【Asobica今田×鹿島アントラーズ・メルカリ小泉対談】AI革命の先にある、人類の“余暇”が増えた世界。「心の豊かさ」を再定義し、事業のヒントに昇華する思考法

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インタビュイー
今田 孝哉

2015年ファインドスターグループ(スタークス株式会社)に入社。年間トップセールス及び、社内の歴代記録を更新し(当時)最年少昇格を達成。CS領域におけるSaaSの立ち上げに従事し、多くの会社のカスタマーサクセス部門を支援。その後株式会社Asobicaを創業し、カスタマーサクセスプラットフォーム「coorum」をリリース。2019年4月にはForbes JAPANによる世界を変える30歳未満30人の日本人「30 UNDER 30 JAPAN 2019」に選出。

小泉 文明
  • 株式会社メルカリ 取締役会長 
  • 株式会社鹿島アントラーズ・エフ・シー 代表取締役社長 

早稲田大学商学部卒業後、大和証券SMBCにてミクシィやDeNAなどのネット企業のIPOを担当。2007年よりミクシィにジョインし、取締役執行役員CFOとしてコーポレート部門全体を統轄する。2012年に退任後はいくつかのスタートアップを支援し、2013年12月株式会社メルカリに参画。2014年3月取締役就任、2017年4月取締役社長兼COO就任。2019年8月に株式会社鹿島アントラーズ・エフ・シー代表取締役社長に就任と同時にメルカリ取締役会長に就任。

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先頃、日本屈指のサッカークラブである株式会社鹿島アントラーズ・エフ・シー(以下、鹿島アントラーズ)と、急成長スタートアップの一角であるAsobicaクラブパートナー契約を締結したことが話題を集めた。

このコラボレーションが成立したのは、両社の代表である今田孝哉氏と小泉文明氏が同じ時代の変化を感じ取り、その先に同じ未来のビジョンを見通したからにほかならない。

メルカリの取締役COOを務めた小泉氏は、2019年に鹿島アントラーズを買収し、自ら代表取締役社長に就任。同時にメルカリの取締役会長に就任したことは業界内でも大きな話題を呼んだ。一方の、今田氏はAsobicaの代表取締役CEOを務める人物だ。同社は「遊びのような熱狂で、世界を彩る」というミッションのもと、2022年にシリーズBラウンドでエクイティとデットファイナンスを用いて30億円を超える資金調達を発表。旗艦プロダクトである『coorum』の導入事例にはSUBARU、花王、すかいらーくグループなど業界を代表する錚々たる企業のロゴが連なっている。

日本のベンチャー界隈を代表するベテラン経営者と、急成長スタートアップの若きCEO。異色の二人が共通して挙げた、未来を紐解くキーワード、それは“余暇”が圧倒的に増大した世界に求められる「心の豊かさ」だ。

ビジネスの枠を超え、時代や社会の変化を捉えた二人の対談。示唆に溢れた対話だからこそ、二人の熱く生々しいやりとりを、できるだけありのままに記録した。

読者には、この二人が紡ぐ言葉からインスピレーションを受け、自らの未来を思索するきっかけにしてほしい。

  • TEXT BY YASUHIRO HATABE
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
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あらゆる活動が効率化され、圧倒的に増えた余暇に「心の豊かさ」が求められる

「心の豊かさ」を軸に、時代の節目を読み解く二人の対話。まずはAsobica代表取締役の今田氏から、現代の便利さがもたらす「余暇」の増加について、その恩恵と潜在的な弊害について語られた。

今田インターネットが当たり前の時代になり、新しいテクノロジーが次々に出てくる中、産業も私たちの生活も一変しました。その大きなものの1つは、時間の「短縮化」です。

例えば、以前は買い物に移動時間を含め1時間かけていたところを、Amazonやメルカリで買えば10分で済むようになりました。人と話すにも、直接会いに行くまでもなくスマートフォンで顔を見ながら会話できます。ChatGPTのようなAIの登場で、仕事や生活する上でのさまざまな意思決定にかける時間が短縮され、YouTubeにアクセスすれば観たい動画を能動的に探さずとも自動的にレコメンドされます。

今後もテクノロジーによってあらゆる活動の時間が短縮され、“余暇”が増えていくことは明らかです。

もう1つの変化は、消費の対象の変化です。クオリティの高いものが誰でも安く買えるようになり、世の中は「便利なもの」であふれていて、もはや飽和しつつある。すると、消費の対象は自分がワクワクすることや何かに夢中になって熱狂できる体験に向かうと考えられます。つまり、「心の豊かさ」がより一層求められる時代になるんです。

小泉氏は、まさに今田氏の語る「ワクワク」や「熱狂」を世に提供できるスポーツクラブを経営する。冒頭で、「両者が同じ時代の変化を感じ取り、その先に同じ未来のビジョンを見通した」と記述した理由、それは実際に鹿島アントラーズの買収にあたって小泉氏が着目したのが「余暇」と「心の豊かさ」だったのだ。

小泉鹿島アントラーズの買収がメルカリにとってビジネス上どういう意義があるのかを考えた時、それは大きく2つに分解できました。

1つがまさに“余暇”の話です。

近頃では週休3日制を導入する企業が現れたり、AIの進化が人間の職を脅かすかのように言われたりしています。これらの変化から、社会全体の余暇時間の増加が見込まれています。

一方で、余暇が増えればすぐに人々の幸福度が高まるのか?そうとは言い切れませんよね。我々は、仕事を通じて、「助け合いや感謝」のコミュニケーションの中で心の充足感を得たり、「社会的価値・経済的価値の新たな創出」によって生きがいを感じたりもしていますよね。

ただし、将来的に余暇が増えることは間違いない。一方で、その時間が豊かでなければ人生がつらくなってしまう。だからこそ、その欠落感を補い、心の豊かさを得るうえで、社会とのつながりを感じたり自己実現したりする「心の豊かさ」がとても大事になってきます。

そこに対して僕は、スポーツというエンターテインメントが大きな役割を果たすと確信しています。それは、プレーすることもそうだし、応援することもそう。そこにテクノロジーが掛け算で入ることで今まで以上に心の豊かさが増すと信じています。

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サッカーチームは社会性のある存在だからこそ、ステークホルダーを巻き込んで社会構造を変えられる

小泉当時考えたことのもう1つは、鹿島アントラーズがメルカリと同じミッションを果たす存在になれるのではないか、ということでした。

メルカリはフリマアプリを運営していますが、それ自体を目的とした会社ではありません。メルカリのミッションは「あらゆる価値を循環させ、あらゆる人の可能性を広げる」。それを実行していくなら、“フリマアプリだけの会社”から脱却して、循環型の社会に変えていけるような働きかけを行っていく必要があります。

そう考えた時、フットボールクラブは非常に社会性のある存在です。地域の未来がずっと豊かでなければフットボールクラブ自体もサステナブルではありませんからね。

そこで現在、ホームタウンである鹿嶋市の行政、鹿島アントラーズ、メルカリの三者で連携・協力して、未来にわたってサステナブルな町づくりをしようといった包括連携協定を締結し、現在プロジェクトも進行しています。鹿島アントラーズのサポーター・ファンの方々と直接繋がり、パートナー企業様とも手を携えて、未来をみんなでつくっていくという「壮大な実験」をしたいと考えているんです。

フットボールクラブの良いところは、「常にステークホルダーの中心にいる」こと。ファンの皆様、行政、パートナー企業様のハブとなりながら、実証実験を行えるスタジアムを自らで保有しているんです。

自分たちが率先して働きかけることで、いろんなステークホルダーを巻き込み、少しずつでも、必ず社会を良い方向に進めることができる。すると自然とメルカリグループのミッション達成にも近づくことができる。みんながハッピーになれますよね。

鹿嶋市は比較的小さい町なので小回りが利き、このような実験的な取り組みがしやすい。また鹿嶋市の田口市長は非常に理解の深い方で「サステナブルな社会の実証実験を日本一しやすい町にしましょうよ!」とこれに賛同してくれています。また、同じホームタウンの行方市とも三者による包括連携協定を締結しており、クラブとして今後も地域経済の活性化に貢献していきたいと思っています。

鹿島アントラーズは2020年より、一般的にスポーツチームを支援する企業や団体を指す「スポンサー」という言い方を「パートナー」と改めた。

背景には、支援金のお礼として、これまでユニフォームやスタジアムでの広告露出が一般的であったが、「スポーツクラブが提供できる価値はそれだけではない」という小泉氏の強い意志が存在している。行政、ファン、そしてパートナー企業を巻き込み、みんながWin-Winかつ循環型の社会の実現を目指すのがメルカリ、ひいては鹿島アントラーズの想いなのだ。

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「ああ、久しぶりにすごく良い起業家に会ったな」。
感じたのは、メルカリとは違う方法で進化を遂げる、次世代の起業家の姿

志を同じくする今田氏と小泉氏の両者が初めて会ったのは、2023年の春のことだ。小泉氏は今田氏との出会いを印象的に振り返る。

小泉実は、今田さんと出会う前からAsobicaのことは急成長を遂げているスタートアップとして存じ上げていました。自分も長らくtoCのサービスをやってきたので、Asobicaの「ファン」「コミュニティ」をキーワードとしたビジネスモデルは、どのように仮説立ててプロダクトをつくっているのだろう、どのようにこれから機能が進化していくのだろう、とどこか気になる存在だったんです。

誤解を恐れず、少し偉そうな言い方をさせてもらうと、日本のスタートアップはこの10年ほど、我々の世代がメルカリでつくり上げた経営のモデルを大なり小なり参考にしながら経営している会社が多かったと感じています。

でも今田さんの世代のスタートアップ経営は、僕らのやり方とはまた違う形で進化を遂げるだろうと思っていまして。若くて優秀な経営者が、今の移ろいゆく価値観を前提としたマーケットで、どのように仮説検証を行い、どのように新時代の組織をエンゲージしていくのか、むしろ僕が参考にしたいなと思っていたくらいAsobicaに期待を寄せていたんです。

メルカリからAsobica社へ転職したAsobica 人事・広報部部長の望月さんからのご紹介で実際に会ってみた印象は、「すごく素直な人」。自分たちのミッションや事業、組織、メンバーなど全てのステークホルダーに対してとにかく素直かつ誠実。心の底からこのサービスや会社を伸ばしたいという実直な想いがひしひしと伝わってきました。「ああ、久しぶりにすごく良い起業家に会ったな」という感慨というか、嬉しさがありましたね(笑)。

今田氏も「当然のことながら、小泉さんの記事や動画を数多く見て勉強させていただいていた」と振り返りながら、初対面の印象を口にする。

今田初めてお会いした時、せっかくの機会をいただくことができたので、広報や採用のあり方についていろいろご相談させていただきました。すると、私のような初対面の若手経営者に対しても、非常に親身に「僕だったらこうする」ととても具体的なご意見をくださったんです。

しかもその内容が「メルカリで上手くいったからこうしたら良い」というものでなく、時代の変化を捉えて「今の時代だったらこうする」という視点からのアドバイスで。小泉さんほどの方でも、常にアップデートされている、スタンスそのものが非常に学びになりました。

こうして意気投合した両社がディスカッションを重ねた末に、今回発表されたクラブパートナー契約に至った形だ。もちろん、次章から、その狙いについて触れていこう。

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「サッカーファンの声やデータは蓄積できない」を、オンライン/オフライン双方からのコミュニティづくりで乗り越える

Asobicaと鹿島アントラーズがクラブパートナー契約したことで、どのような価値が生まれるのだろうか。まずは、今田氏がAsobicaとしてスポーツビジネスに興味を抱いた経緯を振り返る。

今田中長期的にAsobicaが目指すのは、全ての企業のあらゆる意思決定を「ロイヤル顧客データ」起点に変えることです。そのきっかけとして、まずはSaaSビジネスの企業を支援するところから始めました。ビジネス上のほぼ全てのプロセスがデジタル化されていて、データが十分に取得できている、ただそれを活用し切れていないような企業ということです。

そこから次第にオフラインのビジネスを展開している企業にも展開していきました。例えばメーカーや小売、飲食チェーンなどの業種です。オフラインビジネスは、ユーザーが誰で、どんな行動をし、なぜ購入したかといったコンテキストをデータでは取得しづらい構造になっています。そこで我々がデジタル接点をつくり、データを取得し、PDCAサイクルの質を上げる支援をすることにより、ロイヤル顧客の育成や、LTVの向上をといった高い価値を提供できるようになりました。

同じような構造のビジネスはまだまだ他にもあると考えていまして、その1つがスポーツビジネスの分野だったんです。スタジアムへの来場者数や属性など最低限のデータは取れていると思いますが、来場したきっかけや、その前後でどういう行動をしているか、観戦中は何を考え、どの選手に注目しているかといったデータは取るのが難しい。そこに僕らの知見が活かせるのでは、と考えていたんです。

スポーツ業界でも価値提供できることを証明すれば、その周辺領域、例えば観光、アニメなどのエンターテインメント、音楽の分野にもビジネスの裾野を広げられる可能性が高い。そこで、第一歩として小泉さん率いる鹿島アントラーズさんにパートナーシップをご提案させていただいたんです。

小泉スポーツビジネスは“ファンの存在”が全ての事業のベースとなっています。だから、どうやってファンの方々の満足度を高め、その結果として収益を最大化するかが肝になります。とはいえ、ファンの生の声を聞き取ることってすごく難しいんですよね。IT企業のように全てがデータとして取れるわけではないので。

ITサービスであれば、カスタマージャーニーを描いて、ペインがどこにあるのか、マネタイズポイントはどこかなど、仮説立ててデータを取り検証していくのが定石。ですが、フットボールクラブの経営というビジネスではそういう設計がしづらい。

「せいぜいペルソナが設計されているだけ」と言っても過言ではありません。そもそもジャーニーを最適化するCXO(Chief Experience Officer)のポストを置いているチームもほとんどありません。また、チケット販売、グッズ販売など部門がそれぞれ分かれていて、横軸でユーザー体験を見る人もいない。このような現状が、サッカーだけでなくいろいろなスポーツ、エンターテインメントで起きているんです。

だから今回Asobicaさんとコラボレートすることで、ファンの生の声をきちんと拾い、データを取って総合的に“見える化”するような、ネット企業であれば当たり前の構図をこのスポーツビジネスで実現するトライをしたいなと考えているんです。

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両者で手を取り、鹿島アントラーズの重要課題「ライト層の“コア層化”」に切り込む

スポーツチームの多くが、IT企業では当たり前とも言える“データドリブン”な事業運営ができていないという現状が明かされた。この課題に対し、鹿島アントラーズとAsobicaはどのようなアプローチから打開を図るのだろうか。

小泉2024年、鹿島アントラーズは全国の小学生以下の子どもを対象に、全てのホームゲームを無料でスタジアム観戦できるような施策を実施します。その施策と連動したファミリー向けのコミュニティをAsobicaの『coorum』を利用して開設することにしました。

今田今回の取り組みでは、メインターゲットをファミリー層とし、コミュニティを通じてデータ収集を行いニーズを発掘し、ロイヤル顧客化していくチャレンジをしたいと考えています。 以前、小泉さんは「ファンの中でもライト層をいかにコア層に引き上げるかがJリーグの課題」という話をされていましたよね。我々が定義する「ロイヤル顧客」とは、まさに小泉さんの言うコア層と同義だと思います。

とはいえ、初めに注目すべきライト層は、このコア層に比べるとかなり層が厚い。例えば「都内在住の30代男性」「地方在住の60代夫婦」「〇〇層」といったように細かく見ていくとさらにカテゴライズが可能です。

中長期的には、それぞれのカテゴリーにおいて、ライト層をコア層に引き上げるための最適な取り組みを、再現性高く実現できると良いなと思っています。

小泉コミュニティを活性化してエンゲージを高めて行くことは、クラブの中長期のアセットとして非常に重要だと思っています。

これまでこのような取り組みができなかった大きな理由には、やはり組織のリソース不足が挙げられます。ほとんどのエンターテインメントの会社には、それができるスペシャリストがいませんからね。

だから、仮説を立てて、やってみるまではいいのですが、その後の検証がされないし、それを引き継いだ施策もない。毎年ゼロからアイデアをひねり出して勝負するようなことが普通になってしまっているんです。今回Asobicaさんの力を借りて、デジタルを絡めた検証と意思決定の精度を高めていくことにチャレンジしたいです。

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“お布施”頼みを、サステナブルな形にアップデートする

今田Asobicaでは、ロイヤル顧客(コア層)のコミュニティを軸にプロダクトを展開してきましたが、ファンコミュニティだけが大事だと思っているわけではありません。例えば「顧客単価を上げていく」「ロイヤリティを高めていく」といったことは、全ての企業にとっての共通課題ですし、そこにどう向き合っていくかが重要だと考えています。

つまり、これまでセンスや勘に基づいてきた意思決定を、データを起点に行うということです。データの取りやすいオンラインはもちろんのこと、オフラインからもデータを集め、そこからインサイトを得て正しく事業を回していく。Asobicaとしては、ファンコミュニティだけでなく、一連のデータドリブンな経営を支援していきたいと思っています。

小泉今までのファンコミュニティは偶発的に生まれているケースが多かったり、“数撃てば当たる”的な設計だったりしました。そうではなく、意図的に良いプラクティスを積み重ねて行く上で、今田さんがお話しされたような向き合い方は重要だと思いますね。

今、「推し活」ということが言われていますが、少し意地悪な見方をすると、ファンにとって「不当にお金を払わされている」状況になっている可能性もあると思うんですね。どうしてかというと、「これしか売られていないから仕方なく買う」「その物や体験に感じる価値以上のお金を払わされている」といった状態になっているから。“お布施”と言われるのもそういう理由からでしょう。

でもそこにデータを用いると、ファンの潜在的なニーズや思いを汲み取った商品やサービスを設計できるようになり、ファンにとっては「本当に欲しかった物や体験」が手にできるようになると思うんです。僕がよく使う「気持ちよくお金を使ってもらおう」という言葉の真意でもあります。“お布施”ではコミュニティは絶対に長続きしませんからね。

そうやってポジティブなフィードバックを回していければコミュニティは広がりますし、エンゲージも高まっていくので、「中長期の視点に立ってWin-Winの関係をつくること」が何よりも大事なんです。そしてファンの行動はオンラインとオフラインを行き来するので、その行動を設計していく上でAsobicaのプロダクトが真価を発揮してくれるだろうとかなり期待しています。

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世界中で進む「短尺化」「少人数化」の流れに向き合うには

取材も終盤に差し掛かる中、今田氏は小泉氏に一つの質問を投げかけた。小泉氏は、世界的なスポーツビジネスの未来をどのように見ているのか──。小泉氏曰く、サッカーに限らず、全世界のスポーツクラブが、ファン層を広げ、どのように“ライトからコアへ”と導くのか、その戦略を思案しているのだという。

今田1つ小泉さんに聞いてみたかったことがあります。ファンをライト層からコア層へ引き上げるには、いくつか段階があると思うんですね。最近、格闘技が盛り上がっているのは、YouTubeやSNSにUGCを含む格闘技コンテンツが無数にあり、ライト層をコア層に転換する役割を果たしているからだと思っています。その辺りを小泉さんはどのように考えていますか。

小泉そこは本当に課題だと思っています。今って世界中が「短尺化」の時代になっているんですよね。サッカーも若い世代の方々には90分の試合時間は長いと言われていて、これは発祥の地であるヨーロッパでも言われています。だから、1試合を前後半に2分割ではなく、4分割するクオーター制の話も出てきています。要は試合のフォーマットを変えたほうがいいのではないかという議論です。野球やゴルフでも同様の議論が出始めています。

あとは「少人数化」ですね。今って1人でやるスポーツが人気なんですよ。野球やサッカーをしようにも、必要なプレーヤーを集めるのは大変ですから。

だから、フォーマットの変化も含めて見せ方を変えていきながら、競技の魅力を高めていくチャレンジをしていかないといけない。伝統を重んじて「今まで通りで良い」という時代でないことは確かです。

今田そういう流れに対応するためには、新しいフォーマットや見せ方を考えられる人を採用したりチームをつくったりして、今までの体制も新しく変えて行かないといけないということでしょうか。

小泉その通りです。スポーツに限らず人の流動性が高い産業は成長しますし、逆に流動性が低い産業は衰退していきますから。

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あらゆる企業のあらゆる部門に、ロイヤル顧客データを起点とする意思決定を根付かせたい

小泉氏も、自ら期待を寄せる今田氏とAsobicaについて深く理解しようと、質問を重ねる。経験に裏打ちされたベテラン経営者でありながら、新たな学びを求めるその姿勢は、この対話を通じてAsobicaと未来のビジョンを共に紡ぎ出そうとするかのようにも感じられる。

小泉そういえば、これまでAsobicaの長期的な構想を聞いたことがなかったかもしれません。こんな機会ですし、今田さんが事業や会社をどのようにしていこうと考えているか、ぜひお聞かせください。

今田今は「消費を彩る」というテーマを主軸に事業を進めています。いろいろなブランドやサービス、店舗の顧客体験を変えて、消費を彩っていく、その支援をベースにしています。ただ、人生は「消費」だけではないですよね。例えば、働く、住む、遊ぶ、いろいろな領域があります。そうした方面へ事業を多角化していきたいと考えています。

『coorum』の次、Asobicaの“第2章”としては、「働くを彩る」という意味で、HR領域のサービスを模索しているところです。実際『coorum』をブランドやサービスの先にいるエンドユーザー向けではなく、“会社で働く社員向け”に活用してくださっている企業もいるんです。

あらゆる企業、あらゆる部門の意思決定のあり方をロイヤル顧客データ起点に変えていく。その思想がAsobicaのビジネスの根幹にあります。ですから「彩る」というテーマは変えませんし、データを活用してエンゲージを高めること、PDCAの質とスピードを上げること、再現性を生み出していくという軸は変えません。

HR領域にチャレンジしたさらに先の"第3章"以降は、また全く別の領域に展開していくことも含め、長期視点では様々な領域に事業を多角化していきたいと思っています。

小泉なるほど。僕としては、Asobicaさんと鹿島アントラーズのコラボレーションが他業界にも広げられる成功事例になったらいいなと思って、今回クラブパートナー契約をさせてもらいました。Asobicaさんのビジネスを大きくすることが、僕らの使命だとも思っているので。

とはいえ、他業界の前に、まずはJリーグの他のクラブにAsobicaさんのサービスが広がっていけば良いですね。マーケティングという視点では鹿島アントラーズだけが元気になってもあまり意味がない。サッカー人気の底上げという文脈では他チームも「敵」ではなく、Jリーグを一緒に盛り上げていく「仲間」ですから。

僕たちの事例がきっかけになってAsobicaさんのプロダクトやロイヤル顧客を起点とする考え方が広がり、結果としてJリーグや日本のエンターテインメント業界でファンのエンゲージメントを高められれば、アジアをはじめグローバルにもチャレンジできるかもしれませんね。世界的に“ファン”を活かしたビジネス創造は重要ですので。そして、これらはメルカリが目指すミッションの実現にも一歩近づくことにも繋がりますので、ぜひ今後もご一緒できたらいいなと思っています。

今田ありがとうございます。私たちとしても鹿島アントラーズさんのチャレンジの一端を担えるなら、これほど嬉しいことはないですね。

いろいろと未来の構想もお伝えさせていただきましたが、まずは何よりも鹿島アントラーズさんのビジネスでいかに貢献するかに集中しています。きちんと成果が出て、ファンが増えたり、海外で活躍するスター選手を呼び込めるようになれば、他のチームに波及していくといった形でそんなワクワクするような未来を私も想像しています。そしてJリーグ全体が盛り上がれば、アジアをはじめグローバルで活躍する団体になることも全然あり得る未来だと思っています。

Jリーグ全体からスポーツ業界、エンターテインメント業界、そしてゆくゆくはその他の業界にもインパクトを与えられるようになりたいと思っています。

今田氏と小泉氏が交わした約10,000字にも及ぶ対談は、我々に一つの確かな示唆を与えてくれた。技術の進化と価値観の変容をポジティブに捉え、それを人々の「心の豊かさ」を深める機会へと昇華させる力が、次代のリーダーに求められているということだ。

日本のベンチャー界隈を代表するベテラン経営者と、急成長スタートアップの若きCEO。この二人が同様に感じ取った、時代の変化点とその先のビジョン。そして、Asobica、メルカリ、鹿島アントラーズの3社が目指す世界の方向性は奇しくもリンクしていたのだ。

まだまだこれらの取り組みは産声を上げたばかり。だが、今後あらゆる分野のビジネスの在り方を根底から変化させる。そんな期待を抱かざるを得ない。

変化をチャンスと捉え、未来を共に創造していこうとする二人のリーダーの姿勢を通じて、読者も変化を恐れず、新しい価値を創造する勇気を持ってほしい。

こちらの記事は2024年02月29日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

畑邊 康浩

写真

藤田 慎一郎

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