「コミュ力は不要。必要なのは“想像力”だ」エンプラ全集中を推進してきた参謀・福澤匡規が語る、エンプラ営業7年の技法

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福澤 匡規

2008年に新卒でワークスアプリケーションズに入社。社長賞や最高受注額の4度更新など営業プレイヤーとして活躍し、500人のセールス組織を束ねる責任者も歴任。2018年にビットキーを共同創業し、代表取締役COOに就任。2024年より取締役副社長CRO。

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前回、社長の寳槻昌則氏はこう言い切った。「私たちが挑むエンプラ案件は極めて高度で緻密な『知的な格闘技』であり、そこには、決まった正解など存在しません」と。

壮大な理想がある。「二刀流」でピクセルワールドを飛び出し、「オールスター」で業界横断の連携を組み、1億2,000万人の暮らしを変える。だが、どれほど精緻な戦略も、現場で血肉にしてくれる人間がいなければ絵に描いた餅だ。

その執行者が、創業メンバーにして取締役副社長、福澤匡規氏だ。

ワークスアプリケーションズ時代に社長賞を複数回受賞し、500人のセールスを束ねた伝説的なエンプラ営業パーソンが、プロダクトも実績もない「紙の資料だけ」の状態からビットキーの成長を牽引してきた。顧客の稟議資料を一緒につくり、社内の人間関係を読み解き、4〜5年越しの商談を諦めずに追いかける。その泥臭さの奥に、一貫した確信がある。

「営業に、コミュ力は不要。必要なのは“想像力”だ」

この言葉が意味するものは何か。ビットキーが緻密な計算と想像力を駆使してエンプラ全集中の戦略を推進し続けてきた技法の全貌を、今ここで語る。

  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
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エンプラ営業はThe Modelのやり方では絶対に上手くいかない

日本のSaaS業界に「The Model」という型が定着して久しい。マーケティングがリードを獲得し、インサイドセールスが刈り取り、フィールドセールスが受注する。この分業制は美しく、再現性が高く、多くの企業の成長を支えてきた。だが、福澤氏はそれを「エンプラには通用しない」と断言する。批判ではなく、論理的な帰結として。

提供:株式会社ビットキー

福澤The Modelの仕組みだと、現場の動き方がどうしても“KPIマネジメント”になってしまいます。「何件の架電ができたか」「何件の商談をこなしたか」という数値を追うばかりになる。すると一つひとつの提案に、創意工夫やクリエイティブが生まれづらくなる。

エンプラ営業は、そんなやり方では絶対にうまくいきません。提案スライドも、商談でのトークスクリプトも、相手の個社ごとに徹底してカスタマイズしていくことが不可欠です。「この会社の根本にある課題は何か」「どのような組織・決裁構造になっているか」「意思決定のキーパーソンは誰か」──ひたすら相手企業について深掘りして、商談から受注後まで全体をデザインしていく。そんな経験を積める環境は、なかなかありません。

だからこそ福澤氏は、“コミュ力不要論”を唱える。

福澤一般的に営業で重宝されるコミュニケーション力──人当たりの良さ、飲み会での盛り上げ上手、トークの面白さ。そういったスキルはまったくなくて問題ないと考えています。性格も、明るい必要なんてない。暗くても良いんです(笑)。

エンプラ営業で重要なのは、個のキャラクター性よりも“想像力”です。緻密に勉強・分析した上で、相手企業に対する具体的な貢献を色鮮やかに“想像”し、提案をつくり上げ、伝えていく。これが全てです。

エンプラ営業の大切な勘所を、福澤氏は「想像力」という一語に凝縮する。この言葉は抽象論ではない。ワークスアプリケーションズで社長賞を複数回受賞し、大企業向けの高額ERPを売り続けた経験から導き出された、実践の結晶だ。エンプラ営業の修羅場をくぐってきた人間だからこそ、“コミュ力という幻想”を迷いなく切り捨てられる。

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“想像力”の解剖──何を勉強し、いかにストーリーを設計するか

「想像力」とは、曖昧な才能論ではない。福澤氏はそれを、具体的な二つのフェーズに分解する。

【フェーズ1:緻密に勉強・分析する】

エンプラ営業では、あらゆる知識が武器になる。業界知識や最新の社会トレンドはもちろん、法務、財務会計、組織論、人間関係論まで──中でも「財務会計」と「法務」は、意外に思う人も多いかもしれない。だが福澤氏は「経営層を頷かせる踏み込んだ提案は、これなしにはできない」と言い切る。

「この案件の費用は相手企業の決算でどう計上されるか」「このシステムは何年で減価償却されるか」。そこまで具体的に議論できなければ、大企業の意思決定層は動かない。さらに組織体制と人間関係の読解も不可欠だ。複雑な提案がどのような人間関係の中で検討されるかを知ってこそ、的確な先回りができる。

たとえば「この契約内容で想定される法務部門からの指摘に対して顧客の営業責任者はどう回答すべきか」「この組織では、10億以上の設備投資の提案をどの部門が起案して、誰が決裁するか」──そこまで先読みして動けるセールスが、ビットキーの求める人材像だ。


【フェーズ2:具体的な貢献を“想像”し、ストーリーを設計する】

分析が終わったら、「自分たちは相手企業に何をもたらせるか」を徹底的に想像する。どんな価値を感じてもらえれば稟議を突破できるか。導入後も使い続けてもらえるか。その絵が最も魅力的に伝わる提案とトークスクリプトをまとめていく。

しかし、ここに落とし穴がある。多くの営業担当者が「目の前の商談」だけをイメージして動いてしまうという問題だ。福澤氏はこの罠を教えるために、研修でよくこんなクイズを出す。

福澤流・エンプラ営業クイズ

あなたは自動車メーカーの営業担当。4人家族(父・母・兄・妹)に車を売りたい。

  • あなたと「妹」は高校の同級生で友人
  • 「兄」はメカ好きで、エンジンやシャーシに詳しい
  • 「母」が基本的に家計を握っている
  • 「父」は温厚で、家族の幸せを願っている

さて、あなたならどう営業をかけていくか?

「決裁権を持つ母にアプローチする」──おそらく多くの人がこう答える。ロジカルではある。しかし福澤氏の評価は「アプローチの考え方は正解、だが提案にストーリーが必要なエンプラ案件では不十分」だ。

提供:株式会社ビットキー

福澤エンプラ営業において、一つの商談だけをイメージしても意味がない。リードタイムが長くなるのが当たり前なので、長い目でストーリー性を考えていく必要があります。

このクイズで言えば、妹さんと仲が良いなら、まず妹さんへのヒアリングから始めてもいい。妹さんからお兄さんを紹介してもらい、「このシャーシは安全だ」「このエンジンはコスパがいい」と車の魅力をお兄さんがお母さんに伝えられるよう、布石を丁寧に打っていく。一つひとつの小さな商談を積み重ね、受注後の導入まで含めたストーリー全体を設計する。これがエンプラ営業です。

「まず母に事故の映像を見せて安全な◯◯車をアピールします」みたいな回答を受けることもあります。ロジックは正しい。でも、見ている範囲が狭い。受注とその後の導入まで含めたストーリー性が生まれにくくなってしまうんです。

顧客の組織図を諳んじ、意思決定の連鎖を読み解いてから、やっと提案の土俵に上がる。そのプロセスが、ビットキーの言うエンプラ案件攻略の実体だ。

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「ステークホルダー・リレーションズ・マップ」──組織図ではなく“攻略図”を描け

では、その「意思決定の連鎖」をどう可視化するのか。ビットキーのエンプラ営業が実践しているツールのひとつが、「SRM(ステークホルダー・リレーションズ・マップ)」だ。

一般的な組織図は「誰が誰の上司か」を示す。だが実際の大企業での意思決定は、タテの権限だけでは動かない。正式な決裁ラインの外側に、真の影響力を持つ人物が存在していることがほとんどだ。そのキーパーソンとインフルエンサーを炙り出す地図が、SRMである。

福澤たとえば、ある案件では、稟議書の決裁者は部長でした。でも実態は違った。その部長が強く信頼している現場のマネージャーが「いいね」と言わない限り、部長は首を縦に振らない。表の組織図には一切出てこない構図です。SRMは、その“見えない力学”を書き起こすものです。誰が誰に対して影響力を持っているか、誰が懸念を持っているか、誰を先に動かせば全体が動くか。これを描けると、商談の順番と伝えるメッセージが変わります。

重要なのは、この図が“完成物”ではなく“仮説の地図”である点だ。商談を重ねるたびに更新され、精度が上がっていく。誰かが「◯◯部長は最近こう言っていた」と言えば、それが図に反映され、次の動きを修正する。まさに前回寳槻氏が語った「不完全な地図を手に取る面白さ」の具体形が、ここにある。

さらにSRMから導かれるのが、「誰の懸念を、誰の口から解消させるか」という設計だ。顧客の担当者が社内の役員会でスムーズに承認を得るために、どのようなロジックと材料が必要か──ビットキーのセールスはそこまで考え、担当者の稟議資料を一緒につくることすらいとわない。論破ではなく、“合意形成の伴走者”として機能する。これが、福澤氏のいうエンプラ営業の本質だ。

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「未来のインフラ」を売る──なぜ実績ゼロで大企業が動いたのか

ビットキーの創業期を振り返れば、「想像力」という技術の凄みがより鮮明に浮かび上がる。プロダクトも導入実績もない「紙の資料だけ」の状態で、なぜ名だたる大企業がビットキーと組もうとしたのか。

答えは単純だ。「製品」を売っていなかったからだ。

福澤実績がない時期に、「このプロダクトが便利です」と言っても誰も聞いてくれない。だから私たちは最初から、「5年後・10年後の社会インフラをどう変えるか」という共同設計の話しかしませんでした。

お客様の中期経営計画を読み込んで、「御社が目指す姿と、私たちが社会に実装しようとしているものは同じです。だから一緒につくりましょう」と。プロダクトの購買ではなく、未来の共同設計への合意形成。それが初期の案件を動かした構図です。

これは「夢を語って誤魔化す」のとは根本的に違う。顧客の中期経営計画を精読し、その産業が向かおうとしている方向性を理解した上で、「ビットキーがその未来に必要である論理的な根拠」を組み立てる。財務会計の視点で費用の計上方法まで詰め、法務的なリスクも先回りして潰す。感情ではなく、ロジックの積み重ねが、実績ゼロの壁を乗り越えさせた。

ビットキーの売上の8割はエンプラ案件からの受注だ。ARR(年間経常収益)10億円を超える大型契約も生まれている。3カ月の間に2億円の案件が一気に決まることもあれば、4〜5年追いかけ続けて、決まれば数十億円規模になりうる案件もある。どちらも、「想像力」で設計されたストーリーの産物だ。

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個の技を、組織の力へ──次のマンモス攻略へ向けた剣の再設計

この哲学を、福澤氏は7年間ブレずに実践してきた。しかし彼は現状に満足していない。一人の名手の技が組織の力になるまで、まだ道半ばだという自覚がある。

福澤エンプラ営業は、提案スライドや商談のトークスクリプトの一つひとつで妥協せず、創意工夫を重ねていくことが不可欠です。この点で私や寳槻は、自ら推進することはできた。しかし正直、育成が得意とは言えません(苦笑)。

そこで、まずインセンティブ制度を新たに設計しました。以前はどれだけ大きな受注額を達成しても、個人の収入が増えることはありませんでした。これではエンプラ営業のモチベーションが上がり切らない。今後もエンプラ案件からの受注を増やし続けるという経営戦略は揺るぎませんから、外資IT企業にも負けないくらいの報酬が得られるチームにしていきたい。実際に、役員級またはそれ以上の年収に達しているプレイヤーも出てきています。

そして制度の整備と同時に、福澤氏が招いたのが関原大輔氏だ。セールスフォース・ジャパンで達成率840%を誇る伝説的なセールスパーソンが、ビットキーに加わった。

福澤関原ほど厳しくも愛のある指導ができるセールスパーソンは、なかなかいません。私自身も「関原のもとでセールス経験を積んだら、ものすごく成長するだろう」と本音で言い切れます。

プロダクトという「盾」が整い、営業という「剣」が研ぎ澄されてきた今、ビットキーは次のフェーズへ踏み込もうとしている。個の技を、再現性ある組織の力へ。関原氏の参画は、その意志の象徴だ。

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知的な格闘技──「想像力」が、組織の力になるとき

「コミュ力は不要。必要なのは、“想像力”だ」。

この言葉は、単なる営業論ではない。産業構造そのものを書き換えようとする会社が、最前線の人間に求める資質の定義だ。大企業の意思決定の深部まで潜り込み、SRMで見えない力学を炙り出し、顧客と一緒に稟議資料をつくり、数年越しの商談をストーリーとして設計する。それが「知的に、泥臭く」エンプラ案件を攻略するということだ。

フェーズ1で磨き上げた分析力と、フェーズ2で設計するストーリーが合わさったとき、エンプラ営業は“御用聞き”でも“コミュ力勝負”でもなく、真の意味での“知的な格闘技”になる。その格闘の舞台が用意され、伝説的な指南役が加わり、それに見合う報酬が整いつつある今──ビットキーのエンプラ営業組織は、確かな進化の途上にある。

次回は、関原大輔氏が登場する。「なぜこのタイミングでビットキーに参画したのか」「外資系トップセールスが見た、ビットキーのエンプラ営業の可能性と課題」──盾を携えた騎士団に、新たな指南役が加わった。そのリアルな視点から、マンモス攻略のさらなる進化が語られる。

こちらの記事は2026年02月26日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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藤田 慎一郎

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