INTERVIEW
深澤 雄太
19-02-14-Thu

実装しかできないエンジニアは採らない。10億調達、TVCMで加速するAppBrew深澤氏に訊く、LIPS快進撃の裏側

TEXT BY MASAKI KOIKE
PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA

2018年12月から、タレントのローラ氏が出演するコスメサービスのTVCMを目にするようになった。
株式会社AppBrewが運営する、コスメのコミュニティアプリ「LIPS」のCMである。

FastGrowは、AppBrewが累計100万DLを達成した半年ほど前に取材を行い
1年間で5つのサービスをクローズさせてLIPSの誕生へと至った、スピード感溢れる事業成長プロセスを明らかにした。
その後も同社の躍進は止まるところを知らず、2018年10月には総額10億円の資金調達を実施し、
TVCMをはじめ新規ユーザー獲得施策にブーストをかける。同年12月には累計200万DLを達成した。

AppBrewはなぜ、ここまでの快進撃を続けられるのだろうか?そして同社が目指している目的地はどこなのか?
「中国のByteDance社をベンチマークしている」と語る同社代表取締役の深澤雄太氏にインタビューし、
「徹底的に不確定要素を潰しながら歩んできた」半年の軌跡と、
「分析チームと実装チームを分けない」ユニークな開発体制を明かしてもらった。

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「初めての施策」の時ほど、不確定要素を潰し、意思決定のハードルを下げる

この半年間、深澤氏は「意思決定のハードルを下げる」ことに専心していた。

2018年10月に調達した総額10億円の資金は、8割をユーザー規模のグロースに使用。順調に規模を拡大させており、2018年6月に累計100万DLを達成したのち、12月には200万DLを突破、TVCMによるブーストで、直近は300万DL達成を目指している。

TVCMの効果も「概ね想定通り」で、以前はリーチしきれていなかった、20代後半以上の女性ユーザーの獲得に成功。

深澤LIPSはコミュニティサービスなので、SNSと同様、ネットワーク外部性の効果が影響します。圧倒的なシェアを占めれば他社が追随できなくなるので、ある程度の認知度が高まってきたこのタイミングで、マス層まで一気に刈り取ってしまいたい。「お金でスピードを買う」意図で、TVCMを打ちました。

TVCM出稿時の予算やクリエイティブ策定をはじめ、事業計画へのインパクトが不確定なままで「初めての施策」を打つ機会が次々と現れた。2018年にFastGrowの取材で語ったように、「究極的には実行してみないと分からない」し、失敗から学ぶことも事業成長には必要だという考えだ。しかし深澤氏は、徹底して「勢いだけで意思決定しない」姿勢を貫く。

深澤定量・定性問わず、可能な限り客観的な情報を集め、意思決定のハードルを下げていました。TVCM出稿はもちろん、採用可否の判断からオフィスの内装費用に至るまで、あらゆる意思決定の機会において、エンジェル投資家に相談したり、自社サービスの保有するデータや市場環境をリサーチしたりして、徹底的に不確定要素を潰していく。

客観的な材料が十分に集まれば、「この情報から見れば、これが最適な意思決定だよね」と主観を交えずに判断でき、精神的なハードルを感じなくなります。ひとりで思い悩んで時間を浪費するのが一番もったいない。

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分析と実装を分けない。AppBrew社の強さの源泉は「事業視点を持つエンジニア」

しかし、ただ新規ユーザーの獲得だけに専心していたわけではない。「2018年はプロダクトの基礎を固める」と掲げ、リテンションレート向上のための機能拡充にも力を入れていた。

開発の指針は大きく2つ。「発信者向け機能の充実」と「機械学習を活用したレコメンデーションの精度向上」だ。前者の発信者向け施策としては、投稿へのフィードバックを得やすくするためのコメント動線改善や、自身の投稿を振り返りやすくする絞り込み機能の実装などを行い、ユーザー同士の交流を促進した。

LIPSのユーザーは、「Instagramユーザーと同じように、コメントなどのフィードバックを欲しがっている。その要望を満たせる機能の開発にはこだわった」と深澤氏は語る。

そして、レコメンデーションの精度向上については、インストール時に取得した属性データをもとに、機械学習を活用してコンテンツを出し分けるようにした。年代、肌質、興味のあるカテゴリ、アプリ内での行動…さまざまなユーザー属性に基づき、特徴量をブラッシュアップしていった。

深澤CTRや閲覧数、リテンションレートの増減を細かく把握しながら、日々アルゴリズムを改善しています。手法自体はありふれたものですが、弊社のように20名前後の規模感のチームでしっかりと運用していくのは結構大変です。

こうした仮説検証のサイクルをまわしていくにあたり、AppBrewが取っている開発スタイルが秀逸だ。一般的なエンジニア組織と異なり、PMとプログラマーでの役割分担を行なっていない。個々のエンジニアがそれぞれの開発施策のオーナーとなり、デザインレビュー、実装からリリース、検証まで責任を持つ。

GitHubで管理されるそれぞれの施策は、事業数字に与えるインパクトを試算したうえで、CPO(Chief Product Officer)の松井友里氏が優先順位を付ける。

深澤あえて分析と実装でチームを分けない開発体制にしています。各々のエンジニアに一貫して施策を見てもらうことで、全員が事業的な数値を意識できるようになる。専門性を否定しているわけではないのですが、PMに言われた通りに実装するよりも、意思決定を自律的に分散した方が、人数規模に対する開発効率はアップします。

ここまで横断的に開発に取り組める人材の母数が少ないこともあり、2018年12月現在でエンジニアは10人規模と少数精鋭だ。現在もスカウトを中心に採用は進めているが、将来的にも大量一括採用を行う予定はない。

深澤個々のエンジニア主導でプロダクトの改善サイクルを回していくためには、領域横断的なスキルセットはもちろん、ユーザー目線で自発的にジェネラルな仕事を回していける、ベンチャー志向の人材が求められます。だけど、そんなエンジニア、なかなか見つかりませんよね。採用を進めるうえでも、闇雲に人数を増やすのではなく、しっかりと一緒に働く人を見極めることには、かなり気を遣っています。

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ベンチマークはByteDance社。少数精鋭組織で、レバレッジを効かせた拡大戦略を取る

今後は、安定的に新規ユーザーを獲得してコスメサービスの第一想起ブランドのポジションを狙うとともに、マネタイズ構造の整理も進め、2021年頃にはプロダクトとして完成させることを目指す。

またLIPSの経験を糧に、コンシューマー向けのプラットフォームプロダクトを再現性を持って開発できるテクノロジー企業として、新規事業開発にも力を入れていく。既に、2019年には新サービスをリリースできるように動き始めている。

深澤氏が今後のAppBrewの構想を考えていくうえでベンチマークとしているのが、中国のByteDance社だ。グローバル動画共有アプリ『TikTok』をはじめとするコンシューマー向けメディアサービスを複数運営している。

深澤日本にByteDanceのような企業が生まれていないことが、シンプルに悔しいんですよ。同社はひとつのサービスがヒットして企業規模が拡大しても、データ、資金、組織…持っているリソース全てにレバレッジを効かせ、スピーディーに大型M&Aや新規事業創出を進めている。

あそこまでアグレッシブに拡大戦略を取り、しっかりとグローバル規模で大きなインパクトを残せている会社は、残念ながら日本にはまだいません。AppBrewも負けないように、安定して収益化できるプロダクトを創り上げたうえで、さらに持っている資本にレバレッジを効かせて企業戦略を展開していきたいですね。

そして深澤氏は、組織形態については一貫して「少数精鋭」にこだわっている。スマートニュース社やGunosy社、そして創業初期のFacebook社のように、少人数で秀逸なプロダクトを生み出し、社会に大きなインパクトを与えるテックカンパニーを創り上げようとしているのだ。

深澤一度、人材の質が下がってしまうと、それ以降は優秀な人を採用していくことがどんどん難しくなってしまう気がしていて。LIPSはまだまだサービス規模は大きくありませんが、このレバレッジが効いている段階から、少数精鋭で採用を進め、真っ当にプロダクトの改善サイクルをまわせる状態を維持していきたいです。

ますます躍進を続けるAppBrew。今回の取材を通じて、その強さの源泉が垣間見えた。深澤氏の徹底してレバレッジを効かせていく経営姿勢、そして「全員が事業視点を持ち、施策オーナーとしてプロダクト開発に取り組む」という唯一無二のエンジニア組織。

「ここまで横断的な能力を持っているエンジニアは、なかなか見つからない」と深澤氏自らが認めるように、少数精鋭組織のグロースにあたっては、困難も多いだろう。しかし、困難な状況に当たっても、「勢いだけで意思決定せず、徹底的に不確定要素を潰していく」経営スタイルを続けていけば、着実に伸びていくはずだ。

2019年、AppBrewがいかにして飛躍を見せていくのか、ますます期待が高まるインタビューだった。

[文]小池 真幸
[撮影]藤田 慎一郎

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