オープンイノベーションとは、マッチングではなく「事業創造」だ──eiicon 中村氏が描く、日本再興の鍵を握る『Innovation as a Service』構想

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インタビュイー
中村 亜由子
  • 株式会社eiicon 代表取締役社長 

2015年「eiicon」事業を起案創業しパーソルグループ内新規事業としてリリースを果たす。2023年4月パーソルグループからMBOし、株式会社eiiconの代表取締役社長となる。 年間60本以上のイベントにおいて講演・モデレートなども務め、多くのアクセラレータープログラムのメンター・審査員としても幅広く活動。 著書:オープンイノベーション成功の法則(クロスメディア・パブリッシング 2019) 特許庁 「オープンイノベーションを促進するための契約ガイドラインに関する調査研究」委員会委員(2019/9~2023/3) 特許庁 「オープンイノベーションを促進するための契約ガイドラインに関する調査研究」ワーキンググループ座長(2022/4~23/3)

富田 直
  • 株式会社eiicon 取締役副社長 Cofound 

中央大学卒。2016年、eiicon を代表中村と共に共同創業。サービス全体のマーケティング、プロモーションからWebサイト開発・デザイン~ディレクション含むモノづくり全般を担うプロダクトサイド責任者を務め、27,000社をこえる日本最大級のオープンイノベーションプラットフォーム「AUBA」、会員2万人を超える事業活性化メディア「TOMORUBA」等を設計・構築。

村田 宗一郎
  • 株式会社eiicon 執行役員Enterprise事業本部・公共セクター事業本部管掌 

2020年eiiconに参画。Enterprise事業本部・公共セクター事業本部を管掌し、主に法人企業・自治体へのオープンイノベーション支援に従事。eiiconのオープンイノベーションプログラム総責任者。各種プログラムでのセミナー・講師・メンターやイベントでの講演など実績多数。

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日本の経済再生のカギとなる、イノベーション。

その重要性は日本のあらゆる企業が認識しており、経営戦略の一手として掲げている。ところが、いざ蓋を開けてみると、そこに新たな事業は生まれていないケースが多い。中小企業から大手企業まで、その豊富なリソースを持ってしてもだ。

事業を通じてイノベーションを生み出したくても、生み出せない。いやさらに言えば、そのために何をしたらよいのか分からない。それがイノベーション創出に悩みを抱える企業の本音ではないだろうか。

しかしご安心を。こうした日本企業の課題を解決し得るスタートアップが今、密かに、そして確実に台頭せんとしている。その名はeiicon。同社は、世の中にある様々な新規事業創出手法の中でも、他社と共創して新規事業を生み出す「オープンイノベーション」の可能性に着目する。従来の自社単独で行う「クローズドイノベーション」とは異なる、新たなイノベーションの仕組みを日本の企業に実装しようと挑んでいるのだ。

ただし、FastGrowでは今更、「オープンイノベーションについて」の基礎を論じるつもりはない(前提となる情報は『オープンイノベーションとは?意味や事例・戦略を徹底解説』より)。また、本記事で表記する「オープンイノベーション」には2つの意味があり、(1)企業の新規事業創出における「施策」「手段」と、(2)これから急成長を遂げる「市場」という意味合いとして活用している。読者はそうした認識を持った上で読み進めてもらいたい。

「既に市場にある価値の代替を担うスタートアップも素晴らしいが、ゼロから市場を創る挑戦こそ、スタートアップの真髄では?」と述べるeiicon・中村氏。同社の挑戦は、今の世にない新たな価値を生み出そうとしている起業家・経営者の魂を鼓舞するものになるはずだ。

  • TEXT BY YUKO YAMADA
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
  • EDIT BY TAKUYA OHAMA
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オープンイノベーションとは「マッチング」ではなく「事業創出」である

中村オープンイノベーションほど、工数対効果が高い新規事業創出の手段はありません。多くの日本企業はまだこの魅力に気づいていない。この認知を変えることが、eiiconの挑戦です。

新規事業創出がなかなか進まない日本企業。なぜなら、社内で新規事業を通じたイノベーションを生み出そうとする場合、当然、リソースに限りがあるため、「採用」や「人材育成」といった新たな課題が生まれてくるからだ。

だが、すでに新規事業創出に必要なアセットを持つ他社とコラボできれば、企業は採用や人材育成に投資せずとも素早く事業を生み出すことができる。これがeiiconの主張だ。

一方で、イノベーションの実現が遅れている日本企業においては、新しい技術を用いた事業創出はもちろんのこと、他社との共創による事業創出に関してもまだまだ不慣れ。そのため、eiiconが提供するオープンイノベーションのプラットフォーム『AUBA』を知るなり、「すぐにでも理想のパートナー企業と出会い、特大ホームラン級の新規事業が生み出せるのでは?」という妄想を抱いてしまいやすい。

取材に同席したeiiconの取締役副社長・富田氏は、「確かにオープンイノベーションは工数対効果に優れています。しかし、オープンイノベーションによる新規事業創出は魔法ではない」と指摘する。

富田オープンイノベーションはまだ市場ができていないので、イメージのわかない方もいらっしゃると思いますが、、分かりやすい例えをするのであれば、“婚活アプリ”などに例えると分かりやすいかもしれません。婚活アプリでは、一番最初に出会った人とそのまま結婚まで進む確率は、「ほぼない」と言っても過言ではないですよね。

同じくオープンイノベーションにおいても、最初に出会った1社と意気投合し、そのまま新規事業の共創に発展する確率は極めて低い。したがって、1社でも多くのパートナー企業と出会い、「自分たちはどういうパートナーを求めているのか?」を見定めつつ、最適な相手を見つけていくことが重要です。

富田例えば、ある顧客がパートナー企業を見つけてオープンイノベーションを推進するとしましょう。まず『AUBA』を用いて1ヶ月に約7〜8社ほどアプローチして、そこから4社ほどパートナー企業候補との面談まで進み、その内の1社と具体的な共創の検討に至るといった具合です。これを数ヶ月に渡って繰り返していくことができれば、自社戦略にあった企業と新たな事業を生み出すことができると言うことです。

もちろん、理想のパートナー企業と出会うためにとにかく打席に立ち続けさえすればよいという話ではありません。「どうすればパートナー企業が前向きに提携を検討してもらえるか?」「自社との提携の魅力をより明確に言語化できないか?」などの改善を繰り返しながら、継続的にアプローチし続けることが重要です。そうした努力の先に、顧客にとって新しい柱となる新規事業が生まれてくるんです。

こうしたオープンイノベーション創出にまつわる事業を展開するeiiconに対し、「単なるマッチングビジネスなのでは?」「アクセラレーターとしてスタートアップの支援をする会社では?」と感じる読者がいるかもしれない。しかし、中村氏は明確にこれを否定する。

中村私たちの事業は、企業同士を繋ぐことが目的のプラットフォームビジネスだと思われがちですが、それはeiiconが提供するソリューションのごく一部の機能に過ぎません。

顧客が求める「オープンイノベーションを用いた新規事業の創出」というゴールに向かって、定期的に進捗管理を行い、必要な要素を顧客に提示していきます。そして、顧客側はそのステップ通りに進んでいくことで、事業化に行き着くようになっているんです。

こうしたオープンイノベーションによる新規事業創出に向けて、顧客の目的の整理や、参入領域・ターゲットの明確化、顧客企業内の体制構築、共創パートナーの探索からインキュベーション、事業化まで、私たちはすべてノウハウを型化してサポートを行っていきます。この一連のサービス提供を我々の中で「Innovation as a Service」と定義しています。

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オープンイノベーションの共創相手探しは、求人募集と同じ?

それでは、実際にeiiconのサービスを活用する顧客からはどのような相談がくるのだろうか。すると中村氏は、直近で事業化が決まった事例として『湘南ベルマーレフットサルクラブ』を例に挙げた。

中村例えば、今年度からご一緒させていただいている『湘南ベルマーレフットサルクラブ』さんでは、当初から「社会課題を事業として解決したい」という想いがありました。「なぜベルマーレとして社会課題を解決しようと思ったのか」「ベルマーレのリソースをどのように活用していきたいのか」などその想いの背景やゴールを伺いながら、目的と共創のテーマを共に整理するところから始まりました。

そして、その目的を実現するために共創するパートナーを我々のプラットフォーム上で探していくのですが、当初のベルマーレさんは「広くいろんな企業と会ってみたい」という気持ちのほうが強かった。そこで最初は多様なパートナー候補企業との面談を設定してみる。そうして会っていくと、自社が求めているパートナー像がよりクリアになっていかれた。

オープンイノベーションはまだまだ一般的な手法ではありません。そのため、自社が求めるターゲットをどのように絞るか、どう打ち出すかも手探りです。我々はその手探りの部分からご一緒し一定のやり方をお伝えしながらサポートする、また実践ができるプラットフォームを活用することでターゲット像をよりブラッシュアップしていく過程に寄り添います。

ベルマーレさんにとってオープンイノベーション実践において実現したい事業は慈善事業ではありません。あらためてオープンイノベーションを実行する目的とそれを他社へどう伝えるかを整理しながら、「御社であれば、共創先は◯◯な企業群がいいのでは?」「その中でも各社のミッションを比較すると、A社やC社が貴社の想いと共鳴しそうではないですか?」といった具合に共創先を提案しながらすりあわせていっています。

過程の中でどんどんベルマーレさんのオープンイノベーション習熟度が上がっていくことも感じられましたし、結果、お取組みを始めてたった3カ月で相性のいいパートナー企業と出会い、社会課題解決に向けた事業化が決定しました。

このように、単にマッチングの機会を設けて企業間の交流を促すのではなく、顧客がオープンイノベーションで成し遂げたいゴールから逆算し、必要となるパートナー企業を選定、そして事業化までを伴走する。eiiconが示すステップ通りに進めていけば、顧客は確実に新規事業の創出に結びつけることができるというわけだ。

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「プラットフォーム提供」と「ハンズオン支援」。
他のコンサルにはできない再現性ある新規事業創出を

2022年12月にeiiconが全国の事業推進者・経営者を対象に実施したアンケート調査によると、81%の企業が新規事業を着手もしくは検討していることが明らかになった。

しかし、多くの企業では新規事業の立ち上げに対し「難しい」「やり方が分からない」という理由で、外部の新規事業コンサルタントや戦略コンサルタント、または中小診断士に新規事業創出の支援を依頼するケースが多い。いや、“せざるを得ない”といった表現の方が適切かもしれない。なぜなら、他に頼れる相手が分からないからだ。

上述した外部のコンサルタントたちは、本来であれば市場や競合を分析して、顧客企業の強みと照らし合わせて打ち手を提案するのが仕事。したがって、オープンイノベーションを含む新規事業創出のプロセスを顧客と共に伴走するなど本来の提供価値ではなく、ましてや強みでもない。さらに言えば、オープンイノベーションを実現したいとすら考えていないかもしれない。こうした要因もあり、日本ではイノベーションを生み出す新規事業がなかなか生まれてこない。

eiiconはそんな状況に危機感を覚え、誰もがオープンイノベーションを用いた新規事業の創出ができる再現性ある仕組みを構築。また、その仕組みに沿って事業化するまで顧客に伴走し切るといった価値創出を打ち立てた。これこそがeiiconのユニークネスなのだ。

中村私たちに言わせれば、オープンイノベーション云々の前に、そもそも企業が新規事業を創出すること自体、そこまで難しいものではありません。もちろん数百億・数千億規模の新規事業が一朝一夕に生まれると言いたいわけではありません。ただ、まずその第一歩となる、1億円の壁を超え、二桁億円に数年以内にしていくような新規事業をゼロから複数生み出すことは、体制・環境を整えステップをしっかり踏んで行くことさえできれば『千三つ』ではなく『十三つ』くらいの難易度だと捉えています。

「そもそも、何をやりたいのか?」「なぜやりたいのか?」「そこに必要なリソースは?」「いつまでにやりたいのか?」を整理し、実行する。しかし、多くの企業がそのなぜ、やリソースの整理に躓いています。加えて「◯◯がないからできない」と歩みを止めてしまうんです。

「いやいや、だったら外部とリソースを補完しあって進めましょうよ」と。これがオープンイノベーションの本質です。とってもシンプルなんです。むしろ、外部のリソースを活用することで、本来かかるであろう期間の半分で新規事業を創出できる。自社単独ならX億円の予算が必要なところ、その半分で実現できる。つまり、工数対効果がとてつもなく優れた取り組みなんです。

この代表・中村氏が率いるeiiconは、オープンイノベーションという手段を日本全国に浸透させるべく立ち上がったスタートアップだ。しかし、文字通り日本全国の企業にオープンイノベーションの仕組みを浸透させるには、人的ソリューションの提供“だけ”では到底成し得ない。

そこで、eiiconはこれまでのハンズオン支援による事業創出ノウハウをすべて言語化し、事業化に必要な全プロセスに落とし込む。そしてそのノウハウを誰もが簡単に活用できるよう、SaaS型のプラットフォームサービス『AUBA』として打ち出したのだ。

もちろん、単に「このプラットフォームを活用して好きにやってください」と手放すのではなく、顧客が将来的には自社完結でオープンイノベーションによる新規事業創出を実現できるよう、必要に応じてカスタマーサクセスが支援する。「オンライン上でのパートナー企業の発掘」と「事業化までの進捗管理及び支援」、この2つを実現するのが、同社の「プラットフォーム事業」だ。

加えて、「オンライン上での支援だけでは足りない」「もっと深くオープンイノベーションの実現をサポートしてほしい」といった顧客のニーズに対しては、eiiconの精鋭コンサルタントたちが、顧客企業にディープダイブして事業化までを支援する。これがプラットフォーム事業の対となる「エンタープライズ事業」である。

つまり、企業がオープンイノベーションを通じた新規事業創出を実現するために一気通貫で向き合うことができるのが、eiiconという訳だ。先述した「外部のコンサルタント」とは見ている世界や提供価値が全く異なるということが理解できるだろう。

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オープンイノベーションは施策であり、新たな「市場」でもある

とはいえ、本当に日本でオープンイノベーションは進んでいるのだろうか?その実態を最もよく知るeiiconは現状をどの様に捉えているのだろう。

中村オープンイノベーションの浸透については、「まだまだこれから」ではありますが、手応えは感じてきています。2〜3年ほど前は“波紋”程度だったオープンイノベーションの勢いが、今では“潮流”と呼べるくらいには盛り上がってきました。

これはほんの15〜20年前のスタートアップに対する世間の認知と似ていると思うんです。周知の通り、岸田政権は2022年を「スタートアップ創出元年」として、2023年より「スタートアップ育成5か年計画」を本格的にスタートさせました。このように国をあげてスタートアップ支援の気運が高まったことで、スタートアップに対する世間の評価はポジティブに変わってきていますよね。

そして現在、オープンイノベーションに関しても国が率先して施策を打ち出したり、特許庁が契約のガイドラインを発表したりと、普及・発展に向けて精力的な活動がなされています。そのおかげもあって、オープンイノベーションにおける成功事例も数多く生まれてきました。

中村こうしたポジティブなムードを世の企業たちに訴求することができれば、オープンイノベーションに対する社会の認識も変わっていくはず。私たちは、オープンイノベーションを「施策」としてだけではなく、まったく新しい「市場」としても捉えています。

そもそも、日本では企業同士が提携しながら仕事を進めていく「協業」「共創」のカルチャーが根強く存在していることは意外と知られていない。そんな読者でもイメージしやすい点を挙げると、メーカーと大学が連携して共同研究、共同開発をするといったものであればピンとくるのではないだろうか。

世界では比較的一社単独でイノベーション創出に挑むケースが多く、こうした背景からも、「日本企業はもっと積極的にオープンイノベーションを活用すべき」というのがeiiconの見解なのである。

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共創事業がNASAに採択も?
eiicon起点で生み出される豊富なイノベーション事例

「オープンイノベーションを日本に幅広く普及させるために、まずは一つでも多くの事例を生み出すことが先決」と述べる中村氏。

そこで読者にも、「既にこれだけの成功事例が生まれているのか」と実感してもらうべく、オープンイノベーションによる新規事業創出の実例を紹介したい。中村氏はまず、すでに日本でオープンイノベーションの実績を多数生み出しているKDDIの事例を挙げた。

中村KDDIは2011年から本格的にオープンイノベーションに取り組み、そこから生まれたBtoC事業の売上は、2013年度で1,300億円、そして2021年度は1兆3,000億円にまで拡大しています。その期間にはなんと新規事業を約300個ほど打ち出しているんです。オープンイノベーションが生み出す事業インパクトというのは、これほど大きなものになる可能性を秘めています。

数字だけを見ると、とてつもない規模とスピードで拡大しているようにも見えるだろう。しかし、オープンイノベーションによって生み出されたそれぞれの事業が、個々の企業における収益の柱となるまでには、5年〜10年という時間が必要となる。それは、取り組む主が大手企業であればあるほど尚更だ。

対し、eiiconは大手企業ももちろん顧客対象としつつ、日本全国に存在する中小企業へのオープンイノベーション実装にも力を入れている。KDDIの事例と比べると、事業規模としてはまだ数千万円〜数億円と小規模ではあるものの、全国各地から確実に新規事業が生まれてきているのだ。

中村eiicon起点で始まった新規事業を挙げると、2019年に、NTTコミュニケーションズと京大発のベンチャーであるメトロウェザーとの共創プロジェクトがあります。

NTTコミュニケーションズが保有する鉄塔に、メトロウェザーが開発する“ドップラー・ライダー”(風況データを取得できる装置)を設置して、リアルタイムに風況データを取得するといった実証が行われました。他にもドローンの安定運航における風況情報の有効性の検証なども行っています。

そしてこのプロジェクトはその後、2021年にドップラー・ライダーの技術が米国のNASAに採用され、2023年度からNASAのドローンテストフィールドで実際に活用されるといった成果にまで至っています。

また、2018年に国内大手化粧品メーカーであるコーセーと、量子コンピュータ開発を手がけるMDR(現blueqat)との共創プロジェクトもあります。量子コンピューティング技術を応用した独自のアルゴリズムにより、従来の人の手では認識、分析できなかった製品の未開領域を解明できるようになり、結果、これまでの切り口とは全く異なる化粧品開発が可能になりました。具体的な適用事例として、コーセーでは角栓の除去能力の高さを目標品質としたクレンジングオイル処方の自動生成を実現しています。

誰もが知っている日本を代表する大手企業と、これまでの世の中にはないテクノロジーを活かしたスタートアップとの共創。まさにオープンイノベーションの代表例と言える実績をeiiconは創出している。

そしてもちろん、オープンイノベーションとは大手企業とスタートアップの共創だけではない。中小企業におけるオープンイノベーションも当然ながらeiicon起点で多数実現しており、大手企業と比べてスピーディーに事業化まで進められている。

中村1つ目は、国産クラフトビール『ISEKADO』を展開する二軒茶屋餅角屋本店と、フェムテックブランド The LADY.との共創プロジェクトです。

近年の研究によると、ビールの原料であるアロマホップには、女性ホルモンと同じような作用を持つ健康成分が含まれているのだそうです。そこで両社は、女性の健康に向けたフェムテック飲料を開発し、現在、商品化に向けて動いています。これはなんと約半年という短いスパンで生まれたオープンイノベーションの事例です。

2つ目は、『おにぎりせんべい』で有名な米菓の製造販売を手がけるマスヤ(IXホールディングスのグループ会社)と、映像解析AIに強みを持つスタートアップ・フューチャースタンダードとの共創プロジェクト。

食品製造業を取り巻く環境の変化や人材確保の難化を受け、『おにぎりせんべい』の製造工程に映像解析技術を導入し、人の手を介さない自動計測、記録を実現させました。また、それらのデータの見える化により、更なる現場改善につなげることも可能となりました。現在は、その技術を以前のマスヤと同じような悩みを抱える中小企業に向け、普及させるプロジェクトに乗り出しています。

こうした事例は、そもそもeiiconが存在しなければ始まっていないもの。取材陣が「eiiconの事業は、他社から真似されることはないのか?」と問うと、中村氏は「真似されることもありました。しかし、事業化まで支援するプロセスが明確になっていなかったり、事業化までの泥臭い伴走をやり切れなかったりするため、結局はうまくいかず撤退してしまうケースが多い」と、その実態を教えてくれた。

つまり、まだオープンイノベーション市場が確立していない中でも、「この市場を創り上げていくんだ」という強い覚悟や熱意がなければこの事業はできないということだろう。ではなぜ、eiiconは未成熟のこのオープンイノベーション市場に深くコミットすることができるのだろうか。

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スタートアップとは、課題の発見者であり、そこに挑戦する先駆者だ

eiiconは、もともと大手企業発のスタートアップである。「共創を考える企業同士が出会えるオンラインの場をつくりたい」と考えた中村氏の起案のもと、2016年にパーソルイノベーション(以下、パーソル)の新規事業として立ち上がる。

2023年4月にMBOを実行して独立するまでは、スタートアップというより、「大手企業の事業部の一つ」という立ち位置で見られることが多かった。

中村周囲の認識とは反対で、「大手企業の中で事業をやっているから安心」なんて思いながら事業を経営していたことなんて一瞬たりともありませんよ。パーソルに属していた時から、私たちはスタートアップとして「課題の発見者であり、そこに挑戦する先駆者なんだ」という気概を持って事業を推進してきました。

そして、今では計28,000社の企業にご活用いただく日本最大規模のプラットフォームに成長しました。ここからより速く、広く日本にオープンイノベーション文化を根付かせていくための戦略を描く中で、「HR」を軸とするパーソルから飛び出し、より「オープンイノベーション」推進だけにフォーカスした事業経営が必要であると感じ、MBOに至りました。

オープンイノベーション推進のために、メルカリ取締役の小泉氏や、新規事業家の守屋氏、またオープンイノベーション領域に強みを持つSpiral Innovation Partnersを始め、錚々たる投資家陣から資金調達を行い、MBOを実施。その軌跡を見るに、単なる利益追求のビジネスとは一線を画する覚悟を感じるが、なぜeiiconはここまでオープンイノベーションにこだわるのだろうか。

中村今の日本、そしてこれから迎える日本の未来に危機感を覚えているからです。そしてその危機感を払拭するためには、日本企業がイノベーションを容易に実現できるようにすることが最短の道だと考えているからです。ある種の使命感ですね。

日本では戦後78年間、研究開発から製品開発まで、主に自社の経営資源だけを活用するクローズドイノベーションによってイノベーションを実現してきました。その結果、ものづくりの領域で世界No.1になることができた。

しかし、そこから技術革新が進み、情報化社会となった今では、新興国からも続々と世界を席巻するテックカンパニーが生まれ、グローバルの競争も激化している。今や、国内の特定領域における自社だけのアイディア、知見、リソースだけでは容易にイノベーションを生み出せなくなっています。経済成長の原動力となるイノベーションが生まれなければ、日本の国力はますます失われていきますよね。

このままでは、今の子どもたち世代は将来海外に出稼ぎに行かざるを得なくなるのではないか。そんな未来が実際に訪れた時、我々は幸せを感じられるのか?いや、絶対に感じられないだろうと思ったんです。

日本の未来のため、今の日本に足りないものを生み出すべく、eiiconは道なき道を突き進む。その過程で、「この山を乗り越えれば、きっとオープンイノベーションが社会に浸透していくはずだ」と感じるシーンは何度もあった。しかし、その度に厳しい現実を突きつけられ、自分たちが挑む山がいかに巨大で攻略し難いものなのかを痛感してきた。

中村私たちはこの事業を始めて早期の段階でPMFを達成していたと思います。ここでいう、PMFの定義は、「最適なプロダクトを最適な市場に提供している状態」を指し、その達成度合いを測る基準の一つが売上規模に加え、「口コミの有無」になります。これまでリーチできなかったような、自社に縁のない顧客層からの問い合わせが増えてきたら、PMFを達成したと考えています。

ですが、私自身の「実感」としては、なかなかPMF達成の現実味を持てずにいました。なぜなら、このオープンイノベーションという今まだないこれから生まれるであろう市場があまりにも大きいためです。事業自体はスピード感を持って成長・拡大していても、まるで市場から「まだまだ」「そんな程度で市場を生み出せると思うな」と突き返されているような感覚を覚えるんです。

また、今でこそeiiconのサービスをきっかけに、各企業から年に1つ以上は事業を生み出せるような仕組みが整ってきましたが、2019年頃までは失敗もありました。「企業のマッチングだけ行って、肝心の事業は生み出せずに終わる」──、プラットフォームを運営する身として「それだけは絶対にしたくない」と強く決めていたのに、1年間ある顧客に伴走して、事業化に至った件数はゼロ。なんてこともありました。クライアントからは優しい言葉をかけてもらえましたが、私たちにとっては大きな敗北で。

その時はメンバー全員で落ち込みましたね。しかし、「eiiconは市場を創るスタートアップなんだ」と掲げたならば、その旗を簡単に降ろしてはいけないと自らを奮い立たせ、「もう1回、私たちにチャンスをください!」と支援先の顧客に直談判することもありましたね。

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強固なビジョン共感は、事業における競争優位性となる

ここで、取材に参加していた同社の執行役員で、Enterprise事業本部・公共セクター事業本部管掌の村田氏も口をひらく。

村田今、中村が話したエピソードの中であった話なのですが、私自身「eiiconっていいチームだよな」と感じる経験がありました。お伝えしたように、当時の顧客に対して我々が事業化までの推進を実現できなかった際、その結果を他責にするメンバーが一人もいなかったんです。

なぜだろうと考えた時に、やはりそこにはeiiconのビジョンがあったんです。eiiconには「オープンイノベーションを世の中の当たり前にする」「すべての企業に『新規事業創出基盤』を埋め込んでいく」というビジョンがあり、ウチにジョインしてくるメンバーは皆このビジョンに共感し、矜持を持って顧客に向き合っています。

村田例えば、私が管掌している大企業向けの支援において、顧客が共創先を募るためのランディングページの作成支援にあたってもその姿勢は伺えます。eiiconの競合他社がこうしたコンテンツをつくる際は、「風通しの良い社風なのでコラボレーションが実現しやすいです」「一緒に未来を創りましょう」と、よくある求人ページのような差別化のできていない抽象度の高いページになりがちです。

しかしeiiconのメンバーたちが同じことをする際には、「なぜ共創が必要なのか?」「どんなオープンイノベーションを目指しているのか?」「自社と組むメリットは何か?」「いつまでにどんな取り組みをしたいのか?」といった要素を顧客毎に精緻にヒアリングし、ランディングページの文言に落とし込んでいきます。

読者からすると、「それって普通のことでは?」と感じるかもしれないが、eiiconがエンタープライズ事業として大手企業から支援を依頼されたアクセラレータープログラムやオープンイノベーションプログラムは37件にも上る(2022年度実績)。結果として、上記のプログラムに集まったオープンイノベーションへの応募総数は2,855件、採択数81件という成果につながった。

これだけの企業数相手に僅か数十名の「人力で」きめ細かな支援をしていくことは、相当に泥臭く、村田氏が言うように強固な「ビジョン共感」がなければ成り立たない話だろう。(エンタープライズ事業に関しては、次作で詳しく取り上げるので、乞うご期待)

村田顧客からは、我々のこうした姿勢に対し「eiiconの人たちは、泥臭いことも厭わずにどこまでも伴走してくれる。一つ一つの支援のクオリティがとても高い」との評価をいただいています。私はこうしたeiiconのスタンスを「哲学」と称しているのですが、これが競合他社との大きな違いであると思っています。

また、それによって積み重ねてきた信頼によって、翌年、翌々年も継続的に『AUBA』を活用いただけていることに繫がっているのだと思います。

オープンイノベーション市場という未知な領域であるからこそ、成功の保証があるわけではない。それでもeiiconのメンバーは、自分たちの信念に基づき、ひたすら努力を続けているのだ。「自分たちが正しかった」と証明できるまで、諦めず挑戦を続けていきたいと三人は語る。

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集うはまさに『キングダム』の将軍たち?PMF、MBOも済ませいよいよ本格出陣

パーソルからMBOを実施し、2023年4月に第2創業を迎えたeiicon。その際、MBOに伴う資金提供をしてくれた投資家からは「親会社から独立するにあたって、メンバー全員が新会社についてくるとは限らない」と釘を刺されていたという。

中村メンバーには、それぞれの人生があります。なので、パーソルから独立にあたってはメンバーの気持ちを尊重したいと思っていたんです。そこでメンバーにMBOの話を打ち明けたところ、そこで出た質問は自分たちの立場に関する不安や懸念の声ではなかったんです。

「どういう説明をすれば、お客様は不安にならないですか?」と、顧客を一番に心配するメンバーたちの姿に、心を打たれました。

実際、MBOにあたっては、誰一人欠けることなく皆がeiiconについてきてくれたんです。それがすごく嬉しくて。彼ら彼女らが、eiiconの組織に対しプライドを持ってくれているのだとあらためて実感しました。

組織の結託力がよく伝わってくるエピソードではないだろうか。今でもパーソルとは良好な関係を築いているというが、パーソルから独立した今、組織としてはどのような変化があったのだろう。

中村パーソル時代から継続している顧客からは、「親会社からのサポートがなくなって、さぞかし大変でしょう」と気にかけてもらうことが多いです。しかし、今のところ、私としてはむしろ自分たちの意思と責任で自由にチャレンジできる幅が広がったと感じています。例えるなら、「レッドブルを飲んで翼をさずけられた」ような感じでしょうか(笑)。

とにかくやるべきだと考えていたこと、推し進めたかったことをどんどん始めようと思い、 MBO後にはさっそく名古屋に東海支援事業部を設立しました。また、プラットフォームへの投資もより一層力を入れています。さらには海外展開に向けて、今秋この3人でジャカルタへ視察に行く予定なんです。慌ただしい毎日ではありますが、とても楽しく仕事ができています。

そう声を弾ませる中村氏。「MBOの実行がeiiconにとって正しい判断だった」となるために、どこまでも突き進んでいく覚悟だ。そんな勢い溢れるeiiconは、自らの挑戦機会を探している若きベンチャー・スタートアップパーソンにとって、どんな魅力的な環境となっているのだろうか。

中村先ほどもお伝えした通り、eiiconは既にPMFを達成しており、安定的な売上を生み出し続けています。したがって、MBOを経て新設したばかりのスタートアップとはいえ、資金的な不安をそれほど感じることなくオープンイノベーション推進に注力することができます。

また、eiiconのメンバーはバックグラウンドが多様であるということも魅力です。例えば、証券会社出身で、その後あるスタートアップの創業メンバーとして活躍してからeiiconにジョインした人。大学でオープンイノベーションを研究した後、ある企業で新規事業を経験し支社の立ち上げにも携わった後にeiiconに来た人。M&A業界から来た人や大手広告代理店から来た人。

他にも、様々な業界のスタープレイヤーが集まっており、大幅に年収を落としてまでeiiconの事業に携わりたいと言って入ってくれた人もいます。パーソル本体や主力のHR事業から移ってきている人はほぼおらず、多くがオープンイノベーション推進の事業部として中途採用した面々となります。

富田そうですね。とにかく“人がいい”メンバーが多くて。さらに、前述の通り、eiiconのビジョンに共感してくれる人たちと共に仕事ができるので、私自身も周りから刺激を受けて学ぶことが多いんです。『キングダム』で言うと、“蒙驁(もうごう)”、“王賁(おうほん)”といった将軍級の人たちがたくさんいますから(笑)。

「自分たちでは、勝手にドリームチームだと思っているんです(笑)」と照れたような笑みを見せる中村氏。eiiconのメンバーを心から信頼している様子だ。また、eiiconのカルチャーを表す特徴として「合議制」がある。

これは本取材の制作時にも感じたことだが、同社のメンバーはみな平等に、フラットに意見を出し合い、チームでディスカッションした上で結論を出す。

例えば、「この記事は代表の中村さんだけでインタビューを受けた方が良いのでは?」「いやいや、うちはチーム性を重視しているんだから、私だけでなく富田さんや村田さんも出ましょうよ」「構いませんが、3人が全面に出るよりも、僕らは記事の中で必要な時に載る感じでいいのでは?」「OK、じゃあそれでいきましょう!」という具合にだ。

したがって、入社間もないメンバーたちは想像以上に自身の意見が通ることに驚くことがしばしばあるそうだ。

そんな組織の雰囲気も伝わってきたところで、最後に今後の同社の挑戦に必要不可欠な人材について問うてみた。

村田先ほどの「哲学」の件を踏まえると、ビジョンに向かって自責思考で進める人がいいですね。うまくいかない時に環境に対して不満を言うことは簡単です。しかし、その時に湧いてくる一時のネガティブな感情に流されず、「では自分はどう動くべきか?」「その言動によってビジョンの実現に近づくのか?」といったことを自問自答して前に進むことができる人を求めています。

中村そうですね。そして「オープンイノベーションを通して、日本の未来を創ろう」という志のある人と一緒に、まだまだ未開拓なこの市場に挑戦していきたいです。

世の中には素晴らしいスタートアップが数多く存在しますが、正真正銘“ゼロ”から市場を創っているスタートアップは実は少ないと考えています。eiiconはその数少ない「市場を創る」スタートアップだと思っているので、そこに魅力を感じる人と出会いたいですね。

イノベーション不足に悩む日本企業。急激な時代の変化により、多くの企業がこのままでは生き残りが難しいと考えている。その解決の糸口としてeiiconは、オープンイノベーションという手段を活用して、イノベーション創出が当たり前の社会を実現する「Innovation as a Service」構想を掲げている。

中村氏が述べたように、「既存の価値の代替」を担うのではなく、「今の世の中にない新しい価値の創出」に挑戦したいと感じる者は、eiiconのようなスタートアップこそ最適な挑戦の舞台となることだろう。

こちらの記事は2023年08月23日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

山田 優子

写真

藤田 慎一郎

編集

大浜 拓也

株式会社スモールクリエイター代表。2010年立教大学在学中にWeb制作、メディア事業にて起業し、キャリア・エンタメ系クライアントを中心に業務支援を行う。2017年からは併行して人材紹介会社の創業メンバーとしてIT企業の採用支援に従事。現在はIT・人材・エンタメをキーワードにクライアントWebメディアのプロデュースや制作運営を担っている。ロック好きでギター歴20年。

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