連載Ideal Entrepreneur ──成功する起業家の要諦

小さくても急成長する市場を狙え。
データで掴んだGunosy成功の秘密

インタビュイー
福島 良典

東京大学大学院工学系研究科卒。大学時代の専攻はコンピュータサイエンス、機械学習。 2012年大学院在学中に株式会社Gunosyを創業、代表取締役に就任し、創業よりおよそ2年半で東証マザーズに上場。後に東証一部に市場変更。 2018年にLayerXの代表取締役CEOに就任。 2012年度IPA未踏スーパークリエータ認定。2016年Forbes Asiaよりアジアを代表する「30歳未満」に選出。2017年言語処理学会で論文賞受賞(共著)。

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Research(研究) And Practice(実践)の略称を社名に持つREAPRAが、0→1フェーズを経験した人にインタビューし、成功に必要なスキルセットやノウハウを徹底研究する本企画。

第2回は、「情報を世界中の人に最適に届ける」を企業理念に掲げ、機械学習のテクノロジーをベースとした情報キュレーションサービスを提供する株式会社Gunosyの代表取締役 最高経営責任者(CEO)福島良典氏に、どのように世の中を捉え、参入する領域やタイミングをどう意思決定するのかを聞いた。

  • TEXT BY YASUHIRO HATABE
  • PHOTO BY YUKI IKEDA
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エンジニアが経営する会社のロールモデルになりたい

グノシーのサービスを立ち上げた経緯を教えてください。

グノシーのサービスは、2011年大学院修士課程2年生の時に同級生と3人で立ち上げました。きっかけは僕ら3人は全員が研究者でありエンジニアだったので、「自分たちが勉強している技術を使って、面白いプロダクトをつくれたらいいよね」と思ったことでした。ただ、最初は「起業」するつもりはなかったですね。グノシーを開発する前にも、自分でいくつもサービスを作っていたので、その中の1つくらいの気持ちでした。

でもグノシーが出来た時、最初にSNSにそのことを投稿したら、それまでのサービスとは全く違う量の反応が返ってきました。普通なら出来たばかりのサービスを紹介しても何も反応がないと思います。でもグノシーは違いました。登録者がみるみるうちに増えて、しかも継続して使ってくれていることがデータから分かりました。明らかに手応えを感じましたし、「本当にいいプロダクト、世の中に求められているものはこんなふうに受け入れられるんだ」ということが僕らにとって発見でした。

最初は起業のつもりはなかったものを、2012年に法人化したのはなぜですか。

グノシーのサービスがそんな形でいいスタートを切って、利用者が伸びていました。リリースから1年くらい経った頃に、このままやっているとサーバ代などの運用コストがもたなくなる、ということで、会社をつくり、事業化しました。ただ、「何か意味のあるものが生まれた」と思ってはいたものの、それをどうやってお金に換えていくかは分かっていませんでした。

当時かなり話題になったこともあり、ベンチャー関係のいろんな方から連絡をいただきました。その中の一人、エンジェル投資家の木村新司さんに入っていただいて、ノウハウを会社に注ぎ込んでもらいながら、僕らも経営やビジネスとしてどう伸ばしていくかを学んでいきました。

創業時、「こういう会社にしたい」という想いはありましたか。

日本って、GoogleとかFacebookみたいにエンジニアがプロダクトをつくって、テクノロジーで伸びていく会社がすごく少ないと思っていて、もったいないと思うんです。スポーツでは盛り上がるのに、テクノロジーの話題で日本人はなぜ盛り上がらないんだろうな、と(笑)。なので、そういう技術系スタートアップのロールモデルになるような会社をつくりたいと、ずっと思っていました。

それに、エンジニアは経営とかビジネスとかを考えたくない人たち、みたいな変なステレオタイプがあって、それに囚われている気もしています。

エンジニアだって、経営をしてみると好きになる人も多くいると思います。自分たちがつくったプロダクトが社会に受け入れられて、それを広めていくことは、情熱をもって取り組み続けられるし、楽しいことですから。

それを技術でどうレバレッジをかけていくかを考えられるのはエンジニアの特権だと思うし、世界に目を向ければ、事実としてそういう会社が世界を変えていっています。そういうエンジニアがリードする会社がもっと日本から増えていくといいなと思っています。

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小さく見えるが、急速に・大きく成長する領域を狙う

率直に、グノシーが成功した要因は何だと思いますか。

いくつかあると思いますが、タイミングが良かったことは大きな要因だと思います。

グノシーが世に出たのは2011年。GoogleやFacebookが機械学習を本格的に検索やフィードのロジックに取り入れ始めたタイミングでした。

その時、市場で何が起こっていたのかというと、ストレージがどんどん安くなって、スマートフォンという名のセンサーが社会へ広く行き渡ったことにより、ユーザーから取得できるデータの幅が一気に広がりました。いいアルゴリズムをつくるには、良質かつ大量のデータが必要ですが、それを集められる条件が揃ったのが2011年前後だったわけです。

そういった社会の構造転換は、最初から見通して意識していたのですか。

いえ、当時はどちらかというと自分たちがつくりやすいから、そして僕ら自身が強烈に欲していたからつくったというのが一番大きかったですね。

ただ、今の時点から「なぜ上手くいったか」を分析するとしたら、僕たちが欲していたように、社会からも求められていたということが一つあると思います。

ビジネスがうまくいくかどうかって、立ち上がるスピードに大きく依存するものだと思っています。

グローバルレベルで大きくなる会社は、立ち上がりのスピードがものすごく速く、しかも成長率が高い領域に最初に入れた会社だと思います。この2つを両方満たす領域を攻めること。これが非常に重要です。

Googleを例にとると、彼らが自動運転から始めて、後に検索エンジンの会社になれたかというと、なれなかったはずです。なぜなら、自動運転のマーケットは市場規模としては大きいですが、立ち上がりスピードが遅いからです。

一方、検索はビジネスとしても大きくて、しかも立ち上がりスピードが速かったです。そして、検索ビジネスが生まれた瞬間はすごく小さい領域でした。だから、他の大手企業は見逃してしまっていました。そこのタイミングを突いて一気に猛スピードで成長できたことが、Googleの成功要因だと思っています。

そしてグノシーも同様だった、ということですか。

はい。その視点をグノシーに当てはめてみると、2011年当時、ニュースアプリがテクノロジーでニュースを選定するなどということは、ものすごく小さく見えたのだと思います。実際に多くの人が、「10年後はそうなっているかもしれないけど、今やることじゃない」と言っていました。

多くの人が潜在的に求めているタイミングで、小さく見える領域にプロダクトやサービスを投入することがすごく大切だと思います。GoogleもFacebookもAmazonも、みんなそこから始まっています。

「世の中のあらゆる情報がインターネットに載っていって、検索がすべての情報の入り口になる」なんていう話は、後から見ればよくできたストーリーですけど、当初はだれも信じていませんでした。

グノシーもそういう領域を突いたから成功したと解釈しています。だから今、さらなる新規事業をつくっていくフェーズにおいても、そういう視点で参入すべき領域を見つけようとしています。

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テクノロジーを通して世の中を見る

世の中が求めているものを見いだして、適切な領域に、適切なタイミングで参入していくためにはどういう考え方が必要でしょうか。

よく「戦略家なんでしょ?」と言われますけど、自分はそんなことはないと思っています。

目標を設定してそこから逆算して必要なことをやることは常に徹底していますが、先ほど話したようなタイミングと領域の話も、最初からその構図が全部見えていたわけではありません。「最初から全部分かっていた」みたいなことを言う人もいますけど、僕はそれは嘘だと思っています。全部分かった頃にはもう遅いと思います。

その意味で意識しているのは「早く決める」ということ。「正しく決める」よりも「早く決める」ことを大切にしています。

今は不確実な世の中なので、事前にしっかり計画を立ててから動き始めるのでは遅い。早く意思決定して、アクションしながら“探索的”に動いていかないと、チャンスを逃してしまいます。すべてが分かった頃には、すでに誰かに先を越されているということが起こりうるからです。

早く動くことに加えて、自分だけの判断軸は必要だと思います。経営者によっていろんな基準があると思うのですが、“その人しか知らない基準”を持っておくべきだと考えています。

僕の場合は、最新のテクノロジー動向を捉えて、その技術がどう市場環境を変えるかという視点を重要視しています。技術を、決定的に競争環境、マーケットを変えるファクターとして捉えています。

だから海外の動向も含めて技術に関しては相当リサーチしています。ある技術が何にどう応用されているのか、今どういう課題がホットなのかを知ることで技術のフェーズを把握したり、応用事例だけでなく、海外の研究室が発表する論文も読みながら、基礎研究のトレンドも把握するようにしています。

Gunosy社内でも「このビジネスって今は難しいけど3年後にいけそうだよね」という話をよくしています。

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データを信じて掴んだ成功

ここまで「0→1」のフェーズで何をどう考えるべきか、持つべき視点をお話しいただきました。その後のフェーズで、ここまで事業を大きくできた要因は何だと思いますか。

徹底的にデータを信じたことです。

多くの人は、データを信じ切れていないと思います。データを前にしても、自分の物差しで見てしまう。

データは本来、事業がどういう健康状態にあるか、踏み込んでいいのかダメなのか、このままの構造でいくと伸びるのか、いずれ伸び悩むのか、そういうことを“本当に客観的に”教えてくれるものです。それを見て何をすればいいかまでは教えてくれませんが、少なくとも健康診断のように状態は分かります。

でも、多くの人はその形勢判断ができません。おそらく、自分がやりたいこと、自分が「こう思う」ということを優先してしまうからだと思います。

これからは、基本的にすべての世界でいろいろなデータが取得可能になるので、ファクトに従って決めないと競合に負けてしまうと思います。

もちろん、その状況下ではデータが取れていなかったり、データがあっても解釈に時間がかかったりする場合はあります。本質的には競争を勝ち抜くことが目的なので、データが揃わない状態で意思決定したほうがコストパフォーマンスが良い場合もあります。でも、基本姿勢としては、恣意的に決めない。徹底的にデータを信じる。そういう考え方ができていることが、Gunosyを強い組織にしていると思います。

今後、データをもとに判断できる領域がさらに広がっていくはずです。基本的にセンサーが世の中のあらゆるモノに埋め込まれる方向で進化していますし、それを分析するインフラのコストも下がっているからです。10年後には、「データで決めないことがナンセンス」という状況になっていると思います。

そのようなデータを信じるという考え方は、事業をやっていく上で身についていったのでしょうか。

いえ、これはチームの性質です。データ、根拠のあるものを信じようという科学的思考は元々創業メンバーの中にありました。

もちろん、そうではない考え方で成功している会社もあります。それを見て「すごい」とは思いますが、それは僕らのスタイルではないし、そこに強みも持っていません。でも、データやテクノロジーの力を借りたら、そういう人たちより良い意思決定ができるようになることもある。そこに僕らの強みがあるんじゃないか、ということが大前提としてあります。だから、僕らが絶対的に正しいと言いたいわけではなく、僕らの“文化”がある、ということですね。

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これから起業するならモデリング能力を鍛えよ

技術者気質から生まれたサービスとのことですが、起業して経営をすることに対して迷いなどはありませんでしたか。

全くありませんでしたね。

「世の中にプロダクトを残したい」という想いがすべてです。起業の時点で技術的な知識や経験はありましたが、経営に必要な知識や経験はなかったです。でも、サービスを大きくしていく上で必要だから、協力を仰いで、補いながらやってきました。それだけです。

ビジネスって面白くて、よくも悪くも基本的にはモデル通りに動くんですよね。外部環境の影響でモデル通りに動かないこともありますが、そこにも必ず因果関係があります。それを見て分析するのはやっぱり面白いです。

モデルを決める変数がサービスや運営に関わる内部要因の場合もあれば、社会情勢や市場環境といった外部要因のケースもあります。「スマートフォン市場がこれだけ伸びないと、このサービスは伸びない」というような、外部要因はヨミが外れやすいところではあります。だからこそ、先に話したように“探索的”に動くということが大事だと思っています。

そのように、ビジネスをモデル化する考え方は、いつ頃どうやって身につけたのですか?

学生の時はビジネスを研究していたわけじゃないので、その意味ではGunosyを始めてからでしょうか。ただ、研究と似ていると思うことはあります。すべての物事って、ちゃんと科学的にアプローチすれば、ある程度は構造化して理解できると思っています。

モデリングの訓練として僕がよくやるのは、「自分がこの会社の社長だったら、どう意思決定するか」ということを考えたり、実際にP/Lを書いてみたりすることです。そして数カ月後〜数年後、実際どうなったかを見て答え合わせをする。同じようなことを行う経営者は多い気がしますね。

仮説を立て、どう検証すればいいのか、どう構造化すればいいのか、ということは、訓練すれば一定レベルまで鍛えられます。これからの時代には、起業家にとって必要なスキルやノウハウが変化していくと思っていて、モデリング能力はその中でも重要になると読んでいます。

インターネットが普及する前って、“つながる”コストが高かったので、知り合いが多いとか、現地とコネを持っているということで*アービトラージが利いたんですけど、今はそのようなコネクションに価値がなくなってきていると思います。

これからもずっと価値を持ち続けるのは、モデリング能力だったり、早く判断できる力、意志を持ってプロダクトをつくっていく力。そういう部分なのかなと思います。そういう時代にはテクノロジーを好きな人、科学をピュアに面白いと思える人が優位になってくるのではないでしょうか。

では、「0→1」を起こす起業家に必要なのは、モデリング能力や強い意志ということになるでしょうか。

そう言われるとちょっと悩みますね(笑)。根本的に起業家に必要なのは、アニマルスピリットです。不確実性を楽しむというか、何が起こっても楽しむみたいな。

もちろん、それがあれば必ず成功するというものではなくて、アニマルスピリットがある人の中でも差が開きます。ただ、前提として大事なのは、不確実な世の中を楽しむ“能力”なんじゃないかなと思います。

最後に、これからのGunosyの展望を教えてください。

僕は、「機械学習」がこれからの100年で最も重要な技術であると、ずっと思っています。

Gunosyとしては今後の展開としていろいろ考えていることはあるのですが、一番やっていきたいのは、そのテクノロジーのトレンドに懸けていくこと。

今は、情報の非対称性を解決する一つの切り口としてメディア事業をやっていますし、これからも成長させていきます。一方で、もっとリアルな社会に溶け込んでいくビジネス領域へと事業展開していきたいと思っています。

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REAPRAの見解「福島さんの知的好奇心×スピード×学習能力が成功要因」

ウェブサービスにおいて高速でPDCAを回しやすい状況が作れるエンジニアのバックグラウンドを有し、知的好奇心かつ知的能力が高い福島さん。

伸びしろがある若い状態で始め、起業・経営経験が豊富な現Anypay木村さんからのアドバイスを吸収することで経験と学習を組み合わせながら、サービスを急成長に導いていくことができたと考える。

結果としてGunosyが企業として数多くの施策を打ち、PDCAサイクルを高速に回すことができたことが、成功の要因の一つとなっているはずだ。

こちらの記事は2018年03月19日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

畑邊 康浩

写真

池田 有輝

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