を行い、2009年の創業後、数年で全米トップクラスのVCに登り詰めたAndreessen Horowitz(アンドリーセン・ホロウィッツ)。“Software Is Eating the World.”の理念のもと、最先端のテクノロジーを駆使したスタートアップへの投資を行っている。

彼らの投資先企業をウォッチすれば、海外スタートアップの最新トレンドを見極められるはずだ。本記事では、2018年7月に投資した9社のスタートアップを紹介した前回記事に引き続き、彼らが2018年8月から9月にかけて投資した10社を紹介する。

  • TEXT BY YUKO NONOSHITA
  • EDIT BY MASAKI KOIKE
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1.データ仮想化技術のパイオニア「Actifio」

Actifio

調達金額
総額約113億円(1億ドル)
※リードインベスターは、Crestline
ラウンド
シリーズF

概要

Actifioは、企業がデータをバックアップするためのストレージ費用を軽減・効率化してくれるデータ仮想化技術を提供。アメリカのマサチューセッツ州で2009年に創立され、日本市場にも2013年から「アクティフィオ・ジャパン」として本格参入している。

CEOのAsh Ashutosh(アシュ・アシュトシュ)は、ストレージ業界の先駆者的存在で、シリアルアントレプレナーとしても知られる。以前に設立したストレージ関連企業のAppIQは2005年にヒューレット・パッカードに買収されている。

創業から10年が経ち、ユニコーンの期待もかかっているActifioの動きは、ストレージ業界が今後成長するかの判断基準としても注目されている。ストレージ業界の成長は、大容量のデータを扱うビッグデータ市場の動向とも関わっており、両者の動きを知るうえでウォッチしておくべき企業である。

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2.“教育版Airbnb”と評される「Wonderschool」

Wonderschool

調達金額
総額約22.6億円(2,000万ドル)
※リードインベスターは、Andreessen Horowitz
ラウンド
シリーズA

概要

カリフォルニア州の教育者と技術者のグループが2016年に創設したWonderschoolは、就学前の乳幼児が家庭で教育を受けるためのプラットフォームを提供している。教育プログラムの検索、また訪問時間、学習の進捗状況から支払いまでを一括管理できるマーケットプレイス機能を開発した。教育者と家庭を結びつけることから“教育版Airbnb”とも言われている。

創業初期からAndreessen Horowitzの支援を受けており、現在、サンフランシスコのベイエリアやロサンゼルス、ニューヨークで140の教育機関と連携している。 最新のテクノロジーを活用し、新しい学びを追求する「EdTech(エドテック)」領域は世界中で注目を集めており、市場規模は2020年に11兆円を超えるという。その期待の星であるWonderschoolからは、今後も目が離せない。

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3.老舗金融業界からも期待されるブロックチェーン企業「Axoni」

Axoni

調達金額
総額40.6億円(3,600万ドル)
※リードインベスターは、Goldman SachsNyca Partners
ラウンド
シリーズB

概要

グローバル金融機関にブロックチェーンインフラを提供するAxoni。2013年にニューヨークで設立され、IBMと並んで独自のブロックチェーンプラットフォームを開発できる技術力を持つ。

ゴールドマンサックスとJPモルガンもラウンドに加わっており、ウォール街の老舗金融機関も無視できない存在になっていることがうかがえる。ブロックチェーン市場全体の動きを知るうえで、ウォッチしておくべき企業だといえるだろう。

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4.独自のセキュリティ技術で注目「Very Good Security」

Very Good Security

調達金額
総額約96億円(8,500万ドル)
※リードインベスターは、Andreessen Horowitz
ラウンド
シリーズA

概要

Very Good Securityは、2015年に設立されたデータセキュリティ会社。オンラインショッピングの際にユーザーが登録するクレジットカード番号を、ダミーに変換することで、不正アクセス時の悪用を防ぐ独自技術を開発している。この技術は同時に、クレジット決済を行うために必要な国際基準である「PCI DSS(Payment Card Industry Data Security Standard =ペイメント・カード・インダストリー・データ・セキュリティ・スタンダード)」の複雑な手続きも軽減できる。

「今後、同社の高いセキュリティ技術の重要性がますます高まることに期待して投資した」と、Andreessen Horowitzはブログで紹介している。GDPR(EU一般データ保護規則)の施行もあり、個人データ保護を求める動きが強まる昨今、セキュリティ技術に強みを持つ企業の市場価値はますます高まっていくだろう。

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5.ブロックチェーンによる“クラウド3.0”を目指す「DFINITY」

DFINITY

調達金額
総額約115.3億円(1億200万ドル)
※リードインベスターは、Andreessen Horowitz・Polychain
ラウンド
非公開

概要

DFINITYは、“クラウド3.0”と称する、ブロックチェーンをベースとした分散処理型のクラウドプラットフォーム構築を目指している。DFINITYが開発する「インターネットコンピュータ」は、高速かつセキュアで、高度な暗号技術やプログラミングスキルを持つ人材によって開発されている

また、処理速度を向上させることで、企業がクラウドを運営管理するための人的コストも大幅に減らせるという。具体的にはAmazonの「Amazon Web Services(アマゾン・ウェブ・サービス)」などと比較して90%の費用を削減できるそうだ。

サービスの実現にはマイニングの協力者が必須で、現在はそのためのコミュニティ構築に力を入れている段階だ。また、昨年実施した自社でマイニングした仮想通貨「DFNトークン」発行による資金調達はうまくいったものの、再度の発行は見送られていることから、今後の動向にはまだ注視が必要だ。

クラウドサービスの普及率は年々高まっており、日本における利用企業の割合も、2018年は56.9%と、2017年の46.9%から大幅な上昇傾向にある。DFINITYのようにクラウドサービスを後方支援するビジネスモデルは、今後も重要性を増していくだろう。

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6.元Apple社員が立ち上げたライブ配信サービス「Caffeine」

Caffeine

調達金額
総額約113億円(1億ドル)
※リードインベスターは、21st Century Fox(21世紀フォックス)
ラウンド
コーポレートラウンド

概要

Caffeineは、ゲームやエンターテインメントに特化した、ライブ配信用プラットフォームを提供している。競合のライブ配信サービスと比べて革新的な機能を備えているわけではないが、YouTubeやTwitchなどの既存サービスと同時配信し、投稿されたメッセージを一括表示できる点はユニークだ。また、視聴者から得られる「クレジット」の換金がしやすい点も、利用者を伸ばしている大きな要因だと推測できる。

動画配信サービスは国内でも2022年には2,600億円まで成長すると推定され、世界的に見てもホットな市場。投資先に選ばれた要因として考えられるのは、オンライン配信技術の導入を検討している放送局へのサービス拡大を計画している点だ。また、創業者の2人がAppleTVのデザイナーとして働いている時に立ち上げたことでも注目されている。DFINITYのようにクラウドサービスを後方支援するビジネスモデルは、今後も重要性を増していくだろう。

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7.サーバーで起こるインシデントを一元管理「PagerDuty」

PagerDuty

調達金額
総額約101.7億円(9,000万ドル)
※リードインベスターは、T. Rowe PriceWellington Management
ラウンド
シリーズD

概要

PagerDutyは、サーバーの障害や負荷増大といったインシデントを一元管理する機能をSaaSで提供している。サーバーの運営にはさまざまなセキュリティツールや開発アプリケーションを使用するが、それらと連携して運用の負荷を軽減できる。サービスの信頼性も高く、NetflixやPaypalなどにも導入されていることが知られている。

まもなく創業10年を迎え、年間経常利益は1億ドルを超えた。さらにこれまでの調達分も含めた1億ドル以上の資金を元手に、データトラッキング関連企業の買収に乗り出す計画も発表されている。

「ガートナー」の調査によると、世界のデータセンター市場は伸び悩んだ時期もあったが、クラウドや動画配信サービスなどの影響で再び伸びつつある。そんなデータセンター市場を対象にサービスを提供する同社は上場間近との噂もあり、引き続き動向を注視していきたい。

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8.スタートアップに必要な法律サービスを提供するテクノロジー企業「Atrium LTS」

Atrium LTS

調達金額
総額約73.5億円(6,500万ドル)
※リードインベスターは、Andreessen Horowitz
ラウンド
シリーズB

概要

Twitchの創設者でY CombinatorのパートナーであるJustin Kan(ジャスティン・カン)が設立したAtrium LTSは、スタートアップが必要とするあらゆる法律関連サービスを、最新テクノロジーを活用して提供している。 株式発行や雇用問題、資金調達の商業契約といった手続きは、複雑で多岐にわたるため、法律事務所に依頼しても時間がかかり、価格も不明瞭だ。こうした既存の法律事務所に対する不満を解消するために立ち上げられたサービスで、機械学習を活用したツールを使ってルーチン作業を自動化し、手続きのスピードを速めている。また、作業の透明性を高めることで、料金体系を明確化している点も特徴だ。

法律関連産業にテクノロジーを導入する動きは加速しており、日本国内でも、法律とテクノロジーの融合で法律関連産業の発展を目指す「LegalTech協会」が2018年11月に発足。今後も注目の市場のひとつだ。

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9.自動運転向けのシミュレーション技術を開発「Applied Intuition」

Applied Intuition

調達金額
総額約13億円(1,150万ドル)
※リードインベスターは、Andreessen Horowitz・FLOODGATE
ラウンド
シリーズA

概要

Applied Intuitionは、自動運転車向けの高度なシミュレーションソフトウェアを構築している。創設者のQasar YounisとPeter Ludwigは、デトロイトとシリコンバレーで技術開発を行なっていた経験を持ち、Andreessen Horowitzのブログでは「自動運転車に可能な限り最良のシステムを実装するため、世界で最も可能性のあるチームに資金を提供した」と評されている。

自動運転車の開発は欧米や中国が先行している。日本もApplied Intuitionのようなスタートアップと提携すれば、一気に巻き返しを図れる可能性はあり、経済産業省も調査を進めている。世界的にも開発メーカーがシミュレーション技術を重要視する傾向にあり、今後の動きが気になるところだ。

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10.安定性が期待される仮想通貨プロジェクト「MakerDAO」

MakerDAO

調達金額
総額約17億円(1,500万ドル)
※リードインベスターは、Andreessen Horowitz
ラウンド
非公開

概要

2014年に設立されたMakerDAOは、ブロックチェーン技術を活用して発行された仮想通貨の発行と管理を行う組織。価格変動型の仮想通貨「MKRトークン」と、変動しないステーブルコイン「DAI」の両方を発行し、管理を行うツールなども開発している。Andreessen Horowitzはファンド「a16z crypto」を通じ、MakerDAOが供給するMKRの6%を1,500万ドルで購入しており、80人以上の専門家による運営支援やガバナンスにも関わっている。

不安定な要素が多く、十分な供給ができないといったトラブルも発生しがちな仮想通貨ビジネスにおいて、MakerDAOは比較的安定していると定評がある。今年3月に東京で発表された、イーサリアムで行われるプロジェクトや事業を支援する「Ethereum Community Fund(ECF)」にも参加し、ブロックチェーン業界全体の発展にも貢献している同社の動向は注目を集めるだろう。

今回は、Andreessen Horowitzが2018年8〜9月に投資を行った計10社を紹介した。今後もFastGrowでは、定期的に海外の主要VC / CVCの投資先情報を発信していく。

こちらの記事は2019年02月22日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

野々下 裕子

編集

小池 真幸

編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。『CAIXA』副編集長、『FastGrow』編集パートナー、グロービス・キャピタル・パートナーズ編集パートナーなど。 関心領域:イノベーション論、メディア論、情報社会論、アカデミズム論、政治思想、社会思想などを行き来。

デスクチェック

長谷川 賢人

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

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