イノベーションの第一歩は「言語化」から──オープンイノベーション領域で市場創造に挑むeiiconとSpiralに訊く、新規事業を民主化する『Innovation as a Service』構想

登壇者
中村 亜由子
  • 株式会社eiicon 代表取締役社長 

2015年「eiicon」事業を起案創業しパーソルグループ内新規事業としてリリースを果たす。2023年4月パーソルグループからMBOし、株式会社eiiconの代表取締役社長となる。 年間60本以上のイベントにおいて講演・モデレートなども務め、多くのアクセラレータープログラムのメンター・審査員としても幅広く活動。 著書:オープンイノベーション成功の法則(クロスメディア・パブリッシング 2019) 特許庁 「オープンイノベーションを促進するための契約ガイドラインに関する調査研究」委員会委員(2019/9~2023/3) 特許庁 「オープンイノベーションを促進するための契約ガイドラインに関する調査研究」ワーキンググループ座長(2022/4~23/3)

岡 洋
  • Spiral Innovation Partners Representative Partner 

2012年に現:Spiral Ventures Pte.Ltd.の立ち上げに参画。2015年、CCCグループ傘下でIMJ Investment Partners Japanの立ち上げを行い、2019年6月にSpiral Innovation Partners LLP 代表パートナーに就任。2014年頃からコーポレートベンチャリングを軸とした企業のオープンイノベーション支援を行っており、T-Venture Program、東急アクセラレートプログラム、ASICS Accelerator Program等の企画運営や、社内ベンチャー制度の企画運営、イノベーション人材の育成支援など幅広くサポート。それ以前はIMJグループにて、Webインテグレーション事業、アフィリエイトプラットフォーム事業、スマートホンアプリ事業等、複数の事業を経験。千葉大学大学院修了。

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よく見聞きするようになった“イノベーション”や“オープンイノベーション”について、何か特別な才のある人、企業でなければ起こせないものだと思っている人も少なくないのではないだろうか。しかし、その問いに対し「No」を掲げるスタートアップが存在する。

「誰でも、どんな企業でも、イノベーションは起こせる」という想いのもと、オープンイノベーションを日本企業に浸透させる仕組みを提供する、株式会社eiiconだ。同社はもともとパーソルグループの新規事業として立ち上がり、2023年4月にMBOを経て、現在に至る。

今回は、数々のオープンイノベーションを実現させてきたeiicon代表取締役社長・中村 亜由子氏と、VCとしてオープンイノベーション支援を行うSpiral Innovation Partners・Representative Partner・岡 洋氏に登壇いただき、eiiconが掲げる『Innovation as a Service』とは何かについて紐解いていく。

  • TEXT BY WAKANA UOKA
  • EDIT BY TAKUYA OHAMA
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オープンイノベーションは、
既に1,700件以上の事例が生まれている急成長領域

──まずは中村さん、岡さんの順に自己紹介と企業紹介をお願いできればと思います。

中村eiiconは、「企業が自立的に新規事業創出やオープンイノベーションを実現できる基盤をつくるスタートアップである」と名乗っています。

提供するサービスは複数あり、Web上でオープンイノベーションを望む企業同士が出会えるプラットフォーム『AUBA』の運営や、eiiconがハンズオンで新規事業の事業化までを伴走するコンサルティング事業。そして、大手企業らが実施するオープンイノベーション・プログラムの企画〜運営なども行っています。

中村我々のビジョンは、「イノベーション後進国からオープンイノベーション先進国へ」。今の日本企業の経営には、「短期的な収益はもちろんですが、 中長期での新規事業創出は欠かせない」といった思考が必要だと考えており、後者の「中長期での新規事業」を生み出す上で、オープンイノベーションという手段が活かせると捉えています。

中村オープンイノベーションの提携先を見つけることができるプラットフォーム『AUBA』は、2023年7月末時点では約28,000社の企業様にご登録いただいており、これまで生み出した新規事業の数は、累計で1,700件になります。

他にも、大手企業から直接アクセラレータープログラムやオープンイノベーションプログラムの運営支援を受託しており、2022年の1年間でご支援した大型のプログラムは37件、プログラムに対する応募企業総数は2,855件といった実績もございます。

また、各都道府県の自治体との連携を通じた企業支援実績も豊富で、累計で140社、143件のプロジェクトを支援してまいりました。本日はよろしくお願いいたします。

Spiral Capitalの岡です。Spiral Capitalはアイ・エム・ジェイという会社のCVCとして生まれた経緯があり、アクセンチュアに買収されるタイミングでMBOし、現在は日本の独立系VCとして展開しています。

以下のスライドにあるように、我々は6つのファンドを運営しており、トータルAUM*は400億円強です。

*Assets under managementの略。運用資産残高。

そして現在のポートフォリオは100社ほどで、右上にあるようにeiiconのMBOもお手伝いさせていただきました。パーソルという大企業から新企業を生む手伝いということで、これもある種のオープンイノベーションだと思っています。

最後に私の自己紹介ですが、アイ・エム・ジェイという会社でWebサイトの構築、スマホAPP『ショッピ!』での新規事業開発などを経て、2012年にアイ・エム・ジェイグループ内のCVC立ち上げに参画。その後、独立系VCとして活動し、CVCの支援まで行き着いたという流れです。一貫して事業立ち上げに携わってきたキャリアですね。今日は皆さんよろしくお願いいたします。

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イノベーションとは、
新規事業を生み出すこと、事業創出である

──ではここからセッションに入っていきたいと思います。今回は4つのアジェンダをご用意しました。メインの『Innovation as a Service』やイノベーションという「マーケット創造」といった話に入る前に、そもそもイノベーションという言葉の定義について、それぞれお聞きしていきたいと思います。

中村「イノベーション」という言葉が初めて誕生したのは、1911年と言われています。

オーストリアの経済学者・ヨーゼフ・シュンペーターが著書『経済発展論』の中で「イノベーションとは新結合である」と表現したことが最初とされており、新結合とはさまざまな労働や今までの経済活動が、それまでとは違う形に結び付くことであると述べました。

その後、改訂や別著を通じて「イノベーション=新結合」は5つの要素に分けて解説され、他にも多くの経済学者や研究者たちから複数の説が提唱されていきました。

日本にイノベーションの概念が入ってきたのは1900年代後半で、1958年に出版されたシュンペーターの『景気循環論』日本語版では「イノベーション=革新」と訳されました。また、その2年前の1956年に内閣府が発行した『経済白書』においても、イノベーションを表す造語として「技術革新」といった言葉が用いられ、今日のイノベーションのイメージを形づくってきました。

こうした背景から、eiiconはイノベーションを「新規事業の創造」「事業創出」だと定義し、そこに向けた事業を推進しています。

──まさにこの事業創出がどう起こっていくかが日本を変える上で重要なポイントだと思っているのですが、日本でイノベーションは本当に起きているのでしょうか。

中村イノベーションを何と定義するかにもよりますが、起きていると思います。

世界を席巻するような、会社が時価総額ランキングトップ10に入るサービスやプロダクトをつくることがイノベーションであると言ってしまうと、2010年以降、そういったものは国内からはまだ生まれてきていないと思います。もちろん、いくつかのスタートアップからその萌芽は生まれているように思いますが。

ただ、我々が考えるイノベーションとは、もう少し足元というか、脈々と培ってきたものが芽吹き、世の中に生み出されていって、新たな文化圏をつくったり人々の行動変容を起こしたりということまで含めて捉えています。その意味で言うと、いくつものイノベーションが生まれていると思います。

──確かにイノベーションという言葉だけを聞くと、大きいものというか、複雑性の高いものというイメージを持ちがちかと思います。しかし、eiiconが捉えるイノベーションとは「事業創出」のことであり、規模の大小を問わない営みであることが理解できました。一方でSpiralの岡さんは、日本でイノベーションが起こっているのかどうか、またイノベーションとは何かといった点について、どのようにお考えですか?

中村さんの考えと同じですね。イノベーションとは、ともすれば、技術シーズをさらにすごいものに昇華させていくことだと捉えがちですが、それだけではありません。

冒頭で、「eiiconの成り立ちがまさにオープンイノベーションだ」と言ったのは、パーソルという大企業が「どんぐりの種=新事業」を生み、それが芽吹いたことを指しています。

この芽を大樹にしていくには、パーソルから飛び出して育っていく必要があり、そこにVCの「お金=水」が流れ込み、また次のステージにいこうとしている。この一連の流れも、大企業とスタートアップ、VCマネーのイノベーションの形だと思っています。

──eiicon自体がイノベーションを体現している存在なんだと理解できました。次は、イノベーションを起こすことができている企業と、そうでない企業との差分、イノベーション成功と失敗の要因がどこにあるのかについて触れていきたいと思います。

中村やはり、イノベーションに対する定義ができているかどうかがチェック項目だと思っています。イノベーションというものを曖昧な言葉のまま使ってしまうと、どうしても企業の中でも相互に認識違いが出てきます。

なので、「その会社にとってのイノベーションとは何か」を定義する。もっと言えば、「新規事業とは」「事業創出とは」「アクセラレーションとは」「オープンイノベーションとは」について社内で定義を統一することが大事です。

その上で、それらを実現するために何をしていかなければならないのか、数字とリンクさせながらマイルストーンを切っていくのが次の段階として重要だと思っています。

──岡さんはこの点についていかがですか?イノベーションを起こせる企業のポイントがあればお聞かせください。

中村さんがおっしゃった定義の話、その通りだと思います。その上で加えるなら、月並みに聞こえるかもしれませんが、やはり「人」だなと思っています。

どれだけ強固な技術力や資本力を持っていても、それを推進する人や推進を許可する経営者、推進できる環境や人事制度、評価制度などが揃っていないとイノベーションは起きません。

ですので、この点に気付いている会社は強いです。例えば、「新規事業に関しては彼ら彼女らに任せています」という言葉が出てくるとか、「新規事業のこの点については役員1人で決済できます」と言えるとか。それこそ、「会社の中に新規事業に関する仕組みはないけど、勝手にやっちゃっています」といった人がいる組織は、なんだかんだイノベーションが進んでいる印象がありますね。

逆に、「ちょっとこれは一度、社内に持ち帰ります」とか、「この件はあの人に言わないと進められない」とか「予算が」と言ったマインドになっている時点で、イノベーションは起きないなと感じます。未知なることに対して許容する文化や制度があることは重要だと思っています。

中村おっしゃる通りですね。eiiconは、約160の項目からなる、イノベーションを起こせる土壌ができているかどうかの要素を整理しており、それを用いて企業の状態をチェックする『イノベーションバイタル』という企業向けツールを展開しています。そこには6つのセクションがあり、例えば「決裁権限が明らかになっているか」「決裁権限を渡せているか」などといった項目まで含まれています。

あとはアントレプレナーシップ。つまり誰がボールを持って走るのかもすごく大事で、事業を生み出すには「卵=生まれる事業」、「それを生み出す土壌=器」の2軸があり、その両方がとても大切です。しかし、この「器」側の準備が得てして忘れられがちなんですよね。

──ここまでの話を聞き、結構地道で大変だなとか、少しずつ変わっていくものなんだと感じられた方がいると思います。ここで少し嫌な質問かもしれませんが、そんな地道なイノベーションで本当に世の中が変わるのか、社会を動かせるのか、価値を出せるのかについて、お二人の見解をお聞きしたいです。

中村初からホームラン級のイノベーションを狙うとしたら、それは難しいと思います。

すでに事業を運営している企業であれば、その基盤を守りながらどうプラスアルファをつくるのかという話もあると思っていますし、ゼロイチをやっていく中でも企業ごとに事業の時間軸があるでしょう。

とても地道なんですが、私たちはイノベーション創出においては「前準備が8割」と言っています。「とりあえずやろう」という見切り発車は大体失敗するんですね。なので地道だと言われてしまうのはわからなくはないのですが、しっかりと準備して、体制を整えて進められれば10回に3回はきちんと事業が生まれていきます。

じゃあ、その事業が100億円、1,000億円規模になるのかと言われると、「そういうものも出てくる」という回答にはなってしまいますが、5年以内で50億円ぐらいの規模なら狙える世界だと思っています。そして、その規模の事業を複数積んでいけば、いずれは100億円、1,000億円にも到達できるだろうと思っています。

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企業同士が出会える場がない。
危機感を覚えたのが事業創出の原点

──2つ目のテーマは、なぜオープンイノベーションは「市場」と呼べるのか。これも意地悪な質問かもしれませんが、イノベーションって施策ですよねという印象を持つ方もいらっしゃるかなと思うんですね。その中で、何をもって市場と呼べるのか。こちらも言葉の定義をぜひ伺いたいです。

中村オープンイノベーションが「市場」になっているかどうかという話でいくと、なっているというのはまだ言い過ぎかなと思っています。

市場という言葉の定義が、「常設で毎日、人が来て売買が行われ続ける場」だと考えると、まだまだ小さいマーケットです。ただ、「本当は取り組まなければいけない」と気付き始めている企業自体は増えていますね。

また、「イノベーションを生むにはオープンイノベーションしかないのか」というと、そんなことはありません。自社単独による新規事業もあるわけです。ただ、自社だけだと解決できない課題も存在するため、私たちのような会社が存在しているんです。

オープンイノベーションとは、自社の工数を抑えつつ、インパクトのある事業を生み出せるもの。この手段に気付き始めている企業が多いので、まもなく大きな市場になるだろうなと感じています。

──ありがとうございます。岡さんの第三者的な目線からも、今のオープンイノベーションという市場をどう捉えているかについて教えていただきたいです。

私は中村さんの認識よりも、強固な市場ができていると認識しています。

我々はCVCを運営しているんですが、クライアントはうちの場合いずれも一部上場企業なんですね。キャッシュをたくさん持っていて、これを第三者に預けてスタートアップに投資をしながら事業をつくっていきたいと考えている。これって広義のオープンイノベーションではないでしょうか。

私がアイ・エム・ジェイで1番最初にCVCをつくった時は3億円を拠出するのも大変だったんですが、今は2桁億円後半、3桁億円も特に珍しくないぐらいの規模で資金を用意できている。まさに広義のオープンイノベーションが拡大している証拠です。

あとは、eiiconしかり、弊社のようなVCしかり、FastGrowしかり、オープンイノベーション創出を支援する「ツルハシ屋」が増えているというのも、つまりはそこに市場があるということの証左ではないでしょうか。

──なるほど。この話に切り込んでいけたらと思うのですが、中村さんがeiiconをつくられた時は、「市場をつくろう」と思って事業をやってきたのか、やりながら「ここに市場があった」みたいな感じだったのか、ぜひ教えていただきたいと思うのですが。

中村 正直どちらも思っていなかったのが正直なところですね。もともとこの事業の構想はパーソル社内で起案したんですが、当時のことを思い返すと「オープンイノベーションという手段を日本全国に浸透させねばならない」という危機感からでした。

社外とコラボして事業を生み出すという手段は画期的で、効率よくインパクトの大きいものを生み出せる手段です。また、「日本人に向いている手段だな」とも思っていました。相手を慮ることができる国民性、win-winを地で行うような国民性が日本人にはありますよね。まさに日本に合ったイノベーション手段であるはずなのに、現実はまったく浸透していないことに驚きました。

2015年に起案した当時、そこに危機感を覚え、この手段を全国の企業が使えるようになれば、イノベーションが進むと思ったんです。でも、始めてみたら多くの企業がそもそもオープンイノベーションを知らなかったという現状にぶつかり、「これは市場、文化をつくらねば…!」と思うようになっていきましたね。

──2015年に危機感を抱くに至ったきっかけは何だったのでしょうか。

中村 当時の私は育休中で、知人が他の会社とコラボして事業範囲を広げようとしていたんですね。パートナー企業なんて簡単に見つかるよねと思っていたら、全然見つからないということにびっくりして、手伝ってみようと思ったんです。

当初は、Web上に、「こういう新規事業をやりたいんだ」とか「こういうことを考えているから一緒にやらないか」といった情報がいくらでも転がっていると思っていたんですよ。なぜそう思ったのかというと、パーソルという会社で人材の採用支援に従事していまして、その中に求人広告というツールもあったからなんです。皆さん、新規事業を始める際は大抵の場合、人材募集を出されるんですよ。

その流れで、オープンイノベーションの募集もWeb上に出ているものだと思っていたら、まったく存在していなかった。「これではパートナーは発見できない…」と思い、猛烈に焦りました。「もっとオープンな場で企業同士が出会えればいいのに…」と。

──そこから市場をつくっていくというチャレンジに繋がっていくと思うのですが、具体的にどうやって市場を拡大させていくのか。中村さん、岡さんの順にお聞かせいただけますか。

中村 創業当時は「オープンイノベーションのプラットフォームです」とだけ伝えても本当に箸にも棒にも掛からず、何も響かせられなかったことも多くありました(笑)。

それでも使ってくださった方がオープンイノベーション創出に成功したことをお話してくださり、少しずつ「オープンイノベーションプラットフォーム」としての認知、そして「オープンイノベーション」自体の認知が広がっていきました。

そこから比べると、波紋が生まれて大きな潮流になってきているとは思います。そしてここからさらに全国に浸透させていくには、より大きな、圧倒的な事例を出していく必要があります。

やはり結果が出れば、かしこい企業はみんなオープンイノベーションという手段を選ぶことに繋がっていくだろうなと思っているので、圧倒的な事例をたくさん生んでいくことが大事だと思っています。

──岡さんはこれからのという市場に必要なことについて、どう捉えていらっしゃいますか?

まさに事例の中身が重要になってくるフェーズだと思っています。今は「オープンイノベーション?そうだよね、やっぱりやってるよね。でも、ヒットが出ても一塁レベルだよね」という状況で、「ツーベースには行けなかったね」「得点は入ってないじゃん」という感じなんですよね。

オープンイノベーションはゼロイチの事業であるため、祖業に比べると利益が生まれるまでにタイムラグがありますよね。このラグを早く埋めるべく、祖業を担当している人たちが驚くような利益の生み方を考えたり、これまでの自社にはなかった価値提供を意識的に模索していく必要があります。

なので、我々もオープンイノベーションの支援をする時は「まずスモールウィンサクセスを目指しましょう」とお伝えします。例えば3年以内には社内の全員が知っているような事例を生み出すとか、社員が驚くようなインパクトを残すといったことをやらないと、サステナブルにオープンイノベーションを推進していく環境は構築できないと思います。

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『Innovation as a Service』とは、
イノベーションを誰もが意図的に生み出せる装置

──3つ目のテーマは『Innovation as a Service』構想についてです。まずは中村さんにこの構想が何なのかについて、ご説明いただきたいと思います。

中村イノベーションを意図的に起こすための仕組み、そしてその基盤をあらゆる会社に埋め込んでいくこと、まさに企業にCPUを埋め込むようなイメージを持っています。

eiiconは、オープンイノベーションに関する情報ギャップを活用して食べていくつもりはなく、オープンイノベーションの方法をすべての企業に浸透させ、企業が自立自走してオープンイノベーションを実践していけるようになれば良いと思っています。そのために、SaaS型プラットフォーム『AUBA』と、ハンズオンの伴走支援を提供しているといった具合です。

『AUBA』に関しては、オープンイノベーション創出において重要なエッセンスが集約されており、導入企業は『AUBA』のUI/UXに沿って進めると、オープンイノベーション創出を体得できるといったものになっています。そしてそのエッセンスの基になったものは、ハンズオンで大企業に支援をする中で得た知見・ノウハウなんです。

──「自立自走するための支援をする」と言葉で言うのは簡単だと思うのですが、イノベーションとは、属人性が高いイメージがあると思います。1人の天才が起こすものであるとか、偶発性が高いものであるとか。『Innovation as a Service』を通じてオープンイノベーションを仕組み化していくというお話がありましたが、「それ、難しくない?」と思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。

中村やはり大事なことは「言語化」なんですよね。

きちんと企業の中でイノベーションについて言語化しないと何も始まらないというか、何について話しているかがわからなくなってしまうというのが、多くの企業で起こっていることだと思っています。なので、まずは自社内で「イノベーションとは何か」をバシッと定義する。そしてその上で仕組みを乗せていくことが重要ですね。

我々も事業立ち上げ当初はオープンイノベーションのステップを型化し、実装ができるかどうか定かではありませんでした。仮説でしかありませんでしたし、競合他社にも同様の企業がなかったので。

しかし、今では多くの新規事業を創出できていますので、「オープンイノベーションの実装は不可能ではないな、この方向性で合っているな」と確信を得てきています。規模感としてはまだまだこれからではありますが、まさにこれから本格的に日本企業に波及させていくといったフェーズですね。

この『Innovation as a Service』という表現、とてもわかりやすいなと思っていて。近年、SaaSという言葉が広まり、AWSやSalesforceなど代表的なサービスが出てきて、ビジネスパーソンの皆さんがごく自然に使える時代になっていますよね。

こうしたSaaSを供給している会社のテクノロジーが素晴らしいのはその通りなんですが、それを導入企業が活用したことで生まれた成功事例、活用されたことで運営元に蓄積されたデータ、そこからPDCAを回した結果生まれた機能などがプラットフォーム上に蓄積されていき、中長期的にその恩恵を享受できる会社が増えていっている。

この構造はeiiconも同じで、さまざまな会社がオープンイノベーションに四苦八苦した結果生まれた機能が『AUBA』にあり、オープンイノベーションの創出がマニュアル化、言語化され、標準化されていく。オープンイノベーションが「as a Service」として利用できる世界が近づいてきているというのは、非常にワクワクしますよね。

──そうですね。言葉にして定義して分解し、それを実現していくところに落とし込んでいくというプロセスが非常に重要なんだなと思いました。

中村オープンイノベーションって、やはり「突出したすごい人がやるもの」というイメージが浸透しすぎていますよね。もちろんそういう面もあるかもしれませんが、本来は誰でも実現できるものです。だからこそ、それを仕組みにして『Innovation as a Service』として提供していきたいんです。

eiiconがAdobeやSalesforceのような存在を目指すのだとすると、オープンイノベーション、いえイノベーションに関するあらゆる行為に対し、ツルハシ、つまりサービスを提供していかなければいけないと思っています。

現在のeiiconのプラットフォームにおいて、オープンイノベーション実現に向けたパテント(特許、特許権)の検索ができるかと言われるとまだですし、テック人材の採用ができるかというと、それも今はできません。しかし、先々はそういったオープンイノベーションの実現に必要なアクションもプラットフォームからリーチできるようにすることが重要です。もちろんeiiconがそのすべてを提供する必要はないんですが、オープンイノベーションにまつわるプラットフォームという世界観を創るのであれば、まだまだやるべきことは多いなと感じています。

中村確かに、その状態ができていることこそ、まさに「市場ができている」というイメージですね。

──これはまた少し違う切り口なんですが、今回のテーマは「戦略コンサルとは一線を画するInnovation as a Service」ということで、コンサルとの対比、差分についても教えていただけますか。

中村コンサルは、顧客企業が自社だけでは見えないところを整理・分析し、「御社だったらこういうところを伸ばすべきなのでは」と提言するところが1番の強みだと思うんですが、それを実際に実行するのは顧客企業の役割となっていますよね。

対して、eiiconの場合は、顧客企業が自立自走できる状態をつくることが役割なので、実行フェーズにおいても一緒に伴走するところがコンサルとの違いかなと捉えています。

我々Spiralも起業家に伴走するCVCをやっていますが、この違いは現場にいるとよく分かりますね。我々投資家側も出資した責任を背負って、起業家に伴走して結果を出さなければいけない。単に資金だけ提供して、結果が出るまで待つ、というものではないんです。その点でいくと、eiiconもやはり顧客企業がオープンイノベーションを実現できるように、現場に入り込んで支援をしている。これは当然ながらコンサルの域を超えたサービス提供かなと思いますね。

中村イノベーションの定義は会社によって異なるというお話をしましたが、とはいえ、オープンイノベーションの創出に向け、決めて動かしていくべきものは一定決まっているんですよ。なので、我々も伴走する中で「この辺で(顧客企業が)つまずきそう」と感じたところに深く入り込んで支えていくといったことができています。

──解決策の提示だけではなく、問題点への踏み込みと伴走が強みということですね。ここで1つ質問です。イノベーション支援者の中で印象に残ったプロジェクトに関して、可能な範囲でご紹介いただきたいとのことですが、いかがでしょうか。

中村公になっているプロジェクトでいうと、NTTコミュニケーションズと京都大発のメトロウェザーとのコラボですね。メトロウェザーは小型の風況予測装置をつくっているスタートアップで、NTTコミュニケーションズの鉄塔を使ったコラボビジネスを2019年に展開しました。その後、2020年には国土交通省の実証実験に採択され、今年に入ってからはNASAに採択されるなど、国を飛び越えて認められる事業になっていっているという嬉しい話でしたね。

他にeiiconらしい事例でいうと、宮城県でカツオ漁業を営む浅野水産と大手町のAIベンチャーのコラボ事例があります。漁師さんが長年プロの勘で漁場を決めていたところにテクノロジーを搭載するというプロジェクトです。なかなか出会うことのない業種の会社が出会えて事業をつくっていったのは、まさにオープンイノベーションの素晴らしさを指し示す好例だと思います。

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オープンイノベーションが日本企業に浸透すれば、
日本は再び世界でリーダーになれる

──最後のアジェンダは、MBOまでに踏み切ったeiiconが見据える、オープンイノベーションが描く未来社会です。改めて、MBOをしてまで、オープンイノベーションに関する事業をやろうと思った背景や想いについて教えていただけますか。

中村最近、「eiiiconはもともと、パーソルからMBOしたかったんですか?」と聞かれることが増えたんですが、これも「そんなことはない」というのが回答ですね。

オープンイノベーションを日本全国に浸透させるためにマイルストーンを切っていく中で、「やるべきことはこうだ」という戦略があり、「それを成し遂げるにはMBOという手段が最適だ」という結論に至ったという具合です。

ここまで突き動かされてきた原動力として強いのは、悔しさと危機感です。私たちは今、労働人口の真っただ中で、誰もが手を抜くことなく一生懸命働いていると思っているんですね。世界から見て技術的に劣っているのかとか、人材が優秀じゃないのかというと、そんなことはない。みんな優秀だし、素晴らしい技術もたくさんある。

ただ、やはりサービスのつくり方やイノベーションの生み出し方という点では伸び代が多く、そのために成長の足止めをくらっているなとは感じています。ですので、この課題を解決すれば、日本はもう一度世界に返り咲けると思って、事業を推進しているという具合ですね。

──岡さんは、MBOも含めてeiiconの側で変遷を見ていらっしゃったかと思いますが、何か思うところや補足はありますか?

MBOをしてまで、パーソルという宿り木から巣立ったわけですが、この意思決定には勇気がいると思うんです。それくらい、「オープンイノベーションを日本に根付かせなければいけない」と腹に決めたのでしょう。

私が思うeiiconのユニークネスは、思想ですね。オープンイノベーションを社会にインストールすることに全力でコミットしている。見方によっては、オープンイノベーションの実現に向けたコンサルティングサービスを、1案件1,000万円ほど頂いて10年やった方が儲かるわけですよ。でも、eiiconはそれをしない。むしろ、「3年くらいでオープンイノベーションのイロハを習得してeiiconの伴走支援からは卒業してください」といったスタンスやサービス提供をしている。「あとは自分たちで『AUBA』のプラットフォームを活用して自由に自走してください」と。

つまり、本来なら狙える3年以降の残り7年間の7,000万円の売上を捨てて、オープンイノベーションの浸透にコミットしている。こうした本気の思想こそが、eiiconの競合優位性になっているのではと感じますね。

中村本来あるべきで考えたらそうなるはずなんです。だって、ツルハシにお金をかけ続けるのはおかしいですから。

という話がどんどん出てくるんです(笑)。

──ありがとうございます。では、最後に1つ質問にお答えいただいてクロージングしていきたいと思います。オープンイノベーション支援をする中で、支援先が悩みがちな点、停滞しがちな点はどこでしょうかという質問です。

中村これ、もう言語化ばっかり言って恐縮なんですが、やはり「言語化」なんですよね。オープンイノベーションの推進においていろいろなフェーズで現場の方、管理職の方、トップの方が悩むシーンがありますが、どれもポイントは「共通言語化」がなされておらず、「何のために」「何をやるのか」が整理できていないケースが殆どです。なので、今日はとにかく「オープンイノベーションにおける第一歩は、目的や手段に関する『言語化』が重要なんだ」と捉えて持ち帰っていただければと思います。

──どうもありがとうございます。それでは最後に、岡さん、中村さんの順に視聴者へメッセージをお願いします。

まずは、イノベーションだ、オープンイノベーションだと大それたことを考えるのではなく、今、目の前にある常識や仕組みに対する違和感を解決に動くこと、そういう方がイノベーション人材になれると思っています。

奇をてらうとか、上の人の言うことを聞かずに好き放題動くとか、そういうものがイノベーションに通じるのではなく、目の前のことを一つひとつ解決して乗り越えていくこと。まずはこうした姿勢が大事ではないでしょうか。

なので、「何でうちにはこういう仕組みがあるんだ?」と疑問に思った瞬間がチャンス。そこを乗り越えられる推進力、政治力などを身に付けた結果、組織にとって重要な人材になれるのだと思います。あとは、eiiconの『AUBA』や『TOMORUBA』を全部読み込んで学ぶことかなと(笑)。

中村オープンイノベーションとは、社外とコラボして、より効率的に、インパクトの大きな事業を生み出せる手段だということを、皆さんが自分の言葉で周囲に説明できるようになっておくと、この先必ずその機会が訪れると思っています。

オープンイノベーションの実施はどんどん当たり前になっていますし、せねばならないと多くの企業が思っていますから。もちろん、それを社内で実行する側に立つもよし、または、eiiconの中で多くの企業に実装支援していくもよし、です。ぜひ、今回の話を聞いて1人でも多くの方がオープンイノベーションに興味を持ち、アクションを取っていただけると嬉しいです。

こちらの記事は2023年10月25日に公開しており、
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大浜 拓也

株式会社スモールクリエイター代表。2010年立教大学在学中にWeb制作、メディア事業にて起業し、キャリア・エンタメ系クライアントを中心に業務支援を行う。2017年からは併行して人材紹介会社の創業メンバーとしてIT企業の採用支援に従事。現在はIT・人材・エンタメをキーワードにクライアントWebメディアのプロデュースや制作運営を担っている。ロック好きでギター歴20年。

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