仮説検証でインパクトを出すのは“極わずか”。
「LIPS」などヒットアプリの開発責任者が語る、グロース施策法
アプリをヒットへ導くために、経営者はどのようにグロース戦略を立てるべきか。リリース初期のインパクト創出、継続利用を促す工夫、プロダクト開発における意思決定…。考えるべき課題は多かれど、それらの解決法はあまり共有されていないのが現状だ。
そんななか、他の追随を許さないヒットアプリを開発する経営者たちが集まったイベントが開催された。『開発トップが語る、ヒットアプリのグロース戦略』と銘打たれたこのイベントには、株式会社ミラティブ CTOの夏澄彦氏、株式会社AppBrew CEOの深澤雄太、dely株式会社 CTOの大竹雅登氏が登壇した。いずれも、人気アプリをゼロから立ち上げ、今日までグロースを支えてきた精鋭たちだ。
スタートアップでも一目置かれる3社は、どのような意思決定を経て、成長に結びつけられたのだろうか。リリース初期のグロース方法や、中長期的な成長戦略など、他では聞けないサービス成功の裏話が展開された。
各30分のピッチを通してプロダクト開発やグロース戦略に迫ったイベントの様子を、ダイジェストでお送りする。
- TEXT BY HAYATE KAWAJIRI
- EDIT BY MONTARO HANZO
スタッフがユーザーの配信を「覗き見」。ミラティブの「OKR設定法」とは
ピッチの一番手には、スマホ1台でゲーム実況を配信できるアプリ「Mirrativ」を運営するミラティブのCTO、夏澄彦氏が登場した。
群雄割拠の生配信サービスで、ミラティブ社が目をつけたのは一般の人々が友達と気楽にゲームする「空間の再現」。サービスのキーコンセプトである「友達の家でドラクエをやっている感じ」を実現すべく、誰でもスマホ1台さえあれば気軽に配信できるプロダクトを目指している。
プロダクトの改善や新規リリースに当たって重視しているのは、「ピラミッド方式」で設定されるOKRだ。「合宿を行い、全社のOKRを設定したのち、チームごとのOKRをブレークダウンして、チーム全員で考えるのがミラティブのやり方」と語る夏氏は、全社をあげてOKRに取り組むことのメリットを語る。
夏トップダウン型でOKRを決めておくと、組織全体の意思決定が早くなるメリットがあります。たとえば、Mirrativの配信は平均して3〜4秒ほどが遅延が発生しています。これは他のプラットフォームと遜色がない数字です。
しかし、大上段で目指す体験である「友達の家でドラクエをやっている感じ」を実現させるには、さらにラグをなくし、より視聴者と配信者の距離を縮める必要があることがわかります。このように、大上段の“Objective”を設定しておくことで、改善の方向性を素早く打ち出せるんです。
Mirrativは、配信を通してユーザーの利用状況がわかるのが特徴のひとつだ。開発陣は、新機能がリリースされた直後、実際にサービス上の配信を視聴することでユーザがどう機能を利用されるかを見守っているという。
夏実際に配信をみることで、新機能が視聴者にフィットしているかどうかを確認します。ユーザーの声が新しい機能をつくる上でのヒントになりますし、開発の方向性が正しいかを数字以外でも見極めることができるようになります。
「当たり前」を怠らない。“極わずか”な改善を活かす仮説検証サイクル
夏氏に続いて、コスメのコミュニティアプリ「LIPS」を運営するAppbrewのCEO、深澤雄太氏がピッチを行なった。同アプリは直近で300万DLを達成しており、10〜20代の女性を中心に支持を受けている。従来のコスメ、美容のクチコミサイトのボリューム層である30代の利用者に加え、より若い“SNSネイティブ”世代のユーザーを伸ばしている。
コミュニティアプリのなかでも右肩上がりに成長曲線を描き続け、昨年末にはTVCMでも話題になった。プロダクトの立ち上げから、現在に至るまでのグロースを牽引してきた深澤氏が強調するのは「仮説検証サイクル」を回すこと。深澤氏は、必ずしも施策が結果につながらない事実に触れつつも、ヒットアプリを生み出すために必要な“思考”を語った。
深澤仮説検証を繰り返すうえで認識しなければならないのが、本当に事業を大きく変える改善は「極わずか」しかないこと。
どのセグメントを刺し、どの程度のユーザーの伸び率を期待し、何パーセントの改善を目指しているのか。しっかりとした数値での目標を掲げず、漠然と改善を繰り返しても、なんの意味もありません。仮説検証をする際には、どれほどの改善を見込んでいるのか。必ず、目標を明確に設定する必要があるのです。
経験則として、改善アクションの3割は悪化、5割は変化なし、残りの2割で改良だと実感しています。結果に一喜一憂せず、得た知見を素早く次に活かす思考こそ、もっとも大切なマインドセットでしょう。
スピード感のある「仮説検証」を信条とするAppBrew社では、すべてのエンジニアがあらゆる業務をこなす「マルチスタック」な活躍を要求している。そのため、社内の情報はできる限り透明化し、社員が主体性を持ち、改善に向けて行動できる文化を醸成していると語る。
深澤AppBrewでは給料を含めたほぼすべての情報をフルオープンにしています。最初は抵抗感を持つ人もいますが、最終的には全員納得できる形で働ける体制が整っていくのです。また階層化を避け、誰でも自主性のもと働ける環境をつくっていますね。社員もインターンも勤務時間は自由ですし、評価は成果に合わせて行なっています。
「kurashiru」の成長から見る、グロースの構造を理解する重要性
最後は、レシピ動画サービス「kurashiru」を運営する、delyのCTO大竹雅登が登壇。アプリの立ち上げから、1,800万ダウンロードを突破する現在まで、グロース全般を見てきた。大竹氏は改善に欠かせない「グロースの構造理解」と「オーガニック獲得チャネル」の重要性を紹介する。
大竹どんなサービスでも初期は指数関数的に成長し、後期は成長率が落ちてくるようなS字カーブ曲線を描きます。S字カーブになる理由を知るためには、DAUとはどのように構成された値なのかを理解する必要があるのです。
新規獲得したユーザーは日数が経つにつれて徐々に離脱していきます。DAUが増えれば増えるほど1日に離脱するユーザーの数も増えていくので、どこかのタイミングで新規獲得数と離脱数が同じになり、DAUの成長率が横ばいになる。
グロースを考える際には、まずこのS字カーブを意識して、自分のサービスはどれくらいのDAUで成長率が横ばいになるのかを把握しておくべきです。リテンションコホート、チャーンユーザー数、DAU成長率を常にウォッチしておくことでそこに意識が向かいます。そして、さらなる成長を目指すために前もって対策をしておく必要があるのです。
続いて大竹氏は「オーガニック獲得チャネルの重要性」について解説。dely社では、Paidの獲得チャネルだけでなく、SEO経由やSNS経由などのオーガニック獲得チャネルを強化してきた。オーガニック獲得を増やすことで、全体でのユーザー獲得コスト(=CAC)を下げることが可能になるという。
大竹オーガニック獲得を増やすためにはブランディングが非常に重要です。例えばTVCMでサービスの認知が一気に高まると、別のタイミングでクラシルの広告に接触した際のコンバージョン率が大きく改善します。TVで見たことあるサービスということ自体が信頼につながるからです。
また、「レシピ動画といえばクラシル」というブランドが確立されてくると、料理をはじめようかなと思った人の第一想起としてクラシルが思い出されるようになるので、広告を打たずとも勝手にダウンロードされるようになります。ブランディングは即効性はなくとも、長期で見るとオーガニック獲得を増やす効果的なグロース活動であると言えるのです。
日々新しいアプリが生まれ、その多くが日の目を浴びることがないまま消えていく。アプリをヒットに導くことへの熱量を持っているエンジニアやデザイナーであれば、専門の分野に固執しているだけでは不十分なのだろう。
「開発中のサービスが伸び悩んでいるので改善したい」「実装だけでなく、グロース施策を回していきたい」といったマーケット思考に基づいた姿勢こそが、サービスを成長させる新たな芽となるに違いない。
そして、アプリにとって必要なグロース術は、プロダクト開発に関わるスタンスの延長線上にもある。ただ、まぐれ当たりではない、険しくも幸福な成長の道は、たしかに存在する。その勇気を感じ取れた時間だった。
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こちらの記事は2019年07月25日に公開しており、
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執筆
川尻 疾風
ライター・編集者(モメンタム・ホース所属)。在学中に、メルマガ・生放送配信やプロデュース・マネジメント支援を経験。オウンドメディアやSNS運用などに携わったのち、現職へ。起業家やクリエイターといった同世代の才能と伴走する存在を目指す。
姓は半蔵、名は門太郎。1998年、長野県佐久市生まれ。千葉大学文学部在学中(専攻は哲学)。ビジネスからキャリア、テクノロジーまでバクバク食べる雑食系ライター。
1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。
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