PdMはあきらめの悪さがけっこう大事
──ドクターズプライム高橋京輔が胸に秘める「執着心」

インタビュイー
高橋 京輔
  • 株式会社ドクターズプライム 取締役 / 共同創業者 

株式会社サイバーエージェントの米国支社、CyberAgent America, Incの創業に参画し、北米向けスマートフォンゲーム事業の立ち上げを経験。国内大型ゲームタイトルのプロジェクトマネジャーを経て、2016年より株式会社メルカリにて米国向け、日本向けのアプリのプロダクトマネージャーとして、製品開発に従事。中学高校時代の同級生である田とドクターズプライムを創業。

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近年、多くの企業で「プロダクトマネージャー(PdM)」という職種が置かれている。しかし、その役割は企業によって異なり、全体像を把握することは容易ではない。

連載企画「PdM特集」ではPdM経験者にインタビューし、彼らがどのような役割を担っているのかを明らかにしていく。今回インタビューしたのは、ドクターズプライム取締役・共同創業者の高橋京輔氏だ。

サイバーエージェントでプロジェクトマネージャー(PM)を、メルカリでPdMを経験した後、起業。現在は救急車の受け入れを当直医が拒否し、患者がたらい回しにされる問題の解決を図る「断らない医師」を募集するサービス「Dr.ʼs Prime」の立ち上げを牽引する。

PdM職に関心のある方であれば、同氏のブログ『PM memorandum』を目にしたことがあるのではないだろうか。インターン時代から一貫した経験を積んだ高橋氏が考える、PMやPdMに求められる視座を伺った。

  • TEXT BY YUTO CHIBA
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
  • EDIT BY INO MASAHIRO
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「世界に通用するサービスを作る」想いから、事業と向き合う

高橋氏のキャリアは、サイバーエージェントで始まった。「日本発で世界に通用するサービスを作りたい」と就職先を探した結果、海外展開にも力を入れはじめていた同社にたどり着いた。

ただ、彼のキャリアは日本ではなくアメリカで始まることとなる。きっかけは、当時取締役だった西條晋一氏(現・XTech代表取締役)が北米事業の立ち上げを担当する話からだ。世界に通用するサービスに関わるチャンスと感じた高橋氏は、内定者だったにもかかわらず単身渡米を希望。西條氏に直談判し、インターンとして立ち上げに携わることとなった。

CAAmerica時代の写真

「これといった武器もなく、『何かできることはありますか?』と口癖のように言っていました」と高橋氏は当時を振り返る。

拠点の立ち上げから、北米向けのプロダクト開発まで。同氏はその一連を間近で見てきた。ただ、2年が経った頃、さまざまな要因によって北米事業の縮小が決定。

同時に、高橋氏は日本へ帰国。日本法人でソーシャルゲームの担当になる。アメリカでは「できることは何でもやる」姿勢で事業と向き合ってきたが、この部署ではじめてディレクター、そしてPMを任されることとなる。高橋氏のPM職としてのキャリアがスタートしたのだ。

高橋最初にPMを任されたチームは、プランナーやエンジニアなどが所属する80人ほどの組織。異なる価値観やポジションのメンバーの方向性を揃えながら、いかに売り上げを達成するか。プレッシャーと戦う日々でした。

チームには高橋氏より年齢も経験も上のメンバーや、高度な技術を持つ面々も所属する。彼らの合意形成はPMの重要な役割のひとつだ。高橋氏は「ユーザー」を鍵とした“羅針盤を作ること”を考えていた。

高橋各々にやりたいこと、やるべきことがある中、すべての声を聞き入れることはできません。譲れない部分を尊重しつつ、落とし所を見つけるためにも、“ユーザー”を鍵にした羅針盤を作ろうと。あらゆることを「それは、お客さんのためになるのか?」といった視点で考えるんです。この共通認識をもとにメンバーと泥臭く話し合いを重ね、全員が同じ方角を向き、納得して働けるように環境を作っていきました。

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使われるプロダクトの条件は、ユーザー視点の徹底

ユーザー視点で考える──この意識は、次のステージで大いに発揮される。

着実に経験と成果を得ていったが、「日本発で世界に通用するサービスをつくる」という夢も諦めてはいなかった。挑戦にふさわしい環境を求め、メルカリへ転職。海外事業であるUS版アプリの開発をけん引することになる。

当時のUS版は、北米マーケットにフィットさせるべくプロダクトの改善を重ねていたフェーズだった。高橋氏は、サイバーエージェント時代の経験もふまえ、ユーザーニーズをくみ上げて形にする体制を構築。現地のオペレーションチームと連携し、ユーザーの声を収集し、そこで得られたニーズや仮説を元にプロダクトを形作っていった。

検索機能の改善に始まり、タブ形式の変更、UIのリファイン、機能改善などプロダクトの隅々まで手をつけた。USと日本ではユーザーが求めるものも異なる。たとえば、US版のメルカリでは下タブを2016年2月に実装したが、日本版では2019年2月まで実装されていなかった。ユーザーの声を活かし、機能やインターフェイスで各国への最適化を図ってきたからだろう。

US版アプリで一定の成果をあげた高橋氏は、次にある新規事業を任される。ライブフリマの『メルカリチャンネル(※2019年8月クローズ)』だ。ここで、初めてPdMとして抜てきされた。

ただ、任された時点で、リリースまでは残り2カ月半。タレントを起用した大型プロモーションの準備も進んでいた。それにもかかわらず、開発予定の機能は溢れるほどあった。この状況下でも、高橋氏はユーザー視点を徹底した。

高橋やりたいことは無限にあるような状態でしたが、リリースまでこぎ着けるには、限られたリソースでの取捨選択が不可欠。ここで選ぶべきは、ユーザーが本当に求めているものです。実装予定だった機能には、開発側として「やってみたい」「あるとよさそう」というものも少なくなかった。まずは、ユーザーが求める部分だけに焦点をあてる意思決定をしました。

ただし、リリースは必須条件だが、目的ではない。ユーザーが求める最低限の機能を有して間に合わせても、優れた体験が伴わなければ落胆させかねない。立ち上げだからこそ、この意識を強く持っていたという。

高橋理想なき現実解は妥協です。ユーザーに最高の体験を提供できている状態を大きく描くからこそ、そこから逆算して現実ラインに落とし込み、フェーズごとに必要とされる機能を絞り込めるんです。

結果、メルカリチャンネルは予定通りにリリース。テレビ番組『ガイアの夜明け』が密着する中で初配信をおこなうなど話題も集めた。重責の中でも粛々とプロダクトをつくり、ユーザーと向き合いつづけた。

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データを「数字のかたまり」から「意味のかたまり」へ

高橋氏はメルカリで働く中で、PdMとして重視するもう一つの要素を学んだ。それは、定量データを元にした意思決定だ。

メルカリでは、データにもとづく意思決定が徹底されており、データ分析を専門で行う「Analyst Team」と呼ばれるチームも存在する。

高橋メルカリでは、施策の企画前段階で、KGI達成のために「解くべき課題」を定量的に把握します。それを見誤ると、努力しても事業成果やユーザーの価値にまったくつながらない恐れもある。感覚や仮説だけで踏み込むのではなく、データで仮説を補強できれば、安心して課題に集中できると実感しました。

データの取り方にも、学びは多かった。成長速度が早く、次々と機能拡充や改善を繰り返す中では、効果検証は二の次になる場合もある。メルカリではその状況を脱するために、早々に「適切なデータを取り、施策を振り返る文化」を根付かせていたという。

高橋必ず「元のバージョン」と「施策が入ったバージョン」を分けて提供し、新機能や変更が存在しない世界線と、存在する世界線とで、どれほどKPIが変わるかを計測、分析していました。リリース前後での変化だけで施策の善し悪しを判断しようとしても、環境要因が異なるので、必ずしも等価には判断できません。適切にデータを取り、施策を必ず振り返る意識は、メルカリで身についたものです。

ただ、同時に「データは万能ではないことも忘れてはいけない」と言葉を続ける。

高橋データはあくまでデータ。「計測している数値がどんな値であるか」という事実だけしか教えてくれません。その数値からプロダクトが良い状態なのか悪い状態なのかを読み解いたり、さらなるバージョンアップの道筋を立てたりは、使い手の仮説や思考に委ねられている。つまり、解釈には必ず主観が入るんです。「数字のかたまり」を「意味のかたまり」に変換していく技術が、データと向き合う上では欠かせません。

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データとユーザーが両輪で動く意味

ここまでの経験を存分に活かし、高橋氏は次なるフィールドに救急医療の領域を選んだ。

「メルカリの環境は申し分なかった」というが、紆余曲折を経て、学生時代からの友人とともに、2017年にドクターズプライムを創業。医師採用サービス『Dr.'s Prime』と向き合っている。

ユーザー視点の意識、データにもとづく意思決定。この両者は、ドクターズプライムでも存分に活かされている。

データの面では、リリース当初から「解くべき課題」を入念に選定した。

Dr.'s Primeは「医師」と「病院」のマッチングプラットフォーム。ただ、リリース当初は、登録する医師の数が、病院の求人数よりも多い状態だった。医師にサービスと関係性を継続的に築いてもらうために、「解くべき課題」を強く意識して改善を重ねていった。

高橋サービスの特性から考えて数値を設計するなら「継続応募率」や「リテンションレート」をKPIに置くでしょう。ただ、当時の求人数が少ない状況を考えると、解くべき課題は、応募数や率ではない。そこで置いたKPIが「登録後n日時点での来訪率」でした。継続的に期待をもって訪問してもらえているかを測ろうと考えたんです。

解くべき課題を見極めたあとは、定量的に医師会員のサービス内行動を分析。最終的に「登録直後3日以内にある特定の行動を行う会員の数・率」が目標達成へのキードライバーであると発見し、そこを徹底的に改善していきました。結果、登録いただいた医師会員の継続利用が順調に向上していきました。

ただ、同時にデータの限界とも向き合うことになる。「何が課題か」の把握はできるが、「どう解くべきか」はデータの使い手に委ねられるからだ。特に、創業期のスタートアップでは、抜け漏れのない完璧なデータの取得も難しければ、その分析に長けたチームも存在しない。限られたリソースの中で仮説を立てるには、データだけでは不足していた。

そこで高橋氏はユーザーインタビューを重ねることにした。契機になったのは、Dr.'s Primeをよく利用する医師会員に、友人の医師を紹介してもらうキャンペーンが、思いのほか伸びなかったという経験からだ。ヘビーユーザーのリファラルは定石のはずにもかかわらず、数字が伸びないのには何かしらの理由があると考えたのだ。

高橋インタビューを進めていくと、よくDr.'s Primeを利用しているからこそ、「救急車を断らないことは簡単ではなく、誰にでもすすめられない」という気持ちがあると分かったんです。こうした「原因」はオフィスでSQLを書いたり、スプレッドシートで数字を見つめていても永久にわからないものでした。

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PdMが最終的に求められる「執着力」

サイバーエージェントからメルカリ、ドクターズプライムと、一貫して事業、プロダクトと向き合ってきた高橋氏。そのキャリアは、終始「データ」と「ユーザー」の両輪こそが、PdMに欠かせないことを物語っていた。

その経験を踏まえ、インタビューの最後、高橋氏に「PdMとして一番大切にすべきは何か」を尋ねた。返ってきたのは「執着心」という答えだ。

高橋諦めの悪さやしつこさは結構大事だと思うんです。それは、自分が課されている目標を達成するために粘り強く頑張ることもそうですし、仮説の成功・失敗を考え続けることもそう。PMやPdMとしての振る舞い方は様々語られていますが、最終的には執着力の多寡に左右されるのではないでしょうか。

彼の話を聞いて、冒頭に語ったサイバーエージェントでのインターンの話が思い出された。

片道の航空チケットを買い、未経験で何の役に立てるかも分からない状態にもかかわらず、自ら「やれることはないか」と尋ね回り、とにかく手を動かす。彼の考えるPdMに必要な「執着力」の片鱗がすでに現れていたのではないだろうか。

領域が変わったとしても、ユーザー視点を常に持ちつつ、定量的なデータを片手に、プロダクトと向き合うという姿勢は一貫して重要だろう。ただ、そうした技術以上に、あらゆることに執着できるマインドを持つこと。これこそが、PdMとして頭角を現す秘訣ではないだろうか。

こちらの記事は2020年01月10日に公開しており、
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執筆

千葉 雄登

主に関心のあるテーマは社会的養護や震災そしてアートetc... ヒューマンストーリーに興味があります。

写真

藤田 慎一郎

編集

イノウ マサヒロ

ライター/編集者。1991年生まれ。早稲田大学卒業後、ロンドンへ留学。フリーライターを経て、ウォンテッドリー株式会社へ入社。採用/採用広報、カスタマーサクセスに関わる。2019年より編集デザインファーム「inquire」へジョイン。編集を軸に企画から組織づくりまで幅広く関わる。個人ではコピーライティングやUXライティングなども担当。

デスクチェック

長谷川 賢人

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

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